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事件 平成 15年 (行ケ) 44号 審決取消請求事件
原告 パナソニックコミュニケーションズ株式会社
訴訟代理人弁理士 鷲田公一
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 小川謙
同 加藤恵一
同 小曳満昭
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/08/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求める裁判
1 原告 (1) 特許庁が訂正2002-39175号事件について平成14年12月27日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,発明の名称を「ネットワークファクシミリ装置」とする特許第3135532号(平成10年9月29日出願,平成12年12月1日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は4である。)の特許権者である(なお,本件特許の出願人は松下電送システム株式会社であり,同社が平成15年1月6日原告に吸収合併されるまで,同社が本件特許に関する下記の手続をしていたものであるが,以下,合併前の同社を含めて「原告」という。)。
(2) 本件特許に対して特許異議の申立てがされ,特許庁は,これを異議2001-72243号事件として審理した結果,平成14年5月15日,「特許第3135532号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」との決定をした。原告は,この特許取消決定の取消しを求める訴えを提起し,同訴訟は係属中である(当庁平成14年(行ケ)第328号)。
(3) 原告は,平成14年8月22日,特許庁に対し,本件特許に係る出願の願書に添付した明細書につき,請求項の文言を含め,訂正することについての審判を請求した(以下,この訂正を「本件訂正」といい,本件訂正後の明細書を図面と併せて「訂正明細書」という。)。特許庁は,これを訂正2002-39175号事件として審理した結果,平成14年12月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,平成15年1月9日にその謄本を原告に送達した。
2 本件訂正後の特許請求の範囲【請求項1】 「記録紙の用紙切れという状態を監視するプリンタ部と,HTML等の文書構造記述言語により装置のステータス情報を生成するHTML生成手段と,URLアドレスにより本装置に接続する端末に対し前記ステータス情報の文書構造記述言語ファイルを送出するWWWサーバ手段とを備え,前記HTML生成手段は,あらかじめステータス情報を表示するためのHTMLファイル並びに状態を絵で表したGIFファイルを多数保持し,前記プリンタ部の状態に合わせて常時,HTMLファイルの内容の更新および前記絵で表したGIFファイルの差し替えを行うことを特徴とするネットワークファクシミリ装置。」(以下,この請求項1に係る発明を「本件発明」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明は,特開平10-149270号公報(以下,審決と同じく「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)並びに特開平5-347677号公報(以下,審決と同じく「刊行物2」という。),特開平9-331416号公報(以下,審決と同じく「刊行物3」という。),特開平8-305520号公報(以下,審決と同じく「刊行物4」という。)及び特開平8-339274号公報(以下,審決と同じく「刊行物5」という。)に記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件訂正は認められないというものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した本件発明と引用発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(一致点) 「プリンタ部を備え,HTML等の文書構造記述言語により装置のステータス情報を生成し,端末に対し前記ステータス情報の文書構造記述言語ファイルを送出し,装置の状態に合わせてステータス情報の更新を行うことを特徴とするネットワークファクシミリ装置。」である点 (相違点) 「(相違点1) 本件請求項1に係る発明が,プリンタ部が,記録紙の用紙切れという状態を監視するプリンタ部であるのに対して,刊行物1では装置10に関する情報であって,記録紙の用紙切れという状態を監視するプリンタ部であることは記載されていない点。
