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関連審決 無効2011-800133
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成24行ケ10280審決取消請求事件 判例 特許
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事件 平成 24年 (行ケ) 10059号 審決取消請求事件

原告X
訴訟代理人弁護士 岩井泉
同 鶴由貴
同 關健一
訴訟代理人弁理士 蔦田正人
被告Y
訴訟代理人弁護士 橋順一
同 兼松 由理子
同 向宣明
訴訟復代理人弁護士 林田敏幸
訴訟代理人弁理士 林 直生樹
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/03/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2011-800133号事件について平成24年1月16日にした審決を取り消す。
事案の概要
特許庁は,被告の有する後記本件特許について,原告から無効審判請求を受け, 1 審判請求不成立の審決をした。本件は,原告がその取消しを求めた訴訟であり,争点は,原告が後記本件発明1〜6の共同発明者と認められるかどうかである。
1 特許庁における手続の経緯被告は,発明の名称を「二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法」とする特許第3277180号(優先日平成12年10月3日,出願日平成13年5月29日,設定登録日平成14年2月8日,請求項の数11,以下「本件特許」といい,本件特許の特許公報(甲6)を「本件明細書」という。)の特許権者である。
原告は,平成23年7月26日,本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された発明(以下,請求項ごとに「本件発明1」のようにいう。)について無効審判を請求した(無効2011-800133号事件)。
特許庁は,平成24年1月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月20日に原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載(甲6)本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし6の記載は,次のとおりである。
「【請求項1】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成した,ことを特徴とする二重瞼形成用テープ。
【請求項2】上記粘着剤は上記テープ状部材の両面または片面に塗着されている,ことを特徴とする請求項1に記載の二重瞼形成用テープ。
【請求項3】両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた,ことを特徴とする請求項1または2に記載の二重瞼形成用テープ。
【請求項4】上記テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した,ことを特徴とする請求項1または2に記載の二重瞼形成用テープ。
【請求項5】上記破断部は,上記シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝に 2 よって形成されている,ことを特徴とする請求項4に記載の二重瞼形成用テープ。
【請求項6】上記シートはシリコンペーパーまたはシリコン加工を施したフィルムである,ことを特徴とする請求項4または5に記載の二重瞼形成用テープ。」 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書写し記載のとおりであり,その要点は,次のとおりである。
(1) 結論 共同発明者とは,課題を解決するための着想及びその具体化の過程において,複数の者がともに発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した場合における複数の者をいうところ,本件発明1〜6の特徴的部分の完成について,原告の創作的寄与はなかったものと推認することができる。したがって,本件発明1〜6は,被告の単独発明であり,原告との共同発明であるということはできないから,特許法38条(共同出願違反)の規定により本件特許を無効とすることはできない。
(2) 本件発明1〜3について 本件発明1の特徴的部分は,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」により「二重瞼形成用テープ」を構成した点である。
原告の主張は,原告の陳述書(甲1)によって裏付けられるのみである上,審判請求書及び同 陳述 書のい ずれにおいても,原告が本件発明1の特徴的部 分 であるテープの弾性的伸縮性を利用して二重瞼を形成する二重瞼形成用品の着想又は具体化に関与したことについての具体的な記載が極めて不充分である。一方,被告の陳述書(甲7)には,本件発明1の特徴的部分の完成に被告が創作的に寄与したことが具体的かつ詳細に記載されており,@被告は,本件特許出願時である平成12年まで株式会社プレオ(以下「プレオ社」という。)において主に開発を担当し,そ 3 の期間を中心として平成18年までに約40件の特許,実用新案,意匠出願を行っていたこと,A原告は,プレオ社では主に営業を担当しており,本件特許出願時までの期間で原告が発明者となっている特許,実用新案,意匠の出願は1件のみであること,B原告は,被告に送付した平成21年8月20日付け通知書(甲15以下「本件通知書」という。)において,本件発明4〜6は被告との共同発明であると主張しているが,本件発明1については何ら言及していないことを併せ考慮すると,本件発明1の特徴的部分の完成について,原告の創作的寄与はなかったものと推認することができる。したがって,本件発明1は,被告の単独発明によるものというべきであり,原告がその共同発明者であるということはできない。
本件発明2及び3については,本件発明1の上記特徴的部分を除いて特徴的な部分はないから,本件発明2及び3も被告の単独発明によるものというべきであり,原告が共同発明者であるということはできない。
(3) 本件発明4〜6について 本件発明4の特徴的部分は,本件発明1又は2を「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した」点で更に特定した点である。
原告の主張は首尾一貫しておらず,また,原告の陳述書(甲1)によって裏付けられるのみである。一方,被告の陳述書(甲7)には,本件発明4〜6の特徴的部分の完成に被告が創作的に寄与したことが具体的かつ理路整然と記載されており,上記(2)@,Aの事実を併せ考慮すると,本件発明4の特徴的部分の 完成について,原告の創作的寄与はなかったものと推認することができる。したがって,本件発明4は,被告の単独発明によるものというべきであり,原告がその共同発明者であるということはできない。
本件発明5及び6については,本件発明4の上記特徴的部分を除いて特徴的な部分はないから,本件発明5及び6も被告の単独発明によるものというべきであり,原告が共同発明者であるということはできない。
4 4 前提事実 以下の事実は,当事者間に争いがないか,又は,括弧内記載の証拠によって容易に認められる。
(1) 平成11,12年当時のプレオ社の状況(甲1,7,39,乙6) 被告は,昭和59年に,化粧品の研究開発,製造,販売等を目的とするプレオ社(当時の商号は株式会社カナエ)に入社し,以来,化粧品や化粧品雑貨の企画・開発に従事していた。
原告は,従前,プレオ社の取引先であるゴム会社に勤務していたが,平成6年に同社を退社してプレオ社に営業部長として入社し,以来,主に営業活動に従事していた。
平成11,12年当時,プレオ社では,代表取締役である社長,その母親である専務のほか,社員である原告,被告,A(証人A)及びB(証人B)とパートタイマー1名が勤務していた。
平成11年10月頃,プレオ社の業績悪化に伴い,原告は,社長から退職勧奨を受けた。被告ら社員は,労働組合を結成し(委員長被告),原告に対する退職勧奨を撤回させた。
その後,プレオ社の経営状態は一段と悪化し,給料の遅配が発生するような状況となった。
(2) 新会社設立(甲10) 平成12年9月12日,被告を無限責任社員兼代表社員として,合資会社アーツブレインズ(以下「アーツブレインズ」又は「新会社」という。)が設立された。
原告及びAは,被告とともに同月20日付けでプレオ社を退社し,新会社に入社した。
(3) 3M社からの各種テープのサンプル送付(甲13) 平成12年9月22日,3M社から被告宛てに各種テープ(製品番号1525L等9品)のサンプルが送付された。
5 (4) 基礎出願(甲5) 被告は,平成12年10月3日,本件特許の基礎出願(特願2000-303797)をした。同出願に係る明細書の特許請求の範囲の記載は次のとおりであり,本件特許4〜6に相当する請求項はこれに含まれていない。
「【請求項1】 弾性的に伸縮する細いテープ状部材に粘着剤を塗着することにより構成したことを特徴とする二重瞼形成用テープ。
【請求項2】 テープ状部材を,延伸可能でその延伸後に弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成したことを特徴とする請求項1に記載の二重瞼形成用テープ。
【請求項3】 両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の二重瞼形成用テープ。
【請求項4】 弾性的に伸縮するシート状部材に粘着剤を塗着すると共にその両端に粘着性のない把持部を形成し,これを細片状に切断することにより構成したことを特徴とする二重瞼形成用テープ。」 (5) 金型等の発注(甲18の1・2,乙1〜3,5,10〜13) 原告は,平成13年1月10日, 金型業 者である 株式会社匠エ ン ジニア リン グ(以下「匠エンジニアリング」という。)に対し,アーツブレインズの担当者として,シリコンシート製造用の金型を注文した。アーツブレインズは,匠エンジニアリングから,同月18日と29日に各1台ずつ金型の納品を受け,同年2月28日,その代金の支払をした。
原告は,同年1月22日,株式会社サンセイ(以下「サンセイ」という。)に対し,アーツブレインズの担当者として,3M社製両面テープ#1522(304o×64.8m)を1巻注文した。
