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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 21年 (ワ) 23445号 特許権侵害差止請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2013/01/31
権利種別 特許権
判例全文
判例全文
平成25年1月31日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成21年(ワ)第23445号 特許権侵害差止請求事件

口頭弁論終結日 平成24年12月6日

判 決

宮城県大崎市〈以下略〉

原 告 日環エンジニアリング株式会社

埼玉県桶川市〈以下略〉

原 告 キシエンジニアリング株式会社

宮城県黒川郡〈以下略〉

原 告 A

原告ら訴訟代理人弁護士 寒 河 江 孝 允

同 高 瀬 亜 富

補 佐 人 弁 理 士 保 科 敏 夫

名古屋市港区〈以下略〉

被 告 エス・イー・エンジニアリング株式会社

訴訟代理人弁護士 高 橋 恭 司

同 枩 藤 朋 子

訴訟代理人弁理士 足 立 勉

同 石 原 啓 策

同 竹 中 謙 史

主 文

1 被告は,別紙物件目録1及び2記載の各装置を製造し,販売して

はならない。

2 被告は,原告日環エンジニアリング株式会社に対し,1803万

4748円及びこれに対する平成21年8月5日から支払済みまで

年5分の割合による金員を支払え。




3 被告は,原告キシエンジニアリング株式会社に対し,41万14

28円及びこれに対する平成21年8月5日から支払済みまで年5

分の割合による金員を支払え。

4 原告日環エンジニアリング株式会社のその余の請求,原告キシエ

ンジニアリング株式会社のその余の請求及び原告Aの請求をいずれ

も棄却する。

5 訴訟費用は,原告日環エンジニアリング株式会社に生じた費用の

5分の3と被告に生じた費用の10分の3を原告日環エンジニアリ

ング株式会社の負担とし,原告キシエンジニアリング株式会社に生

じた費用の3分の1と被告に生じた費用の12分の1を原告キシエ

ンジニアリング株式会社の負担とし,原告Aに生じた費用と被告に

生じた費用の4分の1を原告Aの負担とし,その余は被告の負担と

する。

6 この判決の第1項ないし第3項は,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 主文第1項と同旨

2 被告は,原告日環エンジニアリング株式会社に対し,5000万円及びこ

れに対する平成21年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を

支払え。

3 被告は,原告キシエンジニアリング株式会社に対し,750万円及びこれ

に対する平成21年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支

払え。

4 被告は,原告Aに対し,750万円及びこれに対する平成21年8月5日

から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要




1 事案の要旨

本件は,発明の名称を「オープン式発酵処理装置並びに発酵処理法」とす

る特許第3452844号(以下,この特許を「本件特許1」,この特許権

を「本件特許権1」という。)の特許権者である原告キシエンジニアリング

株式会社(以下「原告キシエンジニアリング」という。 及び発明の名称を
) 「ロ

ータリー式撹拌機用パドル及びオープン式発酵処理装置」とする特許第36

82195号(以下,この特許を「本件特許2」,この特許権を「本件特許

権2」という。また,本件特許1と本件特許2を併せて「本件各特許」,本

件特許権1と本件特許権2を併せて「本件各特許権」という。)の特許権者

である原告A並びに上記原告両名から本件各特許権について独占的通常実施

権の許諾を受けたと主張する原告日環エンジニアリング株式会社(以下「原

告日環エンジニアリング」という。)が,別紙物件目録1記載の装置(イ号

装置)及び同目録2記載の装置(ロ号装置)が本件各特許権の特許発明の技

術的範囲に属する旨主張して,原告キシエンジニアリング及び原告Aにおい

ては,被告に対し,特許法100条1項に基づき,イ号装置及びロ号装置の

製造及び販売の差止めを,原告ら3名においては,被告に対し,不法行為

基づく損害賠償を求めた事案である。

2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の

全趣旨により認められる事実である。)

(1) 当事者

ア 原告日環エンジニアリングは,産業廃棄物用機械装置・器具の製造販

売等を目的とする株式会社である。

原告キシエンジニアリングは,畜産・公害防止機器の製造及び販売等

を目的とする株式会社である。

原告Aは,原告日環エンジニアリングの代表取締役である。

イ 被告は,畜産,農業関係の機械器具の製造販売等を目的とする株式会




社である。

(2) 特許庁における手続の経緯等

ア 本件特許権1

(ア) 原告キシエンジニアリングは,平成11年8月5日,本件特許1

に係る特許出願(特願平11−222212号。以下「本件出願1」

という。)をし,平成15年7月18日,本件特許権1の設定登録(請

求項の数3)を受けた。

(イ) 本件特許1について,被告が本件訴訟の係属後の平成22年12

月16日に特許無効審判請求(無効2010−800233号事件)

をした。

特許庁は,平成23年7月29日,上記特許無効審判事件につい

て,「特許第3452844号の請求項1〜3に係る発明についての

特許を無効とする。」との審決(以下「別件審決1」という。乙30)

をした。

原告キシエンジニアリングは,同年9月6日,別件審決1の取消し

を求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成23年(行ケ)第1

0284号事件)を提起した(甲39)。

知的財産高等裁判所は,平成24年6月6日,別件審決1を取り消

す旨の判決(甲60)をし,同判決は,その後確定した。

上記特許無効審判事件は,現在特許庁に係属中である。

イ 本件特許権2

(ア) 原告Aは,平成12年1月18日,本件特許2に係る特許出願(特

願2000−8670号。以下「本件出願2」という。)をし,平成

17年5月27日,本件特許権2の設定登録(請求項の数3)を受け

た。

(イ) 本件特許2について,被告が本件訴訟の係属後の平成22年12




月16日に特許無効審判請求(無効2010−800234号事件)

をした。

特許庁は,平成23年8月3日,上記特許無効審判事件につい

て,「特許第3682195号の請求項1〜3に係る発明についての

特許を無効とする。」との審決(以下「別件審決2−1」という。乙

31)をした。

原告Aは,同年9月6日,別件審決2−1の取消しを求める審決取

消訴訟(知的財産高等裁判所平成23年(行ケ)第10285号事件)

を提起した後,同年10月31日,本件特許2の特許請求の範囲の減

縮等を目的とする訂正審判請求(訂正2011−390121号事件)

をした(甲41,44の1)。

知的財産高等裁判所は,平成24年1月10日,平成23年法律第

63号による改正前の特許法181条2項に基づき,事件を審判官に

差し戻すため,別件審決2−1を取り消す旨の決定(甲51)をした。

特許庁は,上記決定を受けて,上記特許無効審判事件の審理を再開

し,その審理の中で,上記訂正審判請求は,平成23年法律第63号

による改正前の特許法134条の3第5項により,訂正請求とみなさ

れた(以下,この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)。

特許庁は,平成24年3月28日,本件訂正を適法と認めた上

で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「別件審

決2−2」という。甲58)をした。

被告は,同年4月25日,別件審決2−2の取消しを求める審決取

消訴訟(知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10148号事件)

を提起し,この訴訟は,現在同裁判所に係属中である。

(3) 発明の内容

ア 本件特許1




(ア) 本件特許1の特許請求の範囲は,請求項1ないし3から成り,そ

の請求項1の記載は,次のとおりである(以下「本件発明1」という。 。


「【請求項1】 有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理する長尺広

幅の面域の長さ方向の1側に長尺壁を設け,その他側は長尺壁のな

い長尺開放側面として成る大容積のオープン式発酵槽を構成すると

共に,該長尺壁の上端面にレールを敷設し,該レール上を回転走行

する車輪と該長尺開放側面側の床面上を該長尺開放側面に沿い回転

走行する車輪とを配設されて具備すると共に該オープン式発酵槽の

長尺広幅の面域の幅方向に延びる回転軸の全長に亘り且つその周面

に多数本のパドルを配設して成り,且つ堆積物を往復動撹拌する正,

逆回転自在のロータリー式撹拌機を具備した台車を該オープン式発

酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設けると共に該オープン式発酵

槽に対し,該長尺開放側面を介してその長さ方向の所望の個所から

被処理物の投入堆積と発酵済みの堆肥の取り出しを行うようにした

ことを特徴とするオープン式発酵処理装置。」

(イ) 本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各

構成要件を「構成要件A1」,「構成要件B1」などという。)。

A1 有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理する長尺広幅の面域

の長さ方向の1側に長尺壁を設け,

B1 その他側は長尺壁のない長尺開放側面として成る大容積のオ

ープン式発酵槽を構成すると共に,

C1 該長尺壁の上端面にレールを敷設し,該レール上を回転走行

する車輪と該長尺開放側面側の床面上を該長尺開放側面に沿い

回転走行する車輪とを配設されて具備すると共に

D1 該オープン式発酵槽の長尺広幅の面域の幅方向に延びる回転

軸の全長に亘り且つその周面に多数本のパドルを配設して成




り,

E1 且つ堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロータリー式

撹拌機を具備した台車を該オープン式発酵槽の長さ方向に往復

動走行自在に設けると共に

F1 該オープン式発酵槽に対し,該長尺開放側面を介してその長

さ方向の所望の個所から被処理物の投入堆積と発酵済みの堆肥

の取り出しを行うようにしたこと

G1 を特徴とするオープン式発酵処理装置。

イ 本件特許2

(ア) 本件特許2の設定登録時の特許請求の範囲は,請求項1ないし3

から成り,その請求項1及び2の記載は,次のとおりである(以下,

設定登録時の請求項2に係る発明を「本件発明2」という。)。

「【請求項1】 長杆の先端に,2枚の板状の掬い上げ部材を前後に

且つ前後方向に対し傾斜させて配置し,その前側の傾斜板の外面は

斜め1側前方を向き,その後側の傾斜板の外面は斜め1側後方を向

くように配向せしめて配設したことを特徴とするパドル。」

「【請求項2】 有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理する長尺広

幅の面域の長さ方向の1側に長尺壁を設け,その他側は長尺壁のな

い長尺開放側面として成る大容積のオープン式発酵槽を構成すると

共に,該長尺壁の上端面にレールを敷設し,該レール上と該長尺開

放側面側の面域上を転動走行する車輪を配設されて具備すると共に

堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロータリー式撹拌機を横

設した台車を該オープン式発酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設

け,更に該ロータリー式撹拌機は,該台車の幅方向に水平に延びる

回転軸と,該回転軸の周面に且つその軸方向に配設された多数本の

長杆の先端に板状の掬い上げ部材を具備するパドルとから成るオー




プン式発酵処理装置において,これらのパドルのうち,該オープン

式発酵槽の該長尺開放側面側に位置する該回転軸の外端から少なく

とも1本乃至数本のパドルは,該長杆の先端に,前後一対の板状の

掬い上げ部材が夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に

向けられて配設された請求項1に記載のパドルから成り,その他の

残る各パドルは,長杆の先端に,該台車の走行方向に対し直交して

板状の掬い上げ部材を取り付けた通常のパドルから成ることを特徴

とするオープン式発酵処理装置。」

(イ) 本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各

構成要件を「構成要件A2」,「構成要件B2」などという。)。

A2 有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理する長尺広幅の面域

の長さ方向の1側に長尺壁を設け,

B2 その他側は長尺壁のない長尺開放側面として成る大容積のオ

ープン式発酵槽を構成すると共に,

C2 該長尺壁の上端面にレールを敷設し,該レール上と該長尺開

放側面側の面域上を転動走行する車輪を配設されて具備すると

共に

D2 堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロータリー式撹拌

機を横設した台車を該オープン式発酵槽の長さ方向に往復動走

行自在に設け,

E2 更に該ロータリー式撹拌機は,該台車の幅方向に水平に延び

る回転軸と,該回転軸の周面に且つその軸方向に配設された多

数本の長杆の先端に板状の掬い上げ部材を具備するパドルとか

ら成るオープン式発酵処理装置において,

F2 これらのパドルのうち,該オープン式発酵槽の該長尺開放側

面側に位置する該回転軸の外端から少なくとも1本乃至数本の




パドルは,該長杆の先端に,前後一対の板状の掬い上げ部材が

夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に向けられて

配設された請求項1に記載のパドルから成り,

G2 その他の残る各パドルは,長杆の先端に,該台車の走行方向

に対し直交して板状の掬い上げ部材を取り付けた通常のパドル

から成ること

H2 を特徴とするオープン式発酵処理装置。

(ウ) 本件訂正後の本件特許2の特許請求の範囲は,請求項1ないし3

から成り,その請求項2の記載は,次のとおりである(以下,本件訂

正後の請求項2に係る発明を「本件訂正発明2」という。下線部は訂

正箇所である。)。

「【請求項2】 有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理する長尺広

幅の面域の長さ方向の1側に長尺壁を設け,その他側は長尺壁のな

い長尺開放側面として成る大容積のオープン式発酵槽を構成すると

共に,該長尺壁の上端面にレールを敷設し,該レール上と該長尺開

放側面側の面域上を転動走行する車輪を配設されて具備すると共に

堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロータリー式撹拌機を横

設した台車を該オープン式発酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設

け,更に該ロータリー式撹拌機は,該台車の幅方向に水平に延びる

回転軸と,該回転軸の周面に且つその軸方向に配設された多数本の

長杆の先端に板状の掬い上げ部材を具備するパドルとから成るオー

プン式発酵処理装置において,これらのパドルのうち,該オープン

式発酵槽の該長尺開放側面側に位置する該回転軸の外端から少なく

とも1本乃至数本のパドルは,該長杆の先端に,前後一対の板状の

掬い上げ部材が夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に

向けられて配設された請求項1に記載のパドルから成り,その他の




残る各パドルは,長杆の先端に,該台車の走行方向に対し直交して

板状の掬い上げ部材を取り付けた通常のパドルから成ることを特徴

とし,しかもまた,次のX及びYの各特徴をさらに備えるオープン

式発酵処理装置。

X 大容積のオープン式発酵槽は,日を改めて投入する有機質廃物

について,少なくとも複数日にわたるものをすでに投入したもの

とは別の空いた領域に経時的に投入することができるだけの面域

を備えること。

Y 前記ロータリー式撹拌機及び前記長尺壁は,前記有機質廃物の

堆積高さを高温発酵を確保するに足るだけの高さ構成を備えるこ

と。」

(4) 被告の行為等

ア 被告は,平成16年1月ころから,ロ号装置を製造し,販売している。

イ イ号装置は,別紙物件目録1記載のとおりの構成を,ロ号装置は,同

目録2記載のとおりの構成をそれぞれ有する。

イ号装置とロ号装置とは,撹拌機105の回転軸105aの周面に設

けられたパドル105bの先端の掬い上げ部材が,イ号装置では,別紙

物件目録1記載の図3に示す形状の掬い上げ部材105cから構成され

るのに対し,ロ号装置では,同様の形状(同目録2記載の図3)の掬い

上げ部材105c又は同目録2記載の図5に示す掬い上げ部材105d

とから構成され,台車106の脚部113に近い側には,掬い上げ部材

105dが用いられ,その半円弧状部が,同目録2記載の図4に示すよ

うに,長尺壁側を向くように取り付けられている点で構成が相違するが,

その余の構成は一致する。

ウ(ア) イ号装置及びロ号装置は,いずれも本件発明1の構成要件A1,

B1,D1,F1及びG1を充足する。




(イ) ロ号装置は,本件発明2の構成要件A2,B2,D2,E2,G

2及びH2を充足する。

3 争点

本件の争点は,次のとおりである。

(1) イ号装置及びロ号装置についての本件発明1の技術的範囲の属否(争点

1)。具体的には,イ号装置及びロ号装置が構成要件C1及びE1を充足す

るか。

(2) ロ号装置についての本件発明2の技術的範囲の属否(争点2)。具体的に

は,ロ号装置が構成要件C2及びF2を充足するか。

(3) 特許法104条の3第1項に基づく本件各特許権の権利行使の制限の

成否(争点3)

(4) 差止めの必要性(争点4)

(5) 原告らの損害の発生及び被告が賠償すべき原告らの損害額(争点5)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1(本件発明1の技術的範囲の属否)について