(相違点2) 本件請求項1に係る発明が,HTML生成手段により,装置のステータス情報を生成するのに対して,刊行物1では,ウェブサーバ14が生成する点。
(相違点3) 本件請求項1に係る発明が,URLアドレスにより本装置に接続する端末に対しファイルを送出するWWWサーバ手段を備えているのに対して,刊行物1では,明確な記載がない点。
(相違点4) 本件請求項1に係る発明では,HTML生成手段が,あらかじめステータス情報を表示するためのHTMLファイル並びに状態を絵で表したGIFファイルを多数保持し,プリンタ部の状態に合わせて常時,HTMLファイルの内容の更新および前記絵で表したGIFファイルの差し替えを行うのに対して,刊行物1のものは,装置10に関する情報の更新済み状態を反映しているだけである点。」 (以下,上記相違点4を「相違点(4)」という。)
原告主張の取消事由の要点
1 取消事由1(一致点認定の誤りによる相違点の看過) (1) 審決は,引用発明における「装置状況情報などの情報」が本件発明における「装置のステータス情報」に相当すると認定している。しかし,これらは,以下のとおり,全く異質のものであり,本件発明と引用発明との相違点とされるべきものであるのに,審決はこれを看過したものである。
(2) 審決は,刊行物1の記載(【0013】【0015】など)を引用して,「刊行物1では・・・・「装置状況情報」として装置に関する情報が更新済みの状態で生成されていることが記載されている。プリンタ,ファクシミリ装置の装置状況として用紙切れ状態が含まれることも自明のことである。」(審決書12頁最終行〜13頁15行)と認定している。
しかし,審決が引用した刊行物1の記載部分には,「装置状況情報などの情報」の内容は明らかにされていない。
むしろ,刊行物1の記載(図4,【0041】〜【0044】)によれば,引用発明における「装置状況情報などの情報」とは,「プリンタ名と管理者とプリンタの位置とを含むプリンタに関する情報」,「サービス契約」,「サプライオーダー」,「将来の製品」などのことをいうのであり,装置そのものによって自動生成される装置動作状態等を意味するものではなく,すべて人が予め手入力することなどによって生成される情報であることが明らかである。
(3) これに対し,本件発明の特徴は,外部から「自己の状態変化」,換言すれば,装置そのものの状態変化を監視できるようにする点にある。したがって,本件発明の「ステータス情報」とは,装置そのものによって自動生成される装置動作状態等を示す情報を意味するのである。
また,請求項1には,「記録紙の用紙切れという状態を監視するプリンタ部と,・・・・前記プリンタ部の状態に合わせて常時,HTMLファイルの内容の更新および前記絵で表したGIFファイルの差し替えを行う・・・・。」と記載されているように,プリンタ部の監視対象が「記録紙の用紙切れ」であることからすれば,その「前記プリンタ部の状態に合わせて」とは,「プリンタ部の用紙切れの状態」に合わせて,と解すべきであるから,「ステータス情報」とは,プリンタ部の用紙切れという動作状態に関する情報をいうものである。
2 取消事由2(相違点(4)についての判断の誤り) (1) 審決は,相違点(4)について,「装置を監視する場合に,装置の状態を,絵で表示することは通常行われていることであり(例えば,上記刊行物3〜5等を参照),さらに,絵などのグラフィックスデータをGIFファイルとすることは慣用手段であるから,刊行物1において,装置状況情報等を絵で表したGIFファイルを多数あらかじめ用意しておき,装置10の状態を絵で表せるように,装置10の状態に合わせて,HTMLファイルの内容の更新および絵で表したGIFファイルの差し替えを行うことは当業者が容易に考えられることである。」(審決書9頁16行〜22行)と判断している。
(2) この審決の判断のうち,「装置の状態を,絵で表示することは通常行われている」,「絵などのグラフィックスデータをGIFファイルとすることは慣用手段である」との点については,異論はない。
しかし,「装置状況情報等を絵で表したGIFファイルを多数あらかじめ用意しておき,装置10の状態を絵で表せるように,装置10の状態に合わせて,HTMLファイルの内容の更新および絵で表したGIFファイルの差し替えを行うことは当業者が容易に考えられることである。」との審決の判断は誤りである。