6 原告は,同年2月5日,ゴム加工会社である株式会社トーアテック(以下「トーアテック」という。)に対し,アーツブレインズの担当者として,硬度90のシリコンシート(250×230×0.3T)を500枚,納期を100枚は同月9日,残り400枚は同月26日と指示して,注文した。アーツブレインズは,同年3月30日,トーアテックに対し,その代金の支払をした。
(6) 本件特許出願 被告は,平成13年5月29日,本件特許の出願をした。
(7) 株式会社アーツブレインズ設立(甲11) 平成13年9月,被告を代表取締役として,化粧品の研究開発,製造,販売等を目的とする株式会社アー ツブレインズが設立され,原告は,Aとともに取締役に就任した。
(8) 本件特許登録 平成14年2月8日,本件特許について設定登録がされた。
(9) 原告の退社(原告本人) 原告は,平成18年8月22日,株式会社アーツブレインズの取締役を退任し,その後2年間嘱託として勤務を続けたが,平成20年8月,同社を退社した。
(10) 本件通知書(甲15) 原告は,被告に対し,平成21年8月20付けの通知書(本件通知書)により,本件特許の請求項4〜6及び8,11等に係る発明については,原告の単独発明であり,本件特許発明は少なくとも原告と被告が共同発明となるべきであるにもかかわらず,被告を単独発明者としたことは,特許法38条の規定に違反するとして,被告の回答を求めた。
審決の取消事由に係る原告の主張
審決は,原告を本件発明1〜6の共同発明者として認定しなかった点において誤っており,違法であるから取り消されるべきである。
1 本件発明1について 7 (1) 被告が本件発明1を単独で創作したとは認定できないこと ア 審決の誤り 審決は,甲7(審判において提出された被告の陳述書)の記載をもって,被告が本件発明1の特徴的部分の完成に創作的に寄与したことが具体的かつ詳細に記載されているというが,いかなる具体的事実をもって,被告が単独で本件発明1の完成に創作的に寄与したことを認定したのか不明である。
イ 被告の研究・実験に関する供述の信用性は乏しいこと 被告は,平成12年8月頃,かつら用テープ(3M社製#1522)を用いた研究・実験をプレオ社2階の研究室で被告単独で行い,同月末頃テープに関する発明が完成した旨を述べているが(被告本人調書7〜8頁,甲7・3頁15〜22行),具体的な研究・実験の内容を裏付ける客観証拠は存在しない。
また,被告は,「アイテープタイプの各種テープや,かつら用テープである#1522,医療用サージカルテープ,絆創膏などを利用して実験し,#1522を瞼の上で伸ばして貼って収縮させることを見出した。#1522をどの方向にカットして伸ばすか,各種方向に#1522を引っ張って伸縮性の研究をした。」旨を述べているが(被告本人調書6〜7頁),平成12年9月22日に,3M社から被告宛てに,#1522以外のテープのサンプルが送付されているから(甲13),同年8月の時点において,被告が各種テープを用いた実験を行い,#1522を選択し,本件発明1に至ったとは考えられない。
むしろ,本件発明1の創作は,3M社製♯1522を用いることが大前提であり,同テープを引っ張った際に延びることを見出し,これを二重瞼用品として用いることができないかという着想を得たということこそ,本件発明1の創作的寄与にほかならない。そして,#1522が引っ張ると延びること,これを二重瞼用品に利用することは,平成12年春頃,原告と被告とがプレオ社のデスクで協議をした際に着想に至ったものなのである。
ウ 甲13について 8 被告は,平成12年9月22日のサンプル送付(甲13)について,製品開発のほか,3M社とのコネクションを作るためであった旨を弁明するが(被告本人調書8頁),被告が本件発明1の研究開発のため各種テープを用いた実験を同年8月中に行っていたのであれば,その時点で他のテープサンプルを取り寄せるのが自然である。
また,本件発明1の基礎出願は平成12年10月3日付けでなされているところ,明細書作成の準備期間等を考慮すれば,仮に,同年9月22日のサンプルを利用して被告が実験等を行ったとしても,当該実験等は本件発明1の創作に関連性を有しないことも明白である。
エ 平成12年8月末の車内協議について 被告は,平成12年8月末頃,被告が所有する車内で,原告,被告及びAの3名で新商品についての協議を行い,原告らにかつら用粘着テープを細断したサンプルを見せた旨を述べている(乙6・6頁,被告本人調書16頁)。A証 人も,同旨を述べた上で,「原告は,その際に初めて新商品のアイデアを被告から聞いた」旨を述べているが(A証人調書1〜3頁),A証人は,被告が代表者を務め,本件特許製品の販売会社である株式会社アーツブレインズの役員であり,被告の利害関係人であるから,その供述の信 用性は乏しい。また,A証人は,「この商品 のアイデアですね,これを商材として 新しい会社を立 ち上 げないかという提案をYから聞きました。」(A証人調書2頁 18〜19行目 )と 述べるとともに,「二重瞼テープの話とか, 新会社 の立 ち 上 げ の 話 というのは,Xさ ん もこのと き は じ めて 聞 いたようだ ったのですか。」との 問いに,「はい,そのとおりです。」と 回答しているが(A証人調書3頁1〜3行目),新会社 (合 資会社アーツブレインズ (以下「アーツブレインズ」ともいう。)の設立は,平成12年9月12日に行われており(甲10),同年8月末の段階で初めて当事者間で新会社設立の話が持ち上がったとは考えがたい。この点からも,A証人の供述の信用性は乏しいといわざるを得ない。
これに対し,B証人は,車内での 協議に際して自分も同席していたこと,その際 9 に製品サンプルなど見ていないと述べるとともに,車内での協議の際に新商品に関する話を原告と被告とで行っていたと述べている(B証人調書3〜4頁)。B証人は,原告及び被告と現時点においては何ら利 害関係を有しておらず,また,B証人は,車の車種,色等のきちん と記憶のある点(B証人調書2頁等)と,「原告と被告とが協議を行っていた具体 的な内容までは 覚え ていない」として記憶がない点(B証人調書4頁)とをきちんと区別して供述しており,その証言の信用性は極めて高い。
以上を鑑みれば,被告が平成12年8月末頃車内で原告らにかつら用粘着テープを細断したサンプルを見せ,その際に原告が初めて新商品のアイデアを被告から聞いたということなどあり得ない。
オ 小括 審決の判断は,被告の本件発明1の創作的寄与に関し,甲7に「具体的かつ詳細な記載がある」と漫然と認定しているのであって,その判断は違法であると言わざるを得ない。
本件訴訟手続において提出された各種証拠を前提としても,被告が単独で本件発明1の創作に至ったと認定することはできない。
(2) 原告の創作的関与があること 本件発明1の着 想 は,平成12年 頃 ,被告が, 他 の製 品 に 使 用されていた両面テープ(3 M社 製 # 1522)をはさ み で細 く 短冊 状に切り引っ張った 際 に両面テープの伸縮性を発見し,化粧品雑貨等への利用方法を原告と相談する中で得られたものである。
上記のとおり,平成12年8月頃,被告が研究・実験を単独で行い,サンプルを作成し,同月末頃サンプ ルを原告に開示 するに至ったということは, B証人の供述からみて事実と異なり,また,同年9月に被告が他のテープサンプルを取り寄せたという事実(甲13)とも整合しない。 他方で,B証人の供述にあるとおり,本件特許出願の基礎出願日前の平成12年8月頃において,原告と被告は,新会社のために,両面テープを使った新商品を作る 旨の 協議を行っていたのである(B証人調 10 書3〜4頁,甲40)。
本件発明1は,@「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂より形成した細いテープ状部材に粘着剤が塗着すること」,A「同テープを二重瞼形成用テープとして利用する」という点を構成要件とするものであるところ,@は,「#1522という両面テープを短冊状,テープ状に細断したもの」にほかならない。そして,原告と被告とのプレオ社での協議の中で,A「二重瞼用品として用いる」という構想を得たものであるから,本件発明1は,当該協議の時点で,原告と被告とにより完成したものである(原告本人調書28頁)。そして,原告と被告は,新会社のために,同着想に基づき商品を具現化することとし,その後も協議を続けていたものである。
したがって,原告が本件発明1の完成に創作的な寄与をしていたことは明らかである。
2 本件発明2及び3について本件発明2及び3には,本件発明1を離れた特徴的部分はないから,原告は,本件発明2及び3の共同発明者でもある。
3 本件発明4〜6について (1) 証拠について本件訴訟における証拠によれば,以下の事実が認められる。
平成13年1月10日,原告は,アーツブレインズの担当者として,匠エンジニアリングに対し,シート用の金型製造を発注した(甲18の2)。同発注においては,片面シボ付き,四隅ガイド付き,上下マーキング等の指示がなされている。
同月12日,匠エンジニアリングから原告宛てに,金型図面がファックスされている(乙1,2)。乙1及び乙2をみると,図面番号が「AT0001Y-1/1〜1/2」と連番になっており(乙1,2の右下欄参照),ファックス送信ページ数も「NO.6418 P1〜P2」であることから(乙1,2の右下隅ファックス記録参照),乙1と乙2とは一連の金型図面である。
11 同月18日,匠エンジニアリングから,型番AT0001の金型がアーツブレインズ宛てに納品されている(乙5・上欄)。また,同月29日,匠エンジニアリングから,金型にメッキを施したものが納品されている(乙5・下欄)。なお,同納品に対しては,同年2月28日に,アーツブレインズから匠エンジニアリングに支払がなされている(乙11)。
同年1月22日,原告は,アーツブレインズの担当者として,サンセイに対し,#1522を発注した。
同年2月5日,原告は,アーツブレインズの担当者として,トーアテックに対し,シリコンシート(硬度90度)を発注した(甲18の1)。同発注においては,先行して100枚を同月9日に,残り400枚を同月26日に納品するように指示されている。なお,同 納品 に対 しては,同年3月30日に, ア ー ツブレイ ン ズ からトーアテックに支払がなされている(乙13)。
(2) 原告の創作的関与があること ア 審決の認定について (ア) 審決は,原告による金型の発注やシリコンシートの発注行為は,本件発明4〜6への創作的関与を裏付けるものではないと認定した。その理由は,甲18の1に「営業 X」との記載があること,シリコンシートの発注量が500枚であることから,製品の企画・研究開発のためというより,通常生産のための蓋然性が高いということであった(審決書16頁1行目以下)。
