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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成24行ケ10025審決取消請求事件 判例 特許
不服200719763 審決 特許
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事件 平成 24年 (行ケ) 10192号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/03/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年3月14日判決言渡

平成24年(行ケ)第10192号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年2月28日

判 決



原 告 株 式 会 社 明 治



訴訟代理人弁理士 廣 瀬 隆 行

関 大 祐



被 告 特 許 庁 長 官

指定代理人 菅 野 智 子

秋 月 美 紀 子

中 島 庸 子

田 村 正 明



主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。



事実及び理由

第1 原告の求めた判決

特許庁が不服2010−4940号事件について平成24年4月23日にした審

決を取り消す。



第2 事案の概要




本件は,特許出願に対する拒絶審決の取消訴訟である。争点は容易想到性である。

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成17年7月21日,名称を「風味物質が添加されたポーションタイ

プのカビによる表面熟成軟質チーズ及びその製造方法」とする発明につき特許出願

(特願2005−211348)をしたが(甲5),平成21年9月14日付けで

拒絶理由通知(甲6)を受け,同年11月11日付けで手続補正をしたが(甲8),

同年12月8日付けで拒絶査定(甲9)を受けたので,平成22年3月5日に不服

の審判(不服2010−4940号)を請求するとともに(甲10),同日付けで

手続補正をした(本件補正。甲11)。特許庁は,平成24年4月23日付けで,

本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,

その謄本は,同年5月8日,原告に送達された。

2 本願発明の要旨

(1) 補正前発明

本件補正前の本願発明(平成21年11月11日付け手続補正書(甲8)の請求

項6)は以下のとおりである。

「風味物質がポーションカット前のチーズの一次熟成中に添加されており,該風

味物質を添加した後,熟成させた後に前記チーズをポーションカットし,ポーショ

ンカット後二次熟成を行い,前記二次熟成後に加熱殺菌処理を行い,該風味物質が

ポーションカット後に切断面に露出すること,を特徴とする風味物質が添加された

ポーションタイプのカビによる表面熟成軟質チーズ。」

(2) 補正発明

本件補正後の本願発明(平成22年3月5日付け手続補正書(甲11)の請求項

4)は以下のとおりである。

「風味物質をポーションカット前のチーズの一次熟成中のチーズカードに添加後,

さらに熟成させた後にポーションカットし,切断面に密着包装するように各ポーシ

ョンを個包装し,二次熟成後に加熱殺菌処理を行い,前記風味物質がポーションカ




ットによる切断面に露出すること,を特徴とする風味物質が添加されたポーション

タイプのカビによる表面熟成軟質チーズ。」

3 審決の理由の要点

審決は,「補正発明は,特開2005−176725号公報(刊行物1,甲1),

特開2000−355389号公報(刊行物2,甲2),特開2000−1163

21公報(刊行物3,甲3),特開平10−150914公報(刊行物4,甲4)

に記載された発明及び慣用技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができた

ものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受け

ることができない。」,「補正前発明も,同様の理由により,刊行物1〜4に記載

された発明及び慣用技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたもので

ある。」と判断した。

審決が上記判断の前提として認定した刊行物1に記載された発明(刊行物1発

明),補正発明と刊行物1発明との一致点及び相違点,補正発明と刊行物1発明と

の相違点についての審決の判断,補正前発明と刊行物1発明との相違点についての

審決の判断は,以下のとおりである。

(1) 刊行物1発明

「一般的な製造工程に従ってカードメーキング及び表面にカビが生育するまで発

酵させた成型されたチーズカードの間に食品類をはさんだ後,このチーズカードを

再び発酵させ,包装して,さらに熟成が完了するまで発酵を継続して,熟成によっ

て上下2枚のチーズが結着した後,加熱殺菌を行う,食品類を内包した白カビチー

ズ製品」

の発明

(2) 補正発明と刊行物1発明との一致点及び相違点

ア 一致点

風味物質をチーズの一次熟成中のチーズカードに添加後,さらに熟成させた後,

包装し,二次熟成後に加熱殺菌処理を行う,風味物質が添加されたカビによる表面




熟成軟質チーズ

イ 相違点

風味物質をチーズの一次熟成中のチーズカードに添加後,さらに熟成させた後,

包装するにあたって,補正発明は,「ポーションカットし,切断面に密着包装する

ように各ポーションを個包装」して,「風味物質がポーションカットによる切断面

に露出」させることによって,「ポーションタイプ」とするのに対し,刊行物1発

明では,ポーションカットせずに包装して食品類を内包したものである点。

(3) 補正発明と刊行物1発明との相違点についての審決の判断
(相違点について)

