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事件 平成 24年 (行ケ) 10165号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/02/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年2月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成24年(行ケ)第10165号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年2月14日

判 決

原 告 大王製紙株式会社

同訴訟代理人弁理士 永 井 義 久

加 藤 和 孝

被 告 特 許 庁 長 官

同指定代理人 鈴 野 幹 夫

橋 三 成

筑 波 茂 樹

氏 原 康 宏

守 屋 友 宏

主 文

1 特許庁が不服2011−17364号事件について

平成24年3月22日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文1項と同旨

第2 事案の概要

本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を後記

2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,同請求は

成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のと

おり)には,後記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

1 特許庁における手続の経緯




(1) 原告は,発明の名称を「ティシュペーパー製品」とする発明について,平

成22年11月30日に特許出願(特願2010−266183号。平成22年7

月20日に出願された特願2010−163393号の分割出願。請求項の数4)

をしたが(甲6),平成23年6月14日付けの拒絶査定を受けた(甲11)。

(2) 原告は,同年8月10日,これに対する不服の審判を請求するとともに

(甲12),手続補正書を提出した(以下,同日付けの補正を「本件補正」という。

甲13)。

(3) 特許庁は,上記請求を不服2011−17364号事件として審理した上,

平成24年3月22日,本件補正を却下して,「本件審判の請求は,成り立たな

い。」との本件審決をし,その謄本は同年4月6日原告に送達された。

2 本件審決が対象とした特許請求の範囲の記載

(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載

本件補正前の特許請求の範囲請求項1の記載は,以下のとおりである(甲10)。

以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」という。なお,文中の「/」は,

「g/u」の部分を除き,原文の改行箇所を示す。

表面に薬液が塗布された2プライのティシュペーパーがポップアップ方式で折り

畳まれて略直方体の収納箱に収納されたティシュペーパー製品であって,/前記テ

ィシュペーパーは,薬剤含有量が両面で1.5〜5.0g/uであり,/2プライ

を構成するシートの1層あたりの坪量が10〜25g/uであり,/2プライの紙

厚が100〜140μmであり,/前記収納箱は,上面に,その長辺方向に平行に

開口を有する紙箱よりなり,前記開口は収納箱内面に貼付されたフィルムにより被

覆され,前記フィルムは前記開口に長辺方向に平行なスリットを有し,/前記フィ

ルム横方向と前記フィルム横方向と(判決注:「前記フィルム横方向と」は,重複

記載であり,誤記と認める。)ティシュペーパー表面のシート取出し方向との静摩

擦係数が0.20〜0.28である,ことを特徴とするティシュペーパー製品

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載




本件補正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,以下のとおりである(甲13)。

以下,請求項1に記載された発明を「本件補正発明」といい,本件補正後の明細書

(甲13)を「本願明細書」という。なお,文中の下線部は,補正箇所を示す。

表面に薬液が塗布された2プライのティシュペーパーがポップアップ方式で折り

畳まれて略直方体の収納箱に収納されたティシュペーパー製品であって,/前記テ

ィシュペーパーは,薬剤含有量が両面で1.5〜5.0g/uであり,/2プライ

を構成するシートの1層あたりの坪量が10〜25g/uであり,/2プライの紙

厚が100〜140μmであり,/前記収納箱は,上面に,その長辺方向に平行に

開口を有する紙箱よりなり,前記開口は収納箱内面に貼付されたフィルムにより被

覆され,前記フィルムは前記開口に長辺方向に平行なスリットを有し,/前記フィ

ルム横方向とティシュペーパー表面のシート取出し方向との静摩擦係数が0.20

〜0.28であり,/上層から1組目から5組目までの計5組,及び11組目から

15組目までの計5組の取り出し抵抗値が70gf以下である,ことを特徴とする

ティシュペーパー製品

3 本件審決の理由の要旨

(1) 本件審決の理由は,要するに,@本件補正発明は,後記引用例1ないし5

に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,特

許法29条2項の規定により,独立して特許を受けることができないから,本件補

正を却下すべきであり,A本願発明も,同様の理由で,当業者が容易に発明するこ

とができたものであるから,同項の規定により,特許を受けることができないとい

うものである。

ア 引用例1:特開2008−183127号公報(甲1)

イ 引用例2:特開2004−187930号公報(甲2)

ウ 引用例3:特開2005−113368号公報(甲3)

エ 引用例4:実願平4−81969号(実開平6−42753号)のCD−R

OM(甲4)




オ 引用例5:特開2006−182453号公報(甲5)

(2) 本件審決は,その判断の前提として,引用例1に記載された発明(以下

「引用発明」という。)並びに本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点を以

下のとおり認定した。

ア 引用発明:表面に薬液が塗布され印刷された2枚重ねのティシュペーパーが

ポップアップ方式で折り畳まれて略直方体のティシュペーパーカートンに収納され

たティシュペーパー製品であって,前記ティシュペーパーは,薬剤含有量が両面で

2.5〜3.5g/uであり,2枚重ねを構成するシートの1層当たりの坪量が1

5g/u〜18g/uであり,前記ティシュペーパーカートンは,上面に,その長

辺方向に平行に開口を有する箱よりなる,ティシュペーパー製品

イ 一致点:表面に薬液が塗布された2プライのティシュペーパーがポップアッ

プ方式で折り畳まれて略直方体の収納箱に収納されたティシュペーパー製品であっ

て,前記ティシュペーパーは,薬剤含有量が両面で2.5〜3.5g/uであり,

2プライを構成するシートの1層当たりの坪量が15g/u〜18g/uであり,

前記収納箱は,上面に,その長辺方向に平行に開口を有する紙箱よりなる,ティシ

ュペーパー製品

ウ 相違点1:本件補正発明は,2プライの紙厚が100〜140μmであるの

に対し,引用発明は,2プライの紙厚が不明な点

エ 相違点2:本件補正発明は,収納箱の開口が,収納箱内面に貼付されたフィ

ルムにより被覆され,前記フィルムは前記開口に長辺方向に平行なスリットを有し,

フィルム横方向とティシュペーパー表面のシート取出し方向との静摩擦係数が0.

20〜0.28であるのに対し,引用発明は,収納箱の開口が,収納箱内面に貼付

されたフィルムにより被覆され,前記フィルムは前記開口に長辺方向に平行なスリ

ットを有しているか否か不明であり,したがって,フィルム横方向とティシュペー

パー表面のシート取出し方向との静摩擦係数も不明な点

オ 相違点3:本件補正発明は,上層から1組目から5組目までの計5組,及び




11組目から15組目までの計5組の取出し抵抗値が70gf以下であるのに対し,

引用発明は,取出し抵抗値が不明な点

4 取消事由

1 本件補正を却下した判断の誤り(取消事由1)

(1) 相違点1に係る判断の誤り

(2) 相違点2に係る判断の誤り

(3) 相違点3に係る判断の誤り

2 手続違背(取消事由2)

第3 当事者の主張

1 取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 相違点1に係る判断の誤りについて

ア 引用例2には,その紙厚が具体的にどのような測定によるものであるかまで

記載がない。その従来技術(甲16)においては,「JIS P 8118」の測定

方法が用いられており,当該測定方法では加圧面間の圧力が「50kPa±5kP

a」又は「100kPa±10kPa」での測定値であり,「PEACOCK G

型」で測定する引用例3の測定時の荷重はおおむね8.74kPa(約70gf)

