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事件 平成 24年 (行ケ) 10172号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/02/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年2月20日判決言渡
平成24年(行ケ)第10172号 審決取消請求事件

平成24年12月25日 口頭弁論終結

判 決



(三星モバイルディスプレイ株式リ社訴訟承継人)
原 告

三星ディスプレイ株式 リ 社



訴訟代理人弁理士 亀 谷 美 明

同 平 山 淳

同 伊 藤 学



被 告 特 許 庁 長 官
指定代理人 中 塚 直 樹

同 飯 野 茂

同 樋 口 信 宏

同 芦 葉 松 美

主 文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定

める。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が不服2010−4583号事件について平成23年12月19日にした
審決を取り消す。

1
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等

本願は,発明の名称を「有機発光表示装置及びその駆動方法」として,平成1

7年11月25日に出願された(特願2005−340889号。パリ条約によ

優先権主張・2005年4月28日,大韓民国)が,平成21年10月27日

付けで拒絶査定がされた。これに対し,三星モバイルディスプレイ株式リ社(以下

「三星モバイル」という。
)は,平成22年3月2日,拒絶査定に対する不服審判

の請求(不服2010−4583号)をした。その後,特許庁は,平成23年8月

11日付けで拒絶理由通知(甲15。以下「本件拒絶理由通知」という。)をし,

三星モバイルは,同年11月15日付け手続補正書(甲17)により特許請求の範

囲及び明細書を補正した(以下「本件補正」といい,本件補正後の明細書を「本件

明細書」という。本件補正後の発明の名称「有機発光表示装置」 。特許庁は,平


成23年12月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,そ
の謄本は,平成24年1月10日,三星モバイルに送達された(附加期間90日)


原告は,2012年(平成24年)7月2日,三星モバイルを吸収合併した。

2 特許請求の範囲の記載

本件補正後の特許請求の範囲(請求項の数9)の請求項1の記載は,次のとおり

である(以下,同請求項に記載された発明を「本願発明」という。。


「データ線にデータ信号を供給するデータ駆動部と;
走査線に走査信号を順次供給し,発光制御線に発光制御信号を順次供給する走査

駆動部と;

前記データ信号,前記走査信号及び前記発光制御信号の供給を受けて映像を表現

する複数の画素を具備する画素部と;

前記画素部の輝度を制御する輝度制御部と;

を備え,
前記輝度制御部は,

2
一フレーム分のデータの大きさによって第1発光制御信号の幅を生成する第1輝
度制限部と;

前記周辺光の強さによって(判決注・これより前に「周辺光の強さ」との記載が

ないので,当該記載は「周辺光の強さによって」の誤記と認める。
)前記第1発光

制御信号の幅を制御して第2発光制御信号の幅を生成する第2輝度制限部と;

前記第2輝度制限部から前記第2発光制御信号の幅の伝達を受けて輝度制御信号

を生成し,前記輝度制御信号を前記走査駆動部に伝送する輝度制御信号生成部と;

を有し,

前記第1輝度制限部は,

一フレーム分のデータを合算して合算データを生成し,前記合算データの最上位

ビットを含む少なくとも二つのビット値を制御データとして伝送するデータ合算部

と;

前記制御データの値に対応する前記第1発光制御信号の幅を保存する第1ルック
アップテーブルと;

前記データ合算部から伝送された制御データの値に対応する前記第1発光制御信

号の幅を前記第1ルックアップテーブルから抽出し,前記第2輝度制限部に伝送す

る第1制御部と;

を有し,

前記第2輝度制限部は,
前記周辺光の強さを感知してあらかじめ設定された少なくとも二つのモード値の

中でいずれか一つを伝送するフォトセンサーと;

前記モード値に対応する変動値を保存する第2ルックアップテーブルと;

前記フォトセンサーから伝送されたモード値に対応する前記変動値を前記第2ル

ックアップテーブルから抽出し,前記第1発光制御信号の幅と前記変動値を利用し

て前記第2発光制御信号の幅を生成して前記輝度制御信号生成部に伝送する第2制
御部と;

3
を有し,
前記第2ルックアップテーブルは,前記変動値として1以下の小数値を保存し,

前記第2制御部は,前記第1発光制御信号の幅と前記変動値を乗算して前記第2

発光制御信号の幅を生成することを特徴とする,有機発光表示装置。」

3 審決の理由

審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開2

005−55726号公報(甲1。以下, 引用刊行物」といい,引 用刊行物に記


載された発明を「引用発明」という。
)に記載された発明及び周知技術に基づいて,

容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項により特許を受ける

ことができないというものである。

審決が認定した引用発明の内容,同発明と本願補正発明との一致点及び相違点は

以下のとおりである。

(1) 引用発明の内容
「ソース信号線18に映像データに応じたプログラム電流Iwを流すソースドライ

バ回路14と;

電流プログラムを行う画素行を選択するゲート信号線17aにオン電圧を印加す

るゲートドライバ回路12aと,EL素子15に電流を流す期間を設定するゲート

信号線17bにオン電圧を印加するゲートドライバ回路12bと;

前記プログラム電流Iw,前記ゲート信号線17aへのオン電圧,前記ゲート信
号線17bへのオン電圧が印加されることにより,画像表示を行う複数の画素を有

する画面50と;

前記画面50の輝度の調整するために,1フレーム期間における前記EL素子1

5の点灯期間を規定するDuty比制御データを生成し,前記Duty比制御デー

タを前記ゲートドライバ回路12bに送る演算処理回路839と;

