審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成24行ケ10057審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10098審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
判例 | 特許 | |
平成25行ケ10172審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成25行ケ10271審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
平成
24年
(行ケ)
10225号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2013/02/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成25年2月21日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官 平成24年(行ケ)第10225号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成25年2月7日 判 決 原 告 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 同訴訟代理人弁護士 田 中 千 博 溝 内 伸 治 郎 小 林 幸 夫 坂 田 洋 一 同 弁理士 三 枝 英 二 中 野 睦 子 宮 川 直 之 被 告 ツルヤ化成工業株式会社 同訴訟代理人弁護士 村 林 一 井 上 裕 史 同訴訟復代理人弁護士 佐 合 俊 彦 主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が無効2011−800215号事件について平成24年5月17日にし た審決を取り消す。 第2 事案の概要 本件は,後記1のとおりの手続において,原告の後記2の本件発明に係る特許に 対する被告の特許無効審判の請求について,特許庁により当該特許につき訂正を認 めた上でこれを無効とする別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記 3のとおり)がされたところ,原告が,本件審決には,後記4の取消事由があると 主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成7年2月8日,発明の名称を「高温加熱殺菌飲料の甘味付与方 法」とする特許出願をし,平成16年5月28日,設定の登録(特許第35583 99号。請求項の数4)を受けた(乙1)。以下,この特許を「本件特許」という。 被告は,平成23年10月25日,本件特許について特許無効審判を請求し (乙2),無効2011−800215号事件として係属した。これに対して,被告 は,平成24年1月10日,訂正請求をした(甲20。これにより請求項の数は, 3となった。。 ) 特許庁は,平成24年5月17日,前記訂正を認めた上で本件特許を無効と する旨の本件審決をし,その謄本は,同月25日,原告に対して送達された。 2 特許請求の範囲の記載 本件審決が判断の対象とした前記訂正後の特許請求の範囲請求項1ないし3の記 載は,次のとおりである。以下,請求項1ないし3に係る発明を請求項の番号に応 じて「本件発明1」ないし「本件発明3」といい,これらを併せて「本件発明」と いうほか,本件発明に係る明細書(甲20)を「本件明細書」という。 【請求項1】レトルト,オートクレーブ,プレート又はチューブ式殺菌により高温 加熱殺菌される飲料に,予めシュクラロースを添加して甘味を付与した後,前記高 温加熱殺菌することを特徴とする高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法 【請求項2】シュクラロースを,0.001重量%から0.5重量%で添加する請 求項1記載の高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法 【請求項3】高温加熱殺菌される飲料のpHの範囲が6.8以上である請求項1記 載の高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法 3 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,要するに,@本件発明1及び2は,引用例(甲1,19。 “ ". / . 0(「新たな高甘味度 !" #" $%&'()*" $% +, )* - 甘味料であるシュクラロースの開発及び適用」1994年(平成6年)刊行))に記 載の発明と同一の発明である,A本件発明は,上記引用例に記載の発明及び周知技 術に基づいて当業者が容易に発明することができた,というものである。 本 件審決が認定した引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。) 