程度であり,そこには5倍以上も測定圧の差がある。

したがって,引用例2における紙厚と引用例3における紙厚の測定方法は全く異

なるものであり,これら引用例2及び3における紙厚の記載内容から,ティシュペ

ーパー製品において普通に採用されている紙厚の範囲を導き出すことはできない。

イ 本件審決が指摘する引用例3(【0023】)における紙厚は,基材紙のも

のであって,薬液を含有したティシュペーパーの紙厚ではない。

また,引用例3の薬剤含有量は,計算すると5.45g/uであって,本件補正

発明における1.5〜5.0g/uという範囲とは異なる。

本件補正発明は,紙厚を薄くして薬液塗布量が少なくても,従来の保湿ティシュ




以上の滑らかさを有するティシュペーパーとするものである。これに対して,引用

例3記載の発明は,肌に接触した時に柔らか感を向上させるために薬液塗布量を多

くして水分率を高めるものであり,本件補正発明と引用例3記載の発明とは,その

課題及び効果が異なる。

本件審決は,薬剤を含まない基材紙の紙厚や,他の構成と分離して抽出できない

引用例3記載の発明の従来例における紙厚に基づいて,薬剤が含有されたティシュ

ペーパー製品において普通に採用されている範囲の紙厚を100〜140μmと導

き出した上,引用発明における紙厚として組み合わせており,その判断には誤りが

ある。

ウ 紙厚と柔らかさ感との関係は,必ずしも薄ければ柔らかいというわけではな

く,薄くしても繊維密度が高くなる態様であれば,剛度が高くなりかえって硬くな

る。したがって,「薄いものは柔らかい感触が得られる」との認定は,薄ければ柔

らかいであろうとの想像に基づくものである。本件審決は,引用例2及び3から誤

った判断により導き出した2プライの紙厚100〜140μmを,単なる想像に基

づいて引用発明における紙厚として設定可能であると認定して組み合わせており,

その判断には誤りがある。

(2) 相違点2に係る判断の誤りについて

ア 引用例2(【0013】)においてティシュペーパーと板紙との静摩擦係数,

特にその上限値を定めるに当たって用いられている「取出し性」は,ティシュペー

パーが収納箱上面の内側面とが摺れた状態で取り出される際の取出しを意味するの

であって,収納箱上面の内側面に接することなくフィルムとティシュペーパーが摺

れて取り出される際の取出しを意図したものではない。

イ 本件補正発明において,ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数を設定

した意義は,本願明細書の記載から明らかなとおり,フィルムに設けられたスリッ

トから,ポップアップ式にスムーズにティシュペーパーを引き出すことができ,か

つ引き出したティシュペーパーがフィルムに設けたスリットに保持され内部に落ち




込まないような範囲を規定することである。本件審決は,引用例2の静摩擦係数を

定めるための取出しと,それを想定しないフィルムを介してのティシュペーパーの

取出しを共通のものと判断しており,誤りがある。

ウ 引用例2記載の発明におけるティシュペーパーと板紙との静摩擦係数の下限

値は,ティシュペーパーの加工適性に基づくものとされている(【0013】)。

しかし,本件補正発明におけるティシュペーパーにおける静摩擦係数の下限値を設

定した意義は,本願明細書に記載された課題,構成と効果との関係,構成の評価か

らして,主にフィルムに設けられたスリットにティシュペーパーが保持され内部に

落ち込まないという効果に着想を得たものであり,ティシュペーパーの加工適性と

は関係がない。そして,引用例2には,ティシュペーパーの加工適性とティシュペ

ーパーとフィルムとの静摩擦係数の関係を示すところはなく,引用例2からティシ

ュペーパーとフィルムとの静摩擦係数の適切な下限値を導き出すことはできない。

仮に,ティシュペーパーの加工適性の観点からティシュペーパーとフィルムとの

静摩擦係数の適切な下限値が導き出せるとしても,引用例2には,ティシュペーパ

ーの加工適性に基づく下限値とフィルムに設けられたスリットにティシュペーパー

が保持され内部に落ち込まないという効果との関係は示されておらず,本件補正発

明における静摩擦係数の具体的数値を導き出すことはできない。

(3) 相違点3に係る判断の誤りについて

ア 引用例5の取出し抵抗値は,最初から5組までの各組,特に最初の1組の数

値が100gf以下であるか否かを評価するものである。これに対し,本件補正発

明は,「上層から1組目から5組目までの計5組,及び11組目から15組目まで

の計5組の取り出し抵抗値が70gf以下である」ティシュぺーパー製品であるが,

これは最初期の1から5組目の取出し抵抗値が70gf以下,上面からある程度の

枚数が引き出された11から15組目の取出し抵抗値も70gf以下の製品という

ことであり,最初は取出し抵抗値が低く,その後に急激な抵抗値の変化がなく,極

めて緩やかに取出し抵抗値が低下する製品であることを意味している。よって,本




件補正発明は,引用例5の取出し抵抗値から容易に想到することはできない。

本件審決は,引用例5の取出し抵抗値と引用例4の取出し荷重値とを同義と判断

している一方,その引用例4の実施例における取出し荷重値が111gfであるこ

とも示しており,その判断には齟齬がある。

イ 本件審決は,引用例4の記載内容を認定しただけで,その発明の内容を認定

することもなく,また,本件補正発明の進歩性を否定し得る論理を示しておらず,

その論理には飛躍がある。

〔被告の主張〕

(1) 相違点1に係る判断の誤りについて

ア 原告の主張は,引用例2における紙厚と引用例3における紙厚の測定方法が

異なることを前提とするが,引用例2には,その紙厚の測定方法について特定され

ていないから,引用例2に記載された紙厚を,甲16に記載された「JIS P

8118」の条件下で測定されていると断ずることはできない。

イ 仮に,引用例2に記載された紙厚が,「JIS P 8118」の条件下によ

り測定されたものとしても,以下のとおり,原告の主張に理由はない。

「JIS P 8118」の測定圧力が,「JIS P 8111」の条件下の「P

EACOCK G型」による測定圧と比較して5倍以上の測定圧の差があるとすれ

ば,引用例2の「従来90〜105μm」とされる紙厚は,「JIS P 811

1」の条件下の「PEACOCK G型」で測定すると,その測定圧が1/5以下

と小さくなり,紙厚は上記の値よりも大きくなって,本件補正発明の「100〜1

40μm」にはむしろ近づくものと推察される。

そもそも,測定圧力の違いにより厚さがどの程度変化するかは,測定対象物の硬

さ等にもよるから,測定圧力が違っていても測定対象物の硬さ等が特定されないテ

ィシュペーパーでどの程度の紙厚差が生じるのかは一義的に定まるものではない。

したがって,「JIS P 8111」の条件下の「PEACOCK G型」を用い

た場合と「JIS P 8118」の条件下で測定した場合に紙厚が大きく変わるか




のような原告の主張は,根拠のないものである。

本願明細書に記載された紙厚の測定方法は,「JIS P 8111」の条件下で

「PEACOCK G型」を用いたものであるが,ティシュペーパーの紙厚は,工

業標準化法によって制定される鉱工業品に関する国の規格であるJISにおいて

「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」として定められている「JIS P 81

18」の条件下で測定されるのが通常である。

そして,引用例3の紙厚測定方法は本願明細書のものと同じであるから,引用例

2の紙厚測定方法による紙厚と引用例3の紙厚測定方法による紙厚との間に大きな

差はないものと認められる。さらに,引用例3には,本願明細書に開示された測定

方法と同様に「JIS P 8111」の条件下において「PEACOCK G型」

を用いて紙厚を測定することが開示されている。

ウ 基材紙が薬液を含有した際に,紙厚は余り変わらない。また,本件補正発明

と引用例3の薬剤含有量はほとんど同じであって,薬剤含有量の違いに技術的な意

味はない。さらに,本件補正発明と引用例3は,課題及び効果が異なるとはいえな

い。

そして,ティシュペーパーに良好な柔らかさ感や肌触り感を求めることは,周知

の技術課題である。また,少なくとも紙厚が柔らかさ感や肌触り感に影響する要素

となることは当業者の技術常識であるから,引用例2及び3に開示された紙厚も,

当然,柔らかさ感や肌触り感を考慮して設定されたものである。

そして,引用発明も,ティシュペーパーに良好な肌触り感や柔らかさ感が求めら

れているところ,本件審決は,そのような技術課題をも踏まえて相違点1の容易想

到性について判断したものであり,その判断に誤りはない。

エ 紙を薄くすれば繊維の数が減ったり繊維が細くなるのであって,材質や密度

を変えなければ,紙が薄くなることにより柔らかくなることは技術常識であり,原

告の主張は,前提において誤っている。