刊行物1には,刊行物1発明の「食品類を内包した白カビチーズ製品」が,食品類を白カビ

チーズ内部に完全に内包され一体化したものであって,通常の白カビチーズと外見上全く見分

けが付かないチーズ製品であることが記載されているが(1c,1d),カマンベールチーズやブリ

ーチーズを含むチーズ製品一般において,一度に食べきれない大きさのチーズを一回に食する

程度の量に切り分けてポーションタイプとすることは,刊行物2(2b),刊行物3(3b),刊行

物4(4b,4c)に記載の通り,本件出願前の慣用技術である。

そして,ポーションタイプの表面熟成軟質チーズとして,刊行物2には,常法に従い円盤型

のカマンベールチーズを製造し,前期熟成で表面にカビを育成した後に,中心点から放射状に

6つに切断し,切断片の切断面に密着させて個包装を行い,更に後期熟成を継続して風味が強

まった時点で,95℃の熱湯に浸漬,殺菌して製造したものであって(2d,2e),チーズ切断面

に包装材が密着するので加熱殺菌したタイプでも切断面からチーズが溶け出すことがないこと

(2e)が,刊行物3には,通常の工程で製造したカマンベールチーズを,表面にカビが育成し

た未熟成の段階で,放射状に6分割し,それぞれをチーズの切断面に密着するようにして包装

し,その後十分な風味,組織になるまで熟成させ,次いで,90℃の熱湯に浸漬して殺菌処理

を行って製造したものであって(3d),包装材をチーズ切断面に密着させて密封することによ

って殺菌時のチーズ内部の軟質部からの溶出がないこと(3e)が,刊行物4には,一般的な製

造工程に従ってカードメーキングおよび発酵させたカマンベールチーズを発酵途中で取り出





し,6等分にカットして,チーズのカット面に密着させて個包装し,発酵を継続した後,加熱

殺菌して製造したものであって(4e),包材がチーズのカット面に密着して個包装することに

より加熱殺菌時にチーズが包材から洩れることがないこと(4f)が,それぞれ記載されており,

いずれも,熟成途中の状態で包装する前のタイミングでカットを行い,切断片の切断面に密着

させて個包装した後,さらに熟成させ,熟成完了後に加熱殺菌して製造することが,そして,

切断片の切断面に密着させて個包装することにより加熱殺菌時に切断面からのチーズの溶出が

防止できることが記載されている。

そうすると,刊行物1発明の「食品類を内包した白カビチーズ製品」において,一回に食す

る程度の量に切り分けてポーションタイプにするという,チーズ製品における慣用技術を適用

し,また,加熱殺菌時にポーションカットによる切断面からのチーズ及びチーズと一体化した

食品類が溶出するのを防止するため,食品類をはさんだ後の熟成途中の状態で包装する前のタ

イミングで,ポーションカットを行い,切断片の切断面に密着させて個包装してポーションタ

イプとすることは,刊行物2〜4を参照して当業者が容易に想到し得たことである。

そして,刊行物1には,食品類をはさむ方法として,チーズカードを輪切り状に2つに切断

し,その切断面に食品類を均一に載せ,切断した一方のチーズカードを元に戻したことが記載

されているように(1e),内包する食品類の量を均一に含ませるものであるし,また,刊行物

2〜4には,円盤状のチーズを中心点から放射状に分割する(2b,2d,3b,3d,4e)と記載されて

いるように,1回に食する量として分割された切断片の形状や大きさなどが同様のものとなる

ように切断するものであるので,そうすると,均一に食品類が内包された円盤状のチーズを中

心点から放射状にポーションカットを行えば,切断面から食品類が露出することは当然である。

(発明の効果について)

刊行物1には,成型したチーズカードの間に様々な食品類をはさんだ後,前記チーズカード

を結着するように熟成させて一体化させたことにより,加熱時に流動化したチーズが切断面か

ら流れ出たり,食品類が流出したり漏れたりすることがなく,また,大量生産を目的とした白

カビチーズ製品生産ラインにおいて,食品類を内包した小ロットの白カビチーズ製品の製造を

可能にする,旨の効果が記載されており(1c),また,刊行物2(2e),刊行物3(3e),刊行





物4(4f)には,ポーションタイプのカビになる表面熟成軟質チーズであって,切断片の切断

面に密着させて個包装することにより,加熱殺菌時に切断面からチーズが溶け出して包材から

洩れることがない旨,記載されている。

そうすると,成形チーズカードを一時熟成する期間中にまず風味物質を添加するためのカッ

トを行い風味物質を添加してカードを合わせた後一時熟成期間をおくことで,風味物質が添加

された部分の剥がれ等が発生せず問題なく各工程を行うことができるとの補正発明の効果は刊

行物1の記載事項から,また,ポーションカット後の包装を問題なく行うことで,チーズがポ

ーションカット時の切断片面に露出しているにも関わらず,チーズの包材からの漏洩も,また

チーズ形状が変形する等の問題を起こすこともなく加熱殺菌処理が行われるとの補正発明の効

果は刊行物2〜4の記載事項から,さらに,チーズと一体化された風味物質が包材からの漏洩

する問題を起こすこともなく加熱殺菌処理が行われるとの補正発明の効果は,刊行物1〜4の

記載事項及び慣用技術から当業者が予測し得たものである。

したがって,補正発明は,刊行物1〜4に記載された発明及び慣用技術に基づいて,当業者

容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の

際独立して特許を受けることができないものであり,本件補正は却下すべきである。

(4) 補正前発明と刊行物1発明との相違点についての審決の判断
補正前発明は,前記「第2」で検討した補正発明の「風味物質が添加されたポーションタイ

プのカビによる表面熟成軟質チーズ」について,「切断面に密着包装するように各ポーション

を個包装」されたものであるとの構成を省いたものである。

そうすると,補正前発明の構成要件を全て含んだ補正発明が,刊行物1〜4に記載された発

明及び慣用技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,補正前発

明も,同様の理由により,刊行物1〜4に記載された発明及び慣用技術に基づいて,当業者が

容易に発明をすることができたものである。



第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(刊行物1発明の認定誤り)