並びに本件発明1と引用発明との一致点及び相違点(以下「本件相違点」という。) は,以下のとおりである。 ア 引用発明:高温加熱殺菌される飲料に,予め最大で0.025重量%のシュ クラロースを添加して甘味を付与した後,高温加熱殺菌することを特徴とする,高 温加熱殺菌飲料の甘味付与方法 イ 一致点:高温加熱殺菌される飲料に,予めシュクラロースを添加して甘味を 付与した後,高温加熱殺菌することを特徴とする,高温加熱殺菌飲料の甘味付与方 法 ウ 本件相違点:本件発明1では高温加熱殺菌の手法が「レトルト,オートクレ ーブ,プレート又はチューブ式殺菌」と限定されているのに対し,引用発明ではそ のような手法が明記されていない点 4 取消事由 新規性に係る認定判断の誤り(取消事由1) 容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2) 第3 当事者の主張 1 取消事由1(新規性に係る認定判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本 件審決は,「レトルト,オートクレーブ,プレート又はチューブ式殺菌」 が高温加熱殺菌の手法としては常套手段であり,引用例における「高温加熱殺菌」 との概念に接した当業者が認識できるものといえるから,実質的には選択肢として 記載されているに等しいということもできるのであって,本件相違点が実質的な相 違点とはいえないとする。 しかしながら,飲料の高温加熱殺菌方法としては,レトルト殺菌,オートク レーブ殺菌,高温短時間殺菌,超高温殺菌(UHT殺菌。インジェクション法,イ ンフュージョン法,プレート式,チューブ式及び表面かき取り式を含む。,熱水浸 ) 漬式,熱水噴霧式及びジャケット式等の種々の方法があり,果肉入り飲料等の固液 混合食品については,さらに,ジュピターシステム,オーミック滅菌及びマイクロ 波加熱方式がある。このように,本件発明が採用する「レトルト,オートクレーブ, プレート又はチューブ式殺菌」は,従来飲料に対して使用されている各種の高温加 熱殺菌方法の一部にすぎず,常套手段ではない。 したがって,本件相違点は,実質的な相違点であり,これに反する本件審決 の判断は,誤りである。 〔被告の主張〕 プレート及びチューブ式殺菌は,甘味料を添加した脱脂粉乳を殺菌する方法とし て公知であり,プレート式熱交換器は,飲料工業に広く利用されているから,少な くともプレート及びチューブ式殺菌は,飲料に対して高温加熱殺菌するために採用 される常套手段であることが明らかである。 また,引用発明は,実際の工業的生産設備で行われたものであり,上記のとおり プレート式熱交換器は,飲料工業で広く利用されているから,引用例の「実際の工 業的(生産)設備」との記載から,当業者は,当然に,その高温加熱殺菌が「プレ ート式殺菌等」によるものであることを認識できる。 よって,引用例にはプレート式殺菌等についての開示があるということができ, これに反する原告の主張には理由がない。 2 取消事由2(容易想到性に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 . 本件審決は,@レトルト及びオートクレーブ殺菌は,高温加熱殺菌方法とし て一般的なものであるから,引用発明の加熱殺菌方法としてこれらを採用すること には動機付けがあり,シュクラロースについては高温でもぬきんでた安定性を有す ることが知られている(引用例)から,本件発明は,引用発明から予測される以上 の格別の作用効果を奏するものともいえない,Aプレート及びチューブ式殺菌は, 飲料におけるUHT殺菌等の高温加熱殺菌方法として本件出願日前における周知技 術の一つであるから,引用発明における高温加熱殺菌方法としてこれらを採用する ことに阻害要因はない,として当業者が本件相違点を容易に想到し得るとする。 しかしながら,引用例には,141℃で3.5秒間高温殺菌することが開示 されているが,シュクラロースではレトルト又はオートクレーブ殺菌などの過酷な 高温加熱処理をした場合にも甘味度が低下せず,また,褐変するなどの外観上の不 都合が生じないことは,開示されておらず,また,引用例からは予測ができないこ とである。 アスパルテーム,ステビア抽出物,ネオテーム,果糖又はぶどう糖など,安定性 が高いことが知られている甘味料を添加した飲料は,引用例に記載のUHT殺菌に 対して安定であるものの,レトルト殺菌をすると甘味度が低下し,褐変するといっ た外観上の不都合が生じる。したがって,UHT殺菌に対して安定であるからとい って,レトルト又はオートクレーブ殺菌に供した場合にも安定であるとはいえず, このことは,予測ができない。 プレート及びチューブ式殺菌は,当業者においてUHT殺菌処理の中でもと りわけ焦げ付きを生じやすい殺菌方法であることが知られているところ,引用例に は,シュクラロースを含む飲料をプレート又はチューブ式殺菌に供した場合に焦げ 付きを生ぜずに所望の効果が得られることは,開示されておらず,また,引用例か らは予測ができないことである。 