すなわち,本件発明の特徴である,WEBサーバを使って装置状態を表した絵を切り換えて表示するようにした構成については,いずれの刊行物にも開示されていない。具体的には,「プリンタ部の状態に合わせて常時,HTMLファイルの更新並びにGIFファイルの差し換えを行なう」点,換言すれば,ブラウザを使って外部から閲覧可能に構成されたHTMLファイル内のGIFファイルを装置状態に応じて差し換え処理し,HTMLファイルを更新する具体的構成については,いずれの刊行物にも記載されていないし示唆もされていないのである。
本件発明においては,この構成により,ウェブクライアントは,ステータスを表すHTMLファイルにアクセスすることにより刻々変更される装置状態(本件発明では用紙切れ状態)をひと目で理解することができる,といった顕著な効果を得られるが,各刊行物のいずれによっても,かかる効果は得られない。
したがって,本件発明の上記構成は,当業者が容易に考えられるものではないというべきである。
被告の反論の要点
審決には,原告が主張するような誤りはない。
1 取消事由1(一致点認定の誤りによる相違点の看過)に対して (1) 刊行物1の記載から明らかなとおり,引用発明は,従来の装置内のユーザインターフェース機構,あるいは外部のコンピュータシステムを使用する画面ベースのユーザインターフェース機構を,装置の寸法あるいはコストを低減するために,インターネットを介したユーザインターフェース機構としたものであり,装置に組み込まれたウェブサーバ機能によって,ウェブページを設けることにより,装置の外部から,装置状況情報などの情報を監視したり,制御したりすることができるようにしたものである。
そして,これは,ウェブページを,モニタによって維持される装置に関する情報の更新済み状態を反映するように動的に生成し,また,ウェブページに,装置用のさまざまな制御機能を通信経路を介してウェブクライアントから開始できるようにするHTTPプロトコルに従って制御ボタンを定義することもでき,ウェブページは,HTTPプロトコルおよびHTMLプロトコルによってサポートされるテキストや,画像,マルチメディアファイル,フォーム,テーブル,オブジェクトタイプを含むことができるようにしたものである。
さらに,刊行物1には,装置の例として,ファクシミリ装置が記載されているほか,装置の状態を反映するものの一実施例として,補修を必要とする洗濯機を判定するものも記載されている。
以上のように,「ユーザインターフェース」という言葉が使用されているという事実からだけでも,引用発明の「装置状況情報などの情報」が装置の自らの状態を表示する情報を含んでいることは明らかであるところ,刊行物1には,さらに,ウェブページを装置に関する情報の更新済み状態を反映するように動的に生成すること,装置用のさまざまな制御機能の制御ボタン等を定義すること,ウェブページの情報により補修の必要性を判定可能とすることも記載されているのであるから,引用発明における「装置状況情報などの情報」が装置そのものによって自動生成される装置動作状態等を含んでいることに疑念の余地はない。
(2) 原告は,本件発明における「ステータス情報」とは,「プリンタ部の用紙切れの状態」であると主張する。
しかしながら,本件発明の特許請求の範囲の記載,あるいは訂正明細書の記載によれば,「ステータス情報」には,プリンタ部の情報だけ,まして,記録紙の用紙切れという状態だけの情報ではなく,プリンタ部のトナー切れ,紙詰まり,扉の開閉などのプリンタ部の動作状態,スキャナ部,パネル部,FAX・音声通信部等の状態,さらに,ファクシミリ通信ログ,ファクシミリ装置のマニアル等の情報が含まれているのであり,また,ステータス情報を表示するための多数保持されたHTMLファイル並びにGIFファイルも,プリンタ部の状態だけを表すものではなく,まして,記録紙の用紙切れという状態だけを表すものでもないことが明らかである。
したがって,原告の主張は,特許請求の範囲の記載,あるいは訂正明細書の記載に基づかない主張であり,誤りである。
(3) 以上のように,刊行物1の「装置状況情報」には,原告が主張する「プリンタ名と管理者とプリンタの位置とを含むプリンタに関する情報」「サービス契約」「サプライオーダー」「将来の製品」等のほかに,動的に生成された装置の現在の状態を表示するための情報,装置の制御機能を表示するための情報等が含まれているのであり,また,本件発明の「ステータス情報」には,プリンタ部の記録紙の用紙切れ状態以外の情報も含まれているのである。
したがって,審決が,刊行物1の「装置状況情報などの情報」は,本件発明の「装置のステータス情報」に相当すると認定したことに誤りはない。