を備え,
前記演算処理回路839は,

4
1フレーム期間の映像データの総和と,その最大値との比である,データ和/最
大値を求め,

外光の明るさを検出して,前記データ和/最大値と前記Duty比の関係を示す

Duty比カーブとして,屋外用のDuty比カーブa,屋内と屋外との中間状態

用のDuty比カーブb,屋内用のDuty比カーブcの内の一つに自動的に切り

替え,前記切り替えられた一つのDuty比カーブに従って,前記データ和/最大

値に対応する前記Duty比を有するDuty比制御データを生成し,前記Dut

y比制御データを前記ゲートドライバ回路12bに送ることにより,

前記1フレーム期間の映像データの総和と前記外光の明るさに応じたDuty比

を有する前記Duty比制御データを生成し,前記Duty比制御データを前記ゲ

ートドライバ回路12bに送るものであって,

前記演算処理回路839は,

前記1フレーム期間の映像データの総和と,その最大値との比である,前記デー
タ和/最大値を求める回路部分と,

前記データ和/最大値に対応する前記Duty比を保存するルックアップテーブ

ルである,前記Duty比カーブa,b,cと,

前記外光の明るさを検出して,前記Duty比カーブa,b,cのいずれか一つ

に切り替えるための信号を出力するホトセンサ

を有するEL表示装置。」
(2) 一致点

「データ線にデータ信号を供給するデータ駆動部と;

走査線に走査信号を順次供給し,発光制御線に発光制御信号を順次供給する走査

駆動部と;

前記データ信号,前記走査信号及び前記発光制御信号の供給を受けて映像を表現

する複数の画素を具備する画素部と;
前記画素部の輝度を制御する輝度制御部と;

5
を備え,
前記輝度制御部は,

1フレーム分のデータの大きさと周辺光の強さに応じて生成された第2発光制御

信号の幅に対応して輝度制御信号を生成し,前記輝度制御信号を前記走査駆動部に

伝送するものであって,

前記輝度制御部は,

前記1フレーム分のデータを合算した合算データに基づく値を生成して,その後

の処理に利用する回路部分と;

前記1フレーム分のデータを合算した合算データに基づく値に対応する,第2発

光制御信号の幅に応じたパラメータを保存するルックアップテーブルと;

前記周辺光の強さを感知してあらかじめ設定された少なくとも二つのモード値の

中でいずれか一つを伝送するフォトセンサーとを有する有機発光表示装置。


(3) 相違点
ア 相違点1

1フレーム分のデータの大きさと周辺光の強さに応じて生成された第2発光制御

信号の幅に対応して輝度制御信号を生成する処理に関し,本願発明では,一フレー

ム分のデータの大きさに対応する第1発光制御信号の幅を生成した後に,周辺光の

強さによって第1発光制御信号の幅を制御して第2発光制御信号の幅を生成するの

に対し,引用発明では外光の明るさによって切り替えられたDuty比カーブa,
b,cのいずれか一つにしたがって,データ和/最大値に対応するDuty比が出

力される点。

また,これに派生して,ルックアップテーブルを使用して第2発光制御信号の幅

を生成する具体的構成に関し,本願発明では,第1,第2の2つのルックアップテ

ーブルのそれぞれに,第1の発光制御信号の幅と,1以下の小数値である変動値が

記憶され,1フレーム分のデータを合算した合算データに基づく値(制御データ)
に応じた第1の発光制御信号の幅と,周辺光の強さに応じた変動値を乗算して第2

6
発光制御信号の幅を生成する構成であるのに対し,引用発明では,ルックアップテ
ーブルであるDuty比カーブa,b,cに,第2発光制御信号の幅そのものであ

るDuty比が記憶され,外光の明るさに対応するDuty比カーブから,1フレ

ーム分のデータを合算した合算データに基づく値(データ和/最大値)に応じたD

uty比を出力する構成である点。

イ 相違点2

発光制御信号の幅を格納したルックアップテーブルをアドレスするデータに関し,

本願発明では,
「合算データの最上位ビット を含む少なくとも二つの ビット値」で

ある「制御データ」であるのに対し,引用発明ではそのような特定がされていない

点。

第3 当事者の主張

1 取消事由に係る原告の主張

(1) 取消事由1(引用発明の認定の誤り)
審決は,引用発明は「前記1フレーム期間の映像データの総和と前記外光の明る

さに応じたDuty比を有する前記Duty比制御データを生成」するものと認定

する。

しかし,引用刊行物には,「たとえば, aは 屋外用のカーブである。cは屋内 用

のカーブである。bは屋内と屋外との中間状態用のカーブである。カーブa,b,

cとの切り替えは,ユーザーがスイッチを操作することにより切り替えるようにす
る。また,外光の明るさをホトセンサで検出し,自動的に切り替えるようにしても

よい。なお,Duty比カーブを切り替えるとしたが,これに限定するものではな

い。計算によりDuty比カーブを発生させてもよいことは言うまでもない。(段


落【1305】
)と記載されているにすぎず, 外光の明るさをホトセンサで検出」


することと「Duty比カーブを切り替える」ことの因果関係が示されていない。

したがって,審決の上記引用発明の認定には誤りがある。
(2) 取消事由2(一致点の認定の誤り)

7
審決は,引用発明の「前記演算処理回路839」が有する「前記Duty比カー
ブa,b,c」と,本願発明の「輝度制御部」が有する「第1ルックアップテーブ

ル」は,
「輝度制御部」が有する「1フレーム分のデータを合算した合算データに

基づく値に対応する,第2発光制御信号の幅に応じたパラメータを保存するルック

アップテーブル」である点で共通すると認定する。

しかし,本願発明において,「第1ルックアップテーブル」は,
「前記制御データ

の値に対応する前記第1発光制御信号の幅を 保存する」ものであり,
「第2輝度制

限部」は,「周辺光の強さによって前記第1発光制御信号の幅を制御して第2発光

制御信号の幅を生成する」ものであり,第1ルックアップテーブルに保存されるパ

ラメータとしての第1発光制御信号の幅は,1フレーム分のデータを合算した合算

データに基づく値に対応しているものの,第2発光制御信号の幅に応じたパラメー

タを保存するルックアップテーブルではない。

したがって,審決の上記一致点の認定には誤りがある。
(3) 取消事由3(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)