(2) 相違点2に係る判断の誤りについて




ア 本願明細書の表1によれば,実施例1ないし7では,収納箱内上面の約58

%にフィルムが貼られており,窓フィルムとウェブの間隙は0〜3oであって空間

はほとんどなく,フィルムは一般的に収納箱の上面裏側中央部に貼着されているか

ら,使用開始時に最もフィルムとティシュペーパー間に摩擦力が生じる。

イ そして,本願明細書の記載及び実施例1,2からみて,本件補正発明のフィ

ルムとティシュペーパーの静摩擦係数上限は,「収納箱上面の内側面に接すること

なくフィルムとティシュペーパーが摺れて取り出される際の取出し」に関するもの

ということはできない。

本願明細書の記載によれば,本件補正発明は,保湿ティシュにおいて,@ティシ

ュペーパーが取出し口に保持されにくく,収納箱内に落ち込み,ポップアップしづ

らくなる,という問題,及び一方で,Aティシュペーパーを取出し口に保持するた

めに,取出し口を小さくする,取出し口に配されるフィルムの剛性を高める等の措

置を講じた場合,ティシュペーパーの取出し時に破れやすい,という問題に鑑み,

ティシュペーパー収納時において,その取り出しやすさ,ポップアップのしやすさ

を保持しつつ,かつ,取り出す際に破れにくくなるよう構成された収納箱を使用し

たティシュペーパー製品を提供することを解決課題とするものである。

そして,上記@の問題は,フィルムの縦方向の剛軟度を0.8〜1.4gf/1

0oに設定することで解消し得ることが明らかであるところ,フィルムの縦方向の

剛軟度を1.4gf/10oより高くすると,ティシュペーパーの取出し時に破れ

やすくなり,また,0.8gf/10oより低くすると取出し口にティシュペーパ

ーを保持しづらくなることも指摘されている。ただし,本件補正発明は,上記剛軟

度について特定していない。

一方,本件補正発明は,「静摩擦係数が0.20〜0.28」と特定するところ,

上記の数値範囲に特定することは,取出し時のティシュペーパーの滑りを良くして

抵抗を抑えるためと解される。

以上によれば,本件補正発明は,上記@の問題を,取出し口に配されるフィルム




の剛性を高める措置を講じることで解消することを前提とするものであって,フィ

ルムの剛性の高さに起因して生じた上記Aの問題を,静摩擦係数を適切な範囲に設

定することにより解消したものということができる。

そして,引用例2には,ティシュペーパーの取出し性を良好にするため,すなわ

ち,ティシュペーパーを破れることなく良好に取り出すために,ティシュペーパー

と収納箱上面の内側面との静摩擦係数を「0.4〜0.5」の範囲に設定すること

が記載されており,上記摩擦係数を設定することは,少なくとも,ティシュペーパ

ーを,破れることなく良好に取り出すという技術的意義を有することが明らかであ

る。したがって,本件補正発明の静摩擦係数を設定することの意義と共通したもの

といえる。

ウ 本願明細書の表2によれば,静摩擦係数と使用途中の落ち込みとの関係は明

らかでなく,さらに,0.20を下限値とする根拠はなく,出願人が感覚的に設定

したものである。仮に,静摩擦係数の設定により,引き出したティシュペーパーが

フィルムに設けたスリットに保持され内部に落ち込まないような範囲を規定したと

解し得ても,引用例2は取出し性を考慮している以上,当然に使用途中の落ち込み

についても考慮していると解されることから,落ち込みの防止を含めた取出し性を

考慮して,静摩擦係数を設定する点については引用例2に記載されていたものであ

る。

(3) 相違点3に係る判断の誤りについて

ア 本件補正発明の取出し抵抗値に下限値は特定されておらず,原告の主張は根

拠がない。取出し枚数が多くなることで収納箱とウエブの隙間が大きくなることは

明らかであり,取出し抵抗値は一般的に最初期が最も高いから,本件補正発明の取

出し抵抗値に関する記載は,最も高い最初期でも70gf以下であることを示して

いるにすぎない。

また,測定方法は単に抵抗値を測定しているだけであって,当該抵抗値に変わり

がなければ,ティシュペーパー取出し口がフィルムのスリットであろうと,紙箱の




開口であろうと,片手で無理なくティシュペーパーを取り出すことができる取出し

抵抗値に違いはないものである。

引用例4及び5並びに本件補正発明の取出し抵抗値(取出し荷重値)は取り出す

際の力であって,その単位もgfであるところ,格別に相違するものではない。

イ 本願明細書に記載されているように,破れと取り出しにくさ,取り出しやす

さは同等に扱われるものである。

以上のことから,引用例4及び5には,取出し抵抗と破れや無理なく取り出せる

こととの関係について記載ないし示唆されていることは明らかであり,本件審決の

相違点3に係る判断に誤りはない。なお,取出し抵抗値が70gf以下であるとい

う本件補正発明の構成についても,格別に意味がある数値ではない。

2 取消事由2(手続違背)について

〔原告の主張〕

(1) 本件審決は,拒絶査定の理由の根拠として示されていない引用例4及び5

に基づいて論理構成されており,その引用例4及び5に対する適切な意見書提出の

機会が与えられていない。

審尋に対する回答書では,十分な意見,反論を述べる機会が付与されていない。

さらに,本件では別件の関連出願の審査において特許性があると心証を開示してい

た構成に限定したにもかかわらず,その限定事項に対して新たな引用例4及び5に

よって進歩性を否定するとともに,それに対する意見書提出の機会を設けていない

のであり,特許出願審査手続の適正を貫くための基本的な理念が欠けており,適正

手続違反がある。

本件審決では,付言において,提示した補正案と引用例4との対比判断を一応示

してはいるものの,引用例4における取出し抵抗値の意義が理解できないことは前

記1のとおりであり,その判断はおよそ適切なものとは認め難い。

(2) また,前置審査報告書には,拒絶理由が発見されない請求項として請求項

4が示されていたのであるから,審判において拒絶理由通知が発せられないことに




より,請求項4へ限定する補正の機会も与えられていない。

〔被告の主張〕

(1) 特許法159条1項,2項は,同法53条1項及び50条ただし書の規定

を同法17条の2第1項4号の場合も含むように読み替えた上で準用しており,特

許法上は,拒絶査定の理由とは異なる理由であっても,審判請求時の補正により減

縮された発明が独立特許要件を欠くのであれば,審判請求人に新たな拒絶の理由を

通知することなく当該補正の却下の決定をすることを許容している。

引用例4及び5は,本件補正により特許請求の範囲減縮されたことに対応して,

新たに示すことになった証拠であるが,本件審決は,引用例4及び5を考慮するこ

とにより,本件補正発明が独立特許要件を欠くと判断して,審判請求人である原告

らに拒絶の理由を通知することなく本件補正を却下したものであり,本件審判手続

に違法性はない。

(2) 引用例4及び5は,相違点3に係る本件補正発明の構成についての検討で

用いられたものである。本件補正前に相違点3に係る本件補正発明の構成はなく,

本件補正により請求項1に付加された構成であって,本件補正は,特許法17条

2第5項2号の特許請求の範囲減縮を目的とした補正事項を含むものである。

そこで,本件審決は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条

項に規定する要件を満たしているかについて検討を行い,本件補正を同法159条

1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下したものである。

すなわち,原告は,拒絶査定を受けた結果,初めて相違点3に係る本件補正発明

を構成として減縮したものである。原告は,当該下限の設定によって,最初期の1

から5組の取出し抵抗値が低く,その後に急激な抵抗値の変化なく,極めて緩やか

に取出し抵抗値が低下する製品であることを意味する旨を主張するかもしれないが,

本願明細書には「より好適には50〜70gfとするのが望ましい」と記載してい

るのみであって,上記の意味があるとは認められないし,その根拠もない。

(3) 以上のとおり,本件審判手続において引用例4及び5を含んだ新たな拒絶




理由通知をしないまま本件審決に至った経緯は,特許法の規定に沿ったものであり,

原告に対して不当なものではない。

第4 当裁判所の判断

1 本件補正発明について

(1) 本件補正発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2(2)のとおりであり,

本願明細書(甲13)には,おおむね以下の記載がある。

ア 技術分野

本発明は,ティシュペーパー製品に関するものである(【0001】)。

イ 背景技術

ボックスティシュ製品としては,箱の製造コストや輸送コストの削減の観点より,

高さを減じ,コンパクト化した収納箱(高さ50〜65o程度)を使用するのが主