また,砂糖を添加した飲料は,UHT殺菌の一つであるインジェクション式殺菌 (直接加熱方式)に対して安定であるものの,プレート式殺菌(間接加熱方式)で / は焦げ付き又は凝集が発生して,外観及び風味に不都合が生じる。このように,同 じUHT殺菌であっても,殺菌方法によって安定であるとはいえず,プレート又は チューブ式殺菌に供した場合の安定性は,予測ができない。 引用例にいう安定性とは,甘味度のことであって,引用例には,飲料の風味 . や外観の安定性については開示も示唆もない。むしろ,本件発明は,単に高温加熱 殺菌後の甘味の安定だけではなく,飲料の褐変などの色調変化を防止し,かつ,品 質が劣化しないことを目的とした発明であるところ,シュクラロース以外の高甘味 度甘味料は,高温加熱殺菌により甘味度の低下だけではなく褐変するといった外観 上の不都合を生じるし,砂糖は,焦げ付きや凝集といった外観及び風味の劣化が生 じているのに対し,シュクラロースは,こうした問題を生じておらず,本件審決は, 本件発明の有するこのような顕著な作用効果を看過している。 なお,引用例には,シュクラロースに安定性がある一方で,極端な条件下で / は分解が起きる可能性がある旨の記載があるから,シュクラロースに安定性がある としても,それは,引用例に記載の高温加熱殺菌を前提とするものであり,更に過 酷なレトルト,プレート及びチューブ式殺菌の条件でも安定とはいえない。 また,本件発明の作用効果は,シュクラロースの安定性ではなく,シュクラロー スを配合した飲料をレトルト,プレート又はチューブ式殺菌のような過酷な条件で 加熱しても,褐変や風味を損なわないなど高温加熱殺菌の影響を受けないこと,す なわち飲料そのものの安定性である。 したがって,本件発明は,引用例及び周知技術から当業者が容易に想到でき 1 たものではなく,これに反する本件審決の判断は,誤りである。 〔被告の主張〕 引用例には,シュクラロースを添加したバニラミルクを141℃で3.5秒間高 温殺菌する発明が開示されているが,プレート式殺菌は,例えば72℃ないし75℃ で15秒間保持するというものであり,引用例に記載の殺菌方法よりも加熱条件が 緩やかである。また,チューブ式殺菌は,焦げ付きやすいミカン濃縮果汁,あんこ 1 及びとんかつソースなどを殺菌対象としている。 したがって,当業者が,引用発明からプレート式及びチューブ式殺菌をあえて除 外する理由はない。 また,引用例は,シュクラロースを用いたバニラミルクという具体的な飲料につ いて安定性を評価しているのであって,甘味度のみならず,風味及び外観も併せて 評価の対象としているのは当然である。 よって,当業者は,引用発明に基づき本件発明を容易に想到することができたの であって,これに反する原告の主張には理由がない。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明及び引用発明について 本件明細書の記載について 本件発明は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件明細書(甲20) には,本件発明についておおむね次の記載がある。 ア 本件発明は,高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法に関し,より詳細には,長期 保存のために,レトルト,オートクレーブ,プレート又はチューブ式殺菌により高 温加熱殺菌を行う高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法に関する(【0001】。 ) イ 従来から,pH4.6以上の弱酸性からpH8付近の中性の領域において流 通,販売する飲料を製造する場合には,85℃で30分以上の加熱殺菌,120℃ で4分以上の加熱殺菌又はこれらと同等以上の加熱処理をすることが必要であり, 現実には,例えばレトルト殺菌の場合,126℃で30分の殺菌が行われている【0 ( 002】。上記のような飲料に甘味を付与するものとしては,しょ糖,ぶどう糖, ) 果糖等の糖類,ソルビトール,マルチトール等の糖アルコール類があり,これらの 飲料に使用できる可能性のある高甘味度甘味料には,アスパルテーム,グリチルリ チン,ステビア,サッカリン,アセサルファムカリウム等の高甘味度甘味料がある (【0003】。 ) しかし,上記のような甘味料を用いて高温加熱処理を経た飲料においては,飲料 - の色調が変化して褐色になったり,pHがかなり低下して腐敗,酸敗等を起こさせ たり,あるいはガスの発生や配合した素材の性質により製品の品質を著しく劣化さ せる等の問題を生じている。また,飲料の低カロリー化の目的のため,糖アルコー ルや高甘味度甘味料が使用される例があるが,糖アルコールは,甘味の質がしょ糖 と異なり,多量摂取により下痢を引き起こすことがあり,飲料に多量に使用できな いことが問題になっている。既存の高甘味度甘味料については甘味質に満足できる ものはなく,苦みや後引きを持ち,嗜好性を著しく低下させる。例えば,アスパル テームは,熱に対して非常に不安定で,高温処理により甘味を消失するため,高温 加熱殺菌処理を伴う飲料に使用しても商品化ができない。