審決は,相違点1に関し,以下のとおり,周知技術の適用を誤り,顕著な効果を

看過しており,容易想到性判断に誤りがある。

周知技術の適用の誤り

審決は,引用発明に周知技術(入力される画像データの特徴量と周辺光の強さに

応じて画面全体の輝度を制御するに当たり,入力される画像データの特徴量に応じ
て導かれるパラメータを生成した後に,これを周辺光の強さに応じて決定されるパ

ラメータによって補正することにより,最終的に画面全体の輝度を制御するパラメ

ータを生成する技術)を適用した後に,周辺光の強さに応じて,第1発光制御信号

の幅を補正する具体的処 理として,
「周辺光の強さに応じて画面全体 の輝度を補正

する具体的処理として,周辺光の強さに応じて複数のモードの1つを選択し,選択

されたモードに応じて変動値を出力し,出力された変動値をもともとの画面輝度制
御信号に乗算して,新たな画面輝度制御信号を生成する技術 」
(以下「周知・慣用

8
の技術1」という。
)を適用し,本願発明の 構成に想到することは,当業者が適宜
なし得る設計変更にすぎないと判断する。

しかし,引用発明におけるDuty比カーブa,b,cにおいては,データ和/

最大値が大きくなるほど,Duty比の差分が広がり,Duty比が低下する。一

方,特開2003−255901号公報(甲3)には, 外光の明るさに 応じて複


数のモードの一つを選択し,モードごとの変動値を保存するルックアップテーブル

を設け,選択されたモードに応じた変動値を出力し,出力された変動値をもともと

の画面輝度制御信号に乗算して,新たな画面輝度制御信号を生成する」ことが記載

されており,変動値が1以下の小数値であるとすると,各Duty比カーブのDu

ty比の差分は,データ和/最大値が大きくなるほど狭まる。

したがって,引用発明に周知・慣用の技術1を適用することには阻害要因がある。

ま た,上記審決の判 断 は, 引 用発明に周知・ 慣 用 技術 1を 適 用するのではな く ,

「引用発明に周知技術を適用した発明」に,更に周知技術である周知・慣用の技術
1を適用するものであって,その判断手法自体失当である。

イ 顕著な効果の看過

本願発明は,第1処理において,周辺光の要因を除外した状態で制御データの値

に対応する第1発光制御信号の幅を抽出し,第2処理において,第1の発光制御信

号の幅と周辺光の強さに応じて設定される変動値を利用して第2発光制御信号の幅

を生成するとの構成により,@1つの処理でDuty比を制御する引用発明と比較
して,より緻密な制御ができる,A第1輝度制限部によって第1発光制御信号の幅

を抽出して第2輝度制限部に送るまでの処理と,第2輝度制限部によって変動値を

抽出するまでの処理を並行して行ことができ,第2発光制御信号の幅を算出する処

理を効率良く高速に行うことできる,B第1ルックアップテーブルでは,周辺光の

影響を除外した状態で,制御データの値に対応する第1発光制御信号の幅の特性を

保存するのみでよく,第2ルックアップテーブルでは,周辺光の強さを感知して設
定された少なくとも2つのモード値に対応する変動値を保存するのみでよいため,

9
複数の外光の明るさに応じた複数のDuty比カーブa,b,cを予め保持してお
く必要がある引用発明と比較して,ルックアップテーブルを保存するためのデータ

量を大幅に削減することができるとの,顕著な効果を奏する。

また,本願発明は,制御データの大きさに応じて,第2制御信号の幅に対する周

辺光の強さの相対的影響を変化させて的確に対処することができ,画面が明るい場

合に,過度に輝度が低下してしまうことを抑止することが可能であり,引用発明,

特開2004−354882号公報(甲2)記載の周知技術,特開2003−25

5901号公報(甲3)記載の周知・慣用の技術1とは異なる顕著な効果を奏する。

(4) 取消事由4(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)