刊行物1(甲1)の段落,【0003】〜【0005】,【0007】の記載に

よれば,刊行物1発明の解決課題は,(従来)「食品類を内包した白カビチーズ製

品を製造することは不可能であった」ため,「チーズの間に種々の食品類を内包す

る白カビチーズ製品及びその製造方法を提供すること」といえる。

そして,刊行物1発明は,「食品類を内包させること」により,「通常の白カビ

チーズと比べて,外観上全く見分けがつかない」「食品類自体またはその香味成分

が他のチーズ類へ移行することや,食品の流出が防止される」などというものであ

る。

また,刊行物1発明は,「食品類を内包させること」により,チーズを加熱した

際に,流動化したチーズや食品が切断面から流出したり漏れたりしないという作用

効果を奏する発明である。

審決は,刊行物1発明が,食品類を内包することにより,課題を解決でき,作用

効果を奏することができる発明であることを看過している。すなわち,審決は,刊

行物1発明の認定を誤っている。

審決及び被告は,刊行物1発明が包装により食品類を内包するものであるかのよ

うに誤解している。

2 取消事由2(補正発明と刊行物1発明の相違点の認定誤り)

刊行物1発明は上記のとおりであるから,補正発明と刊行物1発明とは,補正発

明が,「風味物質がポーションカットによる切断面に露出すること,を特徴とする

風味物質が添加されたポーションタイプのカビによる表面熟成軟質チーズ」に関す

るものであるのに対し,刊行物1発明が,「食品類を内包した白カビチーズ製品」

に関するものである点(相違点1),及び,補正発明が,「風味物質をポーション

カット前のチーズの一次熟成中のチーズカードに添加後,さらに熟成させた後にポ

ーションカットし,切断面に密着包装するように各ポーションを個包装し,二次熟

成後に加熱殺菌処理を行」って得られるものであるのに対し,刊行物1発明が,「成

型されたチーズカードの間に食品類をはさみ,前記チーズカードを熟成させて結着




させて一体化させ」,「熟成の後,加熱することを特徴とする前記白カビチーズ製

品」に関する点(相違点2)で,相違する。

審決は,補正発明と刊行物1発明とは,あたかも,チーズを包装するにあたって,

ポーションカットするか,ポーションカットを行わないかの相違しかないかのよう

に認定しているが,誤っている。

3 取消事由3(補正発明の進歩性についての判断誤り)