また,ステビアは,弱酸 性から中性付近の飲料に使用したときに,味がとても苦くなり,アスパルテームと 同様,商品化ができないのが実情である(【0004】。上記の理由から,特に高い ) 嗜好性と室温90日間以上,あるいは常温2年近くの長期安定性が要求される高温 加熱殺菌飲料については,しょ糖を使用したものが一般的であるが,しょ糖におい ても高い温度処理によるカラメル化での褐変の問題は,完全には解決できていない。 本件発明は,上記課題に鑑みてされたものであり,しょ糖と同質の甘味質を与え, レトルト,オートクレーブ,プレート又はチューブ式殺菌による高温加熱殺菌に対 して安定な高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法を提供することを目的としている【0 ( 005】。 ) ウ 本件発明の発明者らは,高温加熱殺菌飲料の甘味質や熱安定性に関し鋭意研 究を重ねた結果,レトルト,オートクレーブ,プレート又はチューブ式殺菌により 高温加熱殺菌される飲料に,あらかじめシュクラロースを添加して甘味を付与した 後,上記高温加熱殺菌することにより,しょ糖と同等の甘味質を持ち,かつ,熱に 安定な高温加熱殺菌飲料を得ることができた(【0006】。 ) エ 本件発明における高温加熱殺菌される飲料とは,レトルト,オートクレーブ, プレート又はチューブ式殺菌により高温加熱殺菌処理される飲料であり,具体的な 種類は,コーヒー,紅茶,ココア,乳飲料及びこれらの清涼飲料類,緑茶,抹茶, 2 ウーロン茶,汁粉,甘酒,飴湯等の嗜好性飲料や健康飲料類がある(【0007】。 ) 本件発明におけるシュクラロースは,「4,1′,6′−トリクロロ−4,1′, 6′−トリデオキシ−ガラクトスクロース」 「1′6′−ジクロロ−1′, 又は 6′ −ジデオキシ−β−D−フラクトフラノシル4−クロロ−4−デオキシ−α−D− ガラクトピラノシド」として知られており,しょ糖より約650倍甘く,非代謝性 のノンカロリー高甘味度甘味料である(【0008】。 ) オ 本件発明の飲料中に添加するシュクラロースの添加量は,その飲料に求めら れる甘味度,カロリー等により任意に調整されるが,0.001から0.5重量% が好ましく,他の甘味料等と併用してもよい(【0009】 。また,シュクラロース ) を高温加熱殺菌飲料に添加する方法は,その飲料の製造方法によって任意に選択す ることができる(【0010】。 ) カ 甘味料としてしょ糖,シュクラロース,アスパルテーム又はレバゥディオサ イドを含むpH4.6,pH5.5及びpH7の各水溶液を,85℃,100℃, 120℃又は140℃で30分間加熱した場合の各甘味料の耐熱性の試験において, シュクラロース及びしょ糖の各水溶液は,いずれの条件でも甘味が減少しなかった が,しょ糖の各水溶液を140℃で加熱した場合にはやや褐色となったほか,アス パルテームの各水溶液は,pH7で甘味が著しく減少し,pH4.6で少し苦くな り,レバゥディオサイドの各水溶液は,加熱によってあまり甘味の減少が観察され ないが,後味が苦く,飲料にならないものであった(【0011】〜【0016】。 ) 各種甘味料が添加されたフルーツ牛乳を140℃で18秒プレート式殺菌機に供 したところ,しょ糖及び果糖ブドウ糖液糖が添加されたもの並びにシュクラロース が添加されたものは,良好な味をしていたが,アスパルテームが添加されたものは, 明らかに甘味が減少していた(実施例1。【0016】【0017】 。ステビア又は ) シュクラロースを添加したココア飲料缶を125℃で40分レトルト殺菌機に供し たところ,ステビアを添加したもののみが苦みを発現した(実施例2。【0017】 【0018】。シュクラロース又はアスパルテームを添加した紅茶飲料を121℃ ) 0 で20分レトルト殺菌機に供したところ,シュクラロースを添加したものは,殺菌 前と変わらず風味のよい甘味を有していたが,アスパルテームを添加したものは, 全く甘味が感じられなかった(実施例3。 【0018】。シュクラロースを添加した ) 缶コーヒーを125℃で30分レトルト殺菌機に供したところ,褐変がなく,コク のある甘味を有していた(実施例4。【0018】【0019】 。サッカリンナトリ ) ウム又はシュクラロースを添加した飴湯を121℃で24分レトルト殺菌機に供し たところ,サッカリンナトリウムを添加したものは,苦み及び後引きを有していた が,シュクラロースを添加したものは,コクのある甘味を有していた(実施例5。 【0019】 【0020】。 ) 砂糖又はシュクラロースを添加した甘酒を121℃で3 0分レトルト殺菌機に供したところ,シュクラロースを添加したものは,砂糖を添 加したものよりも明らかに褐変が少なかった(実施例6。 【0020】 【0021】。 ) シュクラロースを添加した汁粉を121℃で30分レトルト殺菌機に供したところ, 甘味に変化はなく,汁粉特有の香りを呈し,良好な味の汁粉が得られた(実施例7。 【0021】 【0022】。 ) シュクラロースが添加されたコーヒー濃縮液を125℃ で30分レトルト殺菌機に供して10倍に稀釈して飲用に供したところ,明らかに 褐変がなく,コクのある甘味を有していた(実施例8。