審決は,相違点2に関し,以下のとおり,顕著な効果を看過しており,容易想到

性判断に誤りがある。

すなわち,本願発明は,
「合算データの最 上位ビットを含む少なく とも二つのビ

ット値」を「制御データ」としているため,合算データが所定値以下の場合には,
合算データは下位ビット(最上位ビットを含む少なくとも2つのビット以外のビッ

ト)の値のみによって表され,制御データの値に対応する第1発光制御信号の幅を

同一とすることができ,暗い画像を表示する場合に,明暗比を向上させ,コントラ

ストを高めた画像を表示することができるという優れた効果を奏する。

これに対し,引用発明は,データ和/最大値が所定値以下の場合に第1の発光制

御信号の幅を一定に維持するための構成を何ら備えていない。また,特開2001
−184016号公報(甲4)には,
「1垂 直期間の入力輝度信号を 積分した信号

の上位6ビット」をアドレスとして使用する旨の記載はあるが,ガンマテーブルの

選択に係るものであり,コントラストを高めた画像を表示するといった効果を奏す

るものではない。

したがって,審決の相違点2に係る容易想到性判断には誤りがある。

(5) 取消事由5(手続違反
甲2ないし4は,本願発明と引用発明との相違点に係る容易想到性を肯認する判

10
断の核心的な引用例として用いられているのであるから,拒絶理由において提示さ
れるべきであった。しかし,甲2ないし4は,いずれも審査ないし審判における審

理において原告に対して提示されておらず,原告に意見書を提出する機会が与えら

れなかったのであるから,本件審判手続は,特許法159条2項で準用する同法5

0条に違反する。

2 被告の反論

(1) 取消事由1(引用発明の認定の誤り)に対して

原告は,引用刊行物には, 外光の明るさを ホトセンサで検出」することと「 D


uty比カーブを切り替える」ことの因果関係が示されていないとして,審決の引

用発明の認定には誤りがあると主張する。

しかし,甲1の段落【1305】の記載及び図197に接した当業者であれば,

引用発明は,外光の明るさをホトセンサで検出した結果に応じて,カーブa,b,

cの切り替えを行うものであると理解することができる。
したがって,審決の引用発明の認定に誤りはない。

(2) 取消事由2(一致点の認定の誤り)に対して

原告は,本願発明において,第1ルックアップテーブルに保存されるパラメータ

としての第1発光制御信号の幅は,1フレーム分のデータを合算した合算データに

基づく値に対応しているものの,第2発光制御信号の幅に応じたパラメータを保存

するルックアップテーブルではないとして,審決の一致点の認定には誤りがあると
主張する。

しかし,本願発明の「第1ルックアッ プテー ブルに保存されたパラメータ」は,

「第2発光制御信号の幅」をどの程度とすべきかに応じて決められるものである。

また,
「第1ルックアップテ ーブルに保存されたパラメータ」と「第2発光制御信

号の幅」の信号処理上の因果関係についてみても,引用発明の「Duty比カーブ

a,b,c」と本願発明の「第1ルックアッ プテーブル」は,
「第2発光制御信号
の幅に関係するパラメータを保持するルックアップテーブル」である点で共通する。

11
したがって,審決の一致点の認定に誤りはない。
(3) 取消事由3(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)に対して

周知技術の適用の誤り

原告は,相違点1に関し,引用発明に周知・慣用の技術1を適用することには阻

害要因がある上,審決の判断は,引用発明に周知・慣用の技術1を適用するのでは

なく, 引 用発明に周知技術 を適用した発明」に,更に周知技術である周知・慣用


の技術1を適用するものであって,その判断手法自体失当であると主張する。

この点,甲3記載の技術は,周辺光に応じて輝度のゲインを制御するのに対し,

引用発明は,周辺光に応じて輝度の減少量のゲインを制御する点において相違し,

両者は,データ和/最大値が大きくなるにつれて,輝度の減少量が増大するか減少

するかの点で相違するとしても,引用文献の記載に接した当業者ならば,引用発明

において,データ和/最大値が大きくなるにつれて輝度の減少量を増大させたり,

データ和/最大値が最小のときにDuty=1としたりする必要はないことや,引
用発明の周辺光に応じた輝度制御の本質は,外光等に応じて画面を暗く(明るく)

することにあると理解できるから,引用発明において,周辺光に応じた輝度制御手

段として,甲3記載のゲイン制御の構成を採用することに阻害要因はない。

また,容易推考の出発点が引用発明である限り,容易推考の数や容易推考に伴い

発生する作業工程数は,容易推考できるか否かを左右しない。引用発明における輝

度制御についてみると,当業者が,1フレーム分のデータの大きさに応じた輝度制
御と周辺光に応じた輝度制御を個別に行うことの着想周知技術(周辺光及びLU

Tによる輝度制御を後から行う構成)から得たならば,周辺光に応じた輝度制御と

して採用する具体的手段について,引用発明のデータ和とDuty比の輝度カーブ

を周辺光に応じて切り替える輝度制御態様から,乗算により変化させる輝度制御に

変更することは,当業者が実際に装置を具体化することに伴う通常の創意工夫にす

ぎない。
したがって,原告の上記主張は失当である。

12
イ 顕著な効果の看過
原告は,本願発明について,1つの処理でDuty比を制御する引用発明と比べ

て,より緻密な制御ができる,第2発光制御信号の幅を算出する処理を効率良く高

速に行うことができる,ルックアップテーブルを保存するためのデータ量を大幅に

削減することができるとの,顕著な効果を奏すると主張する。

しかし,1フレーム分のデータの大きさに応じた輝度制御を行い,更に周辺光に

応じた輝度制御を行うに際して,1つの制御部で総合的に処理するか制御の種類毎

に個別に処理するかは,適宜選択できる技術事項にすぎない。また,原告が主張す

る上記効果は,特許請求の範囲の記載に基づくものでも発明の詳細な説明に記載さ

れたものでもない。本願発明の効果は,消費電力を節減しつつ周辺光の強さに対応

して輝度を制御することができるというものであり,この効果は引用発明も奏する

効果である。

また,原告は,本願発明は,画面が明るい場合に,過度に輝度が低下してしまう
ことを抑止することが可能であり,引用発明等とは異なる顕著な効果を奏すると主

張する。

しかし,本願発明においては,周辺光に応じた輝度制御については,加減により

輝度制御しても,乗算により輝度制御しても,他の方法でも良いとされており,加

減により輝度制御した場合においては,合算データの値が低いほど第2発光制御信

号の幅に対する変動値の相対的影響が大きくなり,原告が主張する効果とは逆の効
果を奏する。このように本願発明の周辺光に応じた輝度制御については,周辺が暗

くなった(明るくなった)とき輝度を落とす(上げる)方向に制御されればよく,

原告が主張する上記効果は,本願の発明の詳細な説明には開示されていない。

したがって,原告の上記主張は失当である。

(4) 取消事由4(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)に対して

原告は,相違点2に関し,本願発明は,合算データが所定値以下の場合には,合
算 データは下 位ビット (最 上 位ビット を含む少 なく と も 2つの ビット 以 外 の ビッ