流となっている。コンパクト化した収納箱を使用する場合,通常,内部に収納され

るティシュペーパーは圧縮されており,圧縮に伴う最上層のティシュペーパーの取

り出しにくさを解消するため,収納箱上面の取出し口は箱上面の長辺方向に対して

長めに設計されている。しかし,保湿ティシュにおいては,その滑り性の高さから,

ティシュペーパーが取出し口に保持されにくく,収納箱内に落ち込み,ポップアッ

プしづらくなる,という問題が生じ得る。一方で,ティシュペーパーを取出し口に

保持するために,取出し口を小さくする,取出し口に配されるフィルムの剛性を高

める等の措置を講じた場合,ティシュペーパーの取出し時に破れやすい,という問

題が生じ得る(【0006】)。

ウ 発明が解決しようとする課題

本発明の第1の課題は,従来の保湿ティシュペーパーと同等以上の滑らかさ及び

しっとり感を有し,かつ,使用時のベタつき感と破れやすさとを軽減したティシュ

ペーパーを提供することである。本発明の第2の課題は,上記のティシュペーパー

収納時において,その取り出しやすさ,ポップアップのしやすさを保持しつつ,か

つ,取り出す際に破れにくくなるよう構成された収納箱を使用した,ティシュペー




パー製品を提供することである(【0008】)。

エ 効果

2プライのティシュペーパーを構成するシートに規定量の水分を含む薬液を塗布

して浸透させることにより,シートのクレープ構造が伸長し,表面の滑らかなティ

シュペーパーが形成される。また,伸長により紙厚が低くなるとともに繊維密度が

高くなるため,繊維間強度が増加し,CD方向の引張強度の高いティシュペーパー

とすることができる。従来の保湿ティシュが厚みのある基紙にローション薬液を塗

布し,ティシュ表面に皮膜を作り滑らかさを使用者に与えているのに対し,本発明

は厚みと薬液塗布量を抑え,クレープ構造を伸長させて表面を滑らかにするもので,

これにより従来の保湿ティシュ以上の滑らかさを与えるものである。つまり,ティ

シュ表面のローション薬液の皮膜を滑らかさを感じさせる最小限の量としてベタつ

き感を軽減したものである。そのため,乾燥状態における薬剤含有量が従来のロー

ションタイプのティシュペーパーよりも低く,使用時のベタつき感が生じにくいに

も関わらず,その効果を奏するのに充分な量の薬剤が含有されていることから,充

分なしっとり感,保湿性を保有する。さらには,紙厚が薄いことにより,薬剤含有

量に比して柔らかい使用感を有する(【0013】)。

マルチスタンド式インターフォルダの使用により,製造の高速化を行うことがで

きる。マルチスタンド式インターフォルダを使用する場合,製造されるティシュペ

ーパー製品は,需要者がティシュペーパーをCD方向に引き出す形態となる。しか

し,従来の保湿ティシュは,非保湿ティシュに比して紙力,特にCD方向の引張強

度が高くないことから,マルチスタンド式インターフォルダにより製造された製品

においては,引出し時に破れやすくなる,という問題が想定される(【001

4】)。

本発明におけるティシュペーパー製品においては,上記のようにティシュペーパ

ーをCD方向の引張強度が強く,かつ静摩擦係数の小さいものとするとともに,テ

ィシュペーパーの収納箱として,取出し口周辺のフィルムに柔軟なものを使用し,




取出し口の大きさを規定したものを使用している。これにより,ティシュペーパー

をCD方向に引っ張って取り出しても破れにくく,かつ,最上層が取出し口から箱

内部に落ち込みにくい構成とした。保湿ティシュペーパーについてマルチスタンド

式インターフォルダで折り加工を行う場合,水分を含む連続シートにMD方向に比

較的高い引張力をかけ,かつ厚み方向に圧力をかけながら加工するため,従来のロ

ータリー式インターフォルダ使用時と比して,ウェブ嵩を低く抑えることができる。

この効果により,非保湿ティシュペーパー製品に多用されるコンパクト型収納箱に

も収納可能となる(【0015】)。

以上のように,本発明は,従来の保湿ティシュと同等以上にしっとりと滑らかな

風合いを有するとともに,従来の保湿ティシュよりもベタつき感がなく,かつCD

方向の引張強度の高いティシュペーパーを提供するものである。また,ティシュペ

ーパーを収納箱からCD方向に引っ張って取り出すことが可能であることから,マ

ルチスタンド式インターフォルダを用いて高速で製造することが可能な薬液塗布テ

ィシュペーパー製品を提供する。さらに,コンパクト型収納箱に収納された薬液塗

布ティシュペーパー製品を提供するものである(【0016】)。

オ 発明を実施するための形態

(ア) 米坪

本発明に係るティシュペーパーのシート1層当たりの米坪は,米坪は10〜25

g/u,より好ましくは11〜16g/uとすることが好ましい。米坪が10g/

u未満では,柔らかさの向上の観点からは好ましいものの,使用に耐え得る十分な

強度を適正に確保することが困難となる。逆に米坪が25g/uを超えると紙全体

が硬くなるとともに,ゴワ付き感が生じてしまい肌触りが悪くなる。なお,米坪は,

「JIS P 8124」(1998)の米坪測定方法による(【0023】)。

(イ) 薬液

本発明のティシュペーパーは,薬剤を両面合わせて1.5〜5.0g/u,より

好ましくは3.0〜5.0g/u含有する。薬剤含有量が1.5g/u未満であれ




ば薬剤の効果が発揮されず,また,5.0g/uを超えるとティシュペーパーにベ

タつき感が生じ,また,乾燥引張強度が低下する(【0025】)。

(ウ) 紙厚

本発明に係るティシュペーパーの紙厚は,2プライの状態で100〜140μm,

より好ましくは120〜140μmとする。紙厚が100μm未満では,柔らかさ

の向上の観点からは好ましいものの,ティシュペーパーとしての強度を適正に確保

することが困難となる。また,140μm超では,ティシュペーパーの肌触りが悪

化するとともに,使用時にゴワツキ感が生じるようになる(【0036】)。

紙厚の測定方法としては,試験片を「JIS P 8111」(1998)の条件

下で十分に調湿した後,同条件下でダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「P

EACOCK G型」(尾崎製作所製)を用いて2プライの状態で測定するものと

する。具体的には,プランジャーと測定台の間にゴミ,チリ等がないことを確認し

てプランジャーを測定台の上におろし,前記ダイヤルシックネスゲージのメモリを

移動させてゼロ点を合わせ,次いで,プランジャーを上げて試料を試験台の上にお

き,プランジャーをゆっくりと下ろしそのときのゲージを読み取る。このとき,プ

ランジャーをのせるだけとする。プランジャーの端子は金属製で直径10oの円形

の平面が紙平面に対し垂直に当たるようにし,この紙厚測定時の荷重は,約70g

fである。なお,紙厚は測定を10回行って得られる平均値とする(【003

7】)。

(エ) フィルム−ティシュペーパー間の静摩擦係数

取出し時のティシュペーパーの滑りを良くして抵抗を抑えるため,フィルム横方

向−ティシュペーパー(取出し方向)間の静摩擦係数は0.20〜0.30,より

好適には0.23〜0.28とする。フィルム横方向とはフィルム縦方向とフィル

ム平面上で垂直な方向を意味する。フィルム−ティシュペーパー間の静摩擦係数は,

以下の方法で測定した。フィルムを収納箱内側の面が外側に来るように,斜面方向

がフィルム横方向になるようにアクリル板に貼り付ける。2プライのまま100g




の分銅にティシュペーパーを巻きつけ,斜面方向がティシュ取出し方向になるよう

にアクリル板上のフィルムに乗せる。アクリル板を傾け,おもりが滑り落ちる角度

を測定する。角度測定は10回実施し,平均角度を算出し,そのタンジェント値を

静摩擦係数とした(【0060】)。

(オ) ティシュペーパーの取出し抵抗

ティシュペーパーの取出し時にかかる抵抗を一定範囲に規定することで,取出し

時の破れを最低限に減じることができる。ティシュペーパーの取出し抵抗は,以下

の方法で測定する。プッシュブルゲージのゲージ先端にティシュペーパーの中央先

端部を固定し,下面を固定した収納箱よりティシュペーパーを,0.4〜0.6秒

の時間をかけ一定速度で垂直に取り出して,その最大抵抗値を測定した。取り出す

ティシュペーパーは最上層から1組目から5組目までの計5組,及び11組目から

15組目までの計5組とし,上記プッシュブルゲージにおける測定値を平均して,

取出し抵抗値とした。取出し抵抗は70gf以下,より好適には50〜70gfと

するのが望ましい(【0061】)。

マルチスタンド式インターフォルダで得られた積層帯は,後段の切断手段におい

て流れ方向に所定の間隔をおいて裁断(切断)されてティシュペーパー束とされ,

このティシュペーパー束は,更に後段設備において収納箱に収納される。マルチス

タンド式インターフォルダでは,積層帯の紙の方向は,流れ方向に沿って縦方向

(MD方向)となっており,流れ方向と直交する方向に沿って横方向(CD方向)