(1) 原告らの主張

構成要件C1の充足性

(ア) イ号装置及びロ号装置は,別紙物件目録1及び2記載のとおり,

ロータリー式撹拌機105の台車106が,長尺開放面側と長尺壁側

とにそれぞれ自走のための車輪を備え,一方の車輪は,槽101の床

面のレール101r上を走行し,他方の車輪は,長尺壁101aに設

けたレール上を走行する。

(イ) 構成要件C1は,「該長尺壁の上端面にレールを敷設し,該レー

ル上を回転走行する車輪と該長尺開放側面側の床面上を該長尺開放側

面に沿い回転走行する車輪とを配設されて具備する」と規定している。

これは,台車が,「長尺壁の上端面に敷設されたレール上を回転走




行する車輪」と「長尺開放側面側の床面上を該長尺開放側面に沿い回

転走行する車輪」を具備することを規定したものである。

そして,構成要件C1の「床面上」の用語は,以下に述べるとお

り,「レールのない床面上」だけではなく,「レールのある床面上」

をも含むものと解すべきである。

構成要件C1は,「床面上を・・・回転走行」とあり,車輪が床面上

を直接走行する場合のほか,床面上のレール上を走行する場合をも

含むことに文言解釈上何ら障害は見受けられない。

b 本件特許1に係る明細書(甲2。以下,図面を含めて「本件明細

書1」という。)には,「床面上を走行する」ことについて,「施

工床面a’上を走行 するようにすること が好ましく一般的で あ

る。」(段落【0006】)との記載があるが,あくまで例示であ

り,「床面上に設置されたレール上を走行する」ことを除外すべき

理由はない。本件出願1の出願当時,「面域あるいは床面」を走行

する台車は,面域あるいは床面の上を直接走行することもあれば,

面域あるいは床面に設けたレール上を走行することも一般的であっ

たものである(例えば,甲24,乙5,乙A24)。

また,本件明細書1の段落【0023】によれば,本件発明1は,

被処理物を長さ方向の一端から入れ,発酵済みの堆肥を他端から出

す,という従前の搬出入を,長さ方向のどの位置からも投入,搬出

可能にすることを主な目的とし,従来のピット式発酵槽に比べて,

構築が容易かつ安価にできることを従的な目的とするものであっ

て,このような目的ないし効果は,従来例における左右の長尺壁の

一方をなくし,オープンにすることによって主に達成されるもので

あり,長尺壁上のレールは必須としているが,床面上にレールがあ

るか否かは,実施形態の問題にすぎない。




c 本件特許1の出願経過において,請求項1について,本件出願1

の出願当初の請求項1(乙1。以下「旧請求項1」という。)の「該

長尺壁の上端面にレールを敷設し,該レール上と該長尺開放側面側

の面域上を回転走行する車輪」との記載中の「面域上」を「床面上

を該長尺開放側面に沿い」(構成要件C1)と補正したが,これは,

車輪の走行方向について,「該長尺開放側面に沿い」つまり「直線

上の走行」であることを明らかにするためのものである。

すなわち,平成15年1月20日付け意見書(乙3)に記載のと

おり,本件出願1に対する平成14年11月13日付け拒絶理由通

知書(乙4)に引用された引用文献2(乙5)及び引用文献3(乙

6)に記載された発明のいずれもが,円形あるいは楕円形の走行形

態,つまり曲がりのある走行をするものであり,「床面を走行する

車輪11」及び「床上車輪4」のほかに,「外周壁の外面を走行す

る案内輪17」あるいは「外壁面に向かう誘導車輪5」を必要とす

るのに対し,本件発明1においては,車輪が「直線走行」し,案内

輪や誘導車輪が不要であることを明示するために,上記補正を行っ

たものである。

したがって,上記補正は,「面域あるいは床面」上にレールがあ

るか否かとは無関係である。

d 以上のとおり,特許請求の範囲構成要件C1)の記載,本件明

細書1の記載内容,さらには,本件特許1の出願経過に照らしても,

構成要件C1の「床面上」は,「レールのない床面上」だけではな

く,「レールのある床面上」をも含むものと解することに何ら障害

がないのであるから,「レールのある床面上」をも含むものと解す

べきである。

(ウ) 以上によれば,イ号装置及びロ号装置のロータリー式撹拌機10




5の台車106は,一方の車輪が,槽101の床面のレール101r

上を走行し,他方の車輪が,長尺壁101aに設けたレール上を走行

するものであるところ,上記「床面のレール101r上」は,構成要

件C1の「床面上」に該当するものといえる。

したがって,イ号装置及びロ号装置のロータリー式撹拌機105の

台車106は,構成要件C1の「該長尺壁の上端面にレールを敷設し,

該レール上を回転走行する車輪と該長尺開放側面側の床面上を該長尺

開放側面に沿い回転走行する車輪とを配設されて具備する」との構成

を有するものであるから,イ号装置及びロ号装置は,同構成要件を充

足する。

構成要件E1の充足性

イ号装置及びロ号装置のロータリー式撹拌機105は,別紙物件目録

1及び2記載のとおり,「一方向とその反対方向に回転自在」である。

そして,「一方向とその反対方向に回転自在」のロータリー式撹拌機

が,構成要件E1の「正,逆回転自在のロータリー式撹拌機」を意味す

ることは自明であるから,イ号装置及びロ号装置は,同構成要件を充足

する。

ウ まとめ

以上のとおり,イ号装置及びロ号装置は,本件発明1の構成要件C1

及びE1を充足し,また,構成要件A1,B1,D1,F1及びG1を

充足することは,前記争いのない事実等(4)ウ(ア)のとおりである。

したがって,イ号装置及びロ号装置は,本件発明1の構成要件を全て

充足するから,その技術的範囲に属する。

(2) 被告の主張

構成要件C1の非充足

(ア) 構成要件C1の「床面上」の用語は,以下に述べるとおり,「床




面上に設置したレール上」を含まないものと解すべきである。

a 特許請求の範囲の記載

本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の構成要件C1は,二

つの車輪の走行場所について,「該長尺壁の上端面にレールを敷設

し,該レール上を回転走行する車輪と該長尺開放側面側の床面上を

該長尺開放側面に沿い回転走行する車輪とを配設されて具備すると

共に」と記載しているところ,長尺壁側の車輪については,「上端

面にレールを敷設し,該レール上」を走行する旨明記されているの

であるから,仮に長尺開放側面側の車輪が,床面上ではなく,床面

上に設置したレールの上を走行するのであれば,請求項1にも,「床

面上」ではなく,「床面にレールを敷設し,該レール上」と記載す

るはずである。

にもかかわらず,長尺開放側面側の車輪の走行箇所については,

何らレールについて記載がない以上,請求項1の「床面上」には「床

面上に設置したレール上」は含まないと解すべきである。

出願経過参酌禁反言

本件特許1の出願経過において,旧請求項1の「面域上」と記載

されていた部分が,請求項1では「床面上を該長尺開放側面に沿い」

と補正されている。

出願人である原告キシエンジニアリングは,平成15年1月20

日付け意見書(乙3)において,上記補正の理由について,本件発

明1は,一方の車輪は長尺壁上端面のレール上を走行するが,他方

の車輪は床面上を走行するのみであるので,案内輪や誘導車輪とい

ったその他の構造が不要であり,その結果,構成簡単で製造コスト

が安価な構成を採用できる旨述べて(9頁19行〜26行),請求

項1の「床面上」との文言を「車輪が床面上を走行するだけの構造」




に限定している。

したがって,構成要件C1の「床面上」に「床面上に設置したレ

ール上」を含むと解することは,禁反言の原則から許されない。

発明の詳細な説明の記載

本件明細書1の段落【0003】には,【発明が解決しようとす

る課題】として,「上記従来の発酵処理装置は,…平行する一対の

コンクリート長尺壁を処理場に構築し,その左右の長尺壁の上面に

一対のレールを敷設する工事に相当の時間もかゝり,その設備費も

高価となる。…本発明は,上記従来の発酵処理装置並びに発酵処理

法の上記課題を解消し,容易且つ安価なオープン式発酵処理装置と

…オープン式発酵処理法を提供することを目的とする。」と記載さ

れ,本件発明1が,1「対」のレールを必要とする構成を除外し,

レールを1「本」しか設置しない構成を採用することにより,構成簡

単で製造コストを安価にして課題の解決を図った旨が明確に記載さ

れている。

また,本件発明1の実施形態における長尺壁上端面のレール上を

走行する車輪4の断面は,H型の形状で(図7),このH型の凹部

分が,断面凸型形状のレール3(図14)に嵌合し,レール3を車

輪4が左右から挟み込むことにより,車輪4がレールの左右方向い

ずれにも脱落することのない構造となっており,本件発明1は,レ

ールを1本に減らしてレールを2本設置する手間と費用を節減し,

レール上を走行する車輪については,レールを左右から挟み込む断

面H型形状としてレールに嵌合させることにより,車輪がレールに

沿って走行することを確保しようとする技術思想に則った技術であ

るといえる。

d 小括




以上によれば,構成要件C1の「床面上」には「床面上に設置し

たレール上」を含まないことは明らかである。

(イ) イ号装置及びロ号装置のロータリー式撹拌機105の台車106

は,長尺開放側面側の「床面のレール101r上」を走行するもので

あり,「床面上」(構成要件C1)を走行するものではないから,イ

号装置及びロ号装置は,同構成要件を充足しない。

構成要件E1の非充足

構成要件E1の「堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロータリ

ー式撹拌機」の回転方向は,前方にある堆積物に対しパドルが下から上

方向に特定されると解すべきである(乙60)。

しかるところ,イ号装置及びロ号装置は,いずれもパドルが前方の堆

積物を上から下へかきだす方向に回転するものであるから,構成要件

1を充足しない。

ウ まとめ

以上によれば,イ号装置及びロ号装置は,本件発明1の構成要件C1

及びE1を充足しないから,本件発明1の技術的範囲に属さない。

2 争点2(本件発明2の技術的範囲の属否)について

(1) 原告らの主張

構成要件C2の充足性

構成要件C2の「面域上」と構成要件C1の「床面上」とは,長尺壁

の高さ位置に比べて低い所に位置する場所として共通する意義があり,

技術的意味において両者に実質的な違いはない。

したがって,構成要件C2の「面域上」は,前記1(1)アで述べたのと

同様の理由により,「レールのない面域上」だけではなく,「レールの

ある面域上」をも含むものと解すべきであるから,ロ号装置は,構成要

件C2を充足する。




構成要件F2の充足性

(ア) 本件特許2に係る明細書(甲4。以下,図面を含めて「本件明細

書2」という。)によれば,パドルの先端の掬い上げ部材の形状が,

台車の走行方向に対し直行する板状である場合には,台車の走行方向

に沿う方向に堆積物を掬い上げるため,掬い上げに伴って長尺開放側

面側において堆積物の外方への拡散が生じやすいことから,本件発明

2は,このような長尺開放側面側における堆積物の外方への拡散を防

止するため,構成要件F2において,長尺開放側面側(端面側ないし

外端側)に位置する1本ないし数本のパドルについて,「前後一対の

板状の掬い上げ部材が夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内

側に向けられて配設」する構成,すなわち,「2枚の板状の掬い上げ

部材を前後に且つ前後方向に対し傾斜させて配置し,その前側の傾斜

板の外面は斜め1側前方を向き,その後側の傾斜板の外面は斜め1側

後方を向くように配向せしめて配設」する構成(請求項1)を採用し,

堆積物を内側に向けて掬い上げるようにしたものである(段落【00

10】,図11等)。

(イ) ロ号装置の長尺開放側面側の台車106の脚部113に近い側の

パドル105bには,別紙物件目録2記載の図4,5に示すように,

半円弧状の掬い上げ部材105dが取り付けられている。

構成要件F2の「前後一対の板状の掬い上げ部材」 「板状」 「厚
の は,

さが少なくて幅が広い」形を意味するものであり,掬い上げ部材10

5dのような半円状に湾曲したものをも含むといえる。

そして,掬い上げ部材105dの左右の各1/4円弧状の部分

は,「走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に向け」ているといえる

から,ロ号装置の長尺開放側面側の台車106の脚部113に近い側

のパドル105bは,構成要件F2の「前後一対の板状の掬い上げ部




材が夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に向けられて配

設」する構成を有するものである。

また,甲13の実験結果によれば,ロ号装置の半円弧状の掬い上げ

部材105dによる掬い上げ作用は,堆積物の外方への拡散防止とい

う面で,本件発明2の実施例のV字状の掬い上げ部材と同様の作用効

果を示している。

したがって,ロ号装置は,構成要件F2を充足する。

ウ まとめ

以上のとおり,ロ号装置は,本件発明2の構成要件C2及びF2を充

足し,また,構成要件A2,B2,D2,E2,G2及びH2を充足す

ることは,前記争いのない事実等(4)ウ(イ)のとおりである。

したがって,ロ号装置は,本件発明2の構成要件を全て充足するから,

その技術的範囲に属する。

(2) 被告の主張

構成要件C2の非充足

構成要件C2の「面域上」は,構成要件C1の「床面上」と同義であ

り,前記1(2)アで述べたのと同様の理由により,「面域上」には「面域

上に設置したレール上」を含まないから,ロ号装置は,構成要件C2を

充足しない。

構成要件F2の非充足

(ア)a 「板」とは,「薄く平たいもの」を意味し,「平たい」とは,「出

っ張ったところがなく,高低や傾斜がないこと」を意味するもので

あるから(乙22の1ないし3),「板状」には,湾曲した形状が

含まれない。

構成要件F2の「請求項1に記載のパドル」は,「2枚の板状の

掬い上げ部材を前後に且つ前後方向に対し傾斜させて配置し」(請




求項1)たものであるところ,「傾斜」とは,「かたむくこと」,

すなわち「一定の基準(水平または垂直)から片方へそれる」こと

であり(広辞苑第五版),湾曲のある形状のものには,「一定の基

準(水平または垂直)」と合致させた状態も,「一定の基準(水平

または垂直)」から「片方へそれる」状態も観念できないから,構

成要件F2の「板状」には,湾曲した形状が含まれない。

また,仮に湾曲した形状のものが「板状」に含まれると解釈した

場合には,構成要件G2の「台車の走行方向に対し直交して板状の

掬い上げ部材」における「直交」した状態を観念することができな

くなる。

c 本件明細書2においても,「湾曲していない形状」の意味におい

て「板状」との用語を用いている(段落【0005】,【0006

】,図5)。

d 以上によれば,構成要件F2の「前後一対の板状の掬い上げ部材」

あるいは「2枚の板状の掬い上げ部材」(請求項1)にいう「板状」

には,湾曲した形状のものを含まないと解すべきである。

(イ) ロ号装置の掬い上げ部材105dは,「1枚の部材」から構成さ

れた,「半円状に湾曲した形状」のものであるから,構成要件F2の「前

後一対の板状の掬い上げ部材」あるいは「2枚の板状の掬い上げ部材」

に該当しない。

したがって,ロ号装置は,構成要件F2を充足しない。

ウ まとめ

以上によれば,ロ号装置は,本件発明2の構成要件C2及びF2を充

足しないから,本件発明2の技術的範囲に属さない。

3 争点3(本件各特許権の権利行使の制限の成否)について

(1) 被告の主張




本件発明1に係る本件特許1及び本件発明2に係る本件特許2には,以

下のとおりの無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきもの

であるから,特許法104条の3第1項の規定により,本件各特許権は,

行使することができない。

ア 本件特許1

(ア) 無効理由1−1(新規性の欠如)

原告日環エンジニアリングが製造し,梨北農業協同組合に販売し,

山梨県北杜市高根町所在の「たかね有機センター」に納入設置され

た「KSコンポ醗酵ロータリーマシン KS7−12型」 (以下
装置 「本

件KS7−12」という。)に係る発明は,本件出願1の出願前に,

公然知られ,又は公然実施をされていた。

そして,本件発明1は,本件KS7−12に係る発明と同一である

から,本件発明1に係る本件特許1には,特許法29条1項1号又は

2号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。

a 公知又は公用

原告日環エンジニアリングは,平成9年5月30日ころまでに,本

件KS7−12を梨北農業協同組合に売却し,「たかね有機センタ

ー」に納入した。たかね有機センターは,北杜市が所有し,その管理

を梨北農業協同組合に委託した施設である。

本件KS7−12の納入に際し,原告日環エンジニアリングと梨北

農業協同組合との間で,本件KS7−12の内容を第三者に開示し

てはならない旨の合意はされていない。

そして,梨北農業協同組合は,たかね有機センターの管理業務を行

うに当たり,たかね有機センターの見学者に対して,本件KS7−1

2を見学させていた。その一例として,梨北農業協同組合は,平成9

年9月に,山梨県明野村(当時)の職員に対して,本件KS7−12




を見学させている。

したがって,本件KS7−12に係る発明は,本件出願1の出願

前(出願日平成11年8月5日)に,守秘義務を負わない梨北農業協

同組合に本件KS7−12が譲渡され,その内容が知られたことによ

り,公然知られたものといえる。

また,たかね有機センターは,同センター内に設置された本件KS

7−12の不特定者への見学を禁止しておらず,かつ,本件KS7−

12に係る発明の内容は,その性質上,本件KS7−12を分解する

ことなく,その作動状況を外部から観察することによって容易に知る

ことができるものであるから,本件KS7−12に係る発明は,本件

出願1の出願前に,本件KS7−12がたかね有機センターに設置さ

れたことにより,公然実施をされたものといえる。

b 発明の同一性

本件KS7−12に係る発明は,以下のとおり,本件発明1の構

成要件の各構成を全て備えているから,本件発明1と同一である。

(a) 構成要件A1

@ 本件KS7−12の設置箇所には,長さ約15mの長尺広幅

の面域があり,その長さ方向の1側に長尺壁があり,その向か

い側は,長尺壁のない長尺開放側面となっている(乙28の写

真1−1ないし1−4)。

この点に関し,原告らは,後記のとおり,「長尺広幅の面

域」(構成要件A1)の「長尺」とは,本件明細書1の段落【

0008】の記載を根拠に,長さが30mないし100mであ

る旨主張する。

しかし,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「長

尺」の長さを限定する文言は存在せず,また,段落【0008




】は,単なる実施例の記述にすぎないから,上記主張は失当で

ある。

A 構成要件A1の「有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理す

る長尺広幅の面域」にいう「経時的に投入堆積」とは,従来技術

であるピット式のように,ピットの一端から被処理物を投入し,

ピットの他端から発酵済み堆肥を投入するのではなく,長尺開放

側面の「所望の個所」から被処理物の投入堆積が可能な構成を意

味するものであり(本件明細書1の段落【0003】,【000

4】),その「所望の個所」とは,「長尺開放側面のうち台車が

存在しない個所」を意味するものと解すべきである。

そして,本件KS7−12の設置箇所には,「長尺開放側面の

うち台車が存在しない個所」が存在するから,その「個所」から

被処理物を投入堆積することが可能である。

また,本件KS7−12の設置箇所の長さ約15mの面域に

は,ロータリー式撹拌機の部分を除いた約12mの空間があり,

約12mの空間があれば,被処理物を複数回に分けて投入堆積す

ることが十分可能である。

さらに,有機質廃物の水分量を調整すれば,それ以上人為的に

手を加えずとも微生物の働きにより発酵が開始することに鑑み

れば,経時的な「投入堆積」が可能であれば,経時的な「堆積

発酵」も当然に可能であり,たとえ本件KS7−12の使用者

において,本件KS7−12の設置箇所に糞尿等を「1〜2日」

しか置かなかったとしても(甲52の1ないし3),発酵作用は

始まっており,発酵処理は行われている。

したがって,本件KS7−12の設置箇所における長尺広幅の

面域は,「有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理」すること




が可能な構成を有している。

B 以上によれば,本件KS7−12に係る発明は,構成要件

1の構成を備えている。

(b) 構成要件B1

@ 前記(a)によれ ば,本件KS7−1 2の設置箇所の面域

は,「長尺壁のない長尺開放側面」を有し,糞尿等の発酵処理が

行われているから,構成要件B1の「大容積のオープン式発酵槽」

を構成するものといえる。もっとも,たかね有機センターでは,

本件KS7−12の設置箇所(「混合槽」)で混合・撹拌した

原料を,別途設けた「発酵槽」において切り返しを行いながら

発酵させ,さらには,「熟成槽」において発酵させるという手

順を経て堆肥を製造するようにしているとしても(甲52の1

ないし3,乙9),これは,より良い堆肥を製造するためにあ

えてこのような手間を取っているだけのことであり,混合・撹

拌した原料をそのまま放置しておいても堆肥が製造できること

が否定されるものではないから,本件KS7−12の設置箇所

の面域は,「オープン式発酵槽」として機能し得るものである。

この点に関し,原告らは,「大容積のオープン式発酵槽」(構

成要件B1)の「大容積」とは,本件明細書1の段落【000

8】の記載を根拠に,長さが30mないし100mのものであ

るなどと主張する。

しかし,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「大

容積」を数値によって限定する文言は存在せず,また,段落【

0008】は,単なる実施例の記述にすぎないから,上記主張

は失当である。

A 以上によれば,本件KS7−12に係る発明は,構成要件




1の構成を備えている。

(c) 構成要件C1ないしE1

本件KS7−12に係る発明は,構成要件C1ないしE1の各

構成を備えている(乙28の写真1−5ないし1−22)。

(d) 構成要件F1

構成要件F1の「該オープン式発酵槽に対し,該長尺開放側面

を介してその長さ方向の所望の個所から被処理物の投入堆積と発

酵済みの堆肥の取り出しを行うようにしたこと」の構成は,発酵

槽が構成要件B1の「長尺開放側面」という構造を有すること及

構成要件E1の「台車を該オープン式発酵槽の長さ方向に往復

動走行自在に設ける」との構造を有することの必然的な結果であ

る。そして,本件KS7−12に係る発明は,前述のとおり,構

成要件B1及びE1の各構成を備えている以上,構成要件F1の

構成を備えているものといえる。

なお,本件KS7−12の取扱説明書(乙24)の「§1−2.

作業手順」(2頁)及び「§1−2.堆肥取り出し」(3頁)の

記載は,発酵槽の面域上の全ての堆肥を一度に取り出す旨を記載

するものでも,面域上のどの部分の堆肥を取り出すべきかを記載

するものでもなく,上記解釈に影響を及ぼすものではない。

(e) 構成要件G1

前記(b)@によれば,本件KS7−12は,「オープン式発酵

槽」に設置されているものといえるから,本件KS7−12に係

る発明は,構成要件G1の構成を備えている。

c 小括

以上によれば,本件KS7−12に係る発明は,本件発明1の構

成要件の各構成を全て備えており,本件発明1は,本件出願1の出




願前に,公然知られ,又は公然実施をされた本件KS7−12に係

る発明と同一のものであるから,新規性が欠如している。

(イ) 無効理由1−2(進歩性の欠如)

本件発明1は,以下のとおり,当業者が,本件出願1の出願前に,公

然知られ,又は公然実施をされた本件KS7−12に係る発明に基づい

容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1に係る本

件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条

項2号)がある。

a 本件発明1と本件KS7−12に係る発明との対比

仮に本件発明1と本件KS7−12に係る発明との間に,下記の

相違点があるとしても,その余の構成は一致する。

(相違点1)

本件発明1は,「有機質廃物を経時的に投入」可能な「長尺広幅

の面域」の構成(構成要件A1)を有するのに対し,本件KS7−

12に係る発明は,このような構成を有していない点。

(相違点2)

本件発明1は,「大容積のオープン式発酵槽」の構成(構成要件

B1)を有するのに対し,本件KS7−12に係る発明は,オープ

ン式発酵槽が「大容積」ではない点。

(相違点3)

本件発明1は,「長さ方向の所望の個所から被処理物の投入堆積

と発酵済みの堆肥の取り出しを行う」との構成(構成要件F1)を

有するのに対し,本件KS7−12に係る発明は,このような構成

を有していない点。

(相違点4)

本件発明1は,「オープン式発酵処理装置」(構成要件G1)で




あるのに対し,本件KS7−12に係る発明は,「オープン式発酵

処理装置」とはいえない点。

b 相違点の容易想到性

(a) 相違点1について

相違点1に係る本件発明1の「経時的に投入」可能な構成は,

本件KS7−12に係る発明における面域を広げることであるか

ら,容易に想到できる事項である。

また,本件KS7−12の使用者において,「現在より多くの

堆肥材料を投入したい」と欲すれば,その対策として槽を長尺方

向に拡張することを真っ先に想到するはずである。なぜなら,槽の

幅を拡張した場合には,槽の幅の拡張に応じて,ロータリー式撹拌

機も拡大して作り直すことが必要となることから,対応としては,

槽の長尺を伸ばすことにより,従前のロータリー式撹拌機をそのま

ま利用しつつ槽の中に収容できる堆肥材料の量を増やすように考

えることが経済合理性に適うからである。

したがって,本件KS7−12に係る発明において,槽を長尺

方向に拡張(長さ30m以上) 相違点1に係る本件発明1の
し, 「長

尺広幅の面域」の構成とすることは,容易に想到できる事項であ

る。

(b) 相違点2について

本件KS7−12の使用者において,槽に投入できる堆肥材料

の量を増やしたいと欲すれば,当然,槽の容量を大きくすること

に想到するから,相違点2に係る本件発明1の「大容積」の構成

は,容易に想到できる事項である。

(c) 相違点3について

相違点3に係る本件発明1の「長さ方向の所望の個所から被処




理物の投入堆積と発酵済みの堆肥の取り出しを行う」という使用

方法は,本件出願1の出願当時,周知であり(例えば,乙A17

には,「なお,発酵槽1の材料供給及び堆肥の取出しは,走行梁

がセットされていない発酵槽のブロックで自由に行うことがで

き」(3頁右上欄末行〜左下欄2行)との記載がある。),本件

KS7−12に係る発明に基づいて容易に想到できる事項であ

る。

(d) 相違点4について

本件KS7−12の設置施設において,混合槽とは別に発酵槽

を設けた理由は,混合槽に混合後の堆肥材料を放置しても堆肥は

製造できるが,より商品価値のある堆肥を製造するために,追加

工程を加えたにすぎない。

そのため,元々の使用方法である「混合機における混合後,堆

肥材料を槽に置いたまま堆肥化させる」という使用方法は容易想

到どころか,本件KS7−12の使用者であれば当然認識してい

使用方法である。

したがって,相違点4に係る本件発明1の「オープン式発酵処

理装置」の構成は,本件KS7−12に係る発明に基づいて容易

に想到できる事項である。

c 小括

以上によれば,本件発明1は,当業者が,本件KS7−12に係

る発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,

進歩性が欠如している。

イ 本件特許2

(ア) 無効理由2−1(新規性の欠如)