(1) 相違点1について

刊行物1発明は,(従来の方法では)「食品類を内包した白カビチーズ製品を製

造することは不可能であった」ため,「チーズの間に種々の食品類を内包する白カ

ビチーズ製品及びその製造方法を提供することを目的とする」発明である。その結

果,刊行物1発明は,「食品類を内包した白カビチーズは,通常の白カビチーズと

比べて,外観上全く見分けがつかない」という効果を有する。

一方,補正発明は,「風味物質がポーションカットによる切断面に露出する」。

すなわち,補正発明は,「食品類を内包した白カビチーズは,通常の白カビチーズ

と比べて,外観上全く見分けがつかない」ものではない。このため,補正発明は,

刊行物1発明の上記効果を奏しない。

よって,上記相違点1は,実質的な相違点である。

(2) 相違点2について

補正発明は,「風味物質をポーションカット前のチーズの一次熟成中のチーズカ

ードに添加後,さらに熟成させた後にポーションカット」することにより,「風味

物質がポーションカット面に露出していても熟成処理によって問題なく接合状態が

良好とな」り,「カードの合わせ目の接合を強くし,機械的に処理を行っても剥が

れ等を起こさないようにする」という効果を奏するものである。

すなわち,風味物質をチーズカードに添加した後直ちにポーションカットすると

チーズカードが剥がれるといった問題が生ずる。

しかしながら,風味物質をチーズカードに添加した後,さらに熟成させて,その




後にポーションカットすることで,補正発明はチーズカードの剥がれなどを防止で

きたというものである。

これに対し,刊行物1発明は,「成型されたチーズカードの間に食品類をはさみ,

前記チーズカードを熟成させて結着させて一体化させ」るものであり,ポーション

カットするものではない。まして,刊行物1発明は,チーズカードの間に食品類を

はさんだ後に,熟成させてからポーションカットするものでもない。すなわち,上

記補正発明の効果は,刊行物1発明には存在しない。

よって,相違点2は,実質的な相違点である。

(3) 相違点1に基づく進歩性について

ア 審決は,「カビによる表面熟成軟質チーズを,食べやすさの点などを考

慮して,ポーションタイプとすることは,刊行物2〜4に記載のとおり,当業界に

おいては周知慣用の技術である。よって,刊行物1には,ポーションタイプとする

ことは積極的には記載ないし示唆されていないものの,当業者であれば,同様にし

て,製造された表面熟成軟質チーズをポーションタイプとしてみることは,容易に

想到し得たものと言わざるを得ない。」と判断した。

ポーションタイプのチーズとすることが刊行物2〜4に開示されている点は認め

る。しかし,審決の上記判断は,刊行物1発明の誤った認定に基づくものである。

刊行物1に開示された白カビチーズ製品をポーションタイプとすれば,内部の食

品類が露出し,食品類を内包した状態ではなくなるため,刊行物1発明の作用・効

果を奏することができない。よって,刊行物1に接した当業者であれば,風味物質

をチーズ内部に完全に内包させようとすることはあっても,これをわざわざ切断し,

風味物質を切断面に露出させようとは思わない。刊行物1には,刊行物1発明をポ

ーションタイプとすることについて積極的な阻害要因が存在する。

したがって,刊行物2〜4にポーションカットに関する技術が開示されていたと

しても,当業者は,刊行物1発明において熟成途中でポーションカットを行い,風

味物質を露出させることに容易に想到しえない。




イ また,刊行物1発明は,「食品類を内包させること」により,チーズを

加熱した際に,流動化したチーズや食品が切断面から流出したり漏れたりしないと

いう作用効果を奏する。

一方,補正発明は「風味物質をポーションカット前のチーズの一次熟成中のチー

ズカードに添加後,さらに熟成させた後にポーションカットし,切断面に密着包装

するように各ポーションを個包装し,二次熟成後に加熱殺菌処理を行い,前記風味

物質がポーションカットによる切断面に露出する」というもので,加熱する際には,

風味物質が白カビで覆われていない。

審決が認定するように,刊行物1発明において熟成途中でポーションカットを行

えば,「食品類を内包させること」により,チーズを加熱した際に,流動化したチ

ーズや食品が切断面から流出したり漏れたりしないという刊行物1発明の作用効果

を奏することができない。

この点からも,刊行物2〜4にポーションカットに関する技術が開示されていた

としても,当業者は,刊行物1発明において熟成途中でポーションカットを行い,

風味物質を露出させることに容易に想到しえない。

ウ 刊行物1発明は,「食品類を内包させること」により,「通常の白カビ

チーズと比べて,外観上全く見分けがつかない」,「加熱時に流動化したチーズが

切断面から流れ出たり,食品類が流出したり漏れたり」しないというものであり,

「はさまれた食品類は,白カビチーズ内部に完全に内包されるため,食品類自体ま

たはその香味成分が他のチーズ類へ移行することや,食品の流出が防止される」と

いうものである。

食品類がチーズ内部に完全に内包されることが,刊行物1発明の本質的部分であ

るといえる。したがって,食品類を内包することは,刊行物1発明の「本質的部分」

であるといえる。

この本質的部分を置き換えることは,当業者が容易に想到し得るものではない。

よって,刊行物2〜4にポーションカットに関する技術が開示されていたとしても,




当業者は,刊行物1発明において熟成途中でポーションカットを行い,風味物質を

露出させることに容易に想到しえない。

(4) 相違点2に基づく進歩性について

補正発明は,「風味物質をポーションカット前のチーズの一次熟成中のチーズカ

ードに添加後,さらに熟成させた後にポーションカット」することにより,「風味

物質がポーションカット面に露出していても熟成処理によって問題なく接合状態が

良好とな」り,「カードの合わせ目の接合を強くし,機械的に処理を行っても剥が

れ等を起こさないようにする」という効果を奏する。

風味物質をチーズカードに添加した後直ちにポーションカットするとチーズカー

ドが剥がれるといった問題が生ずる。補正発明は,風味物質をチーズカードに添加

した後,さらに熟成させて,その後にポーションカットすることで,チーズカード

の剥がれなどを防止できたというものである。

これに対し,刊行物1発明は,「成型されたチーズカードの間に食品類をはさみ,