【0022】【0023】。 ) キ 本件発明の方法によれば,しょ糖と同等の甘味質を持ち,レトルト,オート クレーブ,プレート又はチューブ式殺菌による高温加熱殺菌に対しても安定な飲料 を提供することができる(【0024】。 ) 本件発明の技術的思想について 以上の本件明細書の記載によれば,本件発明1は,高温加熱処理が必要とされる 飲料に甘味を付与するためにしょ糖等の既存の甘味料を用いると,高温加熱処理の ために飲料の色調が変化したり,腐敗等が生じたり,品質を劣化させたり,嗜好性 を低下させるという課題を解決するため,レトルト,オートクレーブ,プレート又 はチューブ式殺菌により高温加熱殺菌される飲料にあらかじめ高甘味度甘味料であ るシュクラロースを添加するという方法を採用したものであり,これにより,しょ 3 糖と同等の甘味質を持ち,上記の高温加熱殺菌に対しても安定な飲料を提供するこ とができるという作用効果を奏するものであるということができる。 そして,本件発明2は,本件発明1における高温加熱殺菌飲料へのシュクラロー スの添加量を特定するものであり,本件発明3は,当該高温加熱殺菌飲料のpHの 範囲を特定するものである。 引用例の記載について 引用例は, 「新たな高甘味度甘味料であるシュクラロースの開発及び適用」という 表題の学術論文(甲1,19)であるところ,そこには,おおむね次の記載がある。 ア 要約 シュクラロースは,極めて強い(600倍)砂糖類似の甘味並びに高温及び低p Hで非常に優れた安定性を有する。 イ シュクラロースの開発 甘味料の開発において,一群の中で最も有望なものは,一般にシュクラロースの 名称で知られる「4,1′,6′−トリクロロ誘導体」である。それは,高温及び 低pHのいずれにおいてもぬきんでた安定性と砂糖に近い甘味特性を有している。 シュクラロースは,その後,広く利用されるようになり,カナダでは,SPLEN DAの商標で一般的に利用されている。 ウ 特性及び適用 シュクラロースは,極めて安定であるが,極度な条件下ではいくらかの分解が起 こる可能性があり,このメカニズムも,明らかになっている。シュクラロースは, 高い安定性を有するが,飲食料品の流通システムの性質により,極端な貯蔵条件期 間中,いくらか少量の分解産物が生成することを認識する必要がある。 特定の製品群に添加したときのシュクラロースの分解性を評価するために,通常 の製造及び加工段階での安定性研究が行われたが,高温及び酸性域の両方の条件下 の水系において,シュクラロースは,抜群の安定性を有することが確認された。次 に,焼成,低温殺菌,滅菌(高温殺菌),超高温加工及び射出のような加工段階の安 定性定量化が行われた。 最も一般的な食品系のpHである4.0ないし7.5並びに炭酸清涼飲料及びジ ュース飲料製品のpHである3.0という2つの広いpH範囲を対象とした保存時 の分解の程度を定量化する研究によれば,pH4ないし7.5の範囲での1年間の 分解は,HPLCで測定不能なほど小さい。 ケーキ,ビスケット及びグラハムクラッカーの3つのミックスに14Cを用いて調 製した,砂糖と等しい甘味のシュクラロースを混ぜ込んだところ,ベーキングプロ セス後に回収された全ての放射性標識物質は,未変化のシュクラロースであったこ とから,シュクラロースは,ベーキングプロセスに難なく耐えることができること が実証された(表3)。 保存のために高温処理に頼る食品・飲料における安定性調査の目的で,実際の食 品処方を用いて多くの研究が実施された(表4。トロピカル飲料を93℃で24秒 低温殺菌したものや,バニラミルクを141℃で3.5秒超高温処理したもの,ベ ークドビーンズを121℃で80分滅菌処理したものなど) 製品としては, 。 過酷な pH範囲と温度条件の代表的なものが選ばれた。加工処理は,本来の目的に忠実で あるために実際の工業的(生産)設備で行われた。加工処理は,シュクラロースの 添加による影響がほとんどなかった(図5)。これらすべてのデータは,この製品の 評価の助力となるようにカナダ健康福祉庁に提出された。 エ 承認 カナダ総督は,1991年(平成3年)9月5日,13個のカテゴリーの飲食料 品におけるシュクラロースの使用を許可する規則に署名した(表5。飲料について は,最大0.025重量%添加することが認可された。。 ) 引用例に記載されたシュクラロースの性質について . 以上の引用例の記載によれば,シュクラロースは,しょ糖の600倍でしょ糖に 類似する甘味を有する高甘味度甘味料であって,高温条件下の水系で抜群の安定性 を有し,ケーキ等に添加しても焼成の前後で変化せず,ベーキングプロセスでも安 定性を有し,シュクラロースが添加されたトロピカル飲料を93℃で24秒低温殺 菌し,また,同じくバニラミルクを141℃で3.5秒超高温処理してもシュクラ ロースの添加による影響がほとんどなく,カナダでは高温で殺菌される可能性を有 する飲料に対して最大0.025%添加することが認可されたものであることが, 本件出願日当時までに公知であったものと認められる。 また,引用例の記載から,そこには, 「高温加熱殺菌される飲料に,予め最大で0. 