2 取消事由2(相違点(4)についての判断の誤り)に対して 原告も認めるように,ユーザインターフェースとして,装置の状態を絵で表示することは通常行われていることである。審決は,その例として,画像処理装置のエラー情報を情報処理装置において動画として表示するもの(刊行物3),紙づまり,紙切れ,ドアオープン,トナー切れ,ハードウエアの故障などをアイコンで表示するもの(刊行物4),プリンタよりのステータス情報をグラフィック画像で表示するもの(刊行物5)を例示している。また,GIFファイルがグラフィックデータの保存形式のひとつであり,インターネットでJPEGファイルと並んでよく使われているものであることも周知のことである。
これらのことからすれば,インターネットを介したユーザインターフェース機能を設けることを目的とする引用発明において,装置状況情報等を絵で表したGIFファイルを多数あらかじめ用意しておき,装置の状態を絵で表せるように,装置の状態に合わせて,HTMLファイルの内容の更新および絵で表したGIFファイルの差し替えを行うことは,当業者が容易に考えられることである。
したがって,相違点(4)についての審決の判断に何らの誤りもない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点認定の誤りによる相違点の看過)について (1) 引用発明の「装置状況情報などの情報」について 刊行物1には,次の記載がある(甲第3号証)。
ア 「【発明の属する技術分野】本発明は,装置用のユーザインターフェースの分野に係り,とりわけ機能拡張され広くアクセスできるユーザインターフェース機能を与えるためにウェブアクセス機能を装置に組み込むことに関する。」(甲第3号証【0001】) イ 「装置に組み込まれたウェブサーバ機能によって,インターネットのワールドワイドウェブ(WWW)部分を含むさまざまな通信機構を介した装置ユーザインターフェースアクセスが可能になる。画面ベースのユーザインターフェース機構を装置に設けるコストは不要になり,外部コンピュータなしで装置ウェブサーバを構成することができる。」(同【0009】) ウ 「【発明の実施の形態】・・・・,装置特有のユーザインターフェース機能を備える組み込み(embedded)ウェブアクセス機能を含む装置10を示す。装置10は,ネットワークインターフェース12とウェブサーバ14をモニタ16と共に含む。ネットワークインターフェース12によって,通信経路22を介した通信が可能になる。モニタ16は,装置10のさまざまな装置特有の機能を制御し,装置10に関する1組の情報を制御/モニタ経路20を介して監視する。ウェブサーバ14は,通信経路22を介してウェブクライアントにウェブサーバ機能を与える。ウェブサーバ14は,ハイパーテキストトランスファプロトコル(HTTP)に従ってウェブサーバ機能を与える。」(同【0012】) エ 「ウェブサーバ14は,装置10用の所定のユニバーサルリソースロケータ(URL)を指定するネットワークインターフェース12を通じてHTTPコマンドを受信する。HTTPコマンドは,装置状況情報などの情報を装置10から読み取るためにウェブクライアントによって使用することができる。HTTPコマンドは,装置10の機能または動作状態を制御する情報などの情報を装置10へ転送するために使用することもできる。・・・・」(同【0013】) オ 「ウェブサーバ14は,ウェブページ18を,モニタ16によって維持される装置10に関する情報の更新済み状態を反映するように動的に生成する。ウェブページ18は,装置10用のさまざまな制御機能を通信経路22を介してウェブクライアントから開始できるようにするHTTPプロトコルに従って制御ボタンを定義することもできる。ウェブページ18は,HTTPプロトコルおよびHTMLプロトコルによってサポートされるテキストや,画像,マルチメディアファイル,フォーム,テーブル,オブジェクトタイプを含むことができる。」(同【0015】) カ 「本明細書で説明した組み込みウェブサーバ機能によって,特定の装置ならびに数組の装置用の広くアクセス可能なさまざまな装置問い合わせ機能および制御機能が可能になる。例えば,Laundromatsチェーンの各洗濯機にウェブページを組み込み,事務所のコンピュータのオペレータが,補修を必要とする洗濯機を判定し,それに応じてLaundromatsへの毎日の補修ルーティングを計画することができる。」(同【0050】) 以上の記載からすると,刊行物1には,装置10とモニタ16が装置10のさまざまな装置特有の機能を制御し,装置10自身に関する情報を監視するものであること,ウェブクライアントがHTTPコマンドによって装置10から「装置状況情報などの情報」を読み取ること,ウェブページを装置に関する情報の更新済み状態を反映するように動的に生成すること,装置用のさまざまな制御機能の制御ボタン等を定義すること,ウェブページの情報により装置の補修の必要性を判定可能とする洗濯機の例などが開示されているものといえる。
