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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 24年 (ネ) 10081号 職務発明対価請求控訴事件
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裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/02/14
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成25年2月14日判決言渡

平成24年(ネ)第10081号 職務発明対価請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所平成23年(ワ)第6904号)

口頭弁論終結日 平成24年12月12日

判 決




控訴人兼被控訴人(原告) X 1




控訴人兼被控訴人(原告) X 2




控訴人兼被控訴人(原告) X 3

3名訴訟代理人弁護士 笠 原 基 広



被控訴人兼控訴人(被告) 株式会社サンエスオプテック



訴訟代理人弁護士 寺 島 秀 昭

牧 野 英 之



主 文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は各自の負担とする。



事実及び理由




第1 当事者の求めた判決

1 原告らの控訴の趣旨

原判決を次のとおり変更する。

被告は,原告 X1 に対し,80万5874円及びこれに対する平成23年

3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

被告は,原告 X2 に対し,40万2937円及びこれに対する平成23年3

月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

被告は,原告 X3 に対し,40万2937円及びこれに対する平成23年3

月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

仮執行宣言

2 被告の控訴の趣旨

原判決中被告の敗訴部分を取り消し,原告らの被告に対する請求を棄却する。



第2 事案の概要

1 被告の元従業員であるA は,被告に対し,本件特許第4334013

号(発明の名称「LED照明装置」)に係る本件発明をし,その特許を受ける権利

を被告に承継させたと主張して,特許法35条3項及び5項に基づく職務発明対価

(9467万9479円)の一部請求として850万円の支払を求める本件訴訟を

提起したが,平成23年12月9日に死亡した。そこで,亡A の相続人であ

る原告らが,訴訟を承継し,相続割合(妻である原告 X1 は2分の1,子で

ある原告 X2 及び原告 X3 は各4分の1)に応じて,原告 X1 は4

25万円,原告 X2 及び原告 X3 は各212万5000円の支払を求めた。

原判決は,被告の受けるべき利益についての原告らの主張の一部と,被告の貢献

度についての被告の主張の一部をそれぞれ認め,原告らの請求を,原告 X1 に

ついては28万4944円,原告 X2 及び原告 X3 については各14万2

472円の限度で一部認容し(遅延損害金は訴状送達の翌日から),その余は棄却




した。

これに対し当事者双方が控訴したが,原告らの控訴は,控訴の趣旨の範囲におけ

る一部控訴である。

2 前提となる事実は,原判決3頁7行目以下の「2 前提事実」記載のとおり

である。ただし,原判決3頁14行目の「3月1日」を「3月2日」と訂正する。



第3 当事者の主張

1 原審からの主張

原審における当事者の主張は,原判決7頁13行目以下の「第3 争点に関する

当事者の主張」記載のとおりである。ただし,原判決12頁13行目の「優位性は

な」の後に「か」を挿入する。

2 当審における原告らの主張

(1) 被告が他社から受けた実施料の有無及びその額について

原判決は,被告が平成20年6月1日から平成21年5月31日までの間に他社

から受けた実施料の額を,被告の損益計算書にロイヤリティ売上高として記載され

た943万2000円の20%と認定した。

しかしながら,20%という数値は,当事者双方が主張しておらず,証拠も提出

されていない数値であり,根拠がない。

また,被告製品は,平成20年度には伊藤忠プラスチックス株式会社及び島根三

洋電機株式会社によって製造・販売等されており,その利益の一部が上記ロイヤリ

ティ売上高として被告に還元されたものである。他社に特許発明実施許諾をして

いる場合,売上高に仮想実施料率と同率の5%を乗じた額実施許諾による収入と

いえる。ところで,被告製品の限界利益率は13.9%であり,利益の一部として

被告に還元された上記ロイヤリティ売上高が限界利益を上回ることはないから,い

わゆる他社実施分の売上高は,上記ロイヤリティ売上高943万2000円を13.