しかし,「営業」との表記があるから,製品の企画・研究開発のための発注ではないというのは,実態を考慮しない誤った推認である。甲18の1は,品番として縦横幅厚み,数量,単価等が特定されているのみで,具体的な仕様等についての指示言及はない。これは,原告がトーアテックと事前に内容について詳細に打ち合わせ協議を行っていたが故に,具体的な仕様等の指示言及が不要だったことを示している。原告は,旧知の金型業者である匠エンジニアリングや,ゴムメーカーであるトーアテックに自ら赴き,自己の着想していた本件発明4〜6を説明し,業者から 12 アドバイスを受けて,形状,厚み,硬度,スリットの形成方法等を具現化したのである。例えば,原告は,「できるだけ硬いシリコン」とトーアテックに依頼し,同社から,日本国内では硬度90度のシリコン素材は入手できないと回答されたが,それでもなお海外からでも入手するよう要請するなど(甲39・3〜4頁),原告は,単に製品量産化の協議を行っていたものではなく,製品開発の具現化の協議を行っていたのである。
また,シリコンシートの発注量が500枚であるということを理由とする審決の認定も誤った事実認定である。すなわち,甲18の1には,平成13年2月9日に先行して100枚を納品するようにとの指示がなされており,原告が開発研究用に先行してサンプル100枚を発注していたことは容易に認定できる。なお,硬度90というシリコン素材は入手困難なものであるところ,このような特殊な素材は,一定のロッドでの手配が必要であり,最低ロッドで注文しても,シリコンシート500枚分くらいのロッドが必要となる。このような背景事情を加味すれば,500枚の注文ということをもって,通常生産用の発注であると認定することなどできない。
(イ) 審決は,仮に製品の企画・研究開発のためであったとしても,原告が発注者であることのみをもって,原告自身の企画・開発のために発注したと直ちに認めることはできないとする(審決書16頁7〜9行目)。
しかし,乙1をみると,匠エンジニアリング は,「アーツブレイ ンズ代表X様」として金型図面を送付しており,匠エンジニアリング担当者は,原告がアーツブレインズの代表ないし責任者として協議に臨んでいるものと認識していたのである。
このような記載からみて,原告が単なる発注者ではなく,実質的な協議打合せをしていた当事者であることは明らかである。また,乙2には,原告による「ガイド穴つぶす」等の指示書が追記されており,原告が単なる発注者ではなく,自らの企画・開発のために発注行為を行っていたことも明らかである。
イ 被告の供述について 13 被告は,平成12年末までにシリコンを用いて実験を行い,製品仕様を自ら決定し,原告に量産化のための指示を与えた旨を述べている(被告本人調書12〜15頁)。
しかし,硬度90というシリコンゴムは当時入手が困難であり,原告がトーアテックに依頼して,平成13年2月に至ってやっと入手できたものである(甲18の1)。シリコン素材自体は,そのままゴム板として用いられるものではなく,加硫工程を経て,成形加工をして初めて板状のシリコンゴムシートとなるのであって,トーアテックなど専門のゴムメーカーに依頼しなければ入手することはできない。
被告が平成12年末までに実験を行って製品仕様を自ら決定することなどあり得ない。
また,被告は,「手元にあったシリコンシート,2液混合性シリコンからシートを作って実験した」旨を述べるが(被告本人調書12頁14行目等),実験用のシリコンシートを製造するに当たって,圧さ0.3o程度のごく薄い厚さのシートを,ゴム加工業者でもない被告が,何ら必要な金型等もない状況で作成することなど考えられない。ましてや,そのような薄いシートに切欠き(スリット)を手動で入れることなど不可能である。
被告の供述は,抽象的な「シートを作って実験した」という供述にとどまっており,例えば,トーアテックなどのメーカーにシートサンプルを作成してもらった等の言及はなく,同供述の信用性は極めて低い。
ウ 小括 以上のとおり,審決の認定には誤りがあり,原告が製品の企画・研究開発を自ら主体的に行っていたことは明らかである。
平成13年5月29日,被告を単独発明者として本件特許出願がなされ(甲6),同出願では,優先権基礎出願(甲5)に加え,破断部を有する剥離シートを設けること,同剥離シートをシリコン素材によって形成することなどが追記されているところ(請求項4〜6,【0019】以下の他の実施例等参照),上記のとおり,原 14 告 は,平成13年1月から2月にかけて,製 品 の 企画・研究開 発を 自ら主 体 的に行っていたのであるから,本件発明4〜6の特徴的部分である「破断部を有する剥離シート」「シリコン素材」の創作に原告が関与していたことは明らかである。
被告の反論
以下のとおり,原告本人尋問における原告の供述は,多くの点において不自然であったり,一貫性に欠けており,信憑性に乏しい。
これに対し,被告は,被告本人尋問において,本件発明1〜6の着想から具体化に 至 るまでの経緯を,甲7(審判における陳述 書)及び 乙 6(本訴における 陳述書)の内容と矛盾なく,具体的かつ理路整然と述べており,被告が本件発明1〜6の特徴的部分の完成に創作的に寄与したことは明らかである。
よって,原告は,本件発明1〜6の共同発明者ではなく,被告が本件発明1〜6の唯一の発明者であることは明らかである。
1 平成12年春頃の協議をいう点について 原告の供述によれば,平成12年の春頃,被告が両面に離型紙の付いた両面テープ(#1522)を切ったものを持って原告のデスクに来て,両面テープを引っ張り,これを引っ張ってみたら伸びるんだけど,何か使えないかな?と原告に対し話しかけてきた,プレオ社の玄関の応接で協議をしたところ,原告と被告はプレオ社でアイメイク関係の仕事をやっていたことから,アイメイク関係で二重瞼に使えるのではないかという話になった,その後,原告と被告は,新会社の新商品をどのような商品にするかについて,喫茶店で何回か協議した,というのである。
しかし,原告の供述によれば,原告と被告はプレオ社を退職して新会社を設立することに既に合意していたというのであるが,社内の人間に見聞きされるおそれがあるにもかかわらず,被告が原告のデスクに来て,両面テープを見せながら,新会社で扱うための商品の開発について原告に意見を求めたり,会社の玄関の応接でそれについて原告と協議したりすること自体不自然である。また,被告が,将来新会社で扱う,しかも特許を取得しようとしている商品について,他人に見聞きされる 15 おそれがある喫茶店で,原告と協議することも不自然である。
さらに,本件発明1〜3の特徴的部分は,二重瞼形成用テープを,延伸可能で延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成したテープ状部材により構成し,該テープ状部材の延伸後の弾性収縮を利用して二重瞼を形成する点にあるところ,原告の供述によれば,平成12年の春頃の被告との協議では,実際に両面テープを瞼に装着して試してみることもなく,単に伸びる両面テープがアイメイク関係で二重瞼用に使えるのではないかといった極めて漠然とした提案がなされたにすぎない。当該テープを使用して具体的にどのように二重瞼を形成するのか,すなわち,当該テープの延伸後の弾性収縮を利用して二重瞼を形成する点については何ら言及されなかった。また,原告は,その後,喫茶店でも両面テープをどのような商品にするかについて被告と協議したと供述しているが,同様に具体性に乏しく,本件発明1〜3の上記特徴的部分について被告と協議していない。
しかも,原告自身,両面テープについて何も実験していない。
してみると,仮に万が一,プレオ社内において被告と原告との間で原告が供述するようなやり取りがあったとしても,本件発明1〜3の着想及びその具体化の過程において,原告がその特徴的部分の完成に創作的に寄与したとは到底いえない。
さらに,原告が被告に対して送付した平成21年8月20日付け通知書(甲15,本件通知書)では,原告が本件発明1〜3の発明者であるとの主張は一切記載されておらず,そのような主張は,特許無効審判になって始めたのであり,かかる経緯からしても原告が本件発明1〜3の発明者であるとの原告の供述の信憑性は乏しい。
以上のように,原告の供述は信憑性に乏しいばかりでなく,原告の供述をもってしても,原告が本件発明1〜3の共同発明者でないことは明らかである。
2 車内での協議について 原告は,車内での協議について,「被告と車内で話合いをしたのは1回だけであり,そのとき,BとAも同席し,計4人で主として新会社を立ち上げることやBがプレオ社に残ること等を話し合ったが,両面テープを具体的にどのような商品にする 16 か については 話 し合っておら ず ,被告も両面テープの サ ンプ ル を持っていなかった。」旨供述する。そして,B証人は,「車 内において話合いをしたことを1回だけ記憶しており,それは被告の車内であり,そのとき,原告,被告,B及びAの計4人が同席して,会社を辞めることや,新商品を作って新しい会社でやること等について話し合ったが,新商品に関する具体的な話を聞いたり,新商品のサンプルを見たりはしていない。」旨証言している。また,その車内での話合いの内容について「自分もそのとき一緒に辞めたかったんですけども,家のローンもあったりとかで,まだ子供も小さいのもあったので,残ったほうがいいんじゃないのというような話も出てきたのが事実です。」と証言している。
しかし,特許の出願前に,新会社の設立には参加させずにプレオ社に残すつもりであったBに発明の内容 が知られた場合,プ レオ社にその情報が流れるなどして,新規性の喪失冒認出願等のリスクがあるため,新会社で扱う新商品についての具体的な話合いについては,極めて秘密性を高 くする必要があるから, Bは同席させず,原告,被告及びAの3人のみで行うのが自然である。そうであれば,B証人は,その3人での話合いのことについて当然知らないだけのことである。また,A証人も,車内において3人で話合いをした際に,被告がサンプルを使って実演しながら新商品について具体的に説明した旨,及び,明確な記憶はないものの,その車内における3人での話合いとは別の機会に, 車内 においてBを含めた4人で話合いをしたこともあったと思う旨証言している。
してみると,B証人が言うところ の4人での 車内における話合いがあったとしても,それは,被告が言うところの3人での車内における話合いとは別の機会であったと考えるのが合理的である。
したがって,たとえ ,B証人の証 言が,原告の言うところの車内 における4人での話合いを裏付けるものであったとしても,その証言は,被告と車内で話合いをしたのが,その4人での1回だけであったという原告の供述を何ら裏付けるものではない。