原告日環エンジニアリングが製造し,株式会社荏原製作所(以下「荏




原製作所」という。)に販売し,同社によって山梨県北杜市明野町所

在の「堆肥センター」に納入設置された「オープン式KS5−H12

00型混合機」(以下「本件混合機」という。)に係る発明は,本件

出願2の出願前に,公然知られ,又は公然実施をされていた。

そして,本件発明2は,本件混合機に係る発明と同一であるから,

本件発明2に係る本件特許2には,特許法29条1項1号又は2号に

違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。

なお,本件訂正は訂正要件を欠く不適法なものであるから,本件訂

正により上記無効理由は解消されない。

a 公知又は公用

日環エンジニアリングは,平成12年1月14日以前に,本件混合

機を荏原製作所に売却し,本件混合機は,平成12年1月14日,荏

原製作所によって「堆肥センター」に納入設置された。

原告日環エンジニアリングと荏原製作所との間で,本件混合機の

内容を第三者に開示してはならない旨の合意はされていないから,

本件混合機に係る発明は,本件出願2の出願前(出願日平成12年1

月18日)に,守秘義務を負わない荏原製作所に本件混合機が譲渡さ

れ,その内容が知られたことにより,公然知られたものといえる。

また,本件混合機に係る発明の内容は,その性質上,本件混合機を

分解することなく,その作動状況を外部から観察することによって容

易に知ることができるものであるから,本件混合機に係る発明は,本

件出願2の出願前に,本件混合機が荏原製作所に販売・引渡しがさ

れたことにより,公然実施をされたものといえる。

b 発明の同一性

本件混合機に係る発明は,本件発明2の構成要件の各構成を全て

備えているから(乙29の写真2−1ないし2−18),本件発明




2と同一である。

c 小括

したがって,本件発明2は,本件出願2の出願前に,公然知られ

又は公然実施をされた本件混合機に係る発明と同一のものであるか

ら,新規性が欠如している。

(イ) 無効理由2−2(進歩性の欠如@)

本件発明2は,当業者が,本件出願2の出願前に,公然知られ,又は

公然実施をされた本件混合機に係る発明に基づいて容易に発明をする

ことができたものであるから,本件発明2に係る本件特許2には,特許

29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。

すなわち,仮に本件発明2と本件混合機に係る発明とが,本件混合

機に係る発明が「有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理」する構

成(構成要件A2),「大容積のオープン式発酵槽」の構成(構成要

件B2)及び「オープン式発酵処理装置」の構成(構成要件H2)を

有していない点で相違するとしても,両発明のその余の構成は一致す

る。

そして,前記ア(イ)bで述べたとの同様の理由により,相違点に係

る本件発明2の上記各構成は,容易に想到できる事項である。

したがって,本件発明2は,当業者が,本件混合機に係る発明に基

づいて容易に発明をすることができたものであるから,進歩性が欠如

している。

なお,本件訂正は訂正要件を欠く不適法なものであるから,本件訂

正により上記無効理由は解消されない。

(ウ) 無効理由2−3(進歩性の欠如A)

本件発明2は,当業者が,本件出願2の出願前に,公然知られ,又は

公然実施をされた本件KS7−12に係る発明に基づいて容易に発明




を することができたものであるから,本件発明2に係る本件特許2に

は,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)が

ある。

すなわち,本件発明2と本件KS7−12に係る発明とを対比する

と,両発明は,本件KS7−12に係る発明が「該オープン式発酵槽

の該長尺開放側面側に位置する該回転軸の外端から少なくとも1本乃

至数本のパドルは,該長杆の先端に,前後一対の板状の掬い上げ部材

が夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に向けられて配設

された請求項1に記載のパドル」からなるとの構成(構成要件G2)

を有していない点で相違し,その余の構成は一致する。

そして,堆積物が撹拌により散乱することはよく知られた課題であ

ること(例えば,乙B42の段落【0004】),回転パドルによる

撹拌力が回転軸方向へ作用するように撹拌面を斜めにする技術は常套

手段であること(例えば,乙B44ないし52)からすると,本件K

S7−12に係る発明において,長尺開放側面側に位置するパドルと

して長尺壁側に撹拌力が作用する撹拌部を有するパドル(相違点に係

る発明2の構成)を用いることに,格別の困難性はない。

したがって,本件発明2は,当業者が,本件KS7−12に係る発

明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,進歩性

が欠如している。

なお,本件訂正は訂正要件を欠く不適法なものであるから,本件訂

正により上記無効理由は解消されない。

(エ) 無効理由2−4(進歩性の欠如B)

本件発明2は,当業者が,本件KS7−12に係る発明及び本件出願

2の出願前に頒布された刊行物である特開平7−222966号公

報(乙B44)に記載された発明に基づいて容易に発明をすることがで




きたものであるから,本件発明2に係る本件特許2には,特許法29条

2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。

すなわち,本件発明2と本件KS7−12に係る発明とは,本件K

S7−12に係る発明が「該オープン式発酵槽の該長尺開放側面側に

位置する該回転軸の外端から少なくとも1本乃至数本のパドルは,該

長杆の先端に,前後一対の板状の掬い上げ部材が夫々台車の走行方向

に対し斜めに交叉し且つ内側に向けられて配設された請求項1に記載

のパドル」からなるとの構成(構成要件G2)を有していない点で相

違し,その余の構成が一致することは,前記(ウ)のとおりである。

また,乙B44には,生ごみ処理材と生ごみを混合することによって,

生ごみを分解させる生ごみ装置において,被処理物を粗砕刃36側に移

動させるための案内部に関する発明として,「棒状の攪拌部37の先端

に,V字状の板状の案内部38の正回転時案内部38aと逆回転時案内部

38bとを,前後に且つ前後方向に対し傾斜させて配置」した発明(段落

【0021】,図2及び6)が開示されている。

そして,オープン式装置において被処理物が散乱することは周知の課

題であること(例えば,乙B42)などからすると,当業者においては,

本件KS7−12に係る発明に乙B44に記載された発明を組み合わ

せて,上記相違点に係る発明2の構成を容易に想到することができたも

のである。

したがって,本件発明2は,当業者が,本件KS7−12に係る発

明及び乙B44に記載された発明に基づいて容易に発明をすることが

できたものであるから,進歩性が欠如している。

なお,本件訂正は訂正要件を欠く不適法なものであるから,本件訂

正により上記無効理由は解消されない。

(オ) 無効理由2−5(明確性要件違反)




本件発明2の特許請求の範囲(請求項2)において引用する「請求

項1」中の「前後に」,「前後方向に対し傾斜させて」,「先端に…

2枚の板状の部材を…配置」,「前側」,「傾斜板の外面」,「斜め

1側前方を向き」,「その後ろ側」及び「斜め1側後方を向く」との

各文言の意味内容が不明確であり,また,請求項2中の「正,逆回

転」,「該長杆の先端に,前後一対の板状の掬い上げ部材が夫々台車

の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に向けられて配設され

た」,「該台車の走行方向に対し直交して板状の掬い上げ部材を取り

付けた」及び「その他の残る各パドルは,長杆の先端に,該台車の走

行方向に対し直交して板状の掬い上げ部材を取り付けた通常のパドル

から成る」との各文言の意味内容も不明確である。

したがって,本件発明2の特許請求の範囲(請求項2)は,特許を

受けようとする発明が明確ではないから,本件発明2に係る本件特許

2には,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許

出願に対してされた無効理由(同法123条1項4号)がある。

なお,本件訂正は訂正要件を欠く不適法なものであるから,本件訂

正により上記無効理由は解消されない。

(2) 原告らの主張

ア 本件特許1について

(ア) 無効理由1−1に対し

a 被告主張の本件KS7−12に係る発明は,以下のとおり,少な

くとも構成要件A1,B1,F1及びG1の各構成を備えていない。

(a) 本件KS7−12の構造等

@ 本件KS7−12は,機械幅(槽幅)が7m,堆肥材料の積

み上げ高さの限度(堆肥高さ)が1.2m(1200mm)の

混合機である。




本件KS7−12は,撹拌すべき堆積物を面域の全面に投入

し,面域の全体にわたる堆積物を撹拌するものである。このこ

とは,本件KS7−12の取扱説明書(乙24)の「§1−2.

作業手順」の「1)あらかじめ使用開始前に種糞(オガクズ・

モミガラ等)となるものを発酵槽全面に約30〜40cm位敷

つめる」,「§2−1.特徴と仕様」の「1) KSコンポオ

ープン型は,ロータリー式攪拌機を用いた,従来のエンドレス

発酵槽方式と全く同じ性能」,「[主な特長]」の「@ 発酵

槽の両端で電気信号を与えることにより,所定の停止位置まで

作動」などの記載から理解することができる。

本件KS7−12が想定する面域は,専ら面域の全体を一時

に使用することから,その長さは最大15m程度が限度である。

また,本件KS7−12は,堆肥高さが1.2mであるため,

本件KS7−12を使用する槽において発酵に必要な温度上昇

及び温度維持が困難であり,発酵処理ができない。

A 平成24年1月5日付け調査嘱託に対する回答書(甲52の

3)によれば,糞尿等を槽(本件KS7−12を使用する槽)

においておく期間が「1〜2日」,その間の撹拌頻度が「1回」

で,槽から搬出した糞尿等は,「一次発酵槽に持ち込み切り返

し」処理がされているのであるから,本件KS7−12が設置

されたたかね有機センターにおいては,本件KS7−12は発

酵処理に先立つ撹拌処理にのみ使用され,本件KS7−12を

使用する槽は,あくまで撹拌処理のみの場であって,発酵処理

は行われておらず,本件KS7−12によって撹拌処理した糞

尿等の発酵処理は別の場所の「一次発酵槽」で行われている。

(b) 構成要件A1について




本件発明1は,「経時的に投入堆積発酵処理」する「長尺広幅

の面域」(構成要件A1)を有する「大容積のオープン式発酵

槽」(構成要件B1)を備える「オープン式発酵処理装置」(構

成要件G1)である。

本件明細書1の段落【0005】は,本件発明1について,「堆

積物を所要期間発酵処理するに足る所望の長尺広幅の面域a」を

有するオープン式発酵処理装置であり,具体的には,「長さ30

〜100m,幅7〜8mの長尺広幅面域a」を有する発明である

との記載がある。

そして,@本件明細書1には,「長尺壁」に関する実施例とし

て,「長さ90〜100mのもの」(段落【0011】)や,「長

さ100mのもの」(段落【0013】 などが示され,
) また,「長

尺壁」の長さにつき「100m以上のものでも差支えないが,一

般に30〜100mの範囲で足りる(段落【0008】)」との

記載があること,A本件発明1は,「ピット式発酵槽を用いて,

大量の有機質廃物を毎日投入堆積し所要期間発酵させ堆肥を連続

生産するには,極めて面倒且つ非能率な作業を要する(段落【0

003】 」
) という従来技術の問題点を回避しつつ,効率的に,「大

量の発酵処理すべき有機質廃物を経時的に投入堆積発酵(段落【

0023】)」することを可能とするものであり,かかる本件発

明1が解決しようとする「課題」及び本件発明1の「効果」に鑑

みれば,投入可能な「有機質廃物」の量を画する基準となる「長

尺」については,面域の全体を一時に使用することのないような

相当程度の長さがあることが前提とされていることなどからする

と,上記段落【0005】の「長さ30〜100m」という記載

は,構成要件A1の「長尺広幅の面域」の「長尺」の意義(少な




くともその最下限)を明らかにするものであり,30m以上の長

さを指すというべきである。

しかるところ,本件KS7−12が設置された箇所の面域は,

その長さが15mであり,しかも,堆積物が常に全面にわたって

敷き詰められ,その面域上には空いた面域部分は存在しないた

め,「経時的に投入堆積」が行われず,さらには,上記面域では

撹拌処理のみが行われ,発酵処理が行われないのであるから,構

成要件A1の「経時的に投入堆積発酵処理」する「長尺広幅の面

域」(構成要件A1)に該当しない。

したがって,本件KS7−12に係る発明は,構成要件A1の

構成を備えていない。

(c) 構成要件B1について

本件発明1が解決しようとする「課題」及び本件発明1の「効

果」(前記(b))に鑑みれば,装置内に投入可能な「有機質廃物」

の量を画する基準となる「大容積のオープン式発酵槽」について

は,相当程度の容積を備えた発酵槽であることが必要である。

そして,構成要件B1の「大容積のオープン式発酵槽」におけ

る「大容積」とは,面域の全体を一時に使用することがないよう

な大容積を意味し,具体的には,長さ30m以上,幅6m以上,

高さ1m以上(本件明細書1の段落【0005】,【0006】,

【0008】,【0011】等)のものを指すというべきである。

しかるところ,前記(a)のとおり,本件KS7−12が設置さ

れた箇所の面域は,その長さが15mであり,発酵処理が行われ

ないのであるから,構成要件B1の「大容積のオープン式発酵槽」

に該当しない。

したがって,本件KS7−12に係る発明は,構成要件B1の




構成を備えていない。

(d) 構成要件F1について

本件KS7−12が設置された箇所の面域は,被処理物の投入

も取り出しも常に面域の全体で行われるから,構成要件F1の「長

さ方向の所望の個所」(つまり,長さ方向の一部分の「個所」)

から「被処理物の投入堆積と発酵済みの堆肥の取り出しを行う」

との構成を有していない。

したがって,本件KS7−12に係る発明は,構成要件F1の

構成を備えていない。

(e) 構成要件G1について

本件KS7−12は,撹拌装置と発酵槽が分離したタイプのも

のであり,「オープン式発酵処理装置」(構成要件G1)に該当

しない。

したがって,本件KS7−12に係る発明は,構成要件G1の

構成を備えていない。

b 以上によれば,本件発明1は,本件KS7−12に係る発明と同

一の発明ではなく,新規性を欠くものではないから,被告主張の無

効理由1−1は理由がない。

(イ) 無効理由1−2に対し

本件発明1は,有機質廃物を槽内に経時的に受け入れ,その槽内で

撹拌(混合)及び発酵をして堆肥を得るものであり,槽内で処理する

被処理物はきわめて大量であり,そのために,槽の大きさや容量は非

常に大きいのに対し,本件KS7−12は,本質的に撹拌(混合)の

ための混合機であり,槽内で処理する被処理物の量は相対的に少なく,

本件発明1における量に比べれば雲泥の差があり,本件KS7−12

が設置された場所の面域は,「面域の全体を一時に使用するような比




較的に小さな容量」である。

そうすると,本件KS7−12に係る発明に接した当業者において,

被告が主張するような「槽を長尺方向に拡張することを真っ先に想到

するはずである」,「槽に投入できる堆肥材料の量を増やしたいと欲

すれば,当然,槽の容量を大きくすることに想到する」などの発想を

抱くことはあり得ないことであり,相違点1ないし4に係る本件発明

1の各構成に容易に想到することができたものとはいえない。

したがって,被告主張の無効理由1−2は理由がない。

イ 本件特許2について

(ア) 無効理由2−1に対し

a 公知又は公用について

本件混合機が本件出願2の出願前の平成12年1月14日に「堆肥

センター」に納入設置されたとの被告の主張は,否認する。

「堆肥センター」における本件混合機の設置工事が開始されたのは,

本件出願2の出願後の同年2月9日である(甲22の1)。また,本

件混合機の「撹拌爪」(掬い上げ部材)について,T字型から三角

爪(本件発明2の構成要件F2の「掬い上げ部材」)への交換が行

われたのは,本件出願2の出願後の同年5月8日である(甲12の

7)。

したがって,本件混合機に係る発明は,本件出願2の出願前に,公

然知られ,又は公然実施をされたものとはいえない。

b 発明の同一性について

本件混合機に係る発明は,「有機質廃物を経時的に投入堆積発酵

処理」する構成(構成要件A2),「大容積のオープン式発酵槽」

の構成(構成要件B2)及び「オープン式発酵処理装置」の構成(構

成要件H2)を有していない点で,本件発明2と相違する。




したがって,本件発明2は,本件混合機に係る発明と同一である

とはいえない。

c 小括

以上によれば,被告主張の無効理由2−1は理由がない。

(イ) 無効理由2−2に対し

前記(ア)aのとおり,本件混合機に係る発明は,本件出願2の出願前

に,公然知られ,又は公然実施をされたものとはいえない。

また,本件発明2は,当業者が,本件混合機に係る発明に基づいて

容易に発明をすることができたものではない。

したがって,被告主張の無効理由2−2は理由がない。

(ウ) 無効理由2−3に対し

本件発明2は,高温発酵に大事な堆積物の高さ維持を図ることを課

題とし,この課題を解決するために,「一部のパドルを特定の構成に

するという考え方」(構成要件F2)を採用している。

これに対し本件KS7−12は,本質的に撹拌(混合)のための混

合機であって,本件発明2におけるような高温発酵という考え方は全

く存在しようがなく,「同じ面域の異なる複数個所に経時的に投入す

る」大容積な発酵槽とも無縁であり,また,「一部のパドルを特定の

構成にするという考え方」を全く示していない。

したがって,本件発明2は,当業者が,本件KS7−12に係る発

明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから,被告

主張の無効理由2−3は理由がない。

(エ) 無効理由2−4に対し

本件KS7−12に係る発明については,前記(ウ)で述べたとおり

である。

また,乙B44には,生ごみ処理装置における閉じた空間において,




処理材と生ごみとの混合物を粗砕刃36側に移動させるための案内部

38が示されているが,それらは,正逆回転時に,隣接し連続した箇

所(粗砕刃36側)へ混合物を移動させる案内機能を発揮するにすぎ

ない。これに対し本件発明2における構成要件F2のパドルは,オー

プンな空間の中で,被処理物を所定方向に放り出すものであり,両者

は,内容的に全く異なる技術である。

したがって,本件KS7−12に係る発明と乙B44に記載された

発明を組み合わせる前提を欠くものであって,本件発明2は,当業者

が,本件KS7−12に係る発明及び乙B44に記載された発明に基

づいて容易に発明をすることができたものではないから,被告主張の

無効理由2−4は理由がない。

(オ) 無効理由2−5に対し

被告が不明確であると主張する各用語の内容については,本件明細

書2の発明の詳細な説明における図11に関連する部分の説明から,

当業者が充分に理解できる。

また,本件発明2は,掬い上げ部材による掬い上げ作用に着目して

いるのであるから,その着目点から特許請求の範囲(請求項2)の記

載内容を解釈する限り,掬い上げ部材に関する各技術的事項について

も充分に理解可能である。

したがって,被告主張の無効理由2−5は理由がない。

(カ) 本件訂正に係る対抗主張

仮に被告主張の無効理由2−1ないし2−5のいずれかを認め得る

としても,本件訂正によって無効理由2−1ないし2−5はいずれも

解消され,かつ,ロ号装置は本件訂正発明2(本件訂正後の請求項2

に係る発明)の技術的範囲に属するものであるから,被告の本件特許

2の権利行使制限の主張は,理由がない。




4 争点4(差止めの必要性)について

(1) 原告キシエンジニアリング及び原告Aの主張

被告作成の「SE式自動切返機 開放型」のパンフレット(甲5)の2頁

には,@中央部分に位置する制御盤の写真に,「SEK−6000HL O

P制御盤」(2頁)との表記,A左下部分に位置するレイアウト図に,「ど

こからで投入・搬出可能です」,「投入⇔搬出」,「前進⇔後退」との記

載,B右下部分に位置する写真の添え書き中に,撹拌爪(掬い上げ部材)

に関し,「先端部分はボルトにて簡単に取替えられます」との記載がそれ

ぞれある。

上記@の制御盤は,被告が千葉県匝瑳市所在の増田牧場(甲16の1,

2)及び同県山武郡横芝光町所在の大木牧場(甲17の1,2)に販売・

設置したロ号装置のものと同じであり,上記Aの記載は,開放型の特徴を

示すものであるから,甲5は,オープン式発酵処理装置であるロ号装置の

提供をうたったものといえる。

加えて,上記Bにおいて,撹拌爪(掬い上げ部材)に関して上述のよう

に簡単に取り替えられるとの記載があることからすれば,甲5は,イ号装

置の提供をもうたっているものといえる。

したがって,被告によるイ号装置及びロ号装置の製造及び販売のおそれ

があるものといえるから,いずれの装置についても製造及び販売の差止

の必要がある。

(2) 被告の主張

原告キシエンジニアリング及び原告Aの主張の主張は争う。

5 争点5(原告らの損害の発生及び損害額)について

(1) 原告らの主張

ア 原告日環エンジニアリング

(ア) 独占的通常実施権の許諾




a 原告日環エンジニアリングは,平成15年7月18日,原告キシ

エンジニアリングから,本件特許権1につき,次のとおりの独占的

通常実施権(以下「本件独占的通常実施権1」という。)の許諾を

受けた(甲8の1)。

地域 日本国内

期間 本件特許権1の存続期間が満了するまでの間

内容 特許発明の全部

b 原告日環エンジニアリングは,平成17年5月27日,原告Aか

ら,本件特許権2につき,次のとおりの独占的通常実施権(以下「本

独占的通常実施権2」という。)の許諾を受けた(甲9の1)。

地域 日本国内

期間 本件特許権2の存続期間が満了するまでの間

内容 特許発明の全部

(イ) 独占的通常実施権に基づく固有の損害賠償請求権

a 独占的な実施許諾があるということは,そこに法的保護に値する

利益があることを意味するものであり,被告によるイ号装置及びロ

号装置の販売は,故意又は過失により,原告日環エンジニアリング

が有する本件独占的通常実施権1及び2(以下,これらを併せて「本

件各独占的通常実施権」という。)に基づく上記法的保護に値する

利益を侵害するものとして不法行為を構成する。

したがって,原告日環エンジニアリングは,被告に対し,上記不

法行為に基づく固有の損害賠償請求権を有する。

b この点に関し,被告は,後記のとおり,本件特許権1について,

原告キシエンジニアリングが株式会社晃伸製機(以下「晃伸製機」

という。)に通常実施権を許諾し,その登録がされているから,原

告日環エンジニアリングは,本件特許権1の独占的通常実施権者で




あるとはいえない旨主張する。

しかし,通常実施権とは,特許権に基づく権利行使を行わないと

いう不作為請求権であり,独占的通常実施権とは,特許権者が独占

通常実施権者に対し,第三者に実施許諾しない旨の債務を負担す

ることとなる通常実施権である。これらの債権債務は,当事者間の

合意により発生するものであるから,仮に特許権者が上記義務に反

して,第三者に実施許諾をしたとしても,独占的通常実施権者に対

する債務不履行の問題を生ずるにすぎず,独占的通常実施権の存在

自体は何ら左右されるものではない。

また,原告キシエンジニアリングの晃伸製機に対する本件特許権

1の通常実施権は,業界の円滑な競争維持のために便宜上設定され

た形式的なものにすぎず,晃伸製機は,本件特許1の特許発明の技

術的範囲に属する製品を製造・販売しているわけではないから(甲

10,55),上記通常実施権の存在によって原告日環エンジニア

リングの本件独占的通常実施権1に基づく事実上の独占状態が何ら

否定されるものではない。

したがって,被告の上記主張は,理由がない。

(ウ) 特許法102条1項の類推適用に基づく損害額(主位的主張)

a 特許法102条1項の規定は,独占的通常実施権者である原告日

環エンジニアリングについても類推適用されるべきである。

被告は,平成16年1月1日から平成21年6月30日までの間,

イ号装置及びロ号装置を製造及び販売し,その販売数量は各5基を

下らない。

b 原告日環エンジニアリングは,平成16年2月25日から平成2

0年4月18日までの間,本件発明1及び2の実施品を合計12基

販売し,その1基当たりの利益額は,1473万7985円(甲6




1の1ないし11,63,64)であり,同額が,「侵害の行為が

なければ販売することができた単位数量当たりの利益の額」(特許

102条1項)である。

したがって,被告の本件各独占的通常実施権侵害行為により原

告が受けた損害額は,特許法102条1項の類推適用により,イ号

装置の販売に係る分及びロ号装置の販売に係る分それぞれにつき7

368万9925円となる。

(計算式 1473万7985円×5=7368万9925円)