前記チーズカードを熟成させて結着させて一体化させ」るものであり,ポーション

カットするものではない。まして,刊行物1発明は,チーズカードの間に食品類を

はさんだ後に,熟成させてからポーションカットするものでもない。

刊行物1発明は,食品類を内包させようとするものであるから,ポーションカッ

トを行うことについて動機付けはないし,チーズカードの間に食品類をはさんだ後,

ポーションカットする前に熟成を行うことについて動機付けは存在しない。

この点について,審決は,「そうすると,成形チーズカードを一時熟成する期間

中にまず風味物質を添加するためのカットを行い風味物質を添加してカードを合わ

せた後一時熟成期間をおくことで,風味物質が添加された部分の剥がれ等が発生せ

ず問題なく各工程を行うことができるとの補正発明の効果は刊行物1の記載事項か

ら」「当業者が予測し得たものである」と認定するが,誤っている。

刊行物2〜4には,ポーションカットに関する発明が開示されているが,「風味

物質をポーションカット前のチーズの一次熟成中のチーズカードに添加」する点は




開示も示唆もされていない。すると,「風味物質をポーションカット前のチーズの

一次熟成中のチーズカードに添加」した後にポーションカットを行うために,風味

物質をチーズカードに添加し,さらに熟成させ,その後にポーションカットを行う

ことで,チーズカードの剥がれなどを防止できる点は,これらの刊行物には開示も

示唆もされていない。

すなわち,刊行物2〜4には,補正発明の解決原理が何ら開示も示唆もされてい

ない。この点からも,当業者であれば,刊行物1発明に刊行物2〜4を組み合わせ

ることに想到し得ないし,仮に組み合わせたとしても補正発明には想到し得ない。

刊行物1には,「風味物質をポーションカット前のチーズの一次熟成中のチーズ

カードに添加」した際の技術的課題を解決するという技術的思想の前提がないから,

補正発明の「風味物質をポーションカット前のチーズの一次熟成中のチーズカード

に添加後,さらに熟成させた後にポーションカット」という発明特定事項を採用す

ることは,当業者の通常の創作能力の発揮として設計上当然行うことであるとはい

えない。

以上のとおり,相違点2のみをもってしても,補正発明は,刊行物1発明に刊行

物2〜4を組み合わせて当業者が容易に発明できたものではない。

(5) よって,補正発明は,刊行物1発明に刊行物2〜4を組み合わせて当業者

容易に発明できたものではない。



第4 被告の反論

1 取消事由1(刊行物1発明の認定誤り)に対して

(1) 刊行物1発明について

刊行物1(甲1)の段落【0002】〜【0005】,【0007】の記載を総

合すると,刊行物1に記載された発明が解決しようとする課題は,従来の,チーズ

全体に食品類を混合させたり,チーズ表面にチーズを付着させたりして食品類をチ

ーズに添加する方法では,食品類を内包した白カビチーズ製品を製造することは不




可能であったので,チーズ全体に食品類を混合させたり,チーズ表面にチーズを付

着させたりして食品類をチーズに添加する方法ではない方法で,チーズの間に種々

の食品類を内包した白カビチーズ製品及びその製造方法を提供することであるとい

える。そして,上記課題を解決するために,刊行物1に記載された発明は,成型し

たチーズカードの間に食品類をはさみ,熟成させることにより,チーズの結着が強

固で,型崩れや食品の漏れのない白カビチーズ製品が得られることを見出して完成

するに至ったものであって,課題を解決するための手段として「成型したチーズカ

ードの間に食品類をはさんだ後,前記チーズカードを結着するように熟成させて一

体化させることにより,食品類を白カビチーズに内包させること」とし,これによ

り「通常の白カビチーズと比べて,外観上全く見分けがつかない,加熱時に流動化

したチーズが切断面から流れ出たり,食品類が流出したり漏れたりすることのない

食品類を内包した白カビチーズ製品が得ることができる」との作用効果を有するも

のである。

この作用効果は,「成型したチーズカードの間に食品類をはさんだ後,前記チー

ズカードを結着するように熟成させて一体化させることにより,食品類を白カビチ

ーズに内包させること」との「課題を解決するための手段」によって得られた作用

効果であるといえる。

そうすると,「食品類を内包させること」との「課題を解決するための手段」の

一部の構成によって,チーズを加熱した際に,流動化したチーズや食品が切断面か

ら流出したり漏れたりしないという作用効果を奏する発明であるとする原告の主張

は失当である。

(2) 審決における刊行物1に開示された発明の認定について

原告は,審決は刊行物1発明が食品類を内包することにより,課題を解決でき,

作用効果を奏することができる発明であることを看過している旨,主張している。

しかし,審決は,刊行物1に記載された「課題」,「課題を解決するための手段」

及び「作用効果」を十分認識した上で,刊行物1の【特許請求の範囲】の【請求項




1】,段落【0008】等に基づいて刊行物1発明を認定したものであって,審決

における刊行物1発明の認定に誤りはない。

2 取消事由2(補正発明と刊行物1発明の相違点の認定誤り)に対して

審決においては,刊行物1発明と補正発明の一致点として「風味物質が添加され

たカビによる表面熟成軟質チーズ」であることを含んで認定し,また,補正発明で

は「風味物質がポーションカットによる切断面に露出」させて,「ポーションタイ

プ」としたものであるのに対し,刊行物1発明では,ポーションカットされずに食

品類を内包したものである点を相違点として含んで認定したものであるので,審決

における相違点の認定に誤りはない。

審決はまた,刊行物1発明と補正発明の一致点として「風味物質をチーズの一次

熟成中のチーズカードに添加後,さらに熟成させた後,包装し,二次熟成後に加熱

殺菌処理を行う」ことを含んで認定し,補正発明では「ポーションカットし,切断

面に密着包装するように各ポーションを個包装」するのに対し,刊行物1発明では,

ポーションカットせずに包装したものである点を相違点として含んで認定したもの

であって,審決における相違点の認定に誤りはない。

よって,原告が,その主張に係る相違点1と相違点2に分けて認定すべきとの点

は失当である。

3 取消事由3(補正発明の進歩性についての判断誤り)に対して

(1) 相違点について

ア 相違点1について