13
ト)の値のみによって表され,制御データの値に対応する第1発光制御信号の幅を
同一とすることができ,暗い画像を表示する場合に,明暗比を向上させ,コントラ

ストを高めた画像を表示することができるという優れた効果を奏すると主張する。

しかし,本願発明に係 る特許請求の範囲には,「前記合算データの最 上位ビット

を含む少なくとも二つの ビット値」と記載され,
「前記合算データの最上 位ビット

を含み最下位ビットを除く少なくとも二つのビット値」とは記載されていないから,

原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。また,画像データの

総和は,引用刊行物(甲1)の段落【1217】に例示された小画面(6ビット×

176×RGB(3)×220)を前提として も約740万通りの値 を取り得るから,

これらすべての値に対するルックアップテーブルを用意することは非現実的であり,

上位数ビットのみを用いてルックアップテーブルを構成することは当然である。な

お,甲4においても,ガンマデータの切り換えに用いるための制御データとして,

輝度信号積分値の最上位ビットを含む上位ビット値を採用している。
したがって,原告の上記主張は失当である。

(5) 取消事由5(手続違反)に対して

原告は,甲2ないし4について,意見書を提出する機会が与えられておらず,本

件審判手続は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反すると主張する。

しかし,甲2及び甲4は,本件拒絶理由通知で示したものである。また,甲3は,

単に乗算による輝度制御が周知慣用されていることを示すものにすぎない。
したがって,原告の上記主張は失当である。

第4 当裁判所の判断

当裁判所は,原告の取消事由の主張には理由がなく,その他,審決にはこれを取

り消すべき違法はないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について

原告は,引用刊行物には, 外光の明るさを ホトセンサで検出」することと「 D

uty比カーブを切り替える」ことの因果関係が示されていないとして,審決の引

14
用発明の認定には誤りがあると主張する。
しかし,原告の上記主張は,採用することができない。すなわち,引用刊行物に

は,「データ和/最大値とDUTY比の関係は,・・・外部環境に合わせて設定す

ることが好ましい。」(段落【1301】),「したがって,ユーザーがボタンで

切り替えできるようにしておくか,設定モードで自動的に変更できるか,外光の明

るさを検出して自動的に切り替えできるように構成しておくことが好まし

い。・・・また,メモリされた複数のDutyカーブから1つを選択できるように

構成することが好ましい。」(段落【1303】),「以上のように,たとえば,

aは屋外用のカーブである。cは屋内用のカーブである。bは屋内と屋外との中間

状態用のカーブである。カーブa,b,cとの切り替えは,ユーザーがスイッチを

操作することにより切り替えるようにする。また,外光の明るさをホトセンサで検

出し,自動的に切り替えるようにしてもよい。なお,Duty比カーブを切り替え

るとしたが,これに限定するものではない。計算によりDuty比カーブを発生さ
せてもよいことは言うまでもない。
」(段落【1305】)との記載がある。

上記によれば,引用発明においては,「Duty比カーブ」について,「ユーザ

ーがスイッチを操作することにより切り替える」ことに代えて,「外光の明るさを

ホトセンサで検出し」,その検出出力に基づいて「自動的に切り替えるようにして

もよい」ものと理解することができる。

したがって,引用刊行物には,「外光の明るさをホトセンサで検出」することと
「Duty比カーブを切り替える」ことの因果関係が示されており,引用発明は,

外光の明るさに応じたDuty比を有するDuty比制御データを生成するもので

あるとした審決の認定に誤りはない。

2 取消事由2(一致点の認定の誤り)について

原告は,本願発明において,第1ルックアップテーブルに保存されるパラメータ

としての第1発光制御信号の幅は,1フレーム分のデータを合算した合算データに
基づく値に対応しているものの,第2発光制御信号の幅に応じたパラメータを保存

15
するルックアップテーブルではないとして,審決の一致点の認定には誤りがあると
主張する。

この点,確かに,本願発明に係る特許請求の範囲の記載(前記第2の2)及び本

件明細書の 段落【 0094 】 ないし 【 009 6】によれ ば ,本願発明において,

「第1ルックアップテーブル」には,「制御データの値に対応する前記第1発光制

御信号の幅」が保存され,「第2輝度制限部」が,「前記周辺光の強さによって前

記第1発光制御信号の幅を制御して第2発光制御信号の幅を生成」するから,「第

1ルックアップテーブル」に保存される「第1発光制御信号の幅」は,1フレーム

分のデータを合算した合算データに基づく値に対応しているものの,「第2発光制

御信号の幅」に応じたものであるとはいえず,引用発明の「前記演算処理回路83

9」が有する「前記Duty比カーブa,b,c」と,本願発明の「輝度制御部」

が有する「第1ルックアップテーブル」とは,「輝度制御部」が有する「1フレー

ム分のデータを合算した合算データに基づく値に対応する,第2発光制御信号の幅
に応じたパラメータを保存するルックアップテーブル」である点で共通するとはい

えない。

しかしながら,審決は,1フレーム分のデータの大きさと周辺光の強さに応じて

生成された第2発光制御信号の幅に対応して輝度制御信号を生成する処理に関し,

本願発明は,1フレーム分のデータの大きさに対応する第1発光制御信号の幅を生

成した後に,周辺光の強さによって第1発光制御信号の幅を制御して第2発光制御
信号の幅を生成する点で引用発明と相違すると認定し,また,これに派生して,ル

ックアッ プ テ ー ブ ルを 使用して第2発光制御信号の幅を生成する具体的構 成に関

し,本願発明では,第1,第2の2つのルックアップテーブルのそれぞれに,第1

の発光制御信号の幅と,1以下の小数値である変動値が記憶され,1フレーム分の

データを合算した合算データに基づく値(制御データ)に応じた第1の発光制御信

号の幅と,周辺光の強さに応じた変動値を乗算して第2発光制御信号の幅を生成す
る構成である点でも引用発明と相違すると認定し,これらの相違点に係る構成の容

16
易想到性について判断している。
したがって,審決には,引用発明の「Duty比カーブa,b,c」と,本願発

明の「第1ルックアップテーブル」との一致点の認定に誤りはあるが,相違点を看

過したとは認められないから,上記誤りは審決の結論に影響を及ぼすものとはいえ

ない。

3 取消事由3(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)について

原告は,相違点1の容易想到性判断に関し,審決は,周知技術の適用を誤り,顕

著な効果を看過した誤りがあると主張する。しかし,原告の上記主張は,以下のと

おり,採用することができない。

(1) 周知技術の適用の誤り

ア 原告は,相違点1に関し,引用発明に周知・慣用の技術1を適用することに

は阻害要因があると主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用することができない。すなわち,特開2004
−354882号公報(甲2)には,「画像解析部71aでは,信号入力部101