(エ) 特許法102条2項の類推適用に基づく損害額(予備的主張)

特許法102条2項の規定は,独占的通常実施権者である原告日環

エンジニアリングについても類推適用されるべきである。

前記(ウ)aのとおり,被告は,平成16年1月1日から平成21年

6月30日までの間,イ号装置及びロ号装置を少なくとも各5基販売

し,その販売により1基当たり1473万7985円の利益を受けた。

そうすると,被告がイ号装置及びロ号装置を販売して本件各独占的

通常実施権侵害したことにより特許法102条2項の類推適用によ

り推定される原告日環エンジニアリングの損害額は,イ号装置の販売

に係る分及びロ号装置の販売に係る分それぞれにつき7368万99

25円(前記(ウ)bと同額)となる。

イ 原告キシエンジニアリング

(ア) 被告によるイ号装置及びロ号装置の製造及び販売は,故意又は過

失により,原告キシエンジニアリングの本件特許権1を侵害するもの

として不法行為を構成し,被告は原告キシエンジニアリングに対し,

原告キシエンジニアリングが受けた損害を賠償する義務を負う。

(イ) 前記ア(ウ)aのとおり,被告は,平成16年1月1日から平成2

1年6月30日までの間,イ号装置及びロ号装置を少なくとも各5基




販売し,1基当たりの販売価格は3000万円を下らない。

そして,特許法102条3項の規定により,原告キシエンジニアリ

ングが受けるべき実施料相当額損害額は,イ号装置の販売に係る分

及びロ号装置の販売に係る分それぞれにつき上記期間の販売総額の5

%である750万円を下らない。

(計算式 3000万円×5×0.05=750万円)

ウ 原告A

(ア) 被告によるロ号装置の製造及び販売は,故意又は過失により,原

告Aの本件特許権2を侵害するものとして不法行為を構成し,被告は

原告Aに対し,原告Aが受けた損害を賠償する義務を負う。

(イ) 前記ア(ウ)aのとおり,被告は,平成16年1月1日から平成2

1年6月30日までの間,ロ号装置を少なくとも5基販売し,1基当

たりの販売価格は3000万円を下らない。

そして,特許法102条3項の規定により,原告Aが受けるべき実

施料相当額の損害額は,上記期間のロ号装置の販売総額の5%である

750万円を下らない。

(計算式 3000万円×5×0.05=750万円)

エ まとめ

以上によれば,原告らは,被告に対し,@原告日環エンジニアリング

においては,本件各独占的実施権侵害不法行為に基づく損害賠償と

して主位的にロ号装置に係る分の損害の内金5000万円,予備的にイ

号装置に係る分の損害の内金2500万円及びロ号装置に係る分の内金

2500万円の合計5000万円,A原告キシエンジニアリングにおい

ては,本件特許権1の侵害不法行為に基づく損害賠償としてイ号装置

及びロ号装置に係る分の損害の内金750万円,B原告Aにおいては,

本件特許権2の侵害不法行為に基づく損害賠償としてロ号装置に係る




分の損害の内金750万円並びに上記@ないしBの各金員に対する平成

21年8月5日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで民法所定の

年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

(2) 被告の主張

ア 原告日環エンジニアリングの主張について

(ア) 独占的通常実施権の許諾の不存在

a 本件独占的通常実施権1に係る平成15年7月28日付け契約

書(甲8の1)は,原本の印影がいずれも不鮮明であり,用紙自体

も真新しく,およそ平成15年に作成された書類とは思えず,本件

訴訟のために作成された可能性も否定できないこと,本件特許権1

については,原告キシエンジニアリングが晃伸製機に通常実施権

設定し,平成17年3月25日付けでその旨の登録がされているこ

とからすると,原告日環エンジニアリングが本件特許権1の独占的

通常実施権者であるとはいえない。

また,晃伸製機が同年9月5日に本件発明1を改良した発明の特

許出願をしていることからすると(乙58),晃伸製機は本件発明

1を利用していることは明らかであるから,原告日環エンジニアリ

ングが本件特許権1の実施について事実上独占しているということ

もできない。

b 原告日環エンジニアリングが本件独占的通常実施権2の許諾を受

けたとの事実は不知。

(イ) 独占的通常実施権に基づく固有の損害賠償請求権の不存在

前記(ア)のとおり,原告日環エンジニアリングが本件各特許権につ

いて独占的通常実施権を有するものとはいえないから,原告日環エン

ジニアリング主張の固有の損害賠償請求権は存在しない。

(ウ) 特許法102条1項の類推適用に基づく損害額について




a 前記(ア)aのとおり,原告日環エンジニアリングが本件特許権1

実施について事実上独占している事実は存在しないから,原告日

環エンジニアリングについて特許法102条1項を類推適用するこ

とはできない。

b 被告が平成16年1月1日から平成21年6月30日までの間に

販売したイ号装置の販売数量は0基,ロ号装置の販売数量は合計2

基(鈴木建設株式会社に販売し,増田牧場及び大木牧場に納品され

た分)であり,被告がこれを超える販売をした事実はない。

c 原告日環エンジニアリングによる本件発明1及び2の実施品の1

基当たりの利益額が1473万7985円であるとの事実は否認す

る。

原告日環エンジニアリングが根拠として挙げる甲61の1ないし

11は,@同一の型番の機械であるのに,機械の価格に大きな開き

があること(例えば,甲61の10と甲61の11),A予算獲得,

予算案作成のために多めに設定された受注金額を示したものであっ

て,実際の売上金額ではないこと(実際の販売に当たっては値引き

がされている。),B甲61の5に係る2基,甲61の9に係る1

基の合計3基については,型番の横に「(昇降式)」との記載があ

り(甲62),そもそも本件発明1の実施品でないか,実施をして

いる部分が製品の一部にすぎない可能性が高いことからからする

と,原告日環エンジニアリング主張の上記利益額算定の根拠となる

ものではない。

(エ) 特許法102条2項の類推適用に基づく損害額について

a 前記(ア)aのとおり,原告日環エンジニアリングが本件特許権1

実施について事実上独占している事実は存在しないから,原告日

環エンジニアリングについて特許法102条2項を類推適用するこ




とはできない。

b 前記(ウ)bのとおり,被告が平成16年1月1日から平成21年

6月30日までの間に販売したイ号装置及びロ号装置の販売数量

は,ロ号装置の合計2基(増田牧場及び大木牧場に納品された分)

のみであり,その1基当たりの販売価格はいずれも685万714

3円,原価は増田牧場に納品分が426万2193円,大木牧場に

納品分が448万1224円であって,被告が上記販売により受け

た利益額は,それぞれ259万4950円,237万5919円に

すぎない。

イ 原告日環エンジニアリング及び原告Aの主張について

いずれも争う。

第4 当裁判所の判断

1 争点1(本件発明1の技術的範囲の属否)について

(1) 構成要件C1の充足性

ア イ号装置が別紙物件目録1記載のとおりの構成を,ロ号装置が同目録

2記載のとおりの構成をそれぞれ有すること,イ号装置及びロ号装置が,

いずれも本件発明1の構成要件A1,B1,D1,F1及びG1を充足

することは,前記争いのない事実等(4)イ及びウ(ア)のとおりである。

そして,別紙物件目録1及び2によれば,イ号装置及びロ号装置は,

ロータリー式撹拌機105の台車106が,長尺開放面側と長尺壁側と

にそれぞれ自走のための車輪を備え,一方(長尺開放面側)の車輪は,

槽101の「床面のレール101r上」を走行し,他方(長尺壁側)の

車輪は,「長尺壁101aに設けたレール上」を走行する構成を備えて

いる。

イ 原告ら(原告日環エンジニアリング及び原告キシエンジニアリング)

は,構成要件C1は,台車が,「該長尺壁の上端面にレールを敷設し,




該レール上を回転走行する車輪」と「該長尺開放側面側の床面上を該長

尺開放側面に沿い回転走行する車輪」を具備することを規定していると

ころ,上記「該長尺開放側面側の床面上を該長尺開放側面に沿い回転走

行する車輪」にいう「床面上」の用語は,「レールのない床面上」だけ

ではなく,「レールのある床面上」をも含むものと解すべきであり,イ

号装置及びロ号装置は,台車106の長尺壁側の車輪が「長尺壁101

aに設けたレール上」を走行し,その長尺開放面側の車輪が槽101

の「床面のレール101r上」を走行するから,構成要件C1を充足す

る旨主張する。

これに対し被告は,構成要件C1の「床面上」の用語は,「床面上に

設置したレール上」を含まないから,イ号装置及びロ号装置は,構成要

件C1を充足しない旨主張する。

そこで,以下において,構成要件C1の「床面上」の意義について検

討する。

(ア) 特許請求の範囲の記載

本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記争いのな

い事実等(3)ア(ア)のとおりであり,本件発明1の「オープン式発酵処

理装置」が,「有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理する長尺広幅

の面域の長さ方向の1側に長尺壁を設け,その他側は長尺壁のない長

尺開放側面として成る大容積のオープン式発酵槽」と「該長尺壁の上

端面にレールを敷設し,該レール上を回転走行する車輪と該長尺開放

側面側の床面上を該長尺開放側面に沿い回転走行する車輪とを配設さ

れて具備すると共に該オープン式発酵槽の長尺広幅の面域の幅方向に

延びる回転軸の全長に亘り且つその周面に多数本のパドルを配設して

成り,且つ堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロータリー式撹

拌機を具備した台車」とで構成され,「該オープン式発酵槽に対し,




該長尺開放側面を介してその長さ方向の所望の個所から被処理物の投

入堆積と発酵済みの堆肥の取り出しを行うようにしたこと」を特徴と

するものであることを規定しているが,請求項1中には,「該長尺開

放側面側の床面上を該長尺開放側面に沿い回転走行する車輪」にい

う「床面上」(構成要件C1)の用語の意義について特段規定した記

載はない。

(イ) 本件明細書1の記載事項

a 本件明細書1(甲2)の「発明の詳細な説明」には,次のような

記載がある(この記載中に引用する図1ないし5,7については,

別紙本件明細書1図面参照)。

(a) 「【発明の属する技術分野】本発明は,含有水分を調整され

た畜糞,汚泥その他の所望の種類の有機質廃物から成る被処理物

を経時的に投入堆積発酵処理するためのオープン式発酵処理装置

並びに発酵処理法に関する。」(段落【0001】)

(b) 「【従来の技術】牛,豚などの生糞や食品生産工場や家庭な

どから排出される生ゴミや汚泥などの有機質廃物を水分調整材に

より含水率を調整して成る大量の被処理物を経時的に投入堆積

し,所要期間発酵させて堆肥を生産するための従来の発酵処理装

置は,所望の長尺広幅を存して対向し且つ平行する長尺壁を配設

し,その平行する長尺壁間に被処理物を経時的に投入堆積するた

めのピットを形成して成るピット式発酵槽を構築し,その両側の

長尺壁の上面にレールを敷設し,そのピットを跨ぎその左右のレ

ール上を撹拌機を具備した台車を長さ方向に往復動走行自在に設

けて成るものである。」(段落【0002】)

(c) 「【発明が解決しようとする課題】しかし乍ら,上記従来の

発酵処理装置は,被処理物を投入堆積するための長尺広幅の面域




の両側に相当の深さを有するピット式発酵層を構築するには,平

行する一対のコンクリート長尺壁を処理場に構築し,その左右の

長尺壁の上面に一対のレールを敷設する工事に相当の時間もかゝ

り,その設備費も高価となる。これに加え,このピット式発酵槽

を用いて,大量の有機質廃物を毎日投入堆積し所要期間発酵させ

堆肥を連続生産するには,極めて面倒且つ非能率な作業を要する。

例えば,乳牛を大規模に飼育する場合,毎日相当多量の生糞が排

泄されるので,毎日これをその発酵槽に投入し,更にその後水分

調整材を投入して水分を調整してその1日の投入被処理物のバッ

チ毎に約30日間発酵処理をしなければならないのが一般である

ので,相当長手の一対の長尺壁の構築が必要であるばかりでなく,

その30日分の被処理物の発酵処理を行うには,毎日,処理すべ

き生糞と水分調整材を夫々ピットの一端から投入しなければなら

ないので,ピットの一端から投入できる1バッチの被処理物の量

は限定され,また,その投入に当たり,予めピットの一端に所要

量のバッチが投入できる容積空間を開ける必要があるため,その

投入ごとに,以前に投入された堆積物を台車を往復動走行させそ

の撹拌機によりピットの奥の方へ移動させなければならない煩わ

しく且つ非能率な作業を繰り返し行わなければならない。このよ

うにして,25〜30日間毎日かゝる煩わしい投入,堆積移動作

業を繰り返し行い,ピットの他端に移動された25〜30日間発

酵処理を行って得た発酵済みの堆肥をピットの他端から順次取り

出さねばならない。即ち,その取出し場所が1個所に限定された

不便をもたらす。このように,従来の発酵処理法は,有機質廃物

の投入を要する毎に台車を移動させ,その撹拌機によりピット内

の堆積物をピットの奥の方に移動させる煩わしい作業に伴い電力




消費量の増大などの不都合をもたらす。而も,堆積物は,投入の

都度,撹拌移動されるため,発酵温度が低下し,高温発酵が維持

できず,その結果,殺菌,殺虫が不充分となり,特に,牛糞や活

性汚泥などの比較的栄養分の少ない有機質廃物では,好気性菌に

よる発酵作用が劣り,毎日撹拌されると更に発酵温度が上がらな

いため,良質の堆肥が得られない不都合を生ずる。また,肉牛を,

オガ屑の寝床で大規模に飼育し,例えば15日経過したところで

寝床が生糞で汚れるので,これを掻き集めて新しい寝床に取り替

え,その掻き集めた15日分の生糞とオガ屑が混合された既に含

有水分の調整されている被処理物を発酵処理する必要があるが,

従来のピット式発酵槽では,15日分の極めて大量の被処理物を

一度にピット内へ投入することができないので,何回にも分けて

ピットの一端から投入する必要があり,その都度,移動用撹拌機

の往復動走行を繰り返して,前記と同様に,以前投入された堆積

物をピットの奥の方へ移動させてピットの一端に投入し得る容積

空間を開ける操業が必要であり,かくして,その15日分の被処

理物の全てをピット内に投入するまでには,非能率且つ極めて煩

わしく且つ非能率な作業と大きな電力を消費しなければならず,

堆肥生産のコストを更に増大する不都合を伴う。本発明は,上記

従来の発酵処理装置並びに発酵処理法の上記課題を解消し,容易

且つ安価なオープン式発酵処理装置と経時的な投入堆積発酵処理

作業を容易にし,各種の畜糞,家庭廃棄物や産業廃棄物として排

出される有機質廃物を高温発酵を保持し乍ら良好な発酵処理を確

保し得られ,特に,栄養分の比較的少ない牛糞や活性汚泥の発酵

処理に適し得るオープン式発酵処理法を提供することを目的とす

る。」(段落【0003】)




(d) 「【課題を解決するための手段】本発明のオープン式発酵処

理装置は,有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理する長尺広幅

の面域の長さ方向の1側に長尺壁を設け,その他側は長尺壁のな

い長尺開放側面として成る大容積のオープン式発酵槽を構成する

と共に,該長尺壁の上端面にレールを敷設し,該レール上を回転

走行する車輪と該長尺開放側面側の床面上を該長尺開放側面に沿

い回転走行する車輪とを配設されて具備すると共に該オープン式

発酵槽の長尺広幅の面域の幅方向に延びる回転軸の全長に亘り且

つその周面に多数本のパドルを配設して成り,且つ堆積物を往復

動撹拌する正,逆回転自在のロータリー式撹拌機を具備した台車

を該オープン式発酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設けると共

に該オープン式発酵槽に対し,該長尺開放側面を介してその長さ

方向の所望の個所から被処理物の投入堆積と発酵済みの堆肥の取

り出しを行うようにしたことを特徴とする。この場合,上記のオ

ープン式発酵処理装置において,該長尺壁の両端に該長尺広幅の

面域の幅方向に延びる端壁を配設して長尺コ字状に形成すること

が好ましく一般である。また,本発明は,オープン式発酵処理法

は,上記の本発明のオープン式発酵装置の発酵オープン式発酵槽

の該長尺開放側面を介して該オープン式発酵槽内の所望の個所へ

の有機質廃物の投入堆積を経時的に行い,台車の往復動走行に伴

う該ロータリー式撹拌機の正,逆回転による夫々の堆積物の往復

動撹拌を適時繰り返し行い乍ら所要期間発酵せしめ,夫々の投入

時の位置から発酵処理済みの堆肥を該長尺開放側面を介して取り

出すようにしたことを特徴とする。」(段落【0004】)

(e) 「【発明の実施の形態】図1及び図2は,本発明の発酵処理

装置と発酵処理法の基本構成と概要を説明するための概略図を示




し,図1はその平面図,図2は図1のA−A線裁断面図である。

本発明は,先ず第一に,発酵槽として従来のピット式発酵槽を廃

し,オープン式発酵槽に構成したことを特徴とする。図面におい

て,1はオープン式発酵槽を示す。該オープン式発酵槽1は,長

棟(図示しない)内の所定個所に,畜糞,家庭廃棄物,汚泥,活

性汚泥など所望の有機質廃物を水分調整材と共に経時的に,例え

ば毎日投入堆積し,その夫々の堆積物を所要期間発酵処理するに

足る所望の長尺広幅の面域a,例えば長さ30〜100m,幅7

〜8mの長尺広幅面域aと,その長さ方向の1側に,例えば長さ

100m,高さ1〜2mのコンクリート製の長尺壁1aと,該長

尺壁1aと対向する他側には,長尺壁を構築することなく長尺開

放側面2とから成る。本発明は,かゝるオープン式発酵槽1を構

成すると共に,その該長尺壁1aの上端面にその全長に亘りレー

ル3を敷設し,該レール3上と該長尺開放側面2側の面域a側に

その床面a上を回転走行する車輪4を左右前後に配設して具備す

ると共に,該オープン式発酵槽1内に投入堆積された被処理物を

撹拌する正,逆回転自在のロータリー式撹拌機5を具備した台車

6を該オープン式発酵槽1の長さ方向に,即ち,該長尺広幅面域

aの長さ方向に往復動走行自在に設けることにより,オープン式

発酵処理装置Pを構成する。図面で7は,正,逆回転自在のモー

タを示し,これにより該ロータリー式撹拌機5は,台車6の往動

走行時には正転方向に回転し,台車6の復動走行時には逆転回転

せしめられる。該撹拌機5は,該台車6の幅方向に延びる回転軸

5aにその全長に亘り且つその全周に多数本のパドル5b,5b,

…が配設されており,各パドル5bは,長手板状でその先端は広

幅帯状面域aの底面に略達する長さを有し,その先端には堆積物




を掬い上げる板状,爪状などの掬い上げ部材5cを有し,その回

転により堆積物の撹拌とその正転,逆転による往復動撹拌を行う

作用を有する。図面で8は,車輪4を駆動する可逆モータ,9は,

電源に接続するケーブル10を巻取り自在に保持するケーブルリ

ール11に接続するコントロールボックスを示す。該コントロー

ルボックス9は夫々前記のロータリー式撹拌機駆動用モータ7,

車輪駆動用モータ8,台車6の始動,停止,台車6の往復動走行

における夫々の反転リミットスイッチ,全停止リミットスイッチ,

蛇行走行防止用リミットスイッチなどの種々の電気,電子機器を

駆動,制御を行っている。」(段落【0005】)

(f) 「該長尺広幅面域aは,好ましくは,その面域aにコンクリ

ート製など施工床面a′に形成し,台車6の開放側面2側の車輪

4,4がその平坦な施工床面a′上を走行するようにすることが

好ましく一般である。また,該長尺広幅面域aの長さ方向の両端

は開放端面のまゝでも差支えないが,例えば,該長尺壁1の両端

から該長尺壁1に対し直角に幅方向に所望長さ延びる例えば,幅

7〜8m延び且つ高さ1.5〜2mのコンクリートの両端壁1b,

1bを構築し,堆積物の両端の崩れを防止し,該長尺広幅面域a

上に囲壁1a,1b,1bで囲まれ,その他側の開放側面2を介

して投入堆積される極めて大量の被処理物をコ字状に区劃収容す

るに足る大容積の長尺コ字状のオープン式発酵槽1とすることが

好ましく一般である。被処理物の投入堆積される堆積物Tは,高

さ1.4〜1.9m,その幅は6〜7m程度まで図示の仮想線の

ように堆積できる。」(段落【0006】)