審決は,刊行物1発明と補正発明の一致点として「風味物質が添加されたカビに

よる表面熟成軟質チーズ」と認定した上で,補正発明では「風味物質がポーション

カットによる切断面に露出」させることによって,「ポーションタイプ」としたも

のであるのに対し,刊行物1発明では,ポーションカットせずに包装して食品類を

内包したものであり,これを相違点として含んで認定したものである。

審決の刊行物1発明の認定を前提とした,補正発明と刊行物1発明との相違点の




認定において,審決に誤りはなく,また,補正発明の進歩性の判断における結論も

誤りはない。

イ 相違点2について

審決は「風味物質をチーズの一次熟成中のチーズカードに添加後,さらに熟成さ

せた後,包装し,二次熟成後に加熱殺菌処理を行う」ことを刊行物1発明と補正発

明の一致点とし,補正発明では「ポーションカットし,切断面に密着包装するよう

に各ポーションを個包装」するのに対し,刊行物1発明では,ポーションカットせ

ずに包装したものである点を相違点として含んで認定したものであり,審決におけ

相違点の認定に誤りはない。

よって,審決の刊行物1発明の認定を前提とした,補正発明と刊行物1発明との

相違点の認定において,審決に誤りはなく,また,補正発明の進歩性の判断におけ

る結論も誤りはない。

(2) 進歩性の検討について

ア 相違点1に基づく進歩性について

(ア)阻害要因の存在について

刊行物1発明の「食品類を内包した白カビチーズ製品」は,「通常の白カビチー

ズと比べて,外観上全く見分けがつかない,加熱時に流動化したチーズが切断面か

ら流れ出たり,食品類が流出したり漏れたりすることのない食品類を内包した白カ

ビチーズ製品」であるといえる。

そして,チーズ製品一般において,一度に食べきれない大きさのチーズを一回に

食する程度の量に切り分けてポーションタイプとすることは,本件出願前の慣用技

術であり,カマンベールチーズやブリーチーズに代表される,表面が白カビで覆わ

れた軟質チーズである白カビチーズにおいても例外ではないことは,刊行物2(甲

2)〜4(甲4)に記載されたとおりであって,また,例えば刊行物3(甲3)の

段落【0002】の記載からすると,チーズ製品の製造分野における当業者が,通

常の白カビチーズがポーションタイプとされていることを鑑みて,刊行物1発明の




「食品類を内包した白カビチーズ製品」をポーションタイプのものにしようと試み

ることには,十分な動機付けがあるといえる。

そして,食品類が内包された白カビチーズをポーションカットすると,そのポー

ションカット面から食品類が露出することとなり「白カビチーズに食品を内包させ」

たものではなくなるため,刊行物1発明で得られた作用効果のうち「加熱時に流動

化したチーズが切断面から流れ出たり,食品類が流出したり漏れたりすることのな

い」との作用効果が得られなくなるとの問題が生じる可能性があるが,この点につ

いても,刊行物1発明の「食品類を内包した白カビチーズ製品」をポーションタイ

プにすることを試みる際に,刊行物1発明の「加熱時に流動化したチーズや食品類

が切断面から流出したり漏れたりすることない,型崩れや食品の漏れのない白カビ

チーズ製品を得る」との作用効果を得ることを考え,

(a)食品類をはさむために切断した切断面から加熱時に流動化したチーズや食品

類が流出したり漏れたりすることないこと,及び,

(b)ポーションタイプとするためにポーションカットをした切断面から加熱時に

流動化したチーズや食品類が流出したり漏れたりすることがないこと,

について試み,上記(a)については,刊行物1の記載から,「成型したチーズカ

ードの間に食品類をはさんだ後,前記チーズカードを結着するように熟成させて一

体化させることにより,食品類を白カビチーズに内包させること」との手段を採る

ことによって,また,上記(b)に対しては,刊行物2〜4の記載から,白カビチ

ーズの切断面に密着させて個包装を行うとの手段を採ることによって,チーズが食

品類と一体化されていれば,その漏れ出しが防止され得るといえ,そうすると,刊

行物1発明の「食品類を内包した白カビチーズ製品」をポーションタイプとして食

品類がポーションカットの切断面から露出することになっても,「加熱時に流動化

したチーズが切断面から流れ出たり,食品類が流出したり漏れたりする」との問題

を回避する手段を,刊行物1〜4に開示された技術的手段から当業者が容易に想到

し得た以上,刊行物1発明における「食品類を内包した」との構成は,食品類がポ




ーションカットの切断面から露出したポーションタイプとするに当たっての阻害事

由になるとまではいえない。

(イ)作用効果について

刊行物1の記載から,「成型したチーズカードの間に食品類をはさんだ後,前記

チーズカードを結着するように熟成させて一体化させることにより,食品類を白カ

ビチーズに内包させること」との手段を採ることによって,及び,刊行物2〜4の

記載から,白カビチーズの切断面に密着させて個包装を行うとの手段を採ることに

よって,食品類をはさむために切断した切断面からチーズや食品類が流出したり漏

れたりすること,及び,ポーションタイプとするためにポーションカットをした切

断面からチーズやチーズと一体化された食品類が流出したり漏れたりすること,が

防止され得るものであって,ポーションタイプのものとしても,これら手段を採る

ことによって,刊行物1発明の「加熱時に流動化したチーズや食品類が切断面から

流出したり漏れたりすることない,型崩れや食品の漏れのない白カビチーズ製品を

得る」との作用効果が奏するものが得られることを予測し得るものである。

よって,刊行物1発明の作用効果を奏することができないとの原告の上記主張は

失当である。

(ウ)本質部分の置き換え

刊行物1発明の「食品類を内包した白カビチーズ製品」をポーションタイプに切

り分けようとすることは,「成型したチーズカードの間に食品類をはさんだ後,前

記チーズカードを結着するように熟成させて一体化させることにより,食品類を白

カビチーズに内包させること」によって,「加熱時に流動化したチーズが切断面か

ら流れ出たり,食品類が流出したり漏れたりすることのない」ようにした後に行う

ものであり,「食品類を内包させること」に置き換えて食品類を露出させて白カビ

チーズに添加するものでもなく,よって,食品類を内包させるように白カビチーズ

に添加する点においては,置き換えはない。