から映像信号が入力されると,ヒストグラム作成部71aによって単位時間(1フ

レーム期間)当たりの信号に含まれる画素データの,階調数毎の出現度数分布(ヒ

ストグラム)が作成される。ヒストグラム解析部71bは,このヒストグラムに基

づ いて映像の明るさを 検 出し,各 光 源 10 R〜10 B の光 量を 設 定する。 ( 段落


【0043】 ,
)「明るさ検出部71cは,減 光が許容される範囲(減光範囲)をL
UT(ルックアップテーブル)を参照しながら環境光量信号に基づいて設定する。

LUTは, 視聴環境 の明るさ( 環境 光 量)と許 容される 最 大の 減 光量 ( 最 大 減光

量)Rmとの関係を規定した制御テーブルであり,減光範囲は,減光量がこの最大

減光量Rm以下となる範囲として設定される。このLUTでは,
・・・環境光量が

大きくなるほど最大減光量Rmは小さく規定され,視聴環境が明るいときに減光範

囲が狭くなるようになっている。(段落【0044】 , 設定された光量T0及び
」 )「
減光範囲は光量設定部71dに入力され,ここで実際の光源制御に用いられる光量

17
Tと,映像信号の伸長量P0とが決定される。」(段落【0045】)との記載が
ある。上記記載によれば,フラットパネル表示装置の駆動制御において,入力され

る画像データの特徴量と周辺光の強さに応じて画面全体の輝度を制御するに当たり,

入力される画像データの特徴量に応じて導かれるパラメータを生成した後に,ルッ

クアップテーブルを参照して周辺光の強さに応じて決定される変動値によって,上

記パラメータを補正することにより,最終的に画面全体の輝度を制御するパラメー

タを生成することは,周知の技術であると認められる。
また,特開2003−255901号公報(甲3)には,「図10の輝度制御回

路は,
・・・リファレンス電圧制御回路1内 に,画面全体の輝度(表示輝度)を制

御するための乗算器41が設けられていている点が異なっている。乗算器41に与

えられる全体輝度制御信号 W_Gain は,MPU209によって生成される。(段


落【0075】),「MPU209は,第1カメラ205からの露光時間情報に基

づいて,現在の携帯型電話機の使用環境下での周辺の明るさを推定して,全体輝度
制御信号 W_Gain を生成する。全体輝度制御信号 W_Gain は,例えば,2.0

〜0.5の間の値をとる。」(段落【0077】),「具体的には,露光時間が大

きいとき,つまり周辺の明るさが暗い場合には,全体輝度制御信号 W_Gain を小

さくする。この結果,乗算器41から出力 されるゲインは,
・・・表示輝度が低く

なる。(段落【0078】),「反対に,露光時間が小さいとき,つまり周辺の明


るさが明るい場合には,全体輝度制御信号 W_Gain を大きくする。この結果,乗
算器41から出力される ゲインは,
・・・表示輝度が高くなる。」( 段落【007

9】)との記載がある。上記記載によれば,フラットパネル表示装置の駆動制御に

おいて,画面全体の輝度を補正する方法として,変動値をもともとの画面輝度制御

信号に乗算して,新たな画面輝度制御信号を生成することは,当該技術分野におい

て当業者が普通に行い得る常套手段であると認められる。

さらに,引用刊行物(甲1)には,「外部のマイコンなどにより,Duty比カ
ー ブ ,傾 きな ど を書き 換えるように 構 成することが 好 ま しい。」(段落【 130

18
3】)と記載されており,引用発明におけるDuty比カーブは,図示されたもの
に限定されず,周辺の明るさに応じたデータ和/最大値とDuty比との関係を適

宜設定できるものと認められる。

以 上によれば , 引 用発明においては, 外 光の明るさ(本願発明の「周辺光の強

さ」に相当)によって切り替えられたDuty比カーブa,b,cのいずれか1つ

にしたがって,データ和/最大値(本願発明の「合算データ」に相当)に対応する

Duty比 (本願発明の「第2発光制御信号の幅」に 相 当)を出 力することによ

り,1つのデータ和/最大値に対して,外光の明るさに応じて,異なるDuty比

を出力しているところ,データ和/最大値と外光の明るさをDuty比に反映させ

る具体的構成として,データ和/最大値に基づいてパラメータ(本願発明の「第1

発光制御信号の幅」に相当)を生成するとともに,ルックアップテーブルを参照し

て外光の明るさに応じた変動値を設定し,この変動値で上記データ和/最大値に基

づいて生成したパラメータを補正して,異なるDuty比を生成することは,上記
周知技術に基づいて容易に想到し得たものといえる。

そして,引用発明に上記周知技術を適用して,上記データ和/最大値に基づいて

生成したパラメータを,ルックアップテーブルを参照して設定した外光の明るさに

応じた変動値で補正する際に,この変動値と上記生成したパラメータとを乗算する

ことは,上記のとおり,当業者が普通に行い得る常套手段である上,上記変動値を

本願発明のように1以下の小数値とすることは,周辺の明るさに応じた上記データ
和/最大値とDuty比との関係を設定するにあたり,当業者が適宜選択し得る事

項である。

したがって,引用発明に上記周知技術及び常套手段を用いて相違点1に係る構成

とすることに阻害事由はなく,当業者が容易に想到し得たといえる。

イ これに対し,原告は,審決の相違点1に係る判断は,引用発明に周知・慣用

の技術1を適用するのではなく , 引用発明に周知技術を適用した発明」に,更に

周知技術である周知・慣用の技術1を適用するものであって,その判断手法自体失

19
当であると主張する。
しかし,上記のとおり,周知・慣用の技術1は,本願の優先権主張日前における

当該 技術 分野の 技術 水 準を示す も のにすぎず , 引用発明に上記周知技術 を 適 用し

て,データ和/最大値に基づいてパラメータを生成した後に,外光の明るさに応じ

て上記パラメータを補正して,異なるDuty比を生成するようにする際に,外光

の明るさに応じて複数のモードの1つを選択し,モードごとの変動値を保存するル

ックアップテーブルを設け,選択されたモードに応じた変動値を出力し,出力され

た変動値をもともとの画面輝度制御信号に乗算して,新たな画面輝度制御信号を生

成することは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないことを裏付けるために補

助的に用いられたものと認められる。

したがって,審決における相違点1に関する判断は,「引用発明に周知技術を適

用した発明」に,更に周知技術を適用するものとはいえず,原告の上記主張は採用

することができない。
顕著な効果の看過
(2)