(g) 「本発明は,上記のようなオープン式発酵処理装置に構成し

たので,次のような利点をもたらす。@容易且つ安価に構築でき




る。A被処理物Tを,図1,図2に示すように,オープン式発酵

槽の長尺開放側面2を介してその長さ方向の所望の個所からでも

ショベル車などで矢示のように投入堆積とその堆積物の発酵済み

の堆肥の取り出しを長尺開放側面2を介し容易に行うことができ

る。B水分調整材を,その長尺開放側面2のいずれの個所からで

も堆積物Tの水分調整のために投入できる。C1日に投入すべき

大量の被処理物はもとより,例えば,15日分の極めて大量の被

処理物をその長尺開放側面2を介して一度に投入できる。D水分

調整材を,そのオープン式発酵槽内のその長さ方向に堆積され発

酵中の被処理物の上に水分調整を必要とする個所に投入できる。

E新たな堆積物の投入は,該長尺開放側面を介して,未だ空いて

いる空間に直接投入できるので,従来のような新たな堆積物の投

入を必要とする度に,ピット内の一端を移動用台車を往復動走行

して投入に必要な容積空間を空ける必要がないので,作業が容易

となると同時に,台車を運転する消費電力が著しく節約される。

F投入された堆積物は,台車のロータリー式撹拌機で撹拌する場

合は,往復動撹拌であるので,投入された位置で撹伴混合が終了

すると共に所要期間の発酵が行われ発酵終了後は,投入場所と同

じ所から取り出すことができ,その取り出した跡に,新たな被処

理物の投入堆積を行うことができ,堆肥の連続生産が容易に且つ

低コストで行うことができる。従来の撹拌用台車により,ピット

の他端の方向へ堆積物を移動させ,その発酵済みの堆肥をその他

端から取り出す面倒を解消できる。G堆肥の生産管理が容易でラ

ンニングコストが低下し,安価に生産し得る。」(段落【000

7】)

(h) 「長尺壁1の長さは,例えば,飼育する家畜の頭数や排出さ




れる家畜の生糞を毎日投入堆積し,30日程度の長期間に亘りそ

の堆積物を発酵処理し,順次取り出し連続的に堆肥を生産するに

は100m以上でも差支えないが,一般に30〜100mの範囲

で足りる。100mの長尺壁を処理棟内に構築するには,極めて

長手の処理棟を要し,相当長手の設置面積を要するので,たとえ

ば,30〜50mの比較的短い長尺壁のオープン式発酵槽を2つ

又はそれ以上の数を1つの作業場内に配設するようにすることが

好ましい。また,長尺壁や両端壁の高さは,ショベル車で被処理

物を1〜2mの高さまで投入堆積し得られる1〜2mの範囲と

し,一般に, 5m程度が好ましい。 (段落
1. 」 【0008】 ,
) 「そ

の投入された堆積物は,毎日撹拌すると,温度が低下し,生糞に

含まれる病原菌などの微生物,ウジなどの害虫が死なずに残るお

それがある。特に,栄養分の少ない有機質廃物の処理では,毎日

撹拌することは好ましくない。70℃以上の高温発酵を行うには,

例えば1〜5日間程度撹拌することなくそのまゝ静置することに

より,その放置期間において,高温発酵が確保される。その放置

期間後,撹拌することにより,内部の水分は蒸発し,同時に外気

が混入し好気的条件が良くなる。このような放置と撹拌を繰り返

すことにより,比較的栄養分の少ない有機質廃物も高温発酵が確

保され,25〜30日間程度の発酵期間が経過すれば,殺虫,殺

菌された良質の堆肥として得られる。」(段落【0010】)

(i) 「次に長さ90〜100m,高さ1.5〜2mの長尺壁1と

その両端に幅方向の長さ6〜8m,高さ1〜2mの両端壁1a,

1aを構築して成るオープン式発酵装置を用い,オープン式発酵

処理法の実施の1例を図3〜図5を参照し詳述する。先ず,乳牛

100頭が排出した1日分の生糞を被処理物として,1日目にオ




ープン式発酵槽の長尺広幅面域aの一端にその長尺開放側面2の

一端を介しショベル車により投入した後,その上面に水分調整材

として該生糞に対し3倍のオガ屑を投入し,その堆積物T1を撹

拌用台車6を1回往復動走行させ,その間そのロータリー式撹拌

機5を正,逆回転させて台車6の幅方向に配設された多数本のパ

ドル5b,5b,…によりその全幅に亘り往復動切換え撹拌し生

糞とオガ屑は混合され,且つ含有水分の調整された堆積物T1と

する。」,「堆積物T1は,その配設されたパドルの正回転によ

りその一端から順次掬い上げられ後方へ,図3の仮想線で示す矢

示方向に回転撹拌移動せしめられ,次に,ロータリー式撹拌機5

の逆回転により,移動された堆積物T1は,その配設された多数

本のパドル5b,5b,…の逆回転によりその他端から順次掬い

上げられ前方へ,図3の仮想線で示す矢示方向に切換え撹拌移動

せしめられ,元の投入時の位置に戻り生糞とオガ屑が混合された

60%以下に水分調整された混合堆積物T1とする。この正,逆

回転に よる 往復 動切 り換え 撹拌 を, 以下 往復動 撹拌 と略 称す

る。」,「同様に,堆積物T1に隣接して2日目,3日目,4日

目に夫々1日分の生糞とオガ屑の投入堆積,往復動撹拌を行い,

その夫々の混合堆積物T2,T3,T4を調製した後,その5日

目に,その1日分の生糞とオガ屑の投入堆積を行った後,台車6

を図3の実線矢示のように,堆積物T1まで溯り,往動走行させ

た後反転させ,その堆積物T1から5日目の堆積物M5まで往復

動走行させ,その間堆積物M1,M2,M3,M4及び堆積物M

5をロータリー式撹拌機5の正,逆回転により往復動撹拌して混

合する。」,「次に,図4に示すように,6日目,7日目,8日

目,9日目において,前記の1日目,2日目,3日目,4日目と




同様の要領で,夫々の生糞とオガ屑を投入された各堆積物T6,

T7,T8,T9を上記と同様に仮想線矢示のように往復動撹拌

混合を夫々行い,その夫々の含有水分の調整された混合堆積物T

6,T7,T8,T9とした後,10日目の生糞と水分調整材の

投入堆積後台車6を実線矢示のように堆積物T1まで溯り,往動

走行させた後反転させ,その10日目の堆積物M10まで復動走

行させ,その間発酵堆積物M1〜堆積物M10のロータリー式撹

拌機5による往復動撹伴を行う。」,「上記のように発酵処理を

行うときは,堆積物T1は,4日間撹拌されることなくその静置

状態で発酵が行われるので,70℃以上の高温発酵が確保され,

5日目毎に5回,往復動撹拌と水分の放散と外気の混入が行われ。

30日目には,良好に発酵が済みの乾燥した良好な堆肥が得られ

る。31日目に,発酵済みの堆積物M1,即ち堆肥M1を,図5

の矢示のように,当初の投入位置と同じ位置からオープン発酵槽

の長尺開放側面を介して取り出した後,31日目の新しい1日分

の生糞とオガ屑をその取り出した跡の空いた場所に矢示のように

投入し,その堆積物について前記の1日目の堆積物と同様に往復

動撹拌混合を行い発酵させる。このようにして,堆積物T2,T

3,…も5日目以降は,同様に4日間の静置発酵と5日目毎に合

計5回の往復動撹拌が行われ,夫々投入後,30日目にその投入

位置で良好な堆肥として得られるので,その長尺開放側面2を介

して取り出され,その跡に新しい被処理物の投入を行うことがで

きる。かくして,順次毎日連続して良好な堆肥が得られると同時

に,その取り出し跡に新しい被処理物の投入を行うことができ,

良好な堆肥連続製造法を繰り返し行うことができる。」,「かく

して,従来のピット式発酵槽の場合のように,被処理物をピット




の一端にその投入を意図する毎に,そのピットの一端に以前に投

入堆積した堆積物を撹拌機を具備した台車で撹拌移動し空所を開

ける必要がない。」(以上,段落【0011】)

(j) 「更に,本発明のオープン式発酵装置の詳細な実施例につき,

図6以下を参照し説明する。図6は,本発明のオープン式発酵装

置Pの1例の具体的な平面図,図7は,オープン式発酵槽1を横

断し,該台車6の前進方向から見た同装置の正面図,図8は,オ

ープン式発酵槽1の長尺開放側面側から見た同装置の側面図,図

9は,同装置の長さ方向の中央断面図,図10は,該長尺壁側か

ら見た同装置の側面図を示す。」(段落【0012】),「長棟

内の処理場に施工したコンクリート製床面a′上に,例えば,長

さ100メートル,高さ1.5メートル,肉厚170mmのコン

クリート製の長尺壁1aとその両端に夫々該長尺壁1に対し直角

に幅方向に7.7メートル延び,高さ1.5メートル,肉厚17

0mmのコンクリート製の端壁1a,1aを構築し,この長尺壁

1aとその両端壁(図示省略)とによって囲まれ,その長尺壁1

と対向する側は,長さ100メートルの高さ方向及び側面が開放

された長尺開放側面2を有する長尺コ字状のオープン式発酵槽1

を形成した。即ち,コ字状囲壁1,1a,1aで三辺を囲まれた

大容積空間を有し,且つ1側面が長尺開放側面2に形成されたオ

ープン式発酵槽1が得られる。」(段落【0013】),「本発

明によれば,このようにオープン式発酵槽1を構成したので,そ

の全長100メートル,高さ1.5メートルにより囲まれた大容

積の内部空間には,極めて大量の各種の有機質廃物から成る被処

理物を大量に毎日投入堆積し得られ,その夫々の堆積物が長期間

に亘り発酵処理するに足り,而もその長尺の開放側面2を介して,




その長さ方向の所望の場所に,その被処理物をショベル車により

搬送し,投入とその発酵処理済みの堆積物,即ち堆肥の取り出し

を行うことができるばかりでなく,また,発酵中の多数個所の堆

積物のうち,例えば,その中間の所定の個所の堆積物に水分調整

材を投入することができるなどの便利をもたらす。」(段落【0

014】)

(k) 「本発明によれば,このように構成したオープン式発酵槽1

内にその開放側面2を介して,所望の場所に有機質廃物と水分調

整材を順次投入堆積せしめたものを,例えば,幅約6メートル,

長さ約3.2メートルの方形の囲枠基台6aから成る台車6をそ

の1側の前後の車輪4,4を該レール3上をその他側の前後の車

輪4,4を該施工床面a′上を転動走行するように配置し,該台

車6を該オープン式発酵槽1の長さ方向に往復動走行させて,こ

の往動走行,復動走行に合わせてロータリー式撹拌機5の回転軸

5aを正回転,逆回転させて,その往動走行で後方へその復動走

行で前方へ,即ち,もとの位置に移動し,その間,有機質廃物と

水分調整材とを撹拌混合する。即ち,往復動撹拌して混合堆積物

とし,この状態で発酵が行われる。発酵終了後,かくして,その

堆肥をその投入時と同じ位置から取り出すようにし,必要に応じ,

その取り出した跡に,新しい被処理物を投入し,引続き連続して

発酵処理を行えるようにした。」(段落【0015】),「次に,

図示の台車6の具体的な構成につき詳述する。台車6は,幅6メ

ートル,前後方向の長さ約3メートルの方形のH鋼などの鋼材か

ら成る堅牢な方形の囲枠基台6aと,これに前後左右に配設した

車輪4,4,4,4とから成る。その囲枠基台6aの左右の側枠

6a1,6a2の長さの中間部において,そのいくらか下方に位




置して床面a′から約1.4メートルの高さに位置して横型ロー

タリー式撹拌機5の回転軸5aを左右のベアリング部を介し回転

自在に架設した。」,「該回転軸5aには,その長さ方向に且つ

周面に多数本のパドル5b,5b,…を螺旋状に配設した。各パ

ドル5bは,適当に広幅で板状又は角型の長杆から成り,その長

さは,床面a′に摺接するほどに長手であり,その先端には,堆

積物を掬い上げる板状,爪状などの掬い上げ部材5cを有し,且

つ各相隣るパドル5b,5bの掬い上げ部材5c,5cの対向端

側は,互いに重なるような位置に存し,かくして,床面a′上の

堆積物をその幅全長に亘り隙間なく掬い上げることができるよう

にした。」,「該台車6の囲枠基台6aの長尺開放側面2側に位

置する右側枠6a1には,その前後に位置して下方に延びる脚部

13,13を設け,その下端に,夫々前後の車輪4,4を回転自

在に取り付け,その前車輪4を車輪駆動用可逆モータ8により伝

導装置14を介して駆動自在とした。また,該台車6の左側枠6

a2上には,これから外方に突設した台上に車輪駆動用可逆モー

タ8′を設置し,その伝導装置14′を介し,後車輪4を駆動自

在とした。各該脚部13は,図示の例では,H鋼などの鋼材を材

料として堅牢に図示のように組み立てたものである。」(以上,

段落【0016】),「また,本発明の台車6には,機械的又は

/及び電気的な蛇行防止装置を設けることが好ましい。即ち,図

10,特に図13(a),(b)は,台車6に,機械的な蛇行防

止装置の1例を具備した場合を示す。同図に明示したように,台

車6の囲枠基台6aの左側枠6a2の前,後端部に,蛇行防止装

置30を夫々配設して成り,該前後の各蛇行防止装置30は,基

端部を取り付けられて下垂せしめた保持部材30aとその下端に




長尺壁1aの外壁面に対し直角に近接させてボールベアリングを

介し回転自在に水平に保持されたローラ30bとから成る。一般

に,台車6は,往動走行或いは復動走行のいずれの場合において

も,レールに付設した湿気やぬめりなどにより車輪が滑り或いは

回転速度が遅くなるなどによりしばしば台車6は,その走行中に

左右に僅かに蛇行する嫌いがある。台車6が走行中直線進路に対

し左側又は右側に傾動変位しようとするときは,その往動走行又

は復動走行する台車6の後側に位置する蛇行防止装置30のロー

ラ30b或いは前側に位置する蛇行防止装置30のローラ30b

のいずれか一方がレール3の側面に当たり,それ以上の傾動変位

を防止することができ,その転動により良好な円滑な走行を維持

することができる。」(段落【0020】)

(l) 「【発明の効果】このように本発明によるときは,大量の発

酵処理すべき有機質廃物を経時的に投入堆積発酵を行うに足る広

幅帯状面域の長さ方向の1側に長尺壁を設け,その他側には長尺

壁を設けることなく長尺開放側面として成るオープン式発酵槽を

設け,該長尺壁の上端面に敷設したレール上を回転走行する車輪

とその長尺開放側面側の床面上を該長尺開放側面に沿い回転走行

する車輪とを配設されて具備すると共に該オープン式発酵槽の長

尺広幅の面域の幅方向に延びる回転軸の全長に亘り且つその周面

に多数本のパドルを配設して成り,正,逆回転自在のロータリー

式撹拌機を具備した台車を,そのオープン式発酵槽の長さ方向に

沿い往復動走行自在に設けると共に該オープン式発酵槽に対し,

該長尺開放側面を介してその長さ方向の所望の個所から被処理物

の投入堆積と発酵済みの堆肥の取り出しを行うようにして成るオ

ープン式発酵装置を構成したので,発酵処理すべき有機質廃物を,




その長尺開放側面を介して前記の撹拌機を具備した台車が位置し

ない,その長さ方向におけるどの位置からでも該オープン式発酵

槽内に投入でき,従来のピット式発酵槽の場合のようなピットの

一端に有機質廃物を順次投入するに当たり,その都度,台車を往

復動させ,その撹拌機によりピットの一端に先に投入堆積されて

いるの堆積物をピットの奥の方へ移動させて,その一端を空にし

なければならないという投入作業における煩わしさと非能率をも

たらし,更には,大きな消費電力を要するなどの不都合を解消し

得られる。また,投入される被処理物は,該長尺壁の内面で受け

止められ,所望の高さまで堆積することができる。また,長さ方

向に堆積した発酵中の有機質廃物から成る堆積物のどこからでも

その必要な個所に水分調整材を長尺開放側面を介して直ちに投入

でき,その所望の個所の水分調整を行うことができる。また,台

車の往復動に伴いロータリー式撹拌機に具備した台車の幅方向に

配設した多数本のパドルの正,逆回転で堆積物をその全幅に亘り

一挙に高能率に往復動撹拌を行うことができると共に,その往復

動撹拌後の堆積物の位置は,元の投入位置に位置するので,発酵

終了後の堆肥は,その投入位置と同じ場所から該長尺開放側面を

介して取り出すことができ,その取り出した跡の空所に新たな被

処理物を直ちに投入できる便利をもたらす。更にまた,オープン

式発酵槽は,従来のピット式発酵槽に比し,構築が容易且つ安価

にできる。また,本発明により,長尺壁の両端に両端壁を配設す

るときは,両端に堆積された堆積物の崩れを防止し得るコ字状の

オープン式発酵槽を構成することができる。」(段落【0023

】)

b 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の文言と本件明細書1




の「発明な詳細の説明」の前記aの記載事項(各図面を含む。)を

総合すれば,本件明細書1には,@有機質廃物から成る大量の被処

理物を経時的に投入堆積し,所要期間発酵させて堆肥を生産するた

めの従来の発酵処理装置は,被処理物を投入堆積するための長尺広

幅の面域の両側に平行する一対の長尺壁を設け,その長尺壁間にピ

ットを有するピット式発酵槽を構築し,上記両側(左右)の長尺壁

の上面にそれぞれレールを敷設し,上記ピットを跨ぎ,上記左右の

長尺壁のレール上を撹拌機を具備した台車を長さ方向に往復動走行

自在に設けて成るものであるが,平行する一対の長尺壁を処理場に

構築し,その左右の長尺壁の上面に一対のレールを敷設する工事に

相当の時間がかかり,その設備費も高価となることに加えて,ピッ

トの両側に長尺壁があるため,被処理物をピットの一端から投入し,

その他端から順次取り出さなければならないので,ピットの一端か

ら投入できる1バッチの被処理物の量は限定され,また,その投入

に当たり,予めピットの一端に所要量のバッチが投入できる容積空

間を開ける必要があるため,その投入ごとに,以前に投入された堆

積物を台車を往復動走行させその撹拌機によりピットの奥の方へ移

動させなければならず,大量の有機質廃物を毎日投入堆積し所要期

間発酵させ堆肥を連続生産するには,極めて面倒かつ非能率な作業

を要するという課題があったこと(前記a(b),(c)),A本件発

明1は,上記課題を解決するための手段として,長尺広幅の面域の

両側に平行する一対の長尺壁を設け,その長尺壁間にピットを有す

るピット式発酵槽に代えて,大量の発酵処理すべき有機質廃物を経

時的に投入堆積発酵を行うに足る長尺広幅の面域(広幅帯状面域)

の長さ方向の一方の側に長尺壁を設け,その他方の側には長尺壁を

設けることなく長尺開放側面としたオープン式発酵槽の構成と,長




尺壁の上端面に敷設したレール上を回転走行する車輪,長尺開放側

面側の床面上を長尺開放側面に沿い回転走行する車輪及び多数本の

パドルが配設された正,逆回転自在のロータリー式撹拌機とを具備

した台車をオープン式発酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設ける

構成とを採用し,これにより,オープン式発酵槽の長尺開放側面を

介してその長さ方向の所望の箇所(個所)から被処理物の投入堆積

と発酵済みの堆肥の取り出しを行うようにしたオープン式発酵処理

装置であること(前記a(d),(l)),B本件発明1は,発酵処理

すべき有機質廃物を長尺開放側面を介してオープン式発酵槽内の所

望の箇所(個所)への被処理物の投入堆積を経時的に行い,発酵終

了後の堆肥は,その投入位置と同じ場所から長尺開放側面を介して

取り出すことができ,その取り出した跡の空所に新たな被処理物を

直ちに投入できるので,ピット式発酵槽を用いた従来の発酵処理装

置における面倒かつ非能率な作業を解消することができ,さらには,

従来のピット式発酵槽に比べて,オープン式発酵槽の構築が容易か

つ安価にできるなどの効果を奏すること(前記a(d),(g),(l))