となっている。このため,積層帯を所定の長さに切断して得られたティシュペーパ

ー束を構成するティシュペーパーの紙の方向は,ティシュペーパーの折り畳み方向

に沿って横方向(CD方向)となり,ティシュペーパーの折り畳み方向と直交する

方向に沿って縦方向(MD方向)となる(【0079】)。

カ 表1,表2

表1及び表2には,本願発明に係る実施例1ないし7及び比較例1ないし4につ

いて,@「箱高さ」,A「ウェブ嵩」,B「窓フィルムとウェブの間隙」及びC




「窓フィルム(CD方向)とティシュシート(取出し方向)の静摩擦係数」の評価

結果が示されている。その結果は,実施例1は,@50o,A50o,B0o,C

0.22,実施例2は,@55o,A55o,B0o,C0.25,実施例3は,

@62o,A61o,B1o,C0.26,実施例4は,@62o,A61o,B

1o,C0.27,実施例5は,@65o,A63o,B2o,C0.24,実施

例6は,@65o,A64o,B1o,C0.26,実施例7は,@80o,A7

7o,B3o,C0.23である。また,比較例1は,@62o,A62o,B0

o,C0.36,比較例2は,@90o,A87o,B3o,C0.32,比較例

3は,@90o,A75o,B15o,C0.29,比較例4は,@93o,A8

3o,B10o,C0.30である。

また,2プライの紙厚(ピーコック)は,実施例1ないし7は128ないし14

1μmであり,比較例1ないし4は,140ないし159μmである。

(2) 以上の記載事項によれば,本件補正発明は,表面に薬液が塗布された2プ

ライのティシュペーパーがポップアップ式で折り畳まれて略直方体の収納箱に収納

され,当該収納箱の上面に設けられた開口が収納箱内面に貼付されたスリット付き

のフィルムによって被覆されたティシュペーパー製品において,ティシュペーパー

の薬剤含有量と,2プライを構成するシートの1層当たりの坪量と,2プライの紙

厚と,フィルム横方向とティシュペーパー表面のシート取出し方向との静摩擦係数

と,所定組のティシュペーパーの取出し抵抗値とを数値限定したものであり,これ

によって,収納されたティシュペーパーの取り出しやすさ,ポップアップのしやす

さを保持しつつ,取り出す際に破れにくくするという作用効果を奏するものである

と認められる。

2 引用例1ないし3に記載された発明

(1) 引用例1に記載された発明(引用発明)は,前記第2の3(2)のとおりであ

り,引用例1には,おおむね以下の記載がある(甲1)。

ア 技術分野




本発明は,印刷が施され,かつ保湿剤を含有する保湿ティシュペーパーとその製

造方法に関するものである(【0001】)。

イ 発明が解決しようとする課題

本発明の課題は,趣向性が高く,高級感のある保湿ティシュペーパーを提供する

ことにある(【0005】)。

ウ 発明を実施するための最良の形態

図1に本発明の印刷された保湿ティシュペーパーの一例を示す。ティシュペーパ

ーは2枚重ねでもよいし,3枚以上重ねてもよい。使用するティシュペーパーは,

保湿剤により水分を含んでも十分な強度を持つように,通常のティシュペーパーが

11g/u程度であるのに対して,保湿ティシュペーパーは,それよりも坪量を高

め,好ましくは,15g/u〜18g/uがよい。例えば,16.5g/uとする

ことにより強度も保ちつつ肌触りがさらに良好な保湿ティシュペーパーとなる

(【0014】〜【0016】)。

保湿剤は,ティシュペーパー100質量部に対して7.6〜10.6質量部含有

するようにティシュペーパーに含まれている。すなわち2枚重ねのティシュペーパ

ー16.5g/uに対して保湿剤を2.5〜3.5g/u塗布している。この範囲

で保湿剤を塗布すれば,ティシュペーパーが水分を含み,強度が落ちても破れるこ

とはない(【0026】)。

図3に,本発明の保湿ティシュペーパーをティシュペーパーカートンに充填し,

使用している状態の図を示す。保湿ティシュペーパーがティシュペーパーカートン

からティシュペーパーの2枚重ねを1組として,1組ずつ取り出せる(【003

8】)。

また,図3には,ティシュペーパーは,略直方体の箱であるティシュペーパーカ

ートンに収納され,前記ティシュペーパーカートンは,上面に,その長辺方向に平

行に開口を有する箱であること,ティシュペーパーは,ティシュペーパーカートン

上面の開口から取り出されることが記載されている。なお,図3の状態において,




ティシュペーパーがポップアップ方式で折り畳まれてティシュペーパーカートンに

収納されていることは技術常識である。

(2) 引用例2に記載された発明

引用例2には,おおむね以下の記載がある(甲2)。

ア 発明の属する利用分野

本発明は,収納箱に収納したティシュペーパー製品であるいわゆるボックスフェ

イシャル用ティシュペーパーに関するものである。さらに詳しくは,本発明は,柔

らかくて手触り感に優れ,収納箱からの取出し性に優れたティシュペーパーに関す

るものである(【0001】)。

イ 従来の技術

従来から,ティシュペーパーは,2枚1組として1回折っていわゆるポップアッ

プ方式で折り畳んだ束が収納箱に収納されている。そして,収納箱には,その上面

に取出し口が形成され,さらに,一般に,取出し口の内側がスリットを有するフィ

ルムで覆われており,ティシュペーパーはスリットを通して順次取り出せるように

なっている。このようなティシュペーパーは,柔らかく,手触り感が良く,伸縮性

があり,吸収性に優れ,さらに取り出す時に破断することのない十分な強度が要求

されている(【0002】)。

また,近年,消費者が持ち運びやすく,収納スペースが少なくて済み,さらに流

通業者の利便性が向上する等の理由により,高さ50o程度と低いものが多くなっ

ている(特許文献)。それに伴い,これらのコンパクト化製品は,一般的には,収

納箱上部に形成されていた空間がほとんどなくなり,初期の取出し時に,収納箱の

上面板の内側面とティシュペーパーとの摩擦力が大きくなり,時として,取出し時

に破れやすい状況が生じている。また,ティシュペーパーも2枚重ねの厚さが,従

来90〜105μmであったものが,75μm程度に薄くなっており,坪量も減ら

したものが多くなっている。そのため,テッシュペーパーの強度は低下しがちであ

り,従来品以上の強度アップは容易でなく,この点も,取出し時にテッシュペーパ




ーを破れやすくする要因と考えられる(【0003】)。

一般に,ティシュペーパーは,1箱当たり2枚1組で200組(すなわち400

枚)の束を圧縮した状態で収納箱に収納されており,保存中に弾性復元力によりテ

ィシュペーパーが膨らみ,収納箱を押し上げる傾向にあり,上記の方法では時とし

てティシュペーパーの取出し性が十分でない場合があった(【0004】)。

ウ 発明が解決しようとする課題

本発明は,上記従来のティシュペーパー製品の有する問題点を克服するため,テ

ィシュペーパーと収納箱上面との適正な摩擦係数に関して明らかにすると共に,収

納箱からの取出し性が良好で,柔らかく,手触り感が良いティシュペーパーを提供

するものである(【0006】)。

エ 発明の実施の形態

本発明のティシュペーパー製品は,2枚1組としてポップアップ方式で折り畳ん

だ複数枚のティシュペーパーの束を収納箱に収納したものであり,ティシュペーパ

ーは,セルロースパルプを主原料としてなり,さらに収納箱を形成する板紙との

「JIS K 7125」で規定する静摩擦係数が0.4〜0.5であり,かつ動摩

擦係数が0.35〜0.45である。このような特性を有するティシュペーパー製

品は,これを収納箱から取り出す場合,特に,収納箱の高さが低い場合でも,取出

し初めに破れることがなく良好に取り出すことができる。静摩擦係数及び動摩擦係

数が各々0.5及び0.45を超えて大きくなると,ティシュペーパーの取出し性

が悪くなり,ティシュペーパーが破れやすくなる。一方,静摩擦係数が0.4未満

及び動摩擦係数が0.35未満になると,ティシュペーパーが滑りやすくなり,折

り畳み工程,断裁工程などでティシュペーパーが滑り,蛇行等の走行性不良を起こ

しやすくなり,加工適正が悪くなる(【0013】)。

オ 発明の効果

本発明のティシュペーパー製品は,ティシュペーパーと収納箱を形成する板紙と

の間に特定の静摩擦係数と動摩擦係数を有するものであり,収納箱の高さ寸法を低




くし,ティシュペーパー1枚当たりの箱高さ寸法を低くしたいわゆるコンパクト化

製品とした場合でも,収納箱からの取出し性に優れ,さらに,柔らかく,手触り感

のよいものである(【0045】)。

カ 表1

表1には,実施例等に関するティシュペーパーと収納箱を形成する白板紙との静

摩擦係数の評価結果が示されている。実施例1は0.46,実施例2は0.43,

実施例3は0.49,実施例4は0.41,比較例1は0.54,比較例2は0.