17 3 3M社からのサンプルシートの取り寄せについて 原告は,3M社からのサンプルシートの取り 寄せについて,「原告,被告及びAは,平成12年9月12日に新会社設立後,同月22日,すなわち被告宛てに,甲13の3M社からのファックスが来た日にプレオ社を退職したが,同月一杯プレオ社におり,原告も,甲13に記載されたサンプルをプレオ社で見た。」旨供述する。
しかし,3人がプ レオ社 を 退職 したのは,平成12年9月20日( 乙 14)であって,被告がサンプルシートを取り寄せるよりも前である。したがって,原告が供述するように,原告がそのサンプルテープを見たのであれば,それはプレオ社を退職した後であることは明らかであり,しかも,新会社を設立して退職した人間が,退職後に退職した会社を使用すること自体不自然である。
さらに,甲13が送られてきたのは,プレオ社ではなく,被告の自宅である(乙15は,甲13の送り状と共にサンプルシートが送られてきた封筒で,宛先住所の末尾の数字が「407」となっているが,これは,当時被告が住んでいた,プレオ社が入っていたビルの4階の部屋番号である。当時,プレオ社はそのビルの1階と2階に入っていた(甲8))。
してみると,サンプルシートをプレオ社で見たという原告の供述も信憑性に乏しい。
4 新会社のための製品かプレオ社のための製品かについて 原告は,本人尋問において,新たに設立する会社の新製品として,被告が持ってきた両面テープを二重瞼形成用品に使えるという話をしたと答えている。
しかし,原告は,甲1(審判における陳述書)では,プレオ社の新商品として,二重瞼形成用品に使用できるという話をした旨述べており(甲1・1〜3頁),原告の供述は大きく変遷している。
したがって,両面テープについて原告と被告が協議して二重瞼形成用品に使えるという話になったという原告の供述は,信用性が乏しい。
5 シリコンを使用することについての被告の対応について 18 原告は,新会社を立ち上げる前に,被告に対し,シリコンを使いたいと言ったとき,被告に一蹴された旨供述する。
しかし,原告は,甲1(審判における陳述書)では,「私が被告に,シリコンゴムを用いることや切り欠きを付けることなどを説明したところ,被告が,ゴムの中央に切り欠きがあるのをユーザに見せたくないと言ったので,私は,最初にシリコンゴムに切り欠きを入れ,両面テープに接する部分に切り欠きを入れたシリコンゴムの面を貼り合せることを提案しました。」とあるように,被告は,シリコンを使うことを前提として,切り欠きについて原告に意見を述べた旨を述べている。
このように,原告の供述は一貫性に欠き,信憑性に乏しい。
6 シリコンの使用が決まった経緯について 原告は,主尋問において,新商品の製品化に当たり,新栄や匠エンジニアリングやトーアテックと打合せをした後に,被告に対し,シリコンゴムを使うことを報告した旨述べる一方で,反対尋問においては,新栄に打合せに行く前に,新会社において,会社としてシリコンにしようと既に決まっていて,それよりも前に被告とシリコンにすることについて話をした旨述べており,原告の供述は一貫性に欠ける。
原告は,その後,会社としては決めていなかったと訂正する供述をしたが,反面で,支払関係での了解は得られていたとも供述しており,いずれにしても,原告の供述は信憑性に乏しい。
7 シリコンを用いた実験について原告は,新会社の商品の開発に着手した平成12年3月頃から同年末頃までの間に,両面テープについて何か実験をしたり,あるいはテープをシリコンでサンドイッチ状に挟んでサンプルテープを作って実験したりしたことはなかった旨供述する。
しかし,もし原告が発明者であったというのならば,開発の段階で商品サンプルを作成して,それが,頭の中で考えていた商品としての目的及び作用効果を十分に達成し得るものか,一度は確認するのが自然であり,新栄と新商品の製品化の打合わせを始める平成12年末まで,一切商品サンプルを作らず,それを使って実験も 19 しなかったというのは,極めて不自然である。
8 新商品製品化のための社内協議について 原告は,新会社は,設立直後から3人の合議制で運営されていた旨供述する。
その一方で,原告は,新会社では3人がそれぞれ独立して自分の仕事を持っていたので,新商品を製品化するために新栄と協議を始める際,新栄に行くという話だけをし,行く内容については一切話をしなかった旨述べている。また,甲39(本訴における陳述書)の3頁2〜6行目において,原告は,「このような状況で,ついに平成12年の年末には,アーツブレインズの資金が枯渇する状況になってしまいました。そこで,起死回生の策として,私は,従前から温めていた,二重瞼形成テープの具体化・製品化を進めることとし,以前から両面テープを挟み込むためのものとして構想していたシリコンシートの製造を開始することにしたのです。」と述べている。
しかし,そのような新会社の状況下において,新商品の製品化は極めて重要な議題であるはずであり,新会社は合議制を採っていたにもかかわらず,商品の企画・研究開発を担当していた被告や,総務・ 経理を担当していたAと事前 に何ら協議もせずに,原告が独断で業者と新商品の製品化の話を進めること自体,極めて不自然である。
当裁判所の判断
当裁判所は,審決が原告を本件発明1〜6の共同発明者として認定しなかった点に誤りはなく,審決に取り消すべき違法はないものと判断する。
1 共同発明者性の認定について ある特許発明共同発明者であるといえるためには,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従前の技術的課題の解決手段に係る部分,すなわち発明の特徴的部分の完成に現実に関与したことが必要であると解される。
ところで,特許法123条1項2号は,特許無効審判を請求することができる場合として,「その特許が ・・・ 第38 条・・・ の 規 定に 違反 してされたと き ( 省 20 略)。」と規定しているところ,同法38条は,「特許を受ける権利共有に係るときは,各共有者は,他の共有者と共同でなければ,特許出願をすることができない。」と規定している。このように,特許法38条違反は,特許を受ける権利共有に係ることが前提となっているから,特許が同条の規定に違反してされたことを理由として特許無効審判を請求する場合は,審判請求人が「特許を受ける権利共有に係ること」について主張立証責任を負担すると解するのが相当である。これに対し,特許権者が「特許を受ける権利共有に係るものでないこと」について主張立証責任を負担するとすれば,特許権者に対して,他に共有者が存在しないという消極的事実の立証を強いることになり,不合理である。
特許法38条違反を理由として請求された無効審判の審決取消訴訟における主張立証責任の分配についても,上記と同様に解するのが相当であり,審判請求人(審判請求不成立審決の場合は原告,無効審決の場合は被告)が「特許を受ける権利共有に係ること」,すなわち,自らが共同発明者であることについて主張立証責任を負担すると解すべきである。
したがって,本件においては,審判請求人である原告が,自らが共同発明者であること,すなわち,本件発明1〜6の特徴的部分の完成に原告が現実に関与したことについて,主張立証責任を負担するものというべきである。
2 本件発明1〜6の特徴的部分の完成を基礎付ける事情について(1) 本件発明1〜6の概要本件明細書(甲6)によれば,本件発明は,概要次のとおりの発明であると認められる。
本件発明1は,簡単かつ容易にきれいな二重瞼を形成できるようにした二重瞼形成用テープに関するものである(【0001】)。
従来,二重瞼を形成する方法として,瞼の皮膚を接着して二重のひだを形成する方法や,瞼に片面粘着テープを貼り付けたり硬化型ポリマーを塗着することにより形成した皮膜によって二重の折り込みひだを形成する方法があったが,これらの方 21 法は,非常に細かい作業を行う必要があり,ある程度慣れないときれいな仕上がりが得られず,また,接着により皮膚のつれが生じたり,皮膜の跡が残るなどの問題があった(【0002】)。
本件発明1の二重瞼形成用テープは,これらの問題を解決するため,延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成したものである。本件発明2は,本件発明1の粘着剤の塗着部分をテープ状部材の両面又は片面としたものである。本件発明3は,本件発明1又は本件発明2の二重瞼形成用テープの両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けたものである(【0003】,【0004】)。
本件発明4は,本件発明1又は本件発明2のテープ状部材の両面又は片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付したものである。本件発明5は,本件発明4の破断部を,剥離シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝によって形成したものであり,本件発明6は,本件発明4又は5の剥離シートがシリコンペーパー又はシリコンを施したフィルムであるものである(【0005】)。
本件発明1〜6の二重瞼形成用テープによって二重瞼を形成するには,テープ状部材の両端を把持して弾性的に延びた状態になるように引っ張り,その状態でテープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい位置に押し当ててテープ状部材をそこに貼り付け,両端の把持部を離 せば よ く ,これにより,引っ張った状態にあるテープ状部材が弾性的に縮むが,本来,瞼はその両側に比して中央部が眼球に沿って前方に突出しているので,弾性的に縮んだテープ状部材がこれを貼り付けた瞼にくい込む状態になって,二重瞼のひだが形成される。両端の不要な部分はその後に切除する(【0008】)。
このようにして,本件発明1〜6の二重瞼形成用テープは,テープ状部材が瞼に直接二重にするためのひだを形成するので,従来の方法のように,皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡を残したりすることはなく,自然な二重瞼を形成することができ,しかも,テープ状部材の両端を持って引っ張った状態でそれを瞼のひだを形成 22 したい位置に押し付ければよいので,簡単にきれいな二重瞼を形成することができる。また,従来の方法では,瞼の皮膚を接着したり,瞼に片面粘着テープ等を貼り付けたりするとき,自分の操作でひだを作るためにプッシャー等を用いる必要があるが,本件発明1〜6の二重瞼形成用テープは,それ自身の収縮によって二重瞼を形成するので,プッシャー等を用いる必要がなく,二重瞼形成を安全かつ容易に行うことができる(【0009】)。