が開示されているものと認められる。

また,本件明細書1には,「該長尺広幅面域aは,好ましくは,

その面域aにコンクリート製など施工床面a′に形成し,台車6の

開放側面2側の車輪4,4がその平坦な施工床面a′上を走行する

ようにすることが好ましく一般である。」(段落【0006】。前

記a(f))との記載があり,また,本件発明1の実施例として,「例

えば,幅約6メートル,長さ約3.2メートルの方形の囲枠基台6

aから成る台車6をその1側の前後の車輪4,4を該レール3上を

その他側の前後の車輪4,4を該施工床面a′上を転動走行するよ

うに配置し」(段落【0015】。前記a(k))との記載があり,




台車の長尺開放側面側の車輪が「施工床面a′上」を回転走行する

ことが示されている。

一方で,本件明細書1中には,「該長尺開放側面側の床面上を該

長尺開放側面に沿い回転走行する車輪」にいう「床面上」(構成要

件C1)の用語の意義について,特段規定した記載はなく,また,「床

面上」を上記「施工床面a′上」の構成のものに限定する旨の記載

や示唆もない。

(ウ) 検討

a 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載(前記(ア))を

基礎に,本件明細書1の記載事項(前記(イ))を考慮して検討する

に,特許請求の範囲及び本件明細書1には,「該長尺開放側面側の

床面上を該長尺開放側面に沿い回転走行する車輪」にいう「床面

上」(構成要件C1)の用語を特段規定する記載はなく,「長尺開

放側面側の床面上を…回転走行する車輪」との構成が車輪が床面を

直接回転走行する構成のものに限定する趣旨の記載もないから,車

輪が「長尺開放側面側の床面に敷設されたレール上」を回転走行す

る場合も,「長尺開放側面側の床面上を…回転走行する車輪」に当

たると解するのが自然である。

加えて,本件明細書1によれば,本件発明1は,長尺広幅の面域

の両側に平行する一対の長尺壁を設け,その長尺壁間にピットを有

するピット式発酵槽に代えて,長尺広幅の面域(広幅帯状面域)の

長さ方向の一方の側に長尺壁を設け,その他方の側には長尺壁を設

けることなく長尺開放側面としたオープン式発酵槽の構成と,長尺

壁の上端面に敷設したレール上を回転走行する車輪,長尺開放側面

側の床面上を長尺開放側面に沿い回転走行する車輪及び多数本のパ

ドルが配設された正,逆回転自在のロータリー式撹拌機とを具備し




た台車をオープン式発酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設ける構

成とを採用したことにより,長尺開放側面を介してオープン式発酵

槽内の所望の箇所(個所)への被処理物の投入堆積を経時的に行い,

発酵終了後の堆肥は,その投入位置と同じ場所から長尺開放側面を

介して取り出すことができ,その取り出した跡の空所に新たな被処

理物を直ちに投入できるので,ピット式発酵槽を用いた従来の発酵

処理装置における面倒かつ非能率な作業を解消することができ,さ

らには,従来のピット式発酵槽に比べて,発酵槽の構築が容易かつ

安価にできるなどの効果を奏するようにしたものであるが(前記(イ

)b),台車の一方の車輪が長尺開放側面の「床面のレール上」を回

転走行する構成のものであっても,長尺開放側面を介してオープン

式発酵槽内の所望の箇所(個所)への被処理物の投入堆積を経時的

に行い,発酵終了後の堆肥は,その投入位置と同じ場所から長尺開

放側面を介して取り出すことに支障はなく,本件発明1の上記効果

を奏することができるものと認められる。

以上によれば,「該長尺開放側面側の床面上を該長尺開放側面に

沿い回転走行する車輪」にいう「床面上」(構成要件C1)は,床

面のレールの敷設の有無を問わず,「床面に敷設されたレール上」

をも含むものと解すべきである。

b これに対し被告は,@本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)

構成要件C1は,二つの車輪の走行場所について,長尺壁側の車

輪については,「上端面にレールを敷設し,該レール上」を走行す

る旨明記しているのであるから,仮に長尺開放側面側の車輪が,床

面上ではなく床面上に設置したレールの上を走行するのであれば,

請求項1にも,「床面上」ではなく「床面にレールを敷設し,該レ

ール上」と記載するはずである,A本件特許1の出願経過において,




旧請求項1の「面域上」と記載されていた部分が,請求項1では「床

面上を該長尺開放側面に沿い」と補正されているところ,上記補正

の理由を記載した原告キシエンジニアリング作成の平成15年1月

20日付け意見書(乙3)において,「床面上」との文言を「車輪

が床面上を走行するだけの構造」に限定しているから,構成要件

1の「床面上」に「床面上に設置したレール上」を含むと解するこ

とは,禁反言の原則から許されない,B本件明細書1の発明の詳細

な説明の段落【0003】には,本件発明1が,1「対」のレール

を必要とする構成を除外し,レールを1「本」しか設置しない構成

を採用することにより,構成簡単で製造コストを安価にして課題の

解決を図った旨が明確に記載されているなどとして(以下,それぞ

れを「被告の主張@」などという。),構成要件C1の「床面上」

の用語は,「床面上に設置したレール上」を含まないと解すべきで

ある旨主張する。

しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。

(a) 被告の主張@について

前記a認定のとおり,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)

の記載及び本件明細書1中には,「該長尺開放側面側の床面上を

該長尺開放側面に沿い回転走行する車輪」にいう「床面上」(構

成要件C1)の用語を特段規定する記載はなく,「長尺開放側面

側の床面上を…回転走行する車輪」との構成が車輪が床面を直接

回転走行する構成のものに限定する趣旨の記載もない。

かえって,請求項1では,長尺壁側の車輪については,長尺壁

の上端 面の レー ル上 を回転 走行 する 構成 を必須 とし たこ とか

ら,「該長尺壁の上端面にレールを敷設し,該レール上」を回転

走行する車輪と記載し,長尺開放側面側の車輪については,回転




走行する床面のレールの敷設の有無を問わない構成としたことか

ら,単に「床面上」とし,床面上を該長尺開放側面に沿い回転走

行する車輪と記載したものと解される。

したがって,被告の主張@は理由がない。

(b) 被告の主張Aについて

本件出願1の出願経過において,旧請求項1の「有機質廃物を

経時的に投入堆積発酵処理する長尺広幅の面域の長さ方向の1側

に長尺壁を設け,その他側は長尺壁のない長尺開放側面として成

る大容積のオープン式発酵槽を構成すると共に,該長尺壁の上端

面にレールを敷設し,該レール上と該長尺開放側面側の面域上を

回転走行する車輪を配設されて具備すると共に堆積物を往復動撹

伴する正,逆回転自在のロータリー式撹拌機を具備した台車を該

オープン式発酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設けたことを特

徴とするオープン式発酵処理装置。」(乙2)との記載が本件発

明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載に補正され,旧請求項

1の「該長尺開放側面側の面域上を回転走行する車輪」の記載が

請求項1では「該長尺開放側面側の床面上を該長尺開放側面に沿

い回転走行する車輪」とされている。

そして,原告キシエンジニアリング作成の平成15年1月20

日付け意見書(乙3)中には,本件出願1に対する平成14年1

1月13日付け拒絶理由通知書(乙4)に引用された「引用文献

2」(乙5)及び「引用文献3」(乙6)に関し,「御指摘のよ

うに,御引用文献2,3には,台車,即ち,可動フレーム10又

は移動台車3の一方の車輪を立設した走行路3上又は仕切壁2の

レール2b上に設け,その他方の車輪を地面(床面)に設けるこ

とは記載されていますが,御引用文献2,3の台車は,その床面




を走行する側において該外周壁の外面を走行する案内輪17及び

誘導車輪5も必要であります。而も,両引用文献2,3とも,撹

拌機1や撹拌スクープ22を外周の囲繞壁と内側の長尺壁との間

を往復動せしめる機構を要しますが,本願の発明では,これらの

設備は不要で,構成簡単で製造コストが安価な構成のロータリー

撹拌機で済みます。」との記載がある。

しかるところ,引用文献2及び3に記載された発明は,長楕円

形(小判形)又は円形に外周壁を設けて槽を構成し,撹拌機も外

周壁の形状に沿って長楕円状又は円状に巡回走行する形態である

こと(乙5,6)に照らすならば,上記意見書の記載は,引用文

献2及び3では,長楕円状又は円状の走行形態のため,外周壁の

外面を走行する案内輪17(引用文献2)又は外壁面に向かう誘

導車輪5(引用文献3)を必要とするのに対し,本件発明1では,

車輪が長尺開放側面に沿って直線走行する走行形態のため,案内

輪や誘導車輪が不要であることを述べたものにすぎず,「長尺開

放側面側の床面上」のレールの要否について述べたものではなく,

ましてや,請求項1の「床面上」との文言を「車輪が床面上を走

行するだけの構造」に限定したものということはできない。

したがって,被告の主張Aは理由がない。

(c) 被告の主張Bについて

本件明細書1の段落【0003】には,「上記従来の発酵処理

装置は,被処理物を投入堆積するための長尺広幅の面域の両側に

相当の深さを有するピット式発酵層を構築するには,平行する一

対のコンクリート長尺壁を処理場に構築し,その左右の長尺壁の

上面に一対のレールを敷設する工事に相当の時間もかゝり,その

設備費も高価となる。」,「本発明は,上記従来の発酵処理装置




並びに発酵処理法の上記課題を解消し,容易且つ安価なオープン

式発酵処理装置と経時的な投入堆積発酵処理作業を容易にし,各

種の畜糞,家庭廃棄物や産業廃棄物として排出される有機質廃物

を高温発酵を保持し乍ら良好な発酵処理を確保し得られ,特に,

栄養分の比較的少ない牛糞や活性汚泥の発酵処理に適し得るオー

プン式発酵処理法を提供することを目的とする。」との記載(前

記(イ)a(c))がある。

しかるに,本件明細書1の段落【0004】の記載(前記(イ)

a(d))及び段落【0023】中の「更にまた,オープン式発酵

槽は,従来のピット式発酵槽に比し,構築が容易且つ安価にでき

る。」の記載(前記(イ)a(l))を併せ考慮すると,段落【00

03】の上記記載部分は,本件発明1において,長尺広幅の面域

の両側に平行する一対の長尺壁を設け,その長尺壁間にピットを

有するピット式発酵槽に代えて,長尺広幅の面域(広幅帯状面域)

の長さ方向の一方の側に長尺壁を設け,その他方の側には長尺壁

を設けることなく長尺開放側面としたオープン式発酵槽の構成を

採用したことにより,従来のピット式発酵槽に比し,発酵槽の構

築が容易かつ安価にできることを述べたものにすぎず,レールの

数を1「対」から1「本」とする構成を採用することにより,「構

成簡単で製造コストを安価にして課題の解決を図った旨」を示し

たものと解することはできない。

また,被告は,本件明細書1の図7及び14を根拠に,本件発

明1は,レールを1本に減らしてレールを2本設置する手間と費

用を節減し,レール上を走行する車輪については,レールを左右

から挟み込む断面H型形状としてレールに嵌合させることによ

り,車輪がレールに沿って走行することを確保しようとする技術




思想に則った技術である旨主張するが,図7及び14から,本件

発明1の技術思想が,レールを1本に減らしてレールを2本設置

する手間と費用を節減したことにあることを読み取ることはでき

ないし,また,被告の指摘する上記技術は,台車の蛇行防止装置

に関するものであり(段落【0020】。前記(イ)a(k)),レ

ールの数を1「対」から1「本」とする構成を採用するかどうか

とは関係がない。

したがって,被告の主張Bは理由がない。

ウ 以上のとおり,構成要件C1の「床面上」は,床面のレールの敷設の

有無を問わず,「床面に敷設されたレール上」をも含むものと解すべき

であり,イ号装置及びロ号装置は,台車106の長尺壁側の車輪が「長

尺壁101aに設けたレール上」を走行し,その長尺開放面側の車輪が

槽101の「床面のレール101r上」を走行するから,構成要件C1

を充足する。

(2) 構成要件E1の充足性

ア 別紙物件目録1及び2によれば,イ号装置及びロ号装置は,一方向と

その反対方向に回転可能なロータリー式撹拌機105を備え,ロータリ

ー式撹拌機105の台車106が,一方の側壁101b側から他方の側

壁101bまで槽101の全域にわたって移動できる構成を備えている

から,構成要件E1(「堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロー

タリー式撹拌機を具備した台車を該オープン式発酵槽の長さ方向に往復

動走行自在に設ける」との構成)を充足するものと認められる。

イ これに対し被告は,構成要件E1の「堆積物を往復動撹拌する正,逆

回転自在のロータリー式撹拌機」の回転方向は,前方にある堆積物に対

しパドルが下から上方向に特定されると解すべきであるところ,イ号装

置及びロ号装置は,いずれもパドルが前方の堆積物を上から下へかきだ




す方向に回転するものであるから,構成要件E1を充足しない旨主張す

る。

しかしながら,「ロータリー式撹拌機」の回転方向が前方にある堆積

物に対しパドルが下から上方向に特定(限定)されることを前提とする

被告の主張は,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)及び本件明細

書1の記載に基づかないものであり,失当である。なお,被告が引用す

る乙60は,本件特許2に係る別件審決2−2の審決取消訴訟において,

本件特許2の特許権者である原告Aが提出した準備書面であり,本件特

許1に係る本件発明1の構成要件E1の解釈に影響を及ぼすものではな

い。

(3) まとめ

以上によれば,イ号装置及びロ号装置は,本件発明1の構成要件を全て

充足するから,本件発明1の技術的範囲に属するものと認められる。

2 争点2(本件発明2の技術的範囲の属否)について

(1) 構成要件C2及びF2の充足性

ア ロ号装置が別紙物件目録2記載のとおりの構成を有すること,ロ号装

置が本件発明2の構成要件A2,B2,D2,E2,G2及びH2を充

足することは,前記争いのない事実等(4)イ及びウ(イ)のとおりである。

また,本件発明2の構成要件C2は本件発明1の構成要件C1と同一

の構成であるから,前記1(1)で説示したのと同様の理由により,ロ号装

置は,構成要件C2を充足するものと認められる。

イ 別紙物件目録2によれば,ロ号装置は,台車106の脚部113に近

い側に位置する撹拌機105の回転軸105aの周面に設けられたパド

ル105bの先端の掬い上げ部材105dが,同目録記載の図5に示す

ような半円弧状の形状を有し,その半円弧状部が図4に示すように長尺

壁側を向くように取り付けられた構成を備えている。




原告ら(原告日環エンジニアリング及び原告A) 構成要件F2の
は, 「該

長杆の先端に,前後一対の板状の掬い上げ部材が夫々台車の走行方向に

対し斜めに交叉し且つ内側に向けられて配設された請求項1に記載のパ

ドル」にいう「前後一対の板状の掬い上げ部材」中の「板状」とは,「厚

さが少なくて幅が広い」形を意味するものであり,ロ号装置における掬

い上げ部材105dのような半円状に湾曲したものをも含み,また,掬

い上げ部材105dの左右の各1/4円弧状の部分は,「走行方向に対

し斜めに交叉し且つ内側に向け」ているなどとして,ロ号装置は,構成

要件F2を充足する旨主張する。

これに対し被告は,構成要件F2にいう「前後一対の板状の掬い上げ

部材」中の「板状」には,湾曲した形状のものを含まず,また,「前後

一対の板状の掬い上げ部材」とは,「2枚の板状の掬い上げ部材」(請

求項1)を意味するところ,ロ号装置における掬い上げ部材105d

は,「1枚の部材」から構成された「半円状に湾曲した形状」のもので

あるから,「前後一対の板状の掬い上げ部材」に該当せず,ロ号装置は,

構成要件F2を充足しない旨主張する。

そこで,以下において,構成要件F2の「前後一対の板状の掬い上げ

部材が夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に向けられて配

設された請求項1に記載のパドル」の意義について検討する。

(ア) 特許請求の範囲の記載

本件発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載は,前記争いのな

い事実等(3)イ(ア)のとおりである。そして,本件発明2の構成要件

2の「これらのパドルのうち,該オープン式発酵槽の該長尺開放側面

側に位置する該回転軸の外端から少なくとも1本乃至数本のパドル

は,該長杆の先端に,前後一対の板状の掬い上げ部材が夫々台車の走

行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に向けられて配設された請求項1




に記載のパドルから成り」にいう「請求項1に記載のパドル」とは,「長

杆の先端に,2枚の板状の掬い上げ部材を前後に且つ前後方向に対し

傾斜させて配置し,その前側の傾斜板の外面は斜め1側前方を向き,

その後側の傾斜板の外面は斜め1側後方を向くように配向せしめて配

設したことを特徴とするパドル」(請求項1)を意味する。

請求項1及び2の記載を総合すると,構成要件F2の「前後一対の

板状の掬い上げ部材が夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内

側に向けられて配設された」パドルは,請求項1の「2枚の板状の掬

い上げ部材を前後に且つ前後方向に対し傾斜させて配置し,その前側

の傾斜板の外面は斜め1側前方を向き,その後側の傾斜板の外面は斜

め1側後方を向くように配向せしめて配設した」パドルと同義である

ものと解される。

(イ) 本件明細書2の記載事項

a 本件明細書2(甲4)の「発明の詳細な説明」には,次のような

記載がある(この記載中に引用する図1ないし5,11,13ない

し17については,別紙本件明細書2図面参照)。

(a) 「【発明の属する技術分野】本発明は,ロータリー式撹拌機

用パドル及びオープン式発酵処理装置に関する。」(段落【00

01】)

(b) 「【従来の技術】先に,出願人は,特願平11−22221

2号として,従来のピット式発酵槽の両側の長尺壁の上面にレー

ルを敷設し,そのピットを跨ぎ,その左右のレール上をロータリ

ー式撹拌機を具備した台車を,該ピット式発酵槽の長さ方向に往

復動走行自在に設けた有機質廃物の発酵処理装置の不都合を解消

したオープン式発酵処理装置とこの装置を用いた発酵処理法を開

示した。即ち,該装置は,図13及び図14に示すように,オー




プン式発酵槽1と該オープン式発酵槽1を往復動走行し,且つロ

ータリー式撹拌機5を横設した台車6とから成る。更に詳細には,

該オープン式発酵槽1は,長棟(図示しない)内の所定個所に,

畜糞,家庭廃棄物,汚泥,活性汚泥など所望の有機質廃物を水分

調整材と共に経時的に,例えば毎日投入堆積し,その夫々の堆積

物を所要期間発酵処理するに足る所望の長尺広幅の面域a,例え

ば長さ30〜100m,幅7〜8mの長尺広幅面域aと,その長

さ方向の1側に,例えば長さ100m,高さ1〜2mのコンクリ

ート製の長尺壁1aと,該長尺壁1aと対向する他側には,長尺

壁を構築することなく長尺開放側面2とから成り,かゝるオープ

ン式発酵槽1の該長尺壁1aの上端面にその全長に亘りレール3

を敷設し,該レール3上と該長尺開放側面2側の面域a側にその

床面a上を回転走行する車輪4を左右前後に配設して具備すると

共に,該オープン式発酵槽1内に投入堆積された被処理物を撹拌

する正,逆回転自在のロータリー式撹拌機5を具備した台車6を

該オープン式発酵槽1の長さ方向に,即ち,該長尺広幅面域aの

長さ方向に往復動走行自在に設けることにより,オープン式発酵

処理装置Pを構成する。該ロータリー式撹拌機5は,正,逆回転

自在の可逆モータ7により,台車6の往動走行時には正転方向に

回転し,台車6の復動走行時には逆転回転せしめられる。該撹拌

機5は,その幅方向に延びる回転軸5aにその長さ方向に亘り且

つその周面に多数のパドル5b,5b,…が,好ましくは螺旋状

に配設されている。」,「その各パドル5bは,図15,図16

に示すように,横断面Tの先端が,広幅帯状面域aの底面に略達

する長さを有する長杆5b1の先端に,台車6の走行方向に対し

直交して長矩形の板状の掬い上げ部材5cを溶接などにより取り




付けて構成したものである。各パドル5bは,その長杆の基端部

を該回転軸5aの周面から突設した凹嵌合基部5dにボルト,ナ

ットにより交換自在に取り付けられている。しかし乍ら,この装

置1では,そのロータリー式撹拌機5の回転軸5aの周面にその

軸方向に配設した全てのパドル5b,5b,…を,その各長杆5

b1の先端に,該台車6の走行方向に対し直交して板状の掬い上

げ部材5cを取り付けたパドルで構成したものであるので,ロー

タリー式撹拌機5を台車6の往復動走行に伴いロータリー式撹拌

機5を正転及び逆転させ,これらのパドル5b,5b,…の台車

6の走行方向に直交する掬い上げ部材5c,5c,…により長尺

開放側面2に形成したオープン式発酵槽1内の有機質廃物の堆積

物Tを往復動撹拌するに用い,その往復動撹拌が繰り返されると

きは,図17に示すように,当初,実線示のように堆積されてい

た堆積物Tは,その往復動撹拌の回数が多くなるにつれ,一点鎖

線示,二次鎖線示に示すように,そのオープン式発酵槽1の長尺

開放側面2側において堆積物Tの開放端面側が外方に拡散が増大

すると共に堆積物Tの高さが低くなる傾向があり,当初の好まし

い高さで安定良好な高温発酵が得られない不都合を生じ,更には,

その堆積物Tの崩れは,長尺開放側面2側の床面を走行する台車

6の車輪4の軌道上にも達し,円滑な走行を阻害することがある。

その結果,適時,頻繁に,その外方へ崩れた拡散分を人手により

スコップなどで掬い上げ,堆積物の頂面へ積み上げる面倒な作業

を要するなどの不都合を生ずることが判った。」,「そこで,か

ゝる不都合を解消するため,特願平11−260846号により,

ロータリー式撹拌機による往復動撹拌を行ったとき,堆積物の長

尺開放側面側において外方へ崩れ,堆積物の所望の高さが低くな




らないようにし,人手によるスコップによる掬い積み上げ作業を

要せず,更に好ましくは,当初の高さの堆積状態で発酵処理がで

きるオープン式発酵処理装置を開示した。即ち,特願平11−2

60846号において,前記先願のオープン式発酵処理装置を,

次のように改良した。即ち,その装置において,該オープン式発

酵槽の該長尺開放側面側に位置する該回転軸の外端から少なくと

も1本乃至数本のパドルは,その長杆の先端杆部を回動自在とし,

その先端に内側と外側で面積を異にする板状の掬い上げ部材を所

定角度範囲回動自在に取り付け,該台車の往復動走行時に,正,

逆回転する回転軸に伴い正,逆回転する板状の掬い上げ部材によ

り堆積物を掬い上げる際に,該板状の掬い上げ部材の内側板部は

外側板部より大きい堆積物の負荷を受けて該板状の掬い上げ部材

は,常に内側に向いて所定角度回動し堆積物の掬い上げが行われ

るようにした回動式パドルに構成する一方,その他の残る各パド

ルは,その先端に,該台車の走行方向に対し直交して板状の掬い

上げ部材を取り付けた最先の出願で用いたと同じ通常の固定式パ

ドルに構成したことを特徴とするオープン式発酵処理装置を提示

した。」(以上,段落【0002】)