37となっている。

(3) 引用例3に記載された発明

引用例3には,おおむね以下の記載がある(甲3)。

ア 技術分野

本発明はティシュペーパー等の衛生用紙に関する(【0001】)。

イ 背景技術

近時,柔軟剤等の薬液を含有させることにより肌触りを柔らかくした,いわゆる

高級タイプのティシュペーパーが市販され,繰り返し鼻をかんでも肌がヒリヒリし

難い,又は鼻が赤くなり難いとして人気を呼んでいる。しかしながら,従来の薬液

含有衛生用紙では,肌のヒリヒリ感や肌が赤くなるのを防止する効果が十分でなか

った。すなわち,本発明者らが鋭意研究したところ,従来の薬液含有衛生用紙は,

肌の角質層表面と接触すると当該表面の皮脂を取り去る作用がある。よって,かか

る衛生用紙を肌の同一部分に対し頻繁に接触させると,衛生用紙によりまず皮脂が

取り去られ,次いで皮脂の無くなったところから角質層内の水分が取り去られる。

その結果,肌が荒れてしまい赤くなってしまうのである(【0002】〜【000

4】)。

ウ 発明が解決しようとする課題

本発明の主たる課題は,使用に際して,しっとり感,柔らかさなどの肌触り性に

優れるとともに,頻繁に肌と接触させても肌がヒリヒリし難い,肌が赤くなり難い




衛生用紙を提供することにある(【0005】)。

エ 発明の効果

本発明によれば,使用に際して,しっとり感,柔らかさなどの肌触り性に優れる

とともに,頻繁に肌と接触させても肌がヒリヒリし難い,肌が赤くなり難い衛生用

紙となる(【0016】)。

オ 発明を実施するための最良の形態

本発明の衛生用紙は,「JIS P 8111」で規定する条件で調湿し,「JI

S P 8127」で測定した水分率が9.50〜15.00%,特に,9.50〜

12.00%が好適である。本発明の衛生用紙は,パルプ基材紙に柔軟剤及び保湿

剤を含む薬液を含有する。吸油度は7.0o以下,特に4.0〜6.5とするのが

好ましい。基材紙の紙容積当たりの薬液含有量が46.0〜160.0r/?,特

に48.0〜60.0r/?となるように,薬液を基材紙に対し塗布(他の薬液付

与方法を採ることもできる)して衛生用紙を製造することができる(【0017】

〜【0019】)。

基材紙としては,公知のものを問題なく使用することができるが,特にパルプ原

料におけるNBKP配合率が30.0〜80.0%(JIS P 8120),特に

50.0〜70.0であるものが好適である。米坪は「JIS P 8124」で1

0.0〜35.0g/?が望ましい。紙厚は2プライで130〜200μmが望ま

しい。クレープ率は15.0〜26.0が望ましい(【0023】)。

表1及び表2に示すように各種ティシュペーパー(本発明に係る実施例,従来例

及び市販品)について各種物性の測定・算出及び官能評価を行った。紙厚は,「J

IS P 8111」の条件下で,尾崎製作所ダイヤルシックネスゲージ「PEAC

OCK G型」を用いて測定する(【0035】)。

表1及び表2には,ティシュペーパーの各種物性の測定・算出及び官能評価の結

果が示されている。それぞれの2プライの紙厚は,実施例が160μm,従来例が

134μm,市販品1が142μm,市販品2が163μm,市販品3が139μ




m,市販品4が162μmとなっている。

3 取消事由1(本件補正却下の誤り)について

(1) 相違点2について

事案に鑑み,まず,相違点2の容易想到性について検討する。

ア 前記第2の3(2)のとおり,本件補正発明と引用発明との相違点2は,本件

補正発明は,収納箱の開口が,収納箱内面に貼付されたフィルムにより被覆され,

前記フィルムは前記開口に長辺方向に平行なスリットを有し,フィルム横方向とテ

ィシュペーパー表面のシート取出し方向との静摩擦係数が0.20〜0.28であ

るのに対し,引用発明は,収納箱の開口が,収納箱内面に貼付されたフィルムによ

り被覆され,前記フィルムは前記開口に長辺方向に平行なスリットを有しているか

否か不明であり,したがって,フィルム横方向とティシュペーパー表面のシート取

出し方向との静摩擦係数も不明な点である。本件審決は,引用発明において引用例

2に記載された発明のように構成して,相違点2に係る本件補正発明の構成に想到

することは容易であると判断した。

イ 引用例2における静摩擦係数

前記2(2)によれば,引用例2記載の発明は,ティシュペーパーの取出し性の改

善を図ることを課題としたものであるところ,この取出し性は,ティシュペーパー

束(ウェブ)が圧縮された状態で収納箱に収納されていることを前提としたもので

あり,ティシュペーパーと収納箱を形成する板紙との静摩擦係数の範囲「0.4〜

0.5」も,このような圧縮状態を前提として適正化されたものであるものと理解

することができる。

ウ 本件補正発明における静摩擦係数の意義

これに対し,本件補正発明は,本願明細書(【0008】)の記載のとおり,テ

ィシュペーパーの取出し性の改善を図ることを課題としたものであるが,この取出

し性は,以下のとおり,ティシュペーパー束が圧縮された状態で収納箱に収納され

ていることを前提としたものということはできず,むしろ,ティシュペーパー束が




圧縮されていないことを前提としたものであると解される。

(ア) すなわち,本願明細書の表1には,本件補正発明の実施例1ないし7及び

比較例1ないし4が挙げられている。そして,表1には,「窓フィルムとウェブの

間隙」という項目があるが,フィルムは収納箱の上面の内側に貼着されていること

から,これは,収納箱の上面と,ティシュペーパー束(ウェブ)の上面との間隔を

意味するものと解される。

7つの実施例のうち,実施例3ないし7については,「窓フィルムとウェブの間

隙」が1oないし3oであることから,収納箱上面とティシュペーパー束との間に

隙間が存在することを示しており,ティシュペーパー束が圧縮されていないことに

なる。また,実施例1及び2については,「窓フィルムとウェブの間隙」が0mm