原告は,審決には,相違点1に係る容易想到性判断において,本願発明の顕著な

効果を看過した誤りがあると主張する。

しかし,原告の上記主張は,採用することができない。すなわち,本願発明に係

る特許請求の範囲の記載(前記第2の2)及び本件明細書の 段落【0014 】,

【0015】によれば,本願発明は,有機発光表示装置における画素部の輝度を制
御する輝度制御部が,第1輝度制限部,第2輝度制限部及び輝度制御信号生成部を

有し,上記第1輝度制限部が,1フレーム分のデータを合算して合算データを生成

し,上記合算データの最上位ビットを含む少なくとも2つのビット値を制御データ

として伝送するデータ合算部と,上記制御データの値に対応する第1発光制御信号

の幅を保存する第1ルックアップテーブルと,上記データ合算部から伝送された制

御データの値に対応する上記第1発光制御信号の幅を上記第1ルックアップテーブ
ルから抽出し,上記第2輝度制限部に伝送する第1制御部により,1フレーム分の

20
データの大きさによって上記第1発光制御信号の幅を生成し,上記第2輝度制限部
が,周辺光の強さを感知してあらかじめ設定された少なくとも2つのモード値の中

でいずれか1つを伝送するフォトセンサーと,上記モード値に対応する1以下の小

数値を変動値として保存する第2ルックアップテーブルと,上記フォトセンサーか

ら伝送されたモード値に対応する上記変動値を上記第2ルックアップテーブルから

抽出し,上記第1発光制御信号の幅と上記変動値を乗算して第2発光制御信号の幅

を生成して上記輝度制御信号生成部に伝送する第2制御部とにより,周辺光の強さ

によって上記第1発光制御信号の幅を制御して上記第2発光制御信号の幅を生成す

るとの構成によって,消費電力を節減して周辺光の強さに対応して輝度を制御する

ことが可能 な有機発光表示装置を 提 供するとの 点に 技術的意 義 を有する も のであ

る。

これに対し,引用発明は,前記第2の3(1),第4の1のとおり, EL表示装置

において,画面50の輝度の調整するために,1フレーム期間におけるEL素子1
5の点灯期間を規定するDuty比制御データを生成し,上記Duty比制御デー

タをゲートドライバ回路12bに送る演算処理回路839を備え,上記演算処理回

路839は,1フレーム期間の映像データの総和と,その最大値との比である,デ

ータ和/最大値を求める回路部分と,上記データ和/最大値に対応するDuty比

を保存するルックアップテーブルである,屋外用のDuty比カーブa,屋内と屋

外との中間状態用のDuty比カーブb,及び屋内用のDuty比カーブcと,外
光の明るさを検出して,上記Duty比カーブa,b,cのいずれか1つに切り替

えるための信号を出力するホトセンサとを有し,外光の明るさを検出して,上記D

uty比カーブa,b,cの内の1つに自動的に切り替え,上記切り替えられた1

つのDuty比カーブに従って,データ和/最大値に対応するDuty比を有する

Duty比制御データを生成し,上記Duty比制御データを上記ゲートドライバ

回路12bに送るように構成したものと認められる。
そして,引用発明は,上記の構成により,「データ和/最大値とDUTY比の関

21
係は,画像データの内容 ,画像表示状態, 外 部環境に合わせて設定する」(甲1・
段落【1301 】
)ようにしたもので,具体的には,周辺が明るい屋外ではDUT