9%で除した6785万6115円と推計される。そこで,この金額に上記の5%




を乗じた339万2805円(上記ロイヤリティ売上高943万2000円の約3

6%に相当)が実施許諾による収入となるが,上記の限界利益率の算出に当たって

は固定費等が控除されていないから,実施許諾による収入はより多くなるはずであ

る。

したがって,被告が受けた実施料の額が上記ロイヤリティ売上高として記載され

た額の50%を下ることはない。

(2) 被告が本件特許を自ら実施したことにより受けるべき超過利益に関する

超過売上げの割合について

原判決は,@蛍光灯と同等の特性,照度分布を実現しているLED照明装置は被

告製品に限られず,競合他社の同種の製品が複数存在すること,A被告製品が原判

決の認定に係る売上高を上げているのは,日亜化学工業製のLEDを使用している

点が主要な要因であることなどを根拠に,超過売上げの割合を30%と認定した。

しかしながら,平成21年当時,被告製品以外に蛍光灯と同様の光拡散性を有す

る製品は存在しておらず,そのことは,被告作成の対比表(乙4)によっても明ら

かである。また,日亜化学工業製のLEDを使用するためには,本件発明の実施

不可欠であった。

したがって,原判決の認定は誤りであり,超過売上げの割合は50%を下らない。

(3) 本件特許権の譲渡により受けるべき利益の額について

原判決は,本件特許権の譲渡価格2500万円から法定通常実施権に相当する部

分を控除し,本件特許権の譲渡に係る独占の利益を800万円と認定した。

しかしながら,特許権者は,特許権を譲渡する場合,対象となる特許発明実施

が今後不要であると判断したのであり,自社による実施を放棄したものといえるか

ら,そのような場合に,特許権者の自社実施分を考慮する必要はなく,これを譲渡

対価から割合的に控除するのは相当とはいえない。ちなみに,被告は,譲渡の時点

で本件特許を用いない後継製品を製造することを決めていた。

また,自社実施分を控除するとしても,被告製品の売上高に仮想実施料率を乗じ




た単年度の仮想実施料は52万4250円であり,中間利息を控除して17年分の

総額を算出したとしても,591万0394円にとどまる。

3 当審における被告の主張

(1) 被告が他社から受けた実施料の有無及びその額について

原判決は,「ロイヤリティ売上高」という勘定科目に本件発明の実施許諾対価

が全く含まれないと認定するのは困難であると判断したが,合理的な根拠が示され

ていない。現に,原判決も,「具体的にどのような取引についての対価であるのか

明らかではない」と説示している。

したがって,被告が他社から受けた実施料を認定した原判決には誤りがある。

(2) 被告が本件特許を自ら実施したことにより受けるべき超過利益に関する

超過売上げの割合について

原審で被告が主張したところによれば,原判決が超過売上げの割合を30%と認

定したのは誤りである。

(3) 被告が本件特許を自ら実施したことにより受けるべき超過利益に関する

仮想実施料率について

原判決は,仮想実施料率について,「実施料率(第5版)」(発明協会研究セン

ター編,甲8)に記載されたデータを基に5%と認定した。

しかしながら,甲8の文献に記載されたデータは,実施料率を対価条項とした外

国技術導入契約に関するものであって,本件に適応しているとはいい難く,データ

も古い。これに対し,平成21年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書「知

的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書〜知的

財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜」(株式会社帝国デー

タバンク作成,乙41)に記載されたデータは,外国技術導入契約に限られず,デ

ータも新しいところ,そこでは,本件特許の属する照明の分野の実施料率は平均3.