であり,この項目だけでは,ティシュペーパー束が圧縮されて収納箱上面に押し付

けられた結果としての0oなのか,ティシュペーパー束の高さ(ウェブ嵩)を収納

箱の高さにそろえた結果としての0oなのかが明らかではないが,@「箱高さ」及

びA「ウェブ嵩」の項目については,実施例1については,上記@A共に50mm,

実施例2については,上記@A共に55oである。実施例1ないし7における@

「箱高さ」,A「ウェブ嵩」及びB「窓フィルムとウェブの間隙」の数値の関係に

照らせば,B「窓フィルムとウェブの間隙」は,@「箱高さ」とA「ウェブ嵩」と

の差であることは明らかである。よって,実施例1及び2は,ティシュペーパー束

の高さ(ウェブ嵩)を収納箱の高さにそろえた結果として,「窓フィルムとウェブ

の間隙」が0oになったものであることを理解することができ,ティシュペーパー

束が実質的に圧縮されていないものであるということができる。そうすると,本件

補正発明の全ての実施例1ないし7は,ティシュペーパー束の高さを収納箱の高さ

にそろえることによって,ティシュペーパー束が実質的に圧縮されないようにした

ものである。

他方,表1には,ティシュペーパー束を収納箱よりも高くすることによって,テ

ィシュペーパー束が圧縮されている実施例は挙げられていない。




また,本願明細書には,表1及び表2の記載事項も含めて,ティシュペーパー製

品の詳細なパラメータの値が具体的に記載されているが,収納箱の静摩擦係数につ

いては記載されていない。

(イ) さらに,ティシュペーパーの取出しのメカニズムとして,ティシュペーパ

ー束が圧縮された状態で収納箱に収納されている場合,ティシュペーパー束は,自

己の弾力性によって,本来の高さ(ウェブ嵩)に戻ろうとする復元力を有する。し

かしながら,収納箱の高さは一定なので,ティシュペーパー束は,本来の高さに戻

ることはできず,圧縮による変形分の力で,ティシュペーパー束の上面の大半(取

出し口に対応する部位を除く。)が収納箱上面(内上面)に押し付けられる。ティ

シュペーパー束の復元力は,ティシュペーパー束が最も圧縮された初期状態,換言

すれば,ティシュペーパーの取出し初めが最も大きく,ティシュペーパーを取り出

すに従って徐々に低下していく。そして,ティシュペーパーを更に取り出して,テ

ィシュペーパー束が圧縮されなくなった時点で,ティシュペーパー束の復元力は消

失し,以後,ティシュペーパー束と収納箱上面との間に隙間が生じた状態(ティシ

ュペーパー束が実質的に圧縮されていない状態)では,復元力は生じない。圧縮さ

れたティシュペーパー束からティシュペーパーを取り出す場合,ティシュペーパー

の取出しを妨げる力(静摩擦力)として,ティシュペーパーを取り出すための外力

に起因した成分に加えて,ティシュペーパー束の復元力に起因した成分も作用する

ため,比較的大きな静摩擦力が生じることになる。ティシュペーパー束の復元力は,

ティシュペーパー束の上面全体をほぼ均一に上方に押し上げる。よって,圧縮され

たティシュペーパー束を前提にティシュペーパーの取出し性を論じる場合には,テ

ィシュペーパーの取出し口を被覆するフィルム面のみならず,フィルムの周囲に露

出した収納箱の内上面も含めて,ティシュペーパーと接する全ての接触面の静摩擦

係数を考慮する必要がある。

他方,ティシュペーパー束が圧縮されていない場合,上記のようなティシュペー

パー束の復元力は存在しない。この状態でティシュペーパーを取り出す場合,ティ




シュペーパーの取出しを妨げる力としては,ティシュペーパーを取り出すための外

力に起因した成分のみが作用するので,ティシュペーパー束が圧縮されている場合

と比較して静摩擦力は小さくなる。また,ティシュペーパーの取出しに際して,テ

ィシュペーパーが摺り付けられる部分は,ティシュペーパーの面全体ではなく,取

出し口近傍に集中する。よって,圧縮されていないティシュペーパー束を前提にテ

ィシュペーパーの取出し性を論じる場合には,取出し口を被覆するフィルム面の静

摩擦係数を実質的に考慮すれば足り,ティシュペーパーの摺付けがほとんど生じな

い収納箱上面の静摩擦係数を重視する必要はない。

(ウ) 以上のメカニズムに基づき本願明細書の記載事項を総合的に参酌すると,

本件補正発明において,収納箱の静摩擦係数に言及することなく,ティシュペーパ

ーの取出し性の改善を意図しているということは,収納箱の静摩擦係数がティシュ

ペーパーの取出し性に関与しない形態,すなわち,ティシュペーパー束が圧縮され

ていない状態を前提としたものであるというべきである。

エ 相違点2の容易想到性

前記のように,引用例2は,ティシュペーパーの取出し性の改善を目的とする点

では本件補正発明と共通するものの,ティシュペーパー束が圧縮されていることを

前提とするもので,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提とする本件

補正発明と,前提において相違する。そして,このような前提の相違に起因して,

両者は,ティシュペーパーの取出しを妨げる静摩擦力の発生メカニズムが相違し,

その大きさも異なるものである。そうすると,静摩擦力を規定する静摩擦係数につ

いても,引用例2における板紙とティシュペーパーとの静摩擦係数の範囲を定めた

意義は,本件補正発明におけるティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数の範囲

を定めた意義とは全く異なるものである。

このような静摩擦係数の意義の相違に鑑みれば,引用発明に,引用例2に記載さ

れた「ティシュペーパーと板紙との静摩擦係数0.4〜0.5」を組み合わせて,

本件補正発明における「ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数0.20〜0.




28」を導き出すことは,困難である。

よって,引用例2記載の「ティシュペーパーと板紙との静摩擦係数0.4〜0.