そうすると,引用発明は,装置に組み込まれたウェブサーバ機能によって,ウェブページを設けることにより,装置の外部から,装置状況情報などの情報を監視したり,制御したりすることができるようにしたものであり,ウェブページは,装置に関する情報の更新済み状態を反映するように動的に生成され,ウェブページの情報により補修の必要性などを判定可能にするものであるから,引用発明における「装置状況情報などの情報」とは,少なくとも自動生成される装置そのものの動作状態等を示す情報を含むものであることは明らかである。
原告は,刊行物1の【0041】〜【0044】及び図4の記載をとらえて,引用発明における「装置状況情報などの情報」とは,「プリンタ名と管理者とプリンタの位置とを含むプリンタに関する情報」,「サービス契約」,「サプライオーダー」,「将来の製品」など,すべて人が予め手入力することなどによって生成される情報を意味すると主張する。
確かに,刊行物1の図4等にはプリンタ装置に関して原告主張のような情報を内容とするウェブページについて説明されているが,刊行物1には,「下記に,装置10がプリンタ装置である実施形態においてウェブページ18を定義するHTMLファイルの例を示す。」(甲第3号証【0039】),「図4は,装置10がプリンタである,上記に示したHTMLファイルの例に関するウェブページ18を示す。・・・」(同【0041】)と記載されているように,上記の図4等は,プリンタ装置に関するHTMLファイルの一つの例を説明しているだけであって,プリンタに関する情報がこれだけに限られるとされているわけでないことはもとより,ウェブページにより監視,制御の対象となる装置状況情報などの情報が,図4等に説明されたそれらだけを意味すると解すべき根拠もない。したがって,引用発明の「装置状況情報などの情報」とは,「プリンタ名と管理者とプリンタの位置とを含むプリンタに関する情報」など,人が予め手入力することなどによって生成される情報を意味するとの原告の主張は,理由がない。
(2) 本件発明の「ステータス情報」について 原告は,本件発明の「ステータス情報」とは,装置そのものによって自動生成される装置動作状態等を示す情報であり,プリンタ部の用紙切れという動作状態に関する情報をいうと主張する(もっとも,原告が主張する「装置そのものによって自動生成される」という意味は,必ずしも定かではないが,本件発明において,情報を自動生成するのはHTML生成手段であることは明らかであるから,原告のいう「装置そのものによって」とは,単に「装置それ自体の」という程度の意味であると解される。このことは,原告自身が,「装置そのものによって自動生成される装置動作状態等を示す情報」とともに,同じ意味のものとして「自動生成される装置そのものの動作状態を示す情報」という表現を用いていることからも明らかである(原告準備書面(1)7頁)。以下,表現の紛らわしさを避けるため,原告の主張する「装置そのものによって自動生成される装置動作状態等を示す情報」を「自動生成される装置そのものの動作状態等を示す情報」ということとする。)。
しかし,本件発明の特許請求の範囲は,前記第2の2記載のとおりであり,「装置のステータス情報」が「プリンタ部の情報」だけであるとか,さらには「プリンタ部の用紙切れ」という状態だけの情報に限定されたものであることを示す記載はなく,また,「自動生成される装置そのものの動作状態等を示す情報」を意味するものか否かも明らかとはいえない。
訂正明細書の【発明の詳細な説明】には,本件発明の「装置のステータス情報」に関するものとして,次の記載がある(甲第2号証及び甲第8号証の図面)。
ア 「【0022】この構成により,ネットワーククライアントのWWWブラウザソフトからエラー発生等の本装置の状態を参照できるため,遠隔より容易に装置の状態を知ることができる。」(甲第2号証5頁) イ 「【0052】次に,ネットワークファクシミリ装置が装置状態をHTMLファイルで生成する動作について図9のフロー図に従って説明する。ST901において,スキャナ部8,プリンタ部6,パネル部7,FAX・音声通信部9はそれぞれ常時自己の状態の変化を監視している。
【0053】ST902〜ST903において,例えば,プリンタ部6が用紙切れとなった場合など状態に変化が生じたとき,プリンタ部6は変化の内容をHTMLファイル生成部11に通知する。
【0054】ST904において,HTMLファイル生成部11は,予めステータス(装置状態)情報を表示するためのHTMLファイル並びに状態を絵で表したGIFファイルを多数保持しているので,状態の変化に合わせて常時,HTMLファイルの内容の更新及びGIFファイルの差し替えを行っている。