9%とされており,本件特許の仮想実施料率も,せいぜい4%にとどまる。

(4) 本件特許権の譲渡により受けるべき利益の額について




原審で被告が主張したところによれば,原判決が本件特許権の譲渡により受ける

べき利益の額を800万円と認定したのは相当ではない。

(5) 被告の貢献度について

原審で被告が主張したところによれば,原判決が被告の貢献度を95%としたの

は相当ではない。



第4 当裁判所の判断

1 基本的判断

当裁判所も,@被告が平成20年6月1日から平成21年5月31日までの間に

本件発明の実施によって受けた実施許諾対価は,188万6400円であり,A

本件特許権の譲渡より前の期間における,被告が本件特許を自ら実施したことによ

り受けるべき超過利益に関して,超過売上げの割合は30%,仮想実施料率は5%

であり,B被告が本件特許権を譲渡したことにより受けるべき利益の額は800万

円であり,C被告の貢献度は95%である,と認めるのが相当であって,結論とし

て,原告らが相続により承継した職務発明対価請求権の額は,原告 X1 につ

き28万4944円,原告 X2 及び原告 X3 につき各14万2472円で

あると判断する。その理由は,次のとおり付加するほかは,原判決20頁16行目

以下の「4 当裁判所の判断」のとおりである。以下,当事者双方の当審主張を踏

まえて付加判断する。

2 被告が他社から受けた実施料の有無及びその額について

(1) 被告が他社から受けた実施料を,被告の損益計算書にロイヤリティ売上高

として記載された943万2000円の20%に当たる額である188万6400

円と認定したことに関して,原告らは,20%という数値については当事者双方が

主張しておらず,証拠も提出していないと主張する。

しかしながら,本件において,原告らは,被告が他社から受けた実施料は943

万2000円であると主張し,被告は,そのような実施料は存在しない旨主張して




いるところ,その中間である20%という数値や188万6400円という金額そ

れ自体については当事者双方が主張していないとしても,原告らの主張する金額の

数的一部として上記の金額を認定するのは当事者の主張の範囲内であって,原告ら

の主張は採用することができない。

(2) 原告らは,被告の伊藤忠プラスチックス株式会社及び島根三洋電機株式会

社に対する実施許諾や,これに基づく実施料が存在することを前提として,被告が

受けた実施料の額は上記ロイヤリティ売上高として記載された金額の50%を下回

ることはないと主張する。

しかしながら,原判決が21頁10行目から22頁13行目まで及び22頁25

行目から23頁10行目までにおいて説示するように,被告が伊藤忠プラスチック

ス株式会社及び島根三洋電機株式会社に対して被告製品の製造等を委託し,これに

関連して被告に支払われた金員があるとしても,このことから直ちに,被告が伊藤

忠プラスチックス株式会社及び島根三洋電機株式会社に対して本件特許につき実施

許諾をしたことや,当該実施許諾に基づく支払があったことを認めることはできず,

他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

したがって,原告らの上記主張は理由がない。

(3) 被告は,被告の他社に対する実施許諾に関する具体的な取引内容が明らか

でないことなどに照らし,被告が他社から受けた実施料を認定するのは誤りである

旨主張する。

しかしながら,原判決21頁10行目から22頁13行目まで及び23頁26行

目から24頁7行目までにおいて説示するように,被告の損益計算書に「ロイヤリ

ティ売上高」という勘定科目で943万2000円と記載されていること等の事実

を総合すると,被告が他社から受けた実施料収入は188万6400円と認めるの

が相当である。被告と他社との実施許諾に関する具体的な事実が明らかではないと

しても,損益計算書等の記載から実施許諾の存在とこれにより受けた実施料の額を

推認することは可能であり,被告の上記主張は採用することができない。




3 被告が本件特許を自ら実施したことにより受けるべき超過利益に関する超過

売上げの割合について

(1) 原告らは,被告作成の対比表(乙4)によっても,平成21年当時,被告

製品以外に蛍光灯と同様の光拡散性を有する製品は存在していないことは明らかで

あること,日亜化学工業製のLEDを使用するために本件発明の実施が不可欠であ

ることから,超過売上げの割合を30%と認定するのは誤りであると主張する。

しかしながら,乙4の対比表に記載された他社製品の一部については,光拡散性

がない旨の積極的な記載はなく,「製品としては完成」などと記載されている製品

もあることなどに照らすと,乙4の記載が,被告製品以外に蛍光灯と同様の光拡散

性を有する製品が存在するとの認定を妨げるものとはいえない。また,日亜化学工

業製のLEDを使用するために本件発明の実施が不可欠であるとしても,原判決2

5頁6行目から15行目までに説示された事情を併せ考慮すれば,超過売上げの割

合は30%と認定するのが相当であり,この点は,上記1の判断を左右しない。

(2) 被告は,被告が原審で主張したところによれば,超過売上げの割合は30

%に至らない旨主張するが,上記1の判断は,被告の原審における主張をも考慮し

た結果であって,被告の主張によっても,上記1の判断は左右されない。

4 被告が本件特許を自ら実施したことにより受けるべき超過利益に関する仮想

実施料率について

被告は,乙41の文献に記載されたデータに照らすと,本件特許の仮想実施料

は,せいぜい4%にとどまると主張する。

しかしながら,乙41の文献には,照明又は加熱の技術分野における実施料率に

ついて,平均では3.9%とされているものの,最大では9.5%,最小では1.

5%と記載されており,ばらつきが大きいこと,また,甲8の文献に記載された平

均的な実施料率4.6%と比較して著しい差はないこと,その他,本件に表れた諸

事情を総合すると,乙41の文献の記載を考慮してもなお,本件特許に係る仮想実

施料率を5%と認定することも相当というべきであり,被告の上記主張は採用する




ことができない。

5 本件特許権の譲渡により受けるべき利益の額について

(1) 原告らは,特許権者が特許権を譲渡する場合は,自社による実施を放棄し

たものといえるから,特許権者の法定通常実施権に相当する分を譲渡価格から控除

するのは相当ではない旨主張する。

しかしながら,特許権者が,自ら特許発明実施する意思を有していないとして

も,これによって当然に法定通常実施権を放棄したことになるものではなく,原告

らの上記主張は採用することができない。

また,原告らは,被告の法定通常実施権に相当する分を控除するとしても,その

控除額は591万0394円にとどまると主張するが,原告らの主張を斟酌したと

してもなお,その他本件に表れた諸事情を総合すると,本件特許権の譲渡における

独占の利益は800万円と認めるのが相当であって,原告らの主張は,上記認定を

動かすものではない。

(2) 被告は,被告が原審で主張したところによれば,本件特許権の譲渡により

受けるべき利益の額を800万円と認定することは相当ではない旨主張するが,上

記1の判断は,被告の原審における主張をも考慮した結果であって,これによって

も,上記1の判断は左右されない。

6 被告の貢献度について

被告は,被告が原審で主張したところによれば,被告の貢献度を95%と認定す

るのは相当ではない旨主張するが,上記1の判断は,被告の原審における主張をも

考慮した結果であって,これによっても,上記1の判断は左右されない。



第5 結論

以上によれば,原告らの被告に対する請求は,原審が認容した限度では理由があ

るが,その余については理由がない。よって,本件各控訴は理由がなく,これを棄

却すべきである。




知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

塩 月 秀 平




裁判官

池 下 朗




裁判官

古 谷 健 二 郎