そして,ポーションカットされることにより,そのポーションカット面から食品




類が露出することとなり「白カビチーズに食品を内包させ」たものではなくなるこ

とによって生じる可能性がある問題については,刊行物1の記載及び刊行物2〜4

を参照して,当業者が回避し得たものといえ,また,回避する手段により,刊行物

1発明の「加熱時に流動化したチーズや食品類が切断面から流出したり漏れたりす

ることない,型崩れや食品の漏れのない白カビチーズ製品を得る」との作用効果を

得ることが予想し得たものである。

そうすると,刊行物1発明の本質的部分である「食品類がチーズ内部に完全に内

包されること」を置き換えたものであって,食品類を露出させることは容易に想到

し得ないという原告の主張は失当である。

イ 相違点2に基づく進歩性について

(ア)ポーションカットする前に熟成を行うことについての動機付け

「ポーションカットを行うこと」については,チーズ製品一般において,一度に

食べきれない大きさのチーズを一回に食する程度の量に切り分けてポーションタイ

プとすることは,本件出願前の慣用技術であるし,また,表面が白カビで覆われて

いるものの内部は柔らかい軟質チーズである,カマンベールチーズやブリーチーズ

に代表される白カビチーズにおいても,喫食時における簡便さなどの観点から,一

回に食する程度の量に切り分けてポーションタイプとされるものであることは,刊

行物2〜4に記載されたとおりである。そして,刊行物1発明の「食品類を内包し

た白カビチーズ製品」が「通常の白カビチーズと比べて,外見上全く見分けがつか

ない」ものであれば,当然に,通常の白カビチーズと同じように,喫食時における

簡便さなどの観点から,一度に食べきれない大きさのものを一回に食する程度の量

に切り分けた,ポーションタイプにしたものが望まれるものであり,そうすると,

チーズ製品の製造分野における当業者が,通常の白カビチーズがポーションタイプ

とされていることを鑑みて,刊行物1発明の「食品類を内包した白カビチーズ製品」

をポーションタイプのものにしようと試みることには,十分な動機付けがあるとい

える。




さらに,「チーズカードの間に食品類をはさんだ後,ポーションカットする前に

熟成を行うこと」について,刊行物1発明の「食品類を内包する白カビチーズ製品」

をポーションカットするタイミングについては,「成型したチーズカードの間に食

品類をはさんだ後,前記チーズカードを結着するように熟成させて一体化させるこ

とにより,食品類を白カビチーズに内包させること」によって,「加熱時に流動化

したチーズが切断面から流れ出たり,食品類が流出したり漏れたりすることのない」

ようにした後であって,刊行物2〜4の記載から,白カビチーズの熟成途中の状態

で包装する前のタイミングといえる。

そうすると,刊行物1発明の「食品類を内包する白カビチーズ製品」について,

「食品類をはさむために切断した切断面から加熱時に流動化したチーズや食品類が

流出したり漏れたりすることがない」ようにするため,「成型したチーズカードの

間に食品類をはさんだ後,前記チーズカードを結着するように熟成させて一体化さ

せることにより,白カビチーズに食品類を内包させ」,その熟成の途中の状態の包

装する前のタイミングで,ポーションカットを行い,切断片の切断面に密着させて

個包装してポーションタイプとすることによって,「ポーションカットした切断面

からのチーズの流出およびチーズと一体化された食品類の流出や漏れがない」よう

にし,さらに熟成させて,熟成完了後に加熱殺菌することは,刊行物1の記載及び

刊行物2〜4を参照して当業者が容易に想到し得たことであり,よって,チーズカ

ードの間に食品類をはさんだ後,ポーションカットする前に熟成を行うことについ

ても,十分な動機付けがあるといえる。

(イ)技術的思想の前提について

チーズ製品一般において,一度に食べきれない大きさのチーズを一回に食する程

度の量に切り分けてポーションタイプとすることは本件出願前の慣用技術であり,

カマンベールチーズやブリーチーズなどの白カビチーズにおいても,例外ではない

ことは,刊行物2〜4に記載されたとおりである。そして,刊行物1発明の「食品

類を内包した白カビチーズ製品」についても,「通常の白カビチーズと比べて,外




見上全く見分けがつかない」ものであればなおさら,通常の白カビチーズと同様に,

一度に食べきれない大きさであれば,これを一回に食する程度の量に切り分けてポ

ーションタイプにすることを試みることは,チーズ製品の製造分野における当業者

の通常の創作能力の発揮にすぎない。

そして,刊行物1は,チーズの切断面からチーズや食品類が流出したり漏れたり

することなく,型崩れや食品の漏れのない白カビチーズ製品を得るとの技術的思想

を開示するものであり,刊行物1発明が,加熱時に流動化したチーズや食品類が切

断面から流出したり漏れたりすることない,型崩れや食品の漏れのない白カビチー

ズ製品であることから,型崩れや食品の漏れのない白カビチーズ製品を得ることを

考えて,ポーションタイプとするためにポーションカットした切断面からも,加熱

時に流動化したチーズや食品類が流出したり漏れたりすることがないものとしよう

とすることは,当然のことである。この刊行物1に記載の技術的思想の前提の下,

刊行物1発明と同じ類の軟質チーズである白カビチーズをポーションタイプにする

技術であって,ポーションカットした切断面に密着させて個包装を行うことで,チ

ーズの切断面からのチーズの溶け出しを防止する技術的思想が開示された刊行物2

〜4の記載を参照し,ここに開示されたポーションカットをした切断面から加熱時

に流動化したチーズが流出することがないようにした技術的手段を試みて,チーズ

カードの間に食品類をはさんだ後,ポーションカットする前に熟成を行い,ポーシ

ョンカットした後に,切断片の切断面に密着させて個包装してポーションタイプと

することは,当業者が当然になし得た創作能力の発揮といえる。



第5 当裁判所の判断

1 補正前発明ないし補正発明について

本願明細書(甲5)の記載によれば,風味物質を添加後ポーションカットし,そ

の後熟成してから加熱殺菌処理を行ってもポーションカット時やカット後の各ポー

ションの移送時,個包装時に特段の問題を起こさず,また加熱殺菌時に包材からの




チーズや風味物質の漏洩がなく,型くずれも起こさない,風味物質を添加したカビ

による表面熟成軟質チーズのポーションカット品を提供することが課題であるとこ