特に,本件発明4〜6の二重瞼形成用テープは,テープ状部材の粘着剤が塗着された両面又は片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付しているため,本件発明1〜3の二重瞼形成用テープのような把持部や離型紙を設けなくてもテープ状部材の粘着剤が指や他の物品に付着するということがなく,また,本件発明4〜6の二重瞼形成用テープを使用するときには,この二重瞼形成用テープを左右両側に引っ張るだけでテープ状部材が延びた状態で露出するから,本件発明1〜3の二重瞼形成用テープよりもさらに 使 い や すいものとなる(【0025】)。
(2) 本件発明1〜3の特徴的部分の完成を基礎付ける事情 ア 上記(1)によれば,本件発明1の特徴的部分は,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」により「二重瞼形成用テープ」を構成した点であると認められる。
本件発明2は,本件発明1の粘着剤の塗着部分をテープ状部材の両面又は片面としたものにすぎず,本件発明3は,本件発明1又は本件発明2の二重瞼形成用テープの両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けたものにすぎず,いずれも,本件発明1の上記特徴的部分を除いて特段の技術的意義を有するものではない。したがって,本件発明2及び3には,本件発明1の上記特徴的部分を除いて特徴的な部分はない。
イ 本件発明1〜3は,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」により「二重瞼形成用テープ」を構成す 23 ることにより,二重瞼を形成するために従来技術において必要とされた細かい作業や慣れを不要とし,皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡が残したりすることなく,簡単にきれいで自然な二重瞼を安全に形成できるというものであるから,本件発明1〜3の上記特徴的部分が完成したといえるためには,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」によって構成した二重瞼形成用テープのテープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい部分に押し当ててテープ状部材をそこに貼り付け,両端の把持部を離すことによって,弾性的に縮んだテープ状部材がこれを貼り付けた瞼にくい込む状態になって二重瞼のひだが形成され,二重瞼形成用テープとして使用できることを確認したことを要するものと解するのが相当である。
(3) 本件発明4〜6の特徴的部分の完成を基礎付ける事情ア 前記(1)によれば,本件発明4の特徴的部分は,本件発明1又は2の「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した」点であると認められる。
本件発明5は,本件発明4の破断部を,剥離シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝によって形成したものにすぎず,本件発明6は,本件発明4又は5の剥離シートがシリコンペーパー又はシリコンを施したフィルムであるものにすぎず,いずれも,本件発明4の上記特徴的部分を除いて特段の技術的意義を有するものではない。したがって,本件発明5及び6には,本件発明4の上記特徴的部分を除いて特徴的な部分はない。
イ 本件発明4〜6は,本件発明1又は2を「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した」構成とすることにより,テープ状部材に把持部や離型紙を設けなくてもテープ状部材の粘着材が指や他の物品に付着することがなく,また,当該二重瞼形成用テープを使用する際には,当該二重瞼形成用テープを左右両側に引っ張るだけでテープ状部材が延びた状態で露出することから,本件発明1〜3に係る二重瞼形成用テープよりもさらに使いや 24 すいという点に技術的意義があるものであるから,本件発明4〜6の上記特徴的部分が完成したといえるためには,この技術的意義を確認したこと,すなわち,本件発明1又は2を「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した」構成とした二重瞼形成用テープを引っ張った時には,その長さ方向への引っ張り力に対して,テープ状部材が二重瞼形成のために必要かつ十分な程度の長さに至るまで延びたままの状態(切れない程度の強度を有している状態)において,剥離シートが破断部において容易に破断しテープ状部材から剥離して,二重瞼形成用テープとして使用する際の使いやすさが向上することを確認したことを要するものと解するのが相当である。
3 本件発明1〜3に係る原告の共同発明者性について (1) 原告の供述の信用性について 原告は,本件発明1〜3の特徴的部分の完成に原告が現実に関与したことを基礎付ける事実として,本件発明1の着想は,平成12年頃,被告が両面テープ(3M社製#1522)をはさみで細く短冊状に切り引っ張った際に両面テープの伸縮性を発見し,化粧品雑貨等への利用方法を原告と協議する中で得られたものであると主張し,原告の供述はこれに沿う。
すなわち,原告は,原告本人尋問において,要旨次のとおり供述している。
「原告と被告は,平成12年の春頃,プレオ社の玄関の応接室のところで,両面テープ(3M社製#1522)をアイメイク関係で二重瞼に使えるのではないかという話をした。その時点では既に,原告,被告及びAの3人でプレオ社を辞めて新しい会社を作ることが決まっており,もし商品ができた場合は,新会社で商品にしようということを 約 束 していたので,それ以上の 話 はしていないし,実 際 に両面テープを瞼に当てるなどの実験はしていない。
その後,原告と被告は,この両面テープをどういう商品にするかについて,喫茶店で何回か打合せをしたことがあり,被告の車の中で1回話をしたことがある。被告の車の中で話をした際には,両面テープをどういう商品にするかという話はして 25 おらず,また,両面テープのサンプルも見ていない。被告の車の中で話したことは,新しい会社をどういう会社にするかということである。」 しかし,原告の上記供述は,容易く信用することができない。その理由は次のとおりである。
ア 本件発明1に係る商品の開発意図について 上記のとおり,原告は,原告本人尋問では,平成12年春頃に原告と被告が本件発明1の着想を得た時点では既に,新たに開発する商品を新会社の商品とすることが決まっていた旨を述べている。しかし,原告は,甲1(審判において提出された原告の陳述書)では,両面テープを利用した二重瞼形成用テープはプレオ社の新商品として開発する予定であった旨を述べている。
すなわち,甲1には,要旨以下の記載がある。
「詳しい時期は忘れたが,平成12年頃,被告が何かの拍子に両面テープ(3M社製#1522)をはさみで細く短冊状に切って引っ張ったところ,両面テープが長く伸びた。長く伸びた両面テープを見て,被告から「何か新しい化粧品雑貨等に使えないか」という話が出たので,原告と被告とで話を続けているうちに,「二重瞼形成用素材として使えないか」ということになった。当時,プレオ社では,二重瞼を形成するための「液状のり」を取り扱っていたが,二重瞼を作るのに面倒で手間がかかり,売れ行きも良くなく,新商品を開発できないかと二人で話をしていたこともあり,その両面テープで瞼を貼り付け,二重瞼形成用素材にできないかという話になった。
その後も二人でいろいろ話をして,3M社製の両面テープ素材を前提とした二重瞼形成用テープをシリコンシートで挟み込み,伸ばしやすいようにシリコンゴムに切れ目を入れるなどの発明の基本的な骨格ができあがった。
もっとも,その後プレオ社の業績が悪くなり,両面テープの開発が具体的に進展することはなかった。
平成12年夏頃,プレオ社から原告に対し,会社の業績も悪いことから退職して 26 もらえないかという話があった。これを 聞いた被告とAが原告に同調 し,3人でプレオ社を辞めて新たに事業を立ち上げようということになった。
平成12年9月の新会社設立当初は,お金を稼ぐことで手いっぱいであったため,「伸びる両面テープによる二重瞼形成用テープ」の開発にすぐに着手することはできなかったが,原告は,近い将来新会社で製造販売することを考えていた。「伸びる両面テープによる二重瞼形成用テープ」の開発について具体的な協議を始めたのは,平成13年1月に至ってからである。」 甲1の上記記載によれば,原告が本件発明1の着想を得たとする時点(原告本人尋問によれば,平成12年の春頃)では,原告と被告は,両面テープを利用した二重瞼形成用テープを,売上げ不調のプレオ社の従来商品に代わる新商品としようという話をしたということになる。
これに対して,原告本人尋問では,上記のとおり,平成12年の春頃には既に新会社設立の話が決まっており,両面テープを利用した二重瞼形成用テープを新会社の商品とすることは既定の事実であったというのである。
原告と被告が平成12年の春頃に両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話したという事実は,本件発明1の着想を得たことを基礎付ける事実として原告が主張している事実であるから,着想を得た当の本人であるにもかかわらず,その着想に係る商品をプレオ社のために開発するか新会社のために開発するかという開発意図について,供述が変遷し,相互に矛盾するということは,極めて不自然である。
イ 新会社の商品とすることが話し合われたか否かについて 上記のとおり,原告は,原告本人尋問では,平成12年春頃に原告と被告が本件発明1の着想を得た時点では,両面テープを利用した二重瞼形成用テープを新会社の 商品 とすることは 既 に決まっていた 旨 を述べ ている。しかし,原告は,甲39(本訴において提出された原告の陳述書)では,平成12年の春頃に原告と被告が上記の話をした正にその際に,両面テープを利用した二重瞼形成用テープを新会社 27 の商品として開発することを決めた旨を述べている。
すなわち,甲39には,要旨以下の記載がある。
「具体的な時期は覚えていないが,平成11年の末頃,原告は,プレオ社の社長から退職勧奨を受け,被告とAに相談した結 果,3人でプレオ社を辞 めようという話 になったが,す ぐ に 辞 める 必 要はない,退職金 のこともあるから3人で 組 合を作って交渉しようという話になった。その後,具体的な時期は覚えていないが,平成12年になってから,3人でプレオ社を退職して新会社を作ろうという話になった。最終的には,平成12年夏頃,プレオ社からの退職が具体化した。