(c) 「【発明が解決しようとする課題】しかし乍ら,上記の改良

発明によれば,その回動式パドルは,回動式パドルとするため多

くの組み立て構成部材を要し,而も比較的複雑な組立て作業と構

成を要し,その製作が比較的面倒であり,且つ製作コストの増大

をもたらすなどの問題を有することが判明した。そこで,構成部

品を少なくし,通常の固定式パドルと同様に構造簡単で且つ製作

コストを減少でき,軽量な固定式パドルの開発とこれを組み込ん

だ軽量で且つ用いた構造簡単で製造コストの安価なロータリー式




撹拌機を具備し,前記の改良発明の目的と同様の目的を達成する

オープン式発酵装置の開発が望まれる。」(段落【0003】)

(d) 「【課題を解決するための手段】本発明は,上記の先願のオ

ープン式発酵処理装置の不都合を解消し,上記の要望を満足する

ロータリー式撹拌機用パドルを提供するもので,長杆の先端に,

2枚の板状の掬い上げ部材を前後に且つ前後方向に対し傾斜させ

て配置し,その前側の傾斜板の外面は斜め1側前方を向き,その

後側の傾斜板の外面は斜め1側後方を向くように配向せしめて配

設したことを特徴とする。更に本発明は,有機質廃物を経時的に

投入堆積発酵処理する長尺広幅の面域の長さ方向の1側に長尺壁

を設け,その他側は長尺壁のない長尺開放側面として成る大容積

のオープン式発酵槽を構成すると共に,該長尺壁の上端面にレー

ルを敷設し,該レール上と該長尺開放側面側の面域上を転動走行

する車輪を配設されて具備すると共に堆積物を往復動撹拌する

正,逆回転自在のロータリー式撹拌機を横設した台車を該オープ

ン式発酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設け,更に該ロータリ

ー式撹拌機は,該台車の幅方向に水平に延びる回転軸と,該回転

軸の周面に且つその軸方向に配設された多数本の長杆の先端に板

状の掬い上げ部材を具備するパドルとから成るオープン式発酵処

理装置において,これらのパドルのうち,該オープン式発酵槽の

該長尺開放側面側に位置する該回転軸の外端から少なくとも1本

乃至数本のパドルは,前後一対の板状の掬い上げ部材が夫々台車

の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に向けられた上記本発明

のパドルから成り,その他の残る各パドルは,長杆の先端に,該

台車の走行方向に対し直交して板状の掬い上げ部材を取り付けた

パドルから成ることを特徴とする。」(以上,段落【0004】)




(e) 「【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を添付図面に基

づいて詳述する。図1乃至図4は,本発明実施の1例のロータリ

ー式撹拌機用パドルを示す。符号5b′で示す本発明のパドルは,

その長杆5b1の先端に,同じ寸法,形状を有する2枚の長矩形

板状の掬い上げ部材5c1及び5c2を前後に位置させ,且つそ

の前側の傾斜板5c1の外面は斜め1側前方を向き,その後側の

傾斜板5c2の外面は斜め1側後方を向くように配向せしめて取

り付けたことを特徴とする。この具体的な実施の1例は,前後の

傾斜板から成る掬い上げ部材5c1及び5c2は,図3及び図4

に明示するようにその夫々の一端部を直接互いに溶接し且つ前後

方向に対し直交する幅方向の軸線X−Xに対し所定の角度θ1側

方向に傾斜せしめる。即ち,その夫々の傾斜板の外面が1側斜め

方向に夫々10〜80°の範囲,図示の例では20°傾斜せしめ

てV字状に配向せしめた状態で,その夫々の中間部で該長杆5b

1の下端に溶接などにより取り付ける。この場合,該長杆5b1

の下端に,その中間部から一体に下垂突出せしめた下垂板部5b

2を該V字状の傾斜板5c1及び5c2により形成される三角形

のスペース内に嵌挿し,その両端面をその夫々の傾斜板5c1及

び5c2の対向する内面の中間部に当接させると共にそのV字状

の傾斜板5c1及び5c2の内面と溶接して該V字状の傾斜板5

c1及び5c2を内側から支承固定し,該V字状の板状の掬い上

げ部材5c1及び5c2の外面に受ける外圧に対し安定堅牢な機

械的強度の増大したV字状の板状の掬い上げ部材5c1及び5c

2に構成するようにすることが好ましい。更に,その機械的強度

の増大のために,該V字状の傾斜板5c1及び5c2の開脚側の

端部の対向内面間に板状などの支承梁5eを渡し,その両端部を




その夫々の対向面と溶接せしめるようにすることが好まし

い。」(段落【0005】),「また,本発明のパドルの変形例

として,図5に示すようなパドル5b″に構成しても良い。即ち,

先の実施例のそのV字状の傾斜板5c1及び5c2の一端部を当

接し,互いに直接溶接する代わりに,その両傾斜板5c1及び5

c2の一端部間を適当な距離離隔し,そのスペース内に板状など

の補強梁5jを介在させ,その両端部を傾斜板5c1及び5c2

の一端部とを溶接し,その前後一対の板状の掬い上げ板部5c1

及び5c2はハの字状に対称的に傾斜した傾斜板に構成しても良

い。」(段落【0006】),「本発明のパドル5b′又はパド

ル5b″の前側の傾斜板5c1及び後側の5c2の夫々の傾斜角

度θは,同じ角度であることが一般であり好ましく,また,その

傾斜角度θは,10〜80°の範囲とする。」(段落【0007

】),「換言すれば,本発明の該装置は,前記の改良発明に係る

特願平11−260846号で開示したオープン式発酵処理装置

の構成中の回転式パドルに代え,前記の本発明の図1乃至図4又

は図5に示すパドル5b′又は5b″を用いたことを特徴とした

構成を有し,これにより同様の効果をもたらす。」(段落【00

08】),

(f) 「前記の最先の出願に係る発明によれば,その配設された全

てのパドルを,図15及び図16に示す通常のパドル5bで示す

パドルで構成していた。即ち,そのパドル5bは,図15及び図

16に示すように,その中間部は横断面T字状であり,その長さ

は,広幅帯状面域aの底面に略達する長さを有する長杆5b1か

ら成ると共にその先端に,台車6の走行方向に対し直交して長矩

形の板状の掬い上げ部材5cを溶接などにより取り付けて構成し




たものであり,かゝるパドル5bで該回転軸5aに配設するパド

ルの全てを構成し,その往復動撹拌を繰り返すときは,上記した

ような不都合を生ずることが判ったので,この不都合を解消する

ため,本発明のオープン式発酵処理装置P′では,該回転軸5a

の該オープン式発酵槽1の長尺開放側面2側に位置する外端から

少なくとも1本又は数本のパドルは,上記構成の最先の出願に係

る発明で用いたパドル5bの使用を廃し,これに代え,例えば,

図1乃至図4に示す本発明のパドル5b′を用い,これを,その

前後にV字状に配設された板状の掬い上げ部材5c1及び5c2

をその夫々の傾斜板の外面が内側を向くように,即ち,オープン

式発酵槽1の長尺開放側面2とは反対の方向,換言すれば,その

長尺壁1aの方向を向くように配向せしめた状態で該回転軸5a

に取り付けた。」,「かくして,かゝるロータリー式撹拌機を具

備した台車6によりオープン式発酵槽1内に堆積した堆積物を撹

拌するべく,台車6を往復動走行させるが,その往動走行時に該

回転軸5aは正回転し,堆積物を掬い上げて,台車6の後方へ移

動撹拌し,台車6の復動走行時に該回転軸5aは逆回転し,台車

6の後方へ,即ち一旦移動撹拌された堆積物をもとの位置に移動

撹拌する往復動撹拌を行うときは,その本発明のパドル5b′の

内側に向いた前後一対の傾斜板から成る掬い上げ部材5c1及び

5c2により夫々これに対応する堆積物の外端部を後記するよう

に常に内側に向いて堆積物を掬い上げられるので,常にその外側

への放散を防止することができる。」,「また,その本発明のパ

ドル5b′の夫々の傾斜板5c1及び5C2は長矩形状とし,同

一形状,寸法であることが一般であり好ましく,また,通常のパ

ドル5bの板状掬い上げ部材5cと同一形状,寸法であることが




一般であるが,これに限定する必要はない。また,その各傾斜板

5c1及び5C2の長さ又は高さ寸法は所望に設定される。 (以


上,段落【0009】)

(g) 「次に,本発明の上記実施例のロータリー式撹拌機5′に,

該回転軸5aに配設した上記の最外端に位置する本発明の固定式

パドル5b′の掬い上げ作動を図11を参照し説明する。台車6

が往動走行するとき,正回転するロータリー式撹拌機5′の回転

軸5aは,図11(a)に示すように,矢示のように正回転し,

これに伴いパドル5a′は正回転し,従って,該回転軸5aの軸

方向に対し所定角度内側に向いて傾斜した前側の傾斜板から成る

先端の掬い上げ部材5c1は,その前方に堆積する堆積物Tの長

尺開放側面側の外端堆積部に当接し,斜め内側に向けてこれを掬

い上げる。かくして,従来のような堆積物Tの外端が外側に拡散

することが防止される。次に,台車6が反転し復動走行する場合

は,図11(b)に示すように,ロータリー式撹拌機5′の回転

軸5aは,矢示のように逆回転し,これに伴いパドル5b′は逆

回転し,従って,該回転軸5aの軸方向に対し所定角度内側に向

いて傾斜した後側の傾斜板から成る先端の掬い上げ部材5c2

は,その前方に堆積する堆積物Tに当接し,その傾斜した角度で

該掬い上げ部材5cにより堆積物Tを斜め内側に掬い上げるの

で,従来のような堆積物Tの外端が外側に拡散することが防止さ

れる。かくして,かゝる台車6の往復動走行による本発明のパド

ル5a′による往復動撹拌を何回繰り返し行っても,常に堆積物

Tの外側への飛散は防止され,所望の好ましい高さを維持して,

良好な発酵作用を維持することができる。」(段落【0010

】),「かくして,回転軸5aに配設したパドルのうち,少なく




とも最外端の1本のパドル又はその最外端から数本のパドル,,

図示の例では,5本のパドルを本発明のパドル5b′で構成する

ときは,図11に示すように,内方への掬い上げを高能率に行う

ことができ,また更に確実に上記の防止効果をもたらす。この場

合,これら数本の本発明のパドル5b′を配設するとき,堆積物

Tの傾斜面の端縁より僅かに外側に位置して最外端の本発明のパ

ドル5b′を設け,その内側の残りの本発明のパドル5b′は,

その堆積物Tの傾斜面の裾野下部に対応する位置に設けることが

好ましい。」(段落【0011】),「このように本発明のロー

タリー式撹拌機5に配設するパドルのうち,その最外端の1本又

は最外端から2〜5本程度を本発明のパドル5b′又は5b′,

5b′,…で構成するときは,上記の作用効果をもたらすばかり

でなく,先の改良発明に係る特願平11−260846号で用い

た回転式パドルを用いるに比し,パドル5b′の構成は,その長

杆5b1の先端に2枚の板を単に前後方向に対し傾斜させて固設

するだけであるから,通常の固定式パドルと同様に,簡単に且つ

安価に製作でき,而も回転軸5aに取り付けてロータリー式撹拌

機5′を構成するときは,その製造が容易で構造簡単となり,重

量も比較的軽くなるので,稼動エネルギーの消費の低減できるな

ど利便をもたらす。」(段落【0012】)

(h) 「【発明の効果】このように本発明のロータリー式撹拌機用

パドルは,その長杆の先端に,2枚の板状掬い上げ部材を前後に

且つ前後方向に対し傾斜させて配置すると共にその前側の傾斜板

の外面は斜め1側前方を向き,その後側の傾斜板の外面に斜め1

側後方を向くように配向して固設した構成としたので,先願の改

良発明に係る回動式パドルに比し軽量となり,而も容易且つ安価




に製造できる。更に本発明は,オープン式発酵処理装置として,

オープン式発酵槽を往復動走行する台車に横設したロータリー式

撹拌機の回転軸の長さ方向に且つ周面に配設された多数本の通常

のパドルのうち,その回転軸の外端部に位置する1〜数本のパド

ルを,上記の本発明のパドルに代え且つその前後一対の傾斜板か

ら成る掬い上げ部材の前後の傾斜板の外面をその回転軸の軸線に

対し所定の傾斜角度内側に向けて傾斜せしめて配向せしめたの

で,台車を往復動走行させ,該ロータリー式撹拌機で堆積物を往

復動撹拌としたとき,その堆積物の外端部に位置する本発明のパ

ドルの掬い上げ部材によりその往動走行時には,その前側の傾斜

板により,その復動走行時には,その後側の傾斜板により,常に

その夫々対応する前方の堆積物を内側に向け掬い上げることがで

き,堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどの不都合を解

消でき,また,オープン式発酵処理装置に具備するロータリー式

撹拌機に回動式パドルを用いた場合に比し,容易且つ安価に且つ

軽量に 構成 でき ると 共に, 稼動 時の 消費 電力の 低減 をも たら

す。」(段落【0028】)