025重量%のシュクラロースを添加して甘味を付与した後,高温加熱殺菌するこ とを特徴とする,高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法」引用発明) ( が記載されており, 本件発明1と引用発明とでは, 「高温加熱殺菌される飲料に,予めシュクラロースを 添加して甘味を付与した後,高温加熱殺菌することを特徴とする,高温加熱殺菌飲 料の甘味付与方法」である点で一致する(一致点)ものと認められる。 他方,引用例には,シュクラロースを添加した食品に対する高温加熱殺菌の手法 が明記されていない(本件相違点)。 2 取消事由1(新規性に係る認定判断の誤り)について 本件出願日当時の刊行物の記載について ア 甲4は, 「殺菌脱脂乳飲料の製造方法」という名称の発明に関する公開特許公 報(特開平7−8167号公報。平成7年1月13日公開)であるが,そこには, UHT殺菌を公知の方法で行うことができ,殺菌装置として間接プレート状,コイ ル式チューブ状又はスクレープ状等の表面熱交換器等を用いることができる旨の記 載がある。 イ 甲7は,今堀和友ほか監修「生化学辞典第2版」 (平成2年11月22日発行) という文献であるが,そこには,「高圧滅菌器」との用語の説明として,「オートク レーブともいう。水を入れた密閉容器で,100℃以上に熱して水蒸気加圧し,水 溶液や器具類を滅菌するのに用いる釜。」との記載がある。 ウ 甲8は,社団法人全国清涼飲料工業会及び財団法人日本炭酸飲料検査協会監 修「改訂新版 ソフト・ドリンクス」 (平成元年12月25日発行)という文献であ るが,そこには,次の記載がある。 ア 飲 料工業で初めに利用された殺菌機は,バッチ方式によるものであり,1 950年代にチューブ式殺菌機が利用されるようになったが,1952年にはプレ ート式熱交換器が導入され,殺菌機の主流は,HTST法(高温短時間殺菌法)へ と移行した。プレート式に関しては,その後UHT法(超高温瞬間加熱処理法)が 導入され,まず乳業において急速に普及し,殺菌効率の改善に寄与した。さらに, 近年,ロングライフミルクの要求から,滅菌及び無菌充填の技術が確立され,UH T滅菌機の利用は,各種の飲料に拡大されつつある。 イ H TST法は,71℃ないし75℃で15秒間以上保持する殺菌方法であ り,UHT法は,130℃ないし150℃で0.5秒ないし4秒間の高温で滅菌す る方法である。これらの方法は,全て牛乳の殺菌及び滅菌を目的として開発され規 定されたもので,その他の各種飲料に関しては,その物性,病原微生物及び一般微 生物などの存在状況,製品の保存性及び品質の保持などあらゆる条件をもとにして, 殺菌温度と保持時間がそれぞれ規定されている。 ウ チ ューブ式殺菌機は,プレート式殺菌機では処理不可能なミカンパルプ, ミカン濃縮果汁などや,固形物を破壊しないで殺菌を行う砂のう入りミカンジュー ス,固形分混合ミックス(汁粉,甘酒など)に用いられる。プレート式熱交換機は, 従来の多管式熱交換機に比べ,その構造を全く異にするもので,性能の優秀さ,利 用の融通性,取扱いの便利さなど多くの特徴を有し,飲料工業に広く利用されてい る。 エ U HT滅菌装置には,間接加熱方式であるプレート式及びチューブ式並び に直接加熱方式であるインジェクションヒーター及びインフュージョンヒーターな どがある。 エ 甲9は,株式会社ビジネスセンター社編集部編集「食品保存便覧」 (平成4年 6月15日発行)という文献であるが,そこには,次の記載がある。 ア 従 来の缶詰及びレトルト食品における加熱殺菌条件は,温度領域が11 . 0℃から125℃の範囲で,殺菌時間は,容器サイズや内容物の物性等に依存する が,多くは数十分から2時間以内である。これに対して,UHT殺菌にあっては, 温度領域が130℃ないし150℃で,殺菌時間は,何秒からせいぜい数分以内で ある。 イ U HTのための熱処理システムであるプレート式熱交換器は,熱効率がよ い,価格が安い,分解検査しやすい,装置がフレキシブルなので拡大・縮小が簡単 にできるなどの特徴があるが,パッキングの取替え費用が高い,低粘性食品に限ら れる,食品によっては焦げ付きやすいなどの欠点がある。 ウ U HTのための熱処理システムであるチューブ式熱交換器は,装置がコン パクトである,パッキングがほとんど不要で保守費が少なくて済む,駆動する部分 がないなどの特徴があるが,圧力損失が非常に大きい,内部を開けて伝熱面を検査 することができない,熱効率がプレート式よりも低い,高粘度食品が焦げ付きやす いなどの欠点がある。 飲料を高温加熱殺菌する方法に関する本件出願日当時の技術常識について 前記1 イに記載のとおり,本件明細書には,飲料を高温加熱殺菌する従来から 現実に行われている方法として126℃で30分の殺菌が行われるレトルト殺菌が 例示されているほか,前記 エに記載のとおり,本件出願日前の一般的な文献にも 飲食料の殺菌方法に関する従来技術として紹介されていることに照らすと,飲料を レトルト殺菌により高温加熱殺菌することは,本件出願日当時の当業者の技術常識 であったものと認められる。 