具体的な時期は覚えていないが,平成12年の春頃,被告が原告の机のところに(当時,原告の席と被告の席は,プレオ社の同じフロアにあった。),はさみで短冊状に切った両面テープ(3M社の#1522)を持ってやってきた。被告は,短冊状に切った両面テープを原告に見せながら,「このテープは引っ張ると伸びるけど,何か新しい商品に使えないだろうか。」という話をしてきた。被告は,「アイメイク品として何かに使えないか」といった話もしていた。
その際に,いろいろな話をしている中で,原告と被告のどちらからともなく「両面テープを瞼に貼り付ければ,二重瞼を作るものに使えるのでは?」「二重瞼テープにしよう」ということになった。退職問題が進展している最中のことだったので,「このアイデアはプレオ社には内緒にしておこう」「新会社の商品としよう。」ということになった。」 原告と被告が平成12年の春頃に両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話したという事実は,本件発明1の着想を得たことを基礎付ける事実として原告が主張している事実であるから,着想を得た当の本人であるにもかかわらず,その着想を得たとする話の際に,その着想に係る商品を新会社の商品として開発することを決めたのか,それとも既に決めていたのかという点について供述が変遷し,一貫しないということは,不自然である。
ウ 平成12年春頃の話をしたとする場所について 28 上記のとおり,原告は,原告本人尋問では,平成12年の春頃に原告と被告が両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話した場所は,プレオ社の玄関の方と述べているのに対し,甲39では,原告の机のところ(当時,原告の席と被告の席は,プレオ社の同じフロアにあった。)と述べている。
原告と被告が平成12年の春頃に両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話したという事実は,本件発明1〜3の着想を得たことを基礎付ける事実として原告が主張している事実であるから,着想を得た当の本人であるにもかかわらず,その着想を得たとする話をした場所について,供述が一貫しないというのは不自然である。
以上のとおり,原告が平成12年の春頃本件発明1の着想を得たとする原告本人尋問における原告の供述は,重要な点において,それ以前に作成された原告の陳述書(甲1,39)の記載内容から変遷しており,一貫しないものであるから,その供述を容易く信用することはできない。
したがって,原告の上記主張(本件発明1の着想は,平成12年頃,被告が両面テープ(3M社製#1522)をはさみで細かく短冊状に切り引っ張った際に両面テープの伸縮性を発見し,化粧品雑貨等への利用方法を原告と協議する中で得られたものであるとの主張)は理由がなく,他に,原告が本件発明1〜3の特徴的部分の完成に現実に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
(2) 原告の供述 を前提としても原告が本件発明1〜の特徴的部分の完 成に現実に関与したとはいえないこと仮に,原告と被告が平成12年の春頃両面テープを利用して二重瞼形成用テープとすることを話したという事実があったとしても,原告の供述によれば,その際には,二重瞼形成用テープにしようという話をしただけで,それ以上の話はしておらず,また,実際に両面テープを二重瞼に当てるなどの実験はしていないというのである。また,その後原告は被告と喫茶店で何回か打合せをした旨供べているものの,打合せの具体的な内容については何ら言及されていない上,被告の車の中で1回話 29 をしたことがあるが,そこでも両面テープをどのような商品にするかについての話はしていないというのである。
そうすると,原告の供述を前提としても,本件発明1の着想に係る原告の関与としては,平成12年の春頃,原告と被告との間において,伸縮性のあるテープが二重瞼形成用に使えるのではないかといった極めて漠然とした話がされたという程度のものすぎず,この程度の関与は,仮にあったとしても,単なる思いつきのレベルを超えるものではなく,これをもって,本件発明1の特徴的部分が完成したものと認めることはできない。
すなわち,前記2(2)のとおり,本件発明1〜3の特徴的部 分が完成したといえるためには,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」によって構成した二重瞼形成用テープのテープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい部分に押し当ててテープ状部材をそこに貼り付け,両端の把持部を離すことによって,弾性的に縮んだテープ状部材がこれを貼り付けた瞼にくい込む状態になって二重瞼のひだが形成され,二重瞼形成用テープとして使用できることを確認したことを要し,このような確認をすることなく,単に,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」を二重瞼形成用テープとして使用することを着想しただけでは足りないというべきである。これを原告の供述に係る原告の関与についてみると,原告は両面テープを二重瞼に当てるなどの実験もしていないというのであるから,原告が,実際に,両面テープによって二重瞼のひだが形成され,二重瞼形成用テープとして使用できることを確認していないことは明らかである。
したがって,原告の供述を前提としても,原告が本件発明1〜3の特徴的部分の完成に現実に関与したとはいえない。
(3) 本件発明1〜3の特徴的部分の完成に至る経緯かえって,証拠(甲7,乙6,7,A証人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
30 ア 新商品開発の契機 原告に対する退職勧奨が撤回された後も,プレオ社の経営状態は改善せず,給料の遅配が続く状況の中,被告は,プレオ社の先行きに強い危機感を抱くようになり,プレオ社を辞めて新会社を作る以外に方法はないと考えるようになった。被告は,人件費の 高 い被告(40 歳 台 半 ば ),原告(50 歳 台 後 半 )及び A (40 歳 代 前半 )の3名がプ レオ社 を 辞めれ ば ,経 営 は継 続で き るので, 遅 れている 給料 を 支払ってもらえるようになるかもしれないと考え,プレオ社を辞めて新会社を設立することを決意し,新会社で最初に売り出すべき商品の開発に着手することにした。
被告は,新会社で開発する商品は,大量に売れるものよりも,安定して長期にわたって売れるリスクが少ないものであり,かつ,自分のこれまでの経験の中で理解できるものであることが必要である考え,新商品のターゲットを化粧品・化粧品雑貨関係と決め,市場調査のため,スーパーマーケットのダイエーに出向いた。被告は,化粧品・化粧品雑貨コーナーのアイメークツールを置いた棚に,以前自分が開発し特許を取得した商品とともに,他社の競合商品が並んでいるのを見つけ,その棚の売れ行き,商品の販売回転率,利益性等を調べるためにダイエーからデータを取り寄せて分析した結果,アイメークツールは,概して売上げ及び回転率が良く,中でも,二重瞼用の商品が突出して回転率と安定性が高いことが判明した。被告は,二重瞼用の商品は,商品の完成度が低いことから大手のメーカーが参入しない商品であり,小さなメーカーが安定して長期にわたって市場を守っていくための隙間商品として最適であると判断した。
イ 新商品開発のための実験 平成12年8月当時,被告は,プレオ社が所在していたマンションの4階を自宅としており,プレオ社は,その1階を事務所スペース,2階を被告の研究部屋として使用していた。被告は,新商品の開発をプレオ社で平日の昼間に行うことはできないため,夜中や休日にマンションの4階の自宅と2階の研究部屋とを往復しながら進めることとし,まず,既存の二重瞼用商品の検討から始めた。
31 当時,既存の二重瞼用商品には,「のりタイプ」と呼ばれる,接着法に基づく商品群と,「アイテープタイプ」と呼ばれる,折込法に基づく商品群の2種類があった。
「のり タイ プ」については,被告は, 過 去に,その原 料 の特許を取 得 した メ ーカーで研究に携わっていたことがあり,接着に伴う皮膚のつれが生じてしまうため,本物の二重あるいはきれいな二重ができないことを知っていたことから,「のりタイプ」の改良をめざすことは考えなかった。
「アイテープタイプ」は,瞼にテープを貼り付けることによって瞼の皮膚を硬化させ,テープの上側ラインに沿って二重ラインを折り畳み,ひだを形成する方式のものであるが,このタイプは,貼ったテープが目立ち,また,二重のラインの下の皮膚をテープ幅で固定してしまうことから,自然な二重ができにくいという難点があった。
そこで,被告は,手元にあった,かつら用テープ(3M社製#1522),医療用のサージカルテープ,その他の皮膚用テープを用いて,テープの伸縮性の有無や厚さ,堅さの違いが二重瞼形成にどのような差や効果をもたらすかについて,自らを被 験 者として実 験 して 確かめることにした。被告は,以 前 ,かつらの 開 発に 携わっていたことがあり,手元にかつら用のテープ(3M社製#1522)があり,また,被告は,胸に直接貼り付ける化繊のブラジャーを開発したことがあり,その際に用いた各種皮膚用テープも手元にあった。
被告は,手元にあった上記各種テープを用いて自らを被験者として実験した結果,既存のアイテープは,テープの伸縮性を利用するものではなく,その貼り付け面の瞼の皮膚を硬くしてシャッター状に折り込むことによって二重瞼を形成するものであるのに対し,伸縮性のあるテープを引き伸ばした状態で瞼に貼り付けたところ,テープの厚さの違いや堅さの違いはあっても,伸縮性のあるテープであれば,テープそれ自身が縮もうとする力によって瞼に食い込み,皮膚に溝ができることによって二重瞼が形成されることに気が付き,中でも,かつら用テープ(3M社製#15 32 22)は,適度の伸縮力があり,最も自然できれいな二重瞼が形成できることが判明した。
被告は,以前かつらの開発に携わった経験から,かつら用テープ(3M社製♯1522)は,皮膚への接着性に優れ,瞼のように柔らかい皮膚に最もなじみが良いこと(柔軟性や皮膚粘着性に優れること)を認識しており,また,かつら用テープは,一方向に顕著な伸縮性を有することを認識していたことから,これを二重瞼形成用として使用するには,延伸方向の実験をすることが不可欠であると考え,3M社製#1522を用いて実験を行った結果,長手方向には伸縮性がほとんどなく,短い方の方向には十分な伸縮性があること,斜め方向に切った場合は,伸びはするが,縮む力がかなり弱いことが判明した。