ろ(段落【0003】),第一に風味物質をどのような方法でチーズカード中に添

加した場合であっても,個包装後に熟成工程を行えば,ポーションカット後の包装

が問題なく行われている場合には,加熱殺菌処理時に,チーズ及び風味物質の包材

からの漏洩がなく,また,チーズ形状が変形する等の問題を起こすことなしに,風

味物質を添加したポーションカット品が得られることを見出し(段落【0006】 ,


第二に,チーズカードの一次熟成期間中に風味物質を添加する為のカットを行い,

風味物質を添加し,カードを合わせた後少なくとも1日間の一次熟成期間をおいた

後ポーションカットし,移送,個包装を行った場合,機械的な移送や包装を行った

場合であっても,風味物質が添加された部分の剥がれ等が発生せず問題なく各工程

が行われることを見出し(段落【0007】),補正前発明ないし補正発明が完成

したことを認めることができる。

2 取消事由1(刊行物1発明の認定誤り)について

刊行物1(甲1)には,実施例1に記載の工程によって製造したチーズは,外見

上は通常のカマンベールチーズと見分けのつかない白カビチーズであることが記載

されており(段落【0008】),また,当該方法により食品類をはさんだ白カビ

チーズは,切断及び食品類を添加していない以外は同様の方法で製造したカマンベ

ールチーズと同様に,チーズの漏れもなく,結着状態も良好であったのに対して,

切断面が見える程度にしかカビが生育していないチーズでは,切断面からのチーズ

の漏れがあったことが記載されている(段落【0009】)。そうしてみると,刊

行物1発明は,チーズの外周が白カビで覆われるまで熟成させたものということが

でき,また,食品類を内包させる点は,刊行物1に明記されている。原告はこの点

について審決に認定誤りがあると主張するが,理由がない。

3 取消事由2(補正発明と刊行物1発明の相違点の認定誤り)について

取消事由2における相違点認定の誤りは,上記取消事由1における刊行物1発明




の認定誤りを前提とする。取消事由1の主張に理由がない以上,取消事由2も理由

がない。

4 取消事由3(補正発明の進歩性についての判断誤り)について

(1) 原告は,刊行物1発明の解決課題は,外見上通常の白カビチーズと見分け

のつかない白カビチーズを得ることであるところ,補正発明のように食品類をポー

ションカットによる切断面に露出させると,刊行物1発明の解決課題を解決できな

くなるので,甲1には,刊行物1発明をポーションタイプとすることについての阻

害要因があると主張する。

一度に食べきることができないカマンベールチーズを,一回で食する量にポーシ

ョンカットし,各ポーションを個包装して市販することが,白カビチーズ製品の技

術分野の本件出願時における慣用技術であること自体は原告も争っていないとこ

ろ,食品類を内包した白カビチーズについての技術であって,一度に食べきれない

量の白カビチーズを開示する刊行物1に接した当業者であれば,その白カビチーズ

について,利便性を有する上記の慣用技術の適用可能性を検討するものである。す

なわち,食品類を内包した白カビチーズ製品という従来にはない技術が刊行物1に

おいて完成した後には,当該技術に接した当業者は,この技術の改良を試みるもの

であり,その際に,上記の慣用技術を用いて,刊行物1の白カビチーズ製品の改良

を目指すものということができる。原告の主張は,前記取消事由1で排斥した刊行

物1の認定誤りを前提とし,チーズの外観という刊行物1の記載に過度にとらわれ

る主張であるし,上記の当業者の認識にかんがみれば,当業者の通常の創作力を無

視したものであり,これを採用することはできない。

(2) 原告は,刊行物1発明は,食品類を内包させることにより,チーズを加熱

した際に,流動化したチーズや食品が切断面から流出したり漏れたりしないという

作用効果を奏するものであるところ,刊行物1発明において熟成途中でポーション

カットを行えば,上記作用効果を奏することができないので,たとえ,刊行物2〜

4にポーションカットに関する技術が開示されていたとしても,当業者は,刊行物




1発明において熟成途中でポーションカットを行い,風味物質を露出させることは

容易に想到しえないと主張する。

しかし,刊行物3(甲3)及び4(甲4)には,発酵途中のカマンベールチーズ

をポーションカットし,特定の包装材を使用して,包装材をチーズの切断面に密着

するようにして個包装し,さらに発酵を継続させた後に加熱殺菌することにより,

加熱殺菌時にチーズが切断面から漏れ出さないという技術が開示されていることが

認められる。刊行物1発明に対して,ポーションカット及び各ポーションの個包装

という慣用技術の適用可能性を検討する場合に,刊行物3及び4に示された技術を

採用することにより,熟成途中の白カビチーズをポーションカットした場合であっ

ても,加熱殺菌時にチーズが切断面から漏れ出さないようにすることが可能である

ことを当業者は予測できるというべきである。原告はこの点に関し種々主張するが,

上記説示に照らし,原告の主張は採用することができない。

なお,原告は,補正発明は,風味物質を一次熟成中のチーズカードに添加後,さ

らに熟成させた後にポーションカットすることにより,ポーションカットの際にチ

ーズカードが剥がれる事態を防止できるところ,このような作用効果は,刊行物1

〜4のいずれにも開示も示唆もされていないと主張するが,刊行物1(甲1)には,

「本発明における白カビチーズ製品の製造方法は,成型したチーズカードの間に食

品類をはさみ,熟成させることにより,チーズを結着成型させて一体化することか

らなる。」と記載されており(段落【0007】),刊行物1に接した当業者は,

一次熟成中のチーズカードに食品類を添加後,さらに熟成させることにより,食品

類添加後のチーズの結着・一体化が進行することを理解する。したがって,原告主

張の作用効果は,当業者であれば,刊行物1の記載より予測可能なものであり,原

告の主張を採用することはできない。

(3) 以上のとおり,取消事由3も理由がない。



第6 結論




以上によれば,原告主張の取消事由にはいずれも理由がない。よって,主文のと

おり判決する。



知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

塩 月 秀 平




裁判官

池 下 朗




裁判官

古 谷 健 二 郎