また,前記 ア,ウ及びエに記載のとおり,プレート式及びチューブ式の高温加 熱殺菌方法は,いずれも,本件出願日前の複数の一般的な文献に詳細かつ具体的な 記載があり,その歴史も短いものではないばかりか,前記 ウ ウ に記載のとおり, 特にプレート式熱交換機は,性能の優秀さ,利用の融通性,取扱いの便利さなど多 くの特徴を有し,飲料工業に広く利用されているものである。したがって,飲料を プレート式及びチューブ式の高温加熱殺菌方法により殺菌することは,いずれも本 / 件出願日当時の当業者の技術常識であり,特にプレート式の高温加熱殺菌方法は, 飲料の殺菌方法における代表的な技術であると認められる。 本件発明1及び2の新規性について 前記1 . に説示のとおり,本件発明1と引用発明とでは,「高温加熱殺菌される 飲料に,予めシュクラロースを添加して甘味を付与した後,高温加熱殺菌すること を特徴とする,高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法」である点で一致するが,引用例 には高温加熱殺菌の手法が明記されていない(本件相違点)。 しかるところ,前記 に説示のとおり,飲料をレトルト,プレート又はチューブ 式の高温加熱殺菌方法により殺菌することは,いずれも本件出願日当時の当業者の 技術常識であり,特にプレート式の高温加熱殺菌方法は,飲料の殺菌方法における 代表的な技術であると認められるから,引用例に接した当業者は,飲料の高温加熱 殺菌方法として上記の各方法を当然に想起するものというべきである。 したがって,本件相違点は,実質的な相違点ということはできず,引用発明は, 本件発明1の高温加熱殺菌方法を一部包含するものであって,本件発明1と実質的 に同一の発明であるといえる。 また,本件発明2は,本件発明1において飲料に対するシュクラロースの添加量 を0.001重量%から0.5重量%として特定するものであるが,引用例には, 前記1 エに記載のとおり,シュクラロースを飲料に対して最大0.025重量% 添加することが記載されており,両者の数値は,一部が重複している。 したがって,引用発明は,シュクラロースの添加量において本件発明2と同一の 範囲を包含するものであって,本件発明2と実質的に同一の発明であるといえる。 原告の主張について . 原告は,本件発明が採用する高温加熱殺菌方法が従来使用されている各種の方法 の一部にすぎず,常套手段ではないから,本件相違点が実質的な相違点であると主 張する。 しかしながら,前記 に説示のとおり,飲料をレトルト,プレート又はチューブ 1 式の高温加熱殺菌方法により殺菌することは,いずれも本件出願日当時の当業者の 技術常識であり,特にプレート式の高温加熱殺菌方法は,飲料の殺菌方法における 代表的な技術であると認められるから,引用例に接した当業者は,飲料の高温加熱 殺菌方法として上記の各方法を当然に想起するものというべきである。 したがって,原告の上記主張は,採用できない。 小括 / 以上のとおり,引用発明は,本件発明1及び2と実質的に同一の発明であるとい えるから,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。 3 取消事由2(容易想到性に係る判断の誤り)について 本件発明1について 前記2 に説示のとおり,本件発明1は,引用発明と実質的に同一の発明である が,仮に本件相違点が実質的な相違点であると考えたとしても,前記2 に説示の とおり,飲料をレトルト,プレート又はチューブ式の高温加熱殺菌方法により殺菌 することは,いずれも本件出願日当時の当業者の技術常識であり,特にプレート式 の高温加熱殺菌方法は,飲料の殺菌方法における代表的な技術であると認められる から,引用例に接した当業者は,飲料の高温加熱殺菌方法として上記の各方法を当 然に想起するものというべきである。そして,本件の全証拠によっても,シュクラ ロースを添加した飲料を高温加熱殺菌するに当たり,上記の各方法を採用すること について阻害事由は見当たらず,また,これらを採用することにより当業者に予測 不可能な顕著な作用効果が得られるものとも認められない。 よって,引用例に接した本件出願日当時の当業者は,シュクラロースが添加され た飲料を高温加熱殺菌するに当たり,本件発明1の本件相違点に係る構成であるレ トルト,プレート又はチューブ式殺菌方法を採用することを容易に想到することが できたものというべきである。 本件発明2について 前記2 に説示のとおり,本件発明2は,引用発明と実質的に同一の発明である - が,仮にシュクラロースの添加量の相違が実質的な相違点であると考えたとしても, 本件発明2と引用発明とで当該添加量が重複することは,前記2 に説示のとおり である。また,本件明細書には,前記1 オに記載のとおり,シュクラロースの添 加量がその飲料に求められる甘味度,カロリー等により任意に調整されるとの記載 があることから,本件発明2のシュクラロースの添加量の特定には,特段の臨界的 意義が認められない。 したがって,引用例に接した本件出願日当時の当業者は,本件発明1における高 温加熱殺菌飲料に対するシュクラロースの添加量について,本件発明2における特 定方法を採用することを容易に想到することができたものというべきである。 