5」という構成から,本件補正発明の「ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係

数の範囲0.2〜0.28」を導き出した上で,引用発明と組み合わせて,本件補

正発明に係る相違点2の構成を容易に想到できるとした本件審決の判断には,誤り

がある。

オ 被告の主張について

(ア) 被告は,本願明細書の表1によれば,実施例1ないし7では,収納箱内上

面の約58%にフィルムが貼られており,窓フィルムとウェブの間隙は0ないし3

oであって空間はほとんどなく,フィルムは一般的に収納箱の上面裏側中央部に貼

着されているから,使用開始時に最もフィルムとティシュペーパー間に摩擦力が生

じると主張する。

しかし,本件補正発明において,窓フィルムとウェブの間隔が0ないし3oであ

ることは,前記のとおり,ティシュペーパーが圧縮されていない状態を意味するの

であって,引用例2のようなティシュペーパーが圧縮されている状態と同視するこ

とはできない。したがって,ティシュペーパー束が圧縮されていることを前提とし

た引用例2の静摩擦係数と,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提と

した本件補正発明の静摩擦係数とでは,技術的意義が相違する以上,使用開始時に

最もフィルムとティシュペーパー間に摩擦力が生じることをもって,本件補正発明

と引用例2とを同一視することはできない。

また,本件補正発明は,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提とし

た取出しに関するものであって,取り出されるティシュペーパーが摺り付けられる

部分は取出し口近傍に集中するので,ティシュペーパーの取り出しに起因したフィ

ルムの静摩擦力を論じる場合,取出し口近傍に着目すれば足り,取出し口から離れ

た部位についてまで考慮する必要はない。したがって,収納箱内上面に占めるフィ

ルムの貼着面積が約58%であることは,相違点2に係る構成の容易想到性の判断




を左右するものではない。

よって,被告の上記主張は,採用することができない。

(イ) 被告は,本願明細書(【0006】【0008】)の記載等から,本件補

正発明のフィルムとティシュペーパーの静摩擦係数上限は,「収納箱上面の内側面

に接することなくフィルムとティシュペーパーが摺れて取り出される際の取出し」

に関するものということはできないと主張する。

確かに,本願明細書(【0006】【0008】)の記載のみを見ると,被告の

主張のような解釈もできなくはない。しかしながら,前記のとおり,ティシュペー

パー束が圧縮された状態と圧縮されていない状態におけるティシュペーパーの取出

しのメカニズムに関する技術常識を踏まえた上で,本願明細書の記載事項を総合的

参酌すると,本件補正発明は,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前

提としたものと解されるから,被告の上記主張は,採用することができない。

(ウ) 被告は,本願明細書の表2によれば,静摩擦係数と使用途中の落ち込みと

の関係は明らかでなく,さらに,0.20を下限値とする根拠はなく,出願人が感

覚的に設定したものであると主張する。

本件補正発明において,ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数を0.2〜

0.28とする技術的意義は,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提

とした取出し性に基づくものであるが,当該取出し性の改善は,静摩擦係数のみに

よって達成されるものではなく,本件補正発明が規定するその他の数値限定との連

係によって達成されるものである。したがって,静摩擦係数単独で,機能性評価の

結果と比較することに意味はない。また,本件補正発明において,静摩擦係数の下

限値0.20及び上限値0.28にどの程度の臨界的意義があるかは明らかとはい

えないものの,引用例2の静摩擦係数とは技術的意義が異なる以上,引用例2に基

づき相違点2に係る本件補正発明の構成を容易に想到することができるということ

はできない。

よって,被告の上記主張は,採用することができない。




(2) 相違点1について

次に,相違点1について,検討する。

ア 相違点1は,本件補正発明は,2プライの紙厚が100〜140μmである

のに対し,引用発明は,2プライの紙厚が不明な点である。本件審決は,引用例3

に2プライの紙厚が130〜200μm,引用例2に2プライの紙厚が90〜10

5μmと記載されているように,紙厚100〜140μmはティシュペーパー製品

において普通に採用されている範囲であり,薄いものは柔らかい感触が得られるこ

とから,引用発明において,相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは,当

業者が適宜なし得ることであると認定した。

イ 引用例3について

(ア) 引用例3(【0023】)には,紙厚が2プライで130〜200μm が

望ましいことが記載されているが,この紙厚は,ティシュペーパーを作る上での原

料となる基材紙の紙厚であって,薬剤が含有されたティシュペーパー製品の紙厚で

はない。そうすると,引用例3に,薬液を含浸させた2プライのティシュペーパー

製品において,紙厚を130〜200μmの範囲とすることが示されているとの本

件審決の認定は,薬液が含有されたものであるか否かを無視したものであって,誤

りである。

(イ) 他方,引用例3の表1及び表2に記載された実施例,従来例及び市販品は,

いずれも,その紙単位容積当たりの含有量から,薬剤を含有したティシュペーパー

製品であることが認められる。そして,その2プライの紙厚は,本件補正発明と同

様の「JIS P 8111」の条件下で,尾崎製作所ダイヤルシックネスゲージ

「PEACOCK G型」を用いて測定した結果,従来例において134μm,市

販品3において139μmであるほか,実施例及びその余の市販品においては,1

42ないし163μmである。

以上のとおり,引用例3には,薬液を含有したティシュペーパー製品において,

紙厚が2プライで134μm及び139μmであるものが記載されている。




ウ 引用例2について

(ア) 引用例2(【0003】)には,「ティシュペーパーも2枚重ねの厚さが,

従来90〜105μmであったものが,75μm程度に薄くなっており,坪量も減

らしたものが多くなっている。」と記載されているところ,紙厚の具体的な測定方

法については記載されていない。

(イ) 「JIS P 8118」は,「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に

関するものであり,紙及び板紙の厚さ並びに密度及びバルク密度の試験方法を規定

するとともに,加圧面間の圧力について,「50kPa±5kPa」又は「100

kPa±10kPa」と規定している。また,「JIS P 8118」には,この

規格の一部を構成する引用規格として,「JIS P 8111」を挙げている(甲

18)。

そして,「JIS P 8111」は,「紙,板紙及びパルプ−調湿及び試験のた

めの標準状態」に関するものであり,紙,板紙及びパルプの調湿及び試験のための

標準状態並びに温度及び相対湿度の測定方法を規定しているが,加圧面間の圧力に

ついての定めはない(甲26)。

なお,「JIS P 8111」及び「JIS P 8118」はどちらも紙全般に

関する規格であり,ティシュペーパー固有のものではない。

(ウ) また,引用例2(【0003】)には,従来の技術(特許文献)として甲

16が例示されているところ,甲16(【0026】)には,ティシュペーパーの

紙厚として「JIS P 8118」によって測定された測定値が示されている。

(エ) このように,紙厚の測定方法に関する日本工業規格として「JIS P 8

118」が存在し,引用例2に例示された特許文献に,「JIS P 8118」に

よる紙厚の測定値が示されていることや,「JIS P 8111」の条件下で「P

EACOCK G型」で測定した引用例3に記載された実施例や市販品等の紙厚が

134ないし163μmであり,本願明細書の比較例の紙厚が140ないし159

μmであって,引用例2の上記90〜105μmという範囲と大きく異なることを




総合すれば,少なくとも,引用例2に示された「90〜105μm」の紙厚が,引

用例3と同様の測定方法によって測定されたものということはできない。

(オ) 被告は,引用例2の測定方法による紙厚と引用例3の測定方法による紙厚

との間に大きな差はないと主張する。

しかしながら,測定圧力の違いによって紙厚がどの程度変化するかは,測定対象

の硬さ等にもよるから,硬さ等が特定されていないティシュペーパーにおいて,測

定圧力に起因して紙厚にどの程度の差が生じるかは一義的に定まるものではないこ

とは,被告の自認するところであって,程度の違いはあっても,測定圧が異なれば

紙厚の測定値も異なることは明らかである。よって,「JIS P 8111」に規

定された調湿・標準状態の条件下で「PEACOCK G型」を用いた測定方法と,

「JIS P 8118」に規定された測定方法とで,少なくとも,紙厚の測定値が

同じになるとは限らないから,引用例2及び3における紙厚の数値は,必ずしも同

一視できるものではない。

エ 本件審決の認定の是非

以上のとおり,引用例3には,薬液を含有したティシュペーパー製品において,

本件補正発明と同じ「JIS P 8111」の条件下で,尾崎製作所ダイヤルシッ

クネスゲージ「PEACOCK G型」を用いて測定した紙厚が2プライで134

μm及び139μmであるものが記載されているものの,引用例2に記載された紙

厚は,それと同様の結果をもたらすとはいえない方法で測定されたものである。

さらに,本訴において,引用例2及び3以外に,紙厚100〜140μmがティ

シュペーパー製品において普通に採用されていると認めるに足りる証拠はない。

以上に照らせば,引用例2及び3の記載のみをもって,「紙厚100〜140μ

mはティシュペーパー製品において普通に採用されている範囲」であるとした本件

審決の認定は,是認することができない。

よって,上記認定を前提として,相違点1に係る本件補正発明の構成を容易に想

到することができるとした本件審決の判断も,誤りである。




(3) 小括

以上のとおり,少なくとも相違点1及び2に係る容易想到性の判断には誤りがあ

るから,本件補正発明は,本件審決が引用した引用例に基づいてこれを容易に想到

することができたということはできない。したがって,本件補正を却下すべきもの

とした本件審決の判断は,誤りである。

4 結論

よって,その余の点について判断するまでもなく,本件審決は,取り消されるべ

きものである。

知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 土 肥 章 大




裁判官 部 眞 規 子




裁判官 齋 藤 巌