【0055】クライアントパソコンのユーザは,ステータス(装置状態)情報を参照する際には,ST905〜ST912において,WWWブラウザを起動してネットワークファクシミリ装置のホームぺ-ジを表示し,スキャナ部8,プリンタ部6,パネル部7,FAX・音声通信部9それぞれのステータス情報を選択して表示させることにより,常に最新の装置状態を知ることができる。」(同12頁〜13頁) 訂正明細書の上記記載によれば,ステータスとは装置状態を意味するものとして用いられており,「装置のステータス情報」が,プリンタ部だけの情報であるとか,プリンタ部の用紙切れの情報だけであるとかの記載はないのであって,原告が主張するように,プリンタ部の用紙切れという状態に関する情報のみを意味するということはできず,プリンタ部以外の装置の装置状態情報も,また,プリンタ部の用紙切れ以外の装置状態情報も当然含まれ得るものと解される。
また,「装置のステータス情報」が,自動生成される装置そのものの動作状態等を示す情報だけを意味していると限定して理解することができるかどうかはともかく,そのような動作状態を示す情報を含むものであるということができるが,引用発明の「装置状況情報などの情報」も,そのような自動生成される装置そのものの動作状態等を示す情報を含むものであることは前記のとおりである。
(3) 以上のとおり,引用発明の「装置状況情報などの情報」も,本件発明の「ステータス情報」も,いずれも自動生成される装置そのものの動作状態等を示す情報などを含むものであるから,審決が,引用発明における「装置状況情報などの情報」は本件発明における「装置のステータス情報」に相当すると認定したことに誤りはなく,審決に,原告主張の一致点認定の誤り,相違点の看過はない。
2 取消事由2(相違点(4)についての判断の誤り)について (1) 原告は,審決が引用するいずれの刊行物にも「装置の状態に合わせて,HTMLファイルの内容の更新および絵で表したGIFファイルの差し替えを行うこと」に関する記載も示唆もないから,容易想到性を認めた審決の判断は誤りであると主張する。
(2) しかしながら,刊行物1の前記1(1)で認定した記載(【0012】【0015】)及び「プロセッサ200は,モニタ16の制御・情報監視機能および制御・情報ロギング(logging)機能を実行するソフトウェアも実行する。」(甲第3号証【0023】)との記載によれば,刊行物1には,モニタ16の監視の下で,装置10の状態に合わせて,画像を含むHTMLファイルの内容を更新することが開示されている。
また,刊行物3(甲第5号証)には,画像処理装置のエラー情報を情報処理装置において動画として表示するものが,刊行物4(甲第6号証)には,紙づまり,紙切れ,ドアオープン,トナー切れ,ハードウエアの故障などをアイコンで表示するものが,刊行物5(甲第7号証)には,プリンタよりのステータス情報をグラフィック画像で表示するものが,それぞれ示されていることが認められる。このように,装置の状態を絵で表示し,状態に合わせて絵を差し替える技術は,通常行われていることである。そして,絵などのグラフィックデータをGIFファイルとする技術が慣用手段である点については,原告も争わないところである。
そうすると,刊行物1の「装置状況情報などの情報」に装置の状態情報等が含まれることは前示のとおりであり,また,上記のように,装置の状態に合わせてHTMLファイル(すなわち,ウェブページ)の内容を更新することが刊行物1に開示されているのであるから,刊行物3ないし5に記載されているような,通常行われている装置そのものの動作状態を更新して表示する技術を引用発明に適用することに格別の困難があるとは認められない。
したがって,それらの技術を引用発明に適用して,「装置の状態に合わせて,HTMLファイルの内容の更新および絵で表したGIFファイルの差し替えを行う」との構成にすることは,当業者にとって容易に考えられることであるということができる。
原告は,本件発明の相違点(4)に係る構成により顕著な効果を奏すると主張するが,上記構成が容易に想到し得るものであることは上記のとおりであり,原告主張の効果が,そのような構成から予想し得る以上に格別顕著なものであるとは認められないから,これをもって本件発明の進歩性を根拠付けることはできないというべきである。
3 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りは認められない。
したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂驤
裁判官 若林辰繁