本件発明3について 前記1 に説示のとおり,本件発明3は,本件発明1における高温加熱殺菌飲料 のpHの範囲を特定するものである。 しかるところ,前記1 ウに記載のとおり,引用例には,pH4ないし7.5の 範囲でのシュクラロースの1年間の分解が測定不能なほど小さい旨の記載があると ころ,当該数値は,本件発明3によるpHの範囲の特定(6.8以上)と一部重複 するばかりか,本件明細書の記載によっても,本件発明3のpHの範囲に関する特 定に特段の臨界的意義を認めることができず,また,本件の全証拠によっても,本 件発明1における高温加熱殺菌飲料のpHの範囲を本件発明3の数値で特定するこ とについて阻害事由は見当たらない。 したがって,引用例に接した本件出願日当時の当業者は,本件発明1における高 温加熱殺菌飲料のpHの範囲について,本件発明3における特定方法を採用するこ とを容易に想到することができたものというべきである。 原告の主張について . ア 原告は,シュクラロースを添加した飲料についてレトルト等の高温加熱殺菌 をした場合には甘味度が低下せず,褐変するなどの外観上の不都合が生じず,また, 焦げ付きを生じないという,引用例からは予測できない作用効果があると主張する。 2 しかしながら,引用例には,前記1 ウに説示のとおり,高温条件下の水系で抜 群の安定性を有し,ケーキ等に添加しても焼成の前後で変化しないというベーキン グプロセスでの安定性を有する旨の記載もあるところ,この記載は,シュクラロー スを含む食品を高温に加熱した場合であってもシュクラロースが変化しないことを 意味するものと解される。したがって,引用例に接した当業者は,シュクラロース を添加した飲料を高温加熱殺菌した場合にも甘味度の低下や褐変がないという作用 効果を予測することが可能であると認められる。また,シュクラロースを添加した 飲料を高温加熱殺菌した場合に焦げ付きが生じないことについて,本件明細書には かかる記載がないから,このことを本件発明の作用効果として考慮することはでき ないし,上記のとおり,引用例に接した当業者は,シュクラロースを添加した飲料 を高温加熱殺菌した場合にも褐変がないという作用効果を予測することが可能であ ると認められる以上,焦げ付きが生じないことも当然予測することが可能であると いうべきである。 よって,原告の上記主張は,採用できない。 イ 原告は,アスパルテーム等の甘味料又はしょ糖を添加した飲料についてUH T殺菌処理をすると甘味度が低下し,褐変することから,UHT殺菌に対して安定 であるからといってレトルト殺菌等に供した場合にも安定であるとはいえず,この ことは予測ができないと主張する。 しかしながら,前記アに説示のとおり,引用例に接した当業者は,シュクラロー スを添加した飲料を高温加熱殺菌した場合にも甘味度の低下や褐変がないという作 用効果を予測することが可能であると認められるところ,他に当該作用効果に疑義 を抱かせるような証拠はない。したがって,アスパルテームやしょ糖等についてU HT殺菌処理をした場合の安定性が予測できないからといって,シュクラロースに ついてUHT殺菌処理した場合の安定性が予測できなくなるものではない。 よって,原告の上記主張は,採用できない。 ウ 原告は,引用例にいう安定性とは甘味度のことであって,引用例には飲料の 0 風味や外観の安定性については開示も示唆もないと主張する。 しかしながら,引用例には,そこに記載された安定性との用語を甘味度が変わら ないことに限定して使用しているとみるべき記載がない。むしろ,引用例は,シュ クラロースを添加した飲食料品に高温加熱処理をしてもシュクラロースに変化がな い旨を記載している以上,当業者は,この記載から,シュクラロースが食品の風味 や外観にも影響を与えないことを認識するものというべきである。 よって,原告の主張は,採用できない。 エ 原告は,引用例には極端な条件下ではシュクラロースが分解する旨の記載が あるから,さらに過酷なレトルト殺菌等の条件ではシュクラロースが安定とはいえ ないと主張する。 しかしながら,引用例には,前記1 ウに記載のとおり,そこに記載の実験例の 中で最も過酷なものとしてベークドビーンズを121℃で80分滅菌処理した例が 記載されているが,当該実験例においても処理の前後でシュクラロースの量に変化 がない旨も記載されている。他方,本件明細書には,上記実験例よりも過酷な殺菌 条件を採用する旨の記載はないし,また,本件全証拠によっても,このような条件 が飲料の高温加熱殺菌条件として通常採用される条件であるということもできない。 よって,原告の上記主張は,採用できない。 小括 / 以上のとおり,引用例に接した当業者は,引用発明及び本件出願日当時の技術常 識に基づき,本件発明を容易に想到することができたものと認められ,これと同旨 の本件審決の判断に誤りはない。 4 結論 以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 土 肥 章 大 3 裁判官 井 上 泰 人 裁判官 荒 井 章 光 |