被告は,このかつら用テープを 短 い方向(長さ1 イ ン チ (25 . 4 ミ リ メ ートル))に細かく切った裁断片を作り,その両端を左右の人差し指と親指で持って引き 伸 ば し,そのまま ピ ンと張った状 態 で瞼に貼り付けるとテープ 自体の 収 縮 力 によって二重瞼が形成され,その際,テープを引き伸ばす長さとしては,目の幅より少し長い程度(7〜8センチメートル程度)に引き伸ばすのが最も効果的であり,操作性もよいことを確認した。
ウ 平成12年8月末の車内協議 被告は,以上の実験 の経緯について,それまで,原告及びAを含 め,誰にも話をしていなかったが,平成12年8月末頃 ,昼休みの休憩時間に原告と Aを自分の車に乗せ,プレオ社の近く の路地で車を止 め,その車内で初めて,原告とAに対し,上記の着想について,実際にかつら用テープを裁断したサンプルを示しながら話をした。すなわち,被告は,原告らの目の前で,サンプルテープから離型紙をはがし,テープの両端部分を左右の親指と人差し指でつまんでそれを引き伸ばし,その引き伸 ば している方向に 力 を 入れたり 緩 めたりしながらテープを伸び縮 みさ せ た後,テープを実際に自分の瞼に当てて二重瞼を作って見せた。そして,被告は,原告らに対し,このままプレオ社に残っても赤字倒産になるであろう,社員の中で給料の 33 高い自分たち3人がプレオ社を辞めればプレオ社も倒産を免れるであるであろうという考えを述べ,自分たち3人で,今見せた二重瞼形成用テープを商品として新会社を立ち上げないかと提案した。原告らは,テープが伸び縮みすることに驚くとともに,プレオ社を退社し新会社を設立するという被告の提案に,その場で同意した。
エ 3M社に対する各種テープのサンプル送付依頼 被告は,新会社での製品開発上,#1522以外の新しいテープの品番を確認しておく必要があり,また,3M社はプレオ社の直接の取引先ではなかった(プレオ社は,兄弟会社であるプリマ粧業を介して3M社と取引していた。)ため,被告の存在は3M社に認識されていなかったことから,被告の存在を3M社に認識してもらい,取引上のコネクションをつけておく必要があったため,3M社に対し,テープのサンプル送付を依頼した。平成12年9月22日,3M社から被告宛てに,各種テープ(製品番号1525L等9品)のサンプルが送付された。
被告は,送付を受けたサンプルを使用して,新商品の素材としての適性を確認したが,#1522を超えるものはなかった。
(4) 被告及びA証人の供述の信用性について 上記認定は,もっぱ ら被告及びA証人の供述 に依拠するものであるところ,原告は,被告及びA証人の供述は信用性が乏 しい 旨主張する。しかし,以下のとおり,原告の主張は採用することができない。
ア 各種テープを用いた実験及びサンプル送付(甲13)に関する被告の供述について 原告は,要旨,被告は,平成12年8月頃,かつら用テープ(3M社製#1522)等各種テープを用いた研究を被告単独で行い,同年末頃本件発明1が完成した旨を述べているが,これを裏付ける客観証拠は存在しない上,同年9月22日に3M社 から被告 宛 てに, # 1522以 外 のテープの サ ンプ ル が送付されていること(甲13)からすると,同年8月の時点において,被告が各種テープを用いた実験を行い,#1522を選択し,本件発明1に至ったとは考えられない旨を主張する。
34 この点について,被告は,被告が平成12年8月頃行った実験に用いたテープは,3M社から送付を受けたものではく,手元にあったものであり,被告が3M社に対して各種テープのサンプルの送付を依頼した理由は,新会社における製品開発のために,かつら用テープ(#1522)以外のテープの品番を確認しておく必要があり,また,3M社は,プレオ社の直接の取引先ではなかった(プレオ社は,兄弟会社であるプリマ粧業を介して3M社と取引をしていた。)ため,被告の存在は3M社に認識されていなかったことから,被告の存在を3M社に認識してもらい,取引上のコネクションを付けておく必要があった旨を述べている。
原告は,被告の上記供述について,被告が各種テープを用いた実験を平成12年8月中に行っていたのであれば,その時点で他のテープのサンプルを取り寄せるのが自然であると主張する。しかし,被告は,従前かつらの研究に従事していたのであるから,かつら用のテープ(#1522)が手元にあったとしても何ら不思議ではないし,医療用サージカルテープや絆創膏などは市販されているものであるから(当裁判所に顕著な事実),これらが被告の手元にあったとしても何ら不思議ではない。そうすると,実験の対象となるテープが手元にあるのにあえて各種テープのサンプルを取り寄せた上で実験を行うのが自然であるということはできない。
かえって,被告の供述によれば,平成12年8月は,被告が,既存の二重瞼用商品である「のりタイプ」や「アイテープタイプ」の問題点を解決する手段について試行錯誤を始めたばかりの時期であったというのであるから,取り敢えず手元にあるテープを用いて実験を行ったというのはむしろ自然であるともいえる。そして,他に,被告の上記供述の信用性を否定すべき事情は見当たらない。
イ 平成12年8月末の車内協議について 原告は,要旨,A証 人は,平成12年8月末 の車内協議の際に初 めて,原告は被告から新商品のアイデア を聞いた旨を述べているが,被告の利害関係 人であるA証人の供述の信用性は乏し く,また,A証 人は,新会社立ち上げの話もこの車内協議の際に初めて出た旨を述べているが,新会社設立の時期(同年9月12日)から見 35 て,同年8月末の段階で初めて新会社設立の話が持ち上がったとは考えがたいから,この点からも,A証人の供述の信用性は乏しいのに対し,B証人の証言の信用性は極めて高いとして,原告が被告から平成12年8月末の車内協議の際に初めて新商品のアイデアを聞いたということなどあり得ない旨を主張する。
しかし,プレオ社は,平成11年末には,原告に対して退職勧奨をしてリストラを実施せざるを得ない程に経営状態が悪化しており,その後さらに業績は悪化し,給料の遅配が続くような状況になっていたのであるから,平成12年8月末時点において,原告やAがプレオ社の先行きに 対して相当な危機感を抱いていたであろうことは想像に難くなく,そうであるにもかかわらず,この時点において,同人らがプレオ社を辞めて,新たに生活の糧を得る手段を見いだしていたと認められる事情は見当たらない。
このような状況を前提とすれば,平成12年8月末時点において,被告から新会社設立の話とともに,新会社で売り出す新商品の話が出れば,原告らにおいて,プレオ社の退社,新会社の設立を急いだ方がよいと考えたとしても不思議ではないから,同年8月末の段階で初めて被告から新会社設立の話が持ち上がり,同年9月12日に新会社設立に至ったとしても何ら不自然ではない。
また,B証人は,要 旨,平成12年の夏頃, 詳しい時期は覚えていないが,被告の車内で,原告,被告及びAと4人で話 をしたことが1回ある,そこでは,プレオ社の業績が良くなかったので,どうやって会社を辞めるかとか,辞める時期について話をしており,新商品を作って新しい会社で売りたいという話もあったが,具体的にこれでというのはなく,サンプルは見ていない旨を供述しているところ,原告が主張するように,B証人の証言の信用性を否定すべき事情は見当たらない。
しかし,B証人は, 他方において,被告の車 内での話の際に,自分も一緒に会社を辞めたかったが,家のローンもあり,子供も小さいという事情があったことから,被告らから会社に残ることを勧められた旨を述べている。そうであれば,プレオ社を辞めて新会社を設立しようとしている被告らにとって,プレオ社に 残るBは,少 36 なくとも新会社で販売しようとしている商品に関しては利害が対立し,その詳細を知られては不都合な人物 ということになるから,そもそも,Bが同席 している場において,被告が新商品のアイデアについて話をするということは考え難い。
また,A証人は,被告の車内で話 をしたことは1回だけではなく ,平成12年8月末に原告,被告及びAの3人で話をしたのとは別の機会に,Bを含めた4人で話をしたこともある旨を述べ ている。A証人については,なるほど,本件特許に係る製品を販売している株式会社アーツブレインズの役員の地位にあり,本件特許の有効性に関して被告と利害が共通しているといえるが,上記証言の信用性を否定すべき具体的事情は見当たらない。
そうすると,B証人の証言に係る車内での4人の協議は,被告及びA証人の供述に係る平成12年8月末の3人の協議とは別の機会になされたものと認めるのが相当である。
そして,他に,平成12年8月末 の車内協議 に係る被告及びA証 人の供述の信用性を否定すべき事情は見当たらない。
(5) 小括 前記(3)の認定事実によれば ,本件発明1〜3の特徴的部分 は,被告が,平成12年8月頃,手元にあった各種テープを用いて自らを被験者として実験を行い,伸縮性のあるテープを引き伸ばした状態で瞼に貼り付けたところ,テープそれ自身が縮もうとする力によって瞼に食い込み,皮膚に溝ができることによって二重瞼が形成されることに気が付き,中でも,かつら用テープ(3M社製#1522)は適度の伸縮力があり,最も自然できれいな二重瞼を形成できることを確認した際に完成したものと認められ,この特徴的部分の完成に原告が現実に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
よって,本件発明1〜3について,原告をその共同発明者と認めることはできない。
4 本件発明4〜6に係る原告の共同発明者性について 37 (1) 原告の主張を前提としても原告が本件発明4〜6の特徴的部分の 完成に現実に関与したとはいえないこと 原告は,平成13年1月から2月にかけて原告が製品の企画・研究開発を自ら主体的に行っていたのであるから,本件発明4〜6の「破断部を有する剥離シート」「シリコン素材」の創作に原告が関与していたことは明らかであると主張する。
しかし,原告が自ら主体的に行っていたと主張する「企画・研究開発」の具体的内容は,金型製造の発注において,片面シボ付き,四隅ガイド付き,上下マーキング等の指示をしたこと,シリコンの形状,厚み,硬度,スリットの形成方法等を具現化したこと,「ガイド穴つぶす」等の指示をしていたこと,といったものであるところ,このような事柄は,発明完成後の,発明に係る製品の具体的仕様の決定行為にすぎず,これをもって,本件発明4〜6の特徴的部分に創作的に関与したものと評価することはできない。