Y比を大きくすることで表示輝度を高くし,周辺が暗い屋内ではDUTY比を小さ

くすることで表示輝度を低くした(甲1・【図197】)ものと認められる。

そうすると,引用発明は,本願発明と同様,有機発光表示装置において,消費電

力を節減して周辺光の強さに対応して輝度を制御することを可能にしたとの作用効

果を奏すると認められるから,相違点1に係る構成により,作用効果の点で,本願

発明との間に格別の相違が生じるとはいえない。

さらに,本願発明における,1つの処理でDuty比を制御する構成と比べて,

より緻密な制御ができる,第2発光制御信号の幅を算出する処理を効率良く高速に

行うことができる,ルックアップテーブルを保存するためのデータ量を大幅に削減

することができるとの効果も,引用発明に上記周知技術及び常套手段を適用するこ

とにより奏する効果として自明であり,格別な効果とはいえない。

なお,原告は,本願発明によれば,制御データが小さい場合,すなわち,合算デ

ータの値が低いほど,第2発光制御信号の幅に対する変動値の相対的影響が大きく

なり,一方,制御データが大きい場合,すなわち,合算データの値が高いほど,第

2発光制御信号の幅に対する変動値の相対的影響が小さくなるから,画面が明るい

場合に,過度に輝度が低下してしまうことを抑止し,適正な輝度で表示を行うこと

が可能になるとの効果を奏すると主張する。
しかし,上記のとおり,引用発明に上記周知技術を適用して,データ和/最大値

に基づいて生成したパラメータを,ルックアップテーブルを参照して設定した外光

の明るさに応じた変動値で補正する際に,この変動値と上記生成したパラメータと

を乗算することは,当業者が普通に行い得る常套手段であり,また,上記変動値を

本願発明のように1以下の小数値とすることは,周辺の明るさに応じた上記データ

和/最大値とDuty比との関係を設定するに当たり,当業者が適宜選択し得る事
項であるから,その結果,上記データ和/最大値の値が高いほど上記Duty比に

22
対する上記変動値の相対的影響が小さくなることは当然であり,上記効果は格別の
ものとはいえない。

(3) 小括

以上のとおり,審決には,相違点1に関し,周知技術の適用の誤り,顕著な効果

の看過はなく,容易想到性判断にも誤りはない。

4 取消事由4(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)について

原告は,相違点2に関し,本願発明は,合算データが所定値以下の場合には,合

算 データは下 位ビット (最 上 位ビット を含む少 なく と も 2つの ビット 以 外 の ビッ

ト)の値のみによって表され,制御データの値に対応する第1発光制御信号の幅を

同一とすることができ,暗い画像を表示する場合に,明暗比を向上させ,コントラ

ストを高めた画像を表示することができるという優れた効果を奏すると主張する。

し かし,原告の上記主張は, 採 用することができない。すな わち ,特 開 200

1−18401 6 号 公報(甲4)には,「 図 1のガンマ データ 切 り替 え手 段 11
は,検出された輝度信号のデジタルデータにコンバートされたデータ入力と,カウ

ン タ 回路 111,書き 込みアド レス発生回路 112と,・・・ ガンマ ROM 11

3,・・・から構成されている。」(段落【0044】),「本発明の実施形態で

は,図2に示すように輝度信号に対応して切り換えるガンマデータを64種類,輝

度信号は1024階調のデジタルデータとしている為,64種類のガンマデータを

切り換える為,積分回路を通った信号を6ビットのADコンバータ102を介して
上位ビットとし,1024階調それぞれのガンマテーブルを選択する為のアドレス

をカウンタ回路111によって作成し,それを下位ビットとして書き込みアドレス

発生回路112に入力している。」(段落【0045】)との記載がある。

上記記載によれば,フラットパネル表示装置の駆動制御において,1フレーム分

の映像データの合算値に応じた制御を行うに当たり,1フレーム分の映像データを

合算した合算データの最上位ビットを含む少なくとも2ビットの上位ビットを制御
データとすることは,当該技術分野では周知の技術であるといえる。そうすると,

23
引用発明において,データ和/最大値に基づいて,Duty比カーブをアドレスし
ているところ,1フレーム部分の画像データの総和に基づく値として,データ和/

最大値の最上位ビットを含む少なくとも2ビットの上位ビットによって,Duty

比カーブをアドレスすることは,上記周知技術に基づいて容易に想到し得たものと

いえる。

これに対し,原告は,引用発明は,データ和/最大値が所定値以下の場合に第1

の発光制御信号の幅を一定に維持するための構成を備えていない,甲4記載の発明

は,ガンマテーブルの選択に係るものであり,コントラストを高めた画像を表示す

るといった効果を奏するものではないと主張する。しかし,甲4に記載されたよう

周知技術は,ガンマテーブルの選択に係るものに限られず,1フレーム分の映像

データの合算値に応じた制御に適用できることは,当業者には明らかであるから,

引用発明に上記周知技術を適用することにより相違点2に係る構成とすることは,

当業者が容易に想到し得たものといえる。
なお,本願発明に係る特許請求の範囲の記載(前記第2の2)によれば,「第1

輝度制限部」が有するデータ合算部は,
「一フレーム分のデータを合 算して合算デ

ータを生成し,前記合算データの最上位ビットを含む少なくとも2つのビット値を

制御データとして伝送する」ものであって,1フレーム分のデータを合算して生成

した合算データの全てのビット値を制御データとして伝送する場合が含まれるとこ

ろ,この場合には,原告が主張する上記効果を奏するとは認められない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができず,審決の相違点2に係る

容易想到性判断に誤りはない。

5 取消事由5(手続違反)について

原告は,甲2ないし4について,意見書を提出する機会が与えられておらず,本

件審判手続は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反すると主張する。

し かし,甲2及び甲4は,本件拒絶理由通知(甲15)において原告に 提 示さ
れ,これに対し,原告は,平成23年11月15日付けで意見書(甲16)及び手

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続補正書(甲17)を提出している。
一方,甲3は,審査及び審判における審理において,原告に対して提示されてい

ない。しかし,特許庁は,平成22年3月2日付け手続補正書(甲6)により補正

された,本願の請求項9に係る発明(「前記第2制御部は,前記第1発光制御信号

の幅と前記変動値を乗算して前記第2発光制御信号の幅を生成することを特徴とす

る,請求項8に記載の有機発光表示装置。」)について,本件拒絶理由通知(甲1

5)において,「引用発明に上記周知技術を適用するに際して,当業者が適宜なし

得る設計的事項に過ぎない。」と判断し,これに対し,原告は,平成23年11月

15日付けで意見書(甲16)及び手続補正書(甲17)を提出し,同手続補正書

による補正において,上記請求項9記載の発明特定事項を,請求項1に付け加え

た。そして,特許庁は,審決において,相違点1について,引用発明に周知技術

適用して,データ和/最大値に基づいて生成したパラメータを,ルックアップテー

ブルを参照して設定した外光の明るさに応じた変動値で補正する際に,この変動値
と上記生成したパラメータとを乗算することは,当業者が適宜なし得た事項である

との本件拒絶理由通知と同様の判断をし,当該技術分野の技術水準を示し,上記の

判断を裏付けるために甲3を掲記したものであり,新たな拒絶理由により審判をし

たとはいえない。

以上によれば,本件審判手続は,特許法159条2項で準用する同法50条の規

定に違反するとはいえない。
6 結論

以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がなく,他に審決にはこれを取

り消すべき違法は認められない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも,理

由がない。よって,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第3部



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裁判長裁判官

芝 田 俊




裁判官

西 香




裁判官
知 野 明




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