すなわち,前記2(3)のとおり,本件発明4〜6の特徴的部 分が完成したといえるためには,本件発明1又は2を「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した」構成とした二重瞼形成用テープを引っ張った時には,その長さ方向への引っ張り力に対して,テープ状部材が二重瞼形成のために必要かつ十分な程度の長さに至るまで延びたままの状態(切れない程度の強度を有している状態)において,剥離シートが破断部において容易に破断しテープ状部材から剥離して,二重瞼形成用テープとして使用する際の使いやすさが向上することを確認したことを要するところ,原告が主張するところの,片面シボ付き,四隅ガイド付き,上下マーキング等の指示をしたこと,シリコンの形状,厚み,硬度,スリットの形成方法等を具現化したこと,「ガイド穴つぶす」等の指示をしたことといった事柄は,本件発明4〜6の特徴的部分の完成を基礎付けるものでないことは明らかである。
また,原告は,本件発明1の着想を得たとする平成12年の春頃から同年末までの間に,両面テープについて何か実験をしたり,テープをシリコンで挟んでサンプ 38 ルテープを作るなどして実験したことは一切ない旨を供述しており,そうだとすれば,原告が実際に,剥離シートが破断部において容易に破断しテープ状部材から剥離して,二重瞼形成用テープとして使用する際の使いやすさが向上することすることを確認したことがないことは,明らかである。
そして,他に,原告が本件発明4〜6の特徴的部分の完成に現実に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
(2) 本件発明4〜6の特徴的部分の完成に至る経緯 かえって,証拠(甲7,乙6,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 剥離シートの着想,剥離シートへのシリコンの採用 被告は,新会社設立後,日中は資金稼ぎのための副業をしており,夜間や休日に自宅や新会社の事務所で新商品の具体的な形態について研究を続けた。
被告は,新商品が売れるための要素として,商品のインパクト,使い勝手の簡便性,購入者自らが商品の良さを他者に伝える,いわゆる自己伝達力が必要であり,とりわけ,二重瞼関連の商品は,一重瞼であることに悩んでいる女性が多かったために自己伝達力が小さかったことから,新商品には,購入者が他者に話したくなるような面白い仕掛けが必要であると考えた。
そこで,被告は,二重瞼形成のために弾性的な伸縮性を有する粘着テープを伸ばして使うという,既存商品にはない新商品の特徴を利用しつつ,使いやすさを実現する手段として,テープの両端に粘着性のない把持部を設け,把持部を設けた粘着テープを剥離紙で挟み込むことを考えた。被告は,このようにすれば,把持部をつまんで粘着テープを引き伸ばしたときに,剥離紙は伸びないため,切れてぱらりと落ちると考えたからである。しかし,実際に試してみると,剥離紙が落ちるときと落ちないときがあった。
そこで,被告は,考え方を変え,剥離紙は,ぱらりと落ちなくてもよいから,剥離紙が切れることによって,粘着テープが露出して瞼に当たればよいとことに思い 39 付き,この仕掛けは,シリコンの切れやすさ(破断性)を利用すれば可能であると考えた。被告は,以前かつらの開発をしていたときにシリコンを扱っていたことから,シリコンが切れやすい(破断しやすい)ことを知っており,これを剥離シートとして用いる際に,その中央に,破断部分に当たる線の切り込み(傷)を付けておけば,引っ張ったときに簡単に切れるのではないかと考えた。被告は,このようにすれば,従来のアイテープ製品に多い,シリコンの紙で押さえてそれを剥がして使うだけの製品とは全く異なり,把持部をつまんで粘着テープを引き伸ばすと,剥離シートがぱらっと取れて粘着部が飛び出てくるという簡便さと面白さを印象付けることができ,そうすれば,商品自体に自己伝達力を持たせることができ,ヒット商品にすることができると考えた。
イ シリコンの仕様決定 被告は,平成12年の秋から冬にかけての頃,厚さの異なるシリコンシートや2液式のシリコンを購入し,粘着テープと貼り合わせて二重瞼形成用テープのサンプルを作り,破断性を確認するための実験を行い,剥離シートに用いるシリコンの仕様について検討を進めた(以下,シリコンを剥離シートとして用いたものを「シリコンシート」ともいう。)。
(ア) シリコンの硬度剥離シートは,二重瞼形成用テープを使用しない時(引っ張っていない時)には,粘着テープに密着していることが必要であるが,二重瞼形成用テープを使用する時(引っ張った時)には,粘着テープから簡単に剥離することが必要である。
被告は,二重瞼形成用テープを使用する時に剥離シートが粘着テープから簡単に剥離するためには,引っ張った距離が短いところで剥離シートが切れることが理想であり,そのためには,剥離シートに用いるシリコンの硬度は高い方がよいと考えた。すなわち,被告は,両面テープを細く切ったものをシリコンの剥離シートで挟んだサンプルを作り,その両端をつまんで伸ばしてみたところ,剥離シートは,シリコンが柔らかいと,シリコンに少し傷が付くと相当な長さにまで伸びるため,シ 40 リコンが切れる瞬間に粘着テープに大きな力がかかってしまい,粘着テープが切れるおそれがあることから,被告は,引っ張った距離が短いところでシリコンが切れることが理想であり,そのためには,シリコンは硬度が高い方がよいと考えた。
そこで,被告は,一般に入手可能なシリコンのうち,なるべく硬度の高いものを購入して実験した結果,入手したものには硬度90度のものはなかったが,硬度90 度 に 近 いものであれ ば ,ほ と ん どの 場 合,二重瞼形成用テープを 使用しない 時(引っ張っていない時)にはシリコンの剥離シートは粘着テープと密着し,使用する時(引っ張った時)には,シリコンの剥離シートが切り込みで破断して粘着テープから剥離し,粘着テープが切れることなく,粘着テープを伸ばすことができた。
(イ) 粘着テープとの密着面(鏡面かシボ面か) 被告は,二重瞼形成用テープを使用する時に剥離シートが粘着テープから簡単に剥離するようにするために,シリコンシートの鏡面側を粘着テープとの密着面として使うことにした。すなわち,被告は,シリコンシートのシボ面側を粘着テープとの密着面として使うと,密着させる際のプレスの力が強かった場合や,密着後時間が経過した場合には,シリコンシートが粘着テープから剥がれにくくなる可能性があると考え,実際に少し熱をかけてプレスしたサンプルを作って実験したところ,シリコンと粘着テープとの密着力が強くなり,引っ張ったときに,両者がくっついたまま伸び,粘着テープが伸びる部分が限定される結果,粘着テープが切れやすくなることが分かった。これとは逆に,シリコンシートの鏡面側を粘着テープとの密着面とした場合は,サンプルを引っ張ったときに粘着テープが切れてしまうことはなかった。そこで,被告は,二重瞼形成用テープを引っ張った時に,シリコンシート全体が粘着テープから剥がれるように,シボ面側ではなく鏡面側を密着面として使うことに決めた。
(ウ) シリコンシートの切欠溝 被告は,シリコンの剥離シートの破断部の切り込み(半スリット)を入れる部分について,切り込みをシリコンシートの外側に入れると,シリコンシートが何かに 41 引っかかったり,少し曲がったりしたときに,切り込みのV字が広げられるため,破断しやすくなる(壊れやすくなる)ことから,シリコンシートの内側(粘着テープとの密着面側)に切り込みを入れることを決めた。被告は,このようにすることにより, ユ ー ザ ーが一 見 した だ けでは 何 の筋 も 見え ないのに,シリコンシートを引っ張ると,いきなり粘着テープが飛び出してくるという演出を実現することができると考えた。
ウ 製品化 被告は,平成12年から13年にかけての年末年始の頃,量産化を進めるために,原告に対し,以上の着想について話をした上,二重瞼形成用テープの製品化のため,業者の選定を依頼した。
原告は,当初は,シリコンは接着できないので両面テープが剥がれてしまう可能性が高い旨を述べるなどして,シリコンの使用に反対したが,被告が,両面テープとシリコンシートは「接着させる」ではなく「密着させる」ものである旨説明するなどしてやりとりをした結果,最終的には,原告は被告が明かした着想を受け入れ,平成13年に入り,製品化に向けた行動を始めた。
(3) 被告の供述の信用性について 上記認定は,もっぱら被告の供述に依拠するものであるところ,原告は,平成12年末までに被告がシリコンを用いて実験を行ったとする被告の供述は信用性が低い旨主張する。
原告は,その理由として,実験用のシリコンシートを製造するに当たって,厚さ0.3o程度のごく薄い厚さのシートを,ゴム加工業者でもない被告が,何ら必要な金型等もない状況で作成することなど考えられないこと,そのような薄いシートに切欠き(スリット)を手動で入れることなど不可能であることを挙げるが,乙6(被告の陳述書)によれば,被告は,0.3mmの厚さのシートを購入したというのであり,自ら作成したとは述べていない。また,このような薄いシートに切欠きを手動で入れることは不可能であるとの主張は,何ら根拠がない。
42 そして,他に,被告が平成12年8月以降同年末までの間にシリコンシートや二液式のシリコンを購入して実験をしたとの被告の供述の信用性を否定すべき事情は見当たらない。
(4) 小括 前記(2)の認定事実によれば ,本件発明4〜6の特徴的部分 は,被告が,剥離紙を用いた実験の結果を踏まえ,シリコンを剥離シートとして用いることとし,平成12年の秋から冬にかけて,厚さの異なるシリコンシートや2液式のシリコンを購入してシートを作り,その中央部に破断部分を設けたものを粘着テープと貼り合わせてサンプルを作り,破断性を確認するための実験を行った結果,シリコンの硬度が90度に近いものであれば,ほとんどの場合,二重瞼形成用テープを使用する時に,シリコンの剥離シートが切り込みで破断して粘着テープから剥離し,粘着テープが切れることな く ,粘着テープを伸 ば すことがで き ることを 確 認し,シリコンシートの鏡面側を粘着テープとの密着面として使うことを決め,もって,二重瞼形成用テープとして使用する際の使いやすさが向上することを確認した際に完成したものと認められ,この特徴的部分の完成に原告が現実に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
よって,本件発明4〜6について,原告をその共同発明者と認めることはできない。
5 まとめ 以上によれば,審決が,原告を本件発明1〜6の共同発明者として認定しなかった点に誤りはなく,審決に取り消されるべき違法はない。
結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
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