b 本件発明2の特許請求の範囲(請求項2)の文言と本件明細書2

の「発明な詳細の説明」の前記aの記載事項(各図面を含む。)を

総合すれば,本件明細書2には,@特願平11−222212号(本

件出願1)として開示したオープン式発酵槽1と,該オープン式発

酵槽1を往復動走行し,かつ,ロータリー式撹拌機5を横設した台

車6とからなるオープン式発酵処理装置においては,そのロータリ

ー式撹拌機5の回転軸5aの周面にその軸方向に配設した全てのパ

ドル5b,5bを,その各長杆5b1の先端に,該台車6の走行方

向に対し直交して長矩形の板状の掬い上げ部材5cを取り付けたパ




ドルで構成したものであるので,台車6の往復動走行に伴いロータ

リー式撹拌機5を正転及び逆転させ,掬い上げ部材5c,5cによ

り長尺開放側面2に形成したオープン式発酵槽1内の有機質廃物の

堆積物Tを往復動撹拌するに用い,その往復動撹拌が繰り返される

ときは,そのオープン式発酵槽1の長尺開放側面2側において堆積

物Tの開放端面側が外方に拡散が増大すると共に堆積物Tの高さが

低くなる傾向があり,当初の好ましい高さで安定良好な高温発酵が

得られない不都合を生じ,さらには,その堆積物Tの崩れは,長尺

開放側面2側の床面を走行する台車6の車輪4の軌道上にも達し,

円滑な走行を阻害し,その外方へ崩れた拡散分を人手によりスコッ

プなどで掬い上げ,堆積物の頂面へ積み上げる面倒な作業を要する

などの不都合を生ずることが判明したことから,特願平11−26

0846号において,先願のオープン式発酵処理装置の改良発明

して,該オープン式発酵槽の該長尺開放側面側に位置する該回転軸

の外端から少なくとも1本乃至数本のパドルは,その長杆の先端杆

部を回動自在とし,その先端に内側と外側で面積を異にする板状の

掬い上げ部材を所定角度範囲回動自在に取り付け,該台車の往復動

走行時に,正,逆回転する回転軸に伴い正,逆回転する板状の掬い

上げ部材により堆積物を掬い上げる際に,該板状の掬い上げ部材の

内側板部は外側板部より大きい堆積物の負荷を受けて該板状の掬い

上げ部材は,常に内側に向いて所定角度回動し堆積物の掬い上げが

行われるようにした回動式パドルに構成する一方,その他の残る各

パドルは,その先端に,該台車の走行方向に対し直交して板状の掬

い上げ部材を取り付けた最先の出願で用いたと同じ通常の固定式パ

ドルに構成したことを特徴とするオープン式発酵処理装置を提示し

たが,上記改良発明においても,回動式パドルとするため多くの組




み立て構成部材を要し,しかも比較的複雑な組立て作業と構成を要

し,その製作が比較的面倒であり,かつ製作コストの増大をもたら

すなどの問題を有することが判明したこと(前記a(b)),A本件

発明2は,構成部品を少なくし,通常の固定式パドルと同様に構造

簡単でかつ製作コストを減少でき,軽量な固定式パドルの開発とこ

れを組み込んだ軽量でかつ用いた構造簡単で製造コストの安価なロ

ータリー式撹拌機を具備し,前記改良発明の目的と同様の目的を達

成するオープン式発酵処理装置を提供することを目的とし,上記課

題を解決するための手段として,有機質廃物を経時的に投入堆積発

酵処理する長尺広幅の面域の長さ方向の1側に長尺壁を設け,その

他側は長尺壁のない長尺開放側面として成る大容積のオープン式発

酵槽を構成すると共に,該長尺壁の上端面にレールを敷設し,該レ

ール上と該長尺開放側面側の面域上を転動走行する車輪を配設され

て具備すると共に堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロータ

リー式撹拌機を横設した台車を該オープン式発酵槽の長さ方向に往

復動走行自在に設け,更に該ロータリー式撹拌機は,該台車の幅方

向に水平に延びる回転軸と,該回転軸の周面に且つその軸方向に配

設された多数本の長杆の先端に板状の掬い上げ部材を具備するパド

ルとから成るオープン式発酵処理装置において,これらのパドルの

うち,該オープン式発酵槽の該長尺開放側面側に位置する該回転軸

の外端から少なくとも1本ないし数本のパドルは,前後一対の板状

の掬い上げ部材が夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側

に向けられたパドル,すなわち,長杆の先端に,2枚の板状の掬い

上げ部材を前後にかつ前後方向に対し傾斜させて配置し,その前側

の傾斜板の外面は斜め1側前方を向き,その後側の傾斜板の外面は

斜め1側後方を向くように配向せしめて配設したパドルから成り,




その他の残る各パドルは,長杆の先端に,該台車の走行方向に対し

直交して板状の掬い上げ部材を取り付けたパドルから成る構成を採

用したこと(前記a(c),(d)),B本件発明2は,上記構成を採

用したことにより,台車を往復動走行させ,該ロータリー式撹拌機

で堆積物を往復動撹拌としたとき,その堆積物の外端部に位置する

パドルの掬い上げ部材によりその往動走行時には,その前側の傾斜

板により,その復動走行時には,その後側の傾斜板により,常にそ

の夫々対応する前方の堆積物を内側に向け掬い上げることができ,

堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどの不都合を解消でき,

また,オープン式発酵処理装置に具備するロータリー式撹拌機に回

動式パドルを用いた場合に比し,容易かつ安価にかつ軽量に構成で

きると共に,稼動時の消費電力の低減をもたらすとの効果を奏する

こと(前記a(g),(h))が開示されているものと認められる。

一方で,本件明細書2中には,オープン式発酵槽の長尺開放側面

側に位置する回転軸の外端から少なくとも1本ないし数本のパドル

については,「例えば,図1乃至図4に示す本発明のパドル5b′

を用い,これを,その前後にV字状に配設された板状の掬い上げ部

材5c1及び5c2をその夫々の傾斜板の外面が内側を向くよう

に,即ち,オープン式発酵槽1の長尺開放側面2とは反対の方向,

換言すれば,その長尺壁1aの方向を向くように配向せしめた状態

で該回転軸5aに取り付けた。」,「また,その本発明のパドル5

b′の夫々の傾斜板5c1及び5C2は長矩形状とし,同一形状,

寸法であることが一般であり好ましく,また,通常のパドル5bの

板状掬い上げ部材5cと同一形状,寸法であることが一般であるが,

これに限定する必要はない。また,その各傾斜板5c1及び5C2

の長さ又は高さ寸法は所望に設定される。」(以上,段落【000




9】。前記a(f))などの記載があり,また,図11において,台

車の走行方向の前後にV字状に配設された2枚の板状の掬い上げ部

材5c1及び5c2がそれぞれの傾斜板の外面が内側(オープン式

発酵槽1の長尺開放側面2とは反対の方向,すなわち,長尺壁の方

向)を向くように配向せしめた実施例が示されている。

(ウ) 検討

a 本件発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載(前記(ア))を

基礎に,本件明細書2の記載事項(前記(イ))を考慮して検討する

に,構成要件F2の「該長杆の先端に,前後一対の板状の掬い上げ

部材が夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に向けられ

て配設された請求項1に記載のパドル」にいう「前後一対の板状の

掬い上げ部材」は,「2枚の板状の掬い上げ部材」(請求項1)と

同義であるから,構成要件F2の「パドル」の「掬い上げ部材」は,

2枚の板状の部材を構成に有するものである。

そして,2枚の板状の部材を構成に有する「掬い上げ部材」が「夫

々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に向けられて配設」

された構成(構成要件F2)は,2枚の板状の部材が「前後に且つ

前後方向に対し傾斜させて配置し,その前側の傾斜板の外面は斜め

1側前方を向き,その後側の傾斜板の外面は斜め1側後方を向くよ

うに配向せしめて配設」された構成(請求項1)と同義であるから,

2枚の板状の部材は傾斜させて配置され,それぞれの板状の部材(傾

斜版)の外面が内側を向くように配設されたものである。

この点に関し,本件明細書2の図11には,台車の走行方向の前

後にV字状に配設された2枚の板状の掬い上げ部材5c1及び5c

2がそれぞれの傾斜板の外面が内側(オープン式発酵槽1の長尺開

放側面2とは反対の方向,すなわち,長尺壁の方向)を向くように




配向せしめた構成が示されている。

b そこで,ロ号装置の長尺開放側面側の台車106の脚部113に

近い側のパドル105bについて検討するに,上記パドル105b

の先端の掬い上げ部材105dは,別紙物件目録2記載の図5に示

すように,半円弧状の形状を有する1枚の部材から構成されたもの

であって,2枚の板状の部材を構成に有するものではなく,また,

2枚の板状の部材(傾斜版)が傾斜させて配置されたものでもない

から,上記パドル105bは,構成要件F2の「前後一対の板状の

掬い上げ部材が夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に

向けられて配設」されたパドルに該当するものと認めることはでき

ない。

c これに対し原告ら(原告日環エンジニアリング及び原告A)は,

構成要件F2の「前後一対の板状の掬い上げ部材」中の「板状」と

は,「厚さが少なくて幅が広い」形を意味するものであり,掬い上

げ部材105dのような半円状に湾曲したものをも含み,また,掬

い上げ部材105dの左右の各1/4円弧状の部分は,「走行方向

に対し斜めに交叉し且つ内側に向け」ており,さらに,甲13の実

験結果によれば,ロ号装置の半円弧状の掬い上げ部材105dによ

る掬い上げ作用は,堆積物の外方への拡散防止という面で,本件発

明2の実施例のV字状の掬い上げ部材と同様の作用効果を示してい

るから,ロ号装置の長尺開放側面側の台車106の脚部113に近

い側のパドル105bは,構成要件F2の「前後一対の板状の掬い

上げ部材が夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に向け

られて配設」されたパドルに該当する旨主張する。

しかしながら,仮に原告らが主張するように構成要件F2の「前

後一対の板状の掬い上げ部材」中の「板状」とは「厚さが少なくて




幅が広い」形を意味するものとしても,ロ号装置の半円弧状の掬い

上げ部材105dは,1枚の部材から構成されたものであって,2

枚の板状の部材を構成に有するものではないから,「前後一対の板

状」の掬い上げ部材に該当しない。

また,本件発明2は,堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れ

などの不都合を解消できるという発明の効果を,「長杆の先端に,

2枚の板状の掬い上げ部材を前後にかつ前後方向に対し傾斜させて

配置し,その前側の傾斜板の外面は斜め1側前方を向き,その後側

の傾斜板の外面は斜め1側後方を向くように配向せしめて配設した

パドルから成り,その他の残る各パドルは,長杆の先端に,該台車

の走行方向に対し直交して板状の掬い上げ部材を取り付けたパドル

から成る」構成を採用したことにより奏するようにしたものである

ところ(前記(イ)b),本件発明2の上記効果を奏する技術は,本

件発明2の構成のものに限られるものではないから,仮に原告らが

主張するようにロ号装置の半円弧状の掬い上げ部材105dによる

掬い上げ作用が堆積物の外方への拡散防止という面で本件発明2の

効果と共通するとしても,そのことから直ちに掬い上げ部材105

dが構成要件F2の「前後一対の板状の掬い上げ部材」に該当する

ことの根拠となるものではない。

したがって,ロ号装置の長尺開放側面側の台車106の脚部11

3に近い側のパドル105bが構成要件F2の「パドル」に該当す

るとの原告らの上記主張は,理由がない。

(2) まとめ

以上によれば,ロ号装置は,本件発明2の構成要件F2を充足しないか

ら,本件発明2の技術的範囲に属するものとは認められない。

そうすると,その余の点について判断するまでもなく,原告Aの請求及




び原告日環エンジニアリングの請求のうち,本件独占的通常実施権2の侵

害に基づく損害賠償請求に係る部分は,いずれも理由がない。

3 争点3(本件特許権1の権利行使の制限の成否)について

前記1認定のとおり,イ号装置及びロ号装置は,本件発明1の技術的範囲

に属する。

被告は,本件発明1に係る本件特許1には,本件KS7−12に係る発明

に基づく新規性の欠如及び進歩性の欠如の無効理由があり,特許無効審判に

より無効にされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定に

より,本件特許権1は行使することができない旨主張するので,以下におい

て判断する。

(1) 無効理由1−1(新規性の欠如)

被告は,本件発明1は,本件出願1の出願前に,公然知られ,又は公然

実施をされた本件KS7−12に係る発明と同一であるから,本件発明1

に係る本件特許1には,特許法29条1項1号又は2号に違反する無効理

由(同法123条1項2号)がある旨主張する。

ア 本件KS7−12の構成等について

証拠(甲52の1ないし3,乙8,9,23,24,28)及び弁論

の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。

(ア) 本件KS7−12は,原告日環エンジニアリングが平成9年5月3

0日ころまでに梨北農業協同組合に対し売却し,山梨県北杜市高根町所

在の「たかね有機センター」に納入設置された「KSコンポ醗酵ロー

タリーマシン KS7−12型」装置である。たかね有機センターは,

北杜市が所有し,その管理を梨北農業協同組合に委託した施設である。

(イ) 本件KS7−12の設置箇所には,長さ約15mの面域があり,

その長さ方向の一方の側に長尺壁があり,その向かい側は,長尺壁の

ない長尺開放側面となっている(乙28の写真1−1ないし1−4)。




本件KS7−12は,上記面域の堆積物をパドルの回転(正転・逆

転)によって撹拌を行うロータリー式撹拌機であり,上記長尺壁の上

端面上に敷設されたレール上を回転走行する車輪と上記長尺開放側面

の床面上を回転走行する車輪を備え(乙28の写真1−1ないし1−

4),上記面域の長さ方向に直線走行(前進・後退)することができ

る。本件KS7−12は,高さが約1.3メートル,上記面域の長さ

方向の長さが約3m,その幅方向の長さが約7mである(乙24添付

の組立図参照)。

本件KS7−12の設置箇所の面域に,その長さ方向の所望の箇所

から長尺開放側面を介して糞尿等を投入堆積し,その投入場所と同じ

場所からこれを取り出すことが可能である。

(ウ) たかね有機センターでは,現在,本件KS7−12を使用していな

いが,これまでに本件KS7−12を実際に使用したことがあり,そ

の際には,本件KS7−12の設置箇所の面域に投入堆積した糞尿等

を1日から2日置き,その間に本件KS7−12を用いて撹拌を1回

行った後,上記面域から糞尿等を搬出して,上記面域とは別の場所

の「一次発酵槽」(甲52の3)に持ち込み,同所で「切り返し」処

理を行っていた。

一方で,たかね有機センターでは,本件KS7−12の設置箇所の面

域の一部に糞尿等を搬入して処理を行い,後日,上記処理中の糞尿等

が上記面域に残っている状況で,上記面域の他の部分に糞尿等を搬入

して処理を行うことはなかった。

(エ) 原告日環エンジニアリングと梨北農業協同組合との間には,梨北

農業協同組合が本件KS7−12の内容を第三者に開示してはならな

い旨の合意はされていない。また,たかね有機センターを訪れた第三

者者が,本件KS7−12の設置箇所を見学し,本件KS7−12が




使用されている状況を見学することは可能であった。

イ 本件KS7−12に係る発明と本件発明1の同一性

(ア) 公知性

前記アの認定事実によれば,本件出願1の出願前の平成9年5月30

日ころまでに,原告日環エンジニアリングが本件KS7−12をその内

容について秘密を保持する義務を負わない梨北農業協同組合に販売

し,たかね有機センターに納入設置したことが認められるから,本件

KS7−12とその設置箇所の面域から構成される発明(本件KS7

−12に係る発明)は,上記販売及び納入設置により,本件出願1の

出願前に公然知られたものと認められる。

(イ) 構成要件A1及びB1の構成の有無

被告は,本件KS7−12の設置箇所の面域は,「有機質廃物を経

時的に投入堆積発酵処理する長尺広幅の面域の長さ方向の1側に長尺

壁を設け」(構成要件A1),「その他側は長尺壁のない長尺開放側

面として成る大容積のオープン式発酵槽」(構成要件B1)に該当す

る旨主張する。

a 本件KS7−12の設置箇所の面域には,その長さ方向の一方の

側に長尺壁があり,その向かい側は,長尺壁のない長尺開放側面と

なっているのであるから(前記ア(イ)),「面域の長さ方向の1側

に長尺壁を設け」,「その他側は長尺壁のない長尺開放側面として

成る」ものということができる。

そして,本件KS7−12の設置箇所の面域の長さは約15mで

あり,また,本件KS7−12の高さが約1.3メートル,その幅

方向の長さが約7mであること(前記ア(イ))からすると,本件K

S7−12の設置箇所の面域の幅は約7mであることが認められ

る(なお,本件KS7−12の設置箇所の長尺壁の実測値に係る証




拠は提出されていない。)。

そこで,長さ約15m,幅約7mの上記面域が,「有機質廃物を

経時的に投入堆積発酵処理する長尺広幅の面域」を有する「大容積

のオープン式発酵槽」に該当するかどうかについて検討するに,@

たかね有機センターでは,上記面域に糞尿等を投入堆積し,1日から

2日置き,その間に本件KS7−12を用いて撹拌を1回を行った

後,上記面域から糞尿等を搬出して,上記面域とは別の場所の「一

次発酵槽」に持ち込み,同所で「切り返し」処理を行っていたこと(前

記ア(ウ)),A「農学基礎 セミナー 土と微生物と肥料のはたら

き」(乙27)には,「(2) 家畜糞の連続たい肥化」の項に,「水

分を60%以下にするとはじめて発酵がおこる。…おがくずをふん

と同量加えて60%の水分にする。発酵がはじまると1〜2日で6

0〜70℃の高温になり,その熱で水分はさらに蒸発し,減少する。

3〜4日に1回の割で切り返しをおこなうと,ふんの悪臭はなくな

り,半月でよいたい肥(水分約40%)ができる。これを種たい肥

にしてそれに同量の生ふん(水分80%)を加えると,ちょうどよ

い水分(約60%)になるのですぐ発酵がはじまる。前と同様に切

り返しをおこなうと,発酵は順調に進行し,約半月で前と同様なよ

いたい肥ができる。」(111頁)との記載があること,B「祝竣

工 平成10・11年度 地域農業基盤確立農業構造改善事業」と

題するパンフレット(乙9)には,山梨県北杜市明野町(当時北巨

摩郡明野村)所在の梨北農業協同組合が管理する「堆肥センター」に

関し,「混合槽」,「bPないしbR発酵槽」,「熟成槽」等で構

成される施設の概要が示され(6頁),上記「混合槽」で用いられ

る「混合機」について「堆肥の原料となる家畜糞と,水分調整材と

して使用する籾殻や戻し堆肥を,混合槽へ投入し,混合機により混




合・攪拌を行い,均一な性状の原料を作ります。」,上記「bPな

いしbR発酵槽」で用いられる「スクープ式攪拌装置」について「混

合機で均一になった原料は,発酵槽へ投入され,スクープ式攪拌装

置により自動切返しが行われます。」,上記「熟成槽」について「発

酵槽内で約20日間の一次発酵を終えた堆肥は,熟成槽へ投入され,

家畜尿の散布による水分調整を行いながら,30日間以上の二次発

酵を行い,製品堆肥となります。」との記載があること(7頁),

Cたかね有機センター及び堆肥センターは,いずれも梨北農業協同組

合が管理する施設であり,上記Bのパンフレット掲載の「混合機」は,

原告日環エンジニアリングが製造し,荏原製作所によって堆肥セン

ターに納入設置され た「オープン式KS 5−H1200型混 合

機」(本件混合機)であり,その構造及び機能は,本件KS7−1

2と共通すること(乙29,弁論の全趣旨)を総合すると,本件K

S7−12の設置箇所の面域は,糞尿等を投入堆積し,これを本件

KS7−12によって撹拌混合する槽(上記B記載の「混合槽」と

同様の槽)として用いられ,上記面域で撹拌混合された糞尿等の発

酵処理は,上記面域とは別の場所の「一次発酵槽」で行われ,上記

面域において行われていなかったものと推認されるから,上記面域

は,「投入堆積発酵処理」をする「オープン式発酵槽」に該当する

ものと認めることはできない。

次に,「有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理する長尺広幅の

面域」にいう「経時的に」の用語については,本件発明1の特許請

求の範囲(請求項1)には特段規定する記載がないので,本件明細

書1の記載を参酌するに,同明細書には,「有機質廃物を経時的に

投入堆積発酵処理」(構成要件A1)に関し,「長尺壁1の長さは,

例えば,飼育する家畜の頭数や排出される家畜の生糞を毎日投入堆




積し,30日程度の長期間に亘りその堆積物を発酵処理し,順次取

り出し連続的に堆肥を生産するには100m以上でも差支えない

が,一般に30〜100mの範囲で足りる。」(段落【0008】。

前記1(1)イ(イ)a(h)),「次に長さ90〜100m,高さ1.5

〜2mの長尺壁1とその両端に幅方向の長さ6〜8m,高さ1〜2

mの両端壁1a,1aを構築して成るオープン式発酵装置を用い,

オープン式発酵処理法の実施の1例を図3〜図5を参照し詳述す

る。先ず,乳牛100頭が排出した1日分の生糞を被処理物として,

1日目にオープン式発酵槽の長尺広幅面域aの一端にその長尺開放

側面2の一端を介しショベル車により投入した後,その上面に水分

調整材として該生糞に対し3倍のオガ屑を投入し,その堆積物T1

を撹拌用台車6を1回往復動走行させ,その間そのロータリー式撹

拌機5を正,逆回転させて台車6の幅方向に配設された多数本のパ

ドル5b,5b,…によりその全幅に亘り往復動切換え撹拌し生糞

とオガ屑は混合され,且つ含有水分の調整された堆積物T1とす

る。」,「同様に,堆積物T1に隣接して2日目,3日目,4日目

に夫々1日分の生糞とオガ屑の投入堆積,往復動撹拌を行い,その

夫々の混合堆積物T2,T3,T4を調製した後,その5日目に,

…台車6を図3の実線矢示のように,堆積物T1まで溯り,往動走

行させた後反転させ,その堆積物T1から5日目の堆積物M5まで

往復動走行させ,…往復動撹拌して混合する。」,「次に,図4に

示すように,6日目,7日目,8日目,9日目において,前記の1

日目,2日目,3日目,4日目と同様の要領で,夫々の生糞とオガ

屑を投入された各堆積物T6,T7,T8,T9を上記と同様に仮

想線矢示のように往復動撹拌混合を夫々行い,その夫々の含有水分

の調整された混合堆積物T6,T7,T8,T9とした後,10日




目の生糞と水分調整材の投入堆積後台車6を実線矢示のように堆積

物T1まで溯り,往動走行させた後反転させ,…発酵堆積物M1〜

堆積物M10のロータリー式撹拌機5による往復動撹伴を行

う。」,「上記のように発酵処理を行うときは,堆積物T1は,…

30日目には,良好に発酵が済みの乾燥した良好な堆肥が得られる。

31日目に,発酵済みの堆積物M1,即ち堆肥M1を,図5の矢示

のように,当初の投入位置と同じ位置からオープン発酵槽の長尺開

放側面を介して取り出した後,31日目の新しい1日分の生糞とオ

ガ屑をその取り出した跡の空いた場所に矢示のように投入し,その

堆積物について前記の1日目の堆積物と同様に往復動撹拌混合を行

い発酵させる。このようにして,堆積物T2,T3,…も…夫々投

入後,30日目にその投入位置で良好な堆肥として得られるので,

その長尺開放側面2を介して取り出され,その跡に新しい被処理物

の投入を行うことができる。かくして,順次毎日連続して良好な堆

肥が得られると同時に,その取り出し跡に新しい被処理物の投入を

行うことができ,良好な堆肥連続製造法を繰り返し行うことができ

る。」(段落【0011】。前記1(1)イ(イ)a(i))との記載があ

る。本件明細書1の上記記載と図3ないし5を総合すると,「有機

質廃物を経時的に投入堆積発酵処理」(構成要件A1)にいう「経

時」とは,「日」単位の時間の経過を意味し,「経時的に」とは,

有機質廃物の投入堆積及び発酵処理がそれぞれ2日以上にわたって

複数回に分けて順次行われることを意味するものと解される。

しかるところ,たかね有機センターでは,本件KS7−12の設置

箇所の面域の一部に糞尿等を搬入して処理を行い,後日,上記処理

中の糞尿等が上記面域に残っている状況で,上記面域の他の部分に

糞尿等を搬入して処理を行うことはなかったのであるから(前記ア(




ウ)),本件KS7−12の設置箇所の面域では,有機質廃物の発酵

処理はもとより,その投入堆積についても,「経時的に」行われて

いたものとは認められない。

以上によれば,本件KS7−12の設置箇所の面域は,「有機質

廃物を経時的に投入堆積発酵処理」する「面域」を有する「大容積

のオープン式発酵槽」に該当するものと認められないから,本件K

S7−12に係る発明は,本件発明1の構成要件A1及びB1の構

成を備えているということはできない。

b これに対し被告は,@構成要件A1の「有機質廃物を経時的に投

入堆積発酵処理する長尺広幅の面域」にいう「経時的に投入堆積」

とは,長尺開放側面の「所望の個所」から被処理物の投入堆積が可能

な構成を意味し,その「所望の個所」とは,「長尺開放側面のうち台

車が存在しない個所」を意味すると解すべきところ,本件KS7−1

2の設置箇所の面域においては,「長尺開放側面のうち台車が存在し

ない個所」として約12mの空間があり,その空間から被処理物を複

数回に分けて投入堆積することが十分可能であるから,経時的な「投

入堆積」が可能である,A有機質廃物の水分量を調整すれば,それ以

上人為的に手を加えずとも微生物の働きにより発酵が開始すること

に鑑みれば,本件KS7−12の設置箇所の面域に経時的な「投入

堆積」が可能であれば,経時的な「堆積発酵」も当然に可能であり,

たとえ本件KS7−12の使用者において,本件KS7−12の設

置箇所の面域に糞尿等を「1〜2日」しか置かなかったとしても,発

酵作用は始まっており,発酵処理は行われているし,また,上記面域

に混合・撹拌した原料をそのまま放置しておいたとしても堆肥が製造

できることが否定されるものではないなどとして,本件KS7−12

の設置箇所の面域は,「有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理」




する「オープン式発酵槽」として機能し得る旨主張する。

しかしながら,本件KS7−12の設置箇所の面域では,その面

域の一部に糞尿等を搬入して処理を行い,後日,上記処理中の糞尿

等が上記面域に残っている状況で,上記面域の他の部分に糞尿等を

搬入して処理を行うことはなかったのであるから(前記ア(ウ)),

本件KS7−12の設置箇所の面域に複数回に分けて糞尿等を投入

堆積していたということはできない。

また,前記aAの乙27の記載事項に照らすならば,本件KS7

−12の設置箇所の面域に投入堆積された糞尿等が置かれる1日か

ら2日の期間では,糞尿等が発酵して堆肥化するのに十分とはいえ

ず,しかも,発酵が順調に進行するには「切り返し」処理が必要で

あるが,上記面域では「切り返し」処理が行われることなく,同処

理は上記面域とは別の場所の「一次発酵槽」で行われていたのであ

るから(前記ア(ウ)),被告が主張するように上記面域に糞尿等が

置かれた期間中に発酵作用が開始していたとしても,それをもって上

記面域において「発酵処理」が行われていたということはできない。

したがって,本件KS7−12の設置箇所の面域が「有機質廃物

を経時的に投入堆積発酵処理」する「オープン式発酵槽」として機

能し得るものであったとの被告の主張は,採用することができない。

ウ 小括

以上によれば,本件KS7−12に係る発明は,少なくとも「有機質

廃物を経時的に投入堆積発酵処理」する「面域」を有する「大容積のオ

ープン式発酵槽」の構成(構成要件A1及びB1の構成)を備えていな

い点で本件発明1と相違するから,本件発明1が本件KS7−12に係

る発明と同一の発明であると認めることはできない。

したがって,被告主張の無効理由1−1は理由がない。




(2) 無効理由1−2(進歩性の欠如)

被告は,本件発明1は,当業者が,本件出願1の出願前に,公然知られ

又は公然実施をされた本件KS7−12に係る発明に基づいて容易に発明

をすることができたものであるから,本件発明1に係る本件特許1には,

特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある旨

主張する。

ア 相違点の容易想到性について

前記(1)イ及びウ認定のとおり,本件KS7−12に係る発明は,本件

出願1の出願前に公然知られたものであるが,本件KS7−12に係る

発明は,少なくとも「有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理」する「面

域」を有する「大容積のオープン式発酵槽」の構成(構成要件A1及び

B1の構成)を備えていない点で本件発明1と相違する。

この点に関し,被告は,@上記相違点に係る本件発明1の「有機質廃

物を経時的に投入堆積発酵処理」にいう「経時的に投入」可能な構成は,

本件KS7−12に係る発明における面域を広げることであるから,容

易に想到できる事項である,A本件KS7−12の使用者において,槽

に投入できる堆肥材料の量を増やしたいと欲すれば,当然,槽の容量を

大きくすることに想到するから,上記相違点に係る本件発明1の「大容

積」の構成は,容易に想到できる事項である,B本件KS7−12の設

置施設において,混合槽とは別に発酵槽を設けた理由は,混合槽に混合

後の堆肥材料を放置しても堆肥は製造できるが,より商品価値のある堆

肥を製造するために,追加工程を加えたにすぎないものであり,元々の

使用方法である「混合機における混合後,堆肥材料を槽に置いたまま堆

肥化させる」という使用方法は容易想到どころか,本件KS7−12の

使用者であれば当然認識している使用方法であるなどとして,当業者は,

本件KS7−12に係る発明に基づいて上記相違点に係る本件発明1の




各構成を容易に想到することができた旨主張する。

しかしながら,本件発明1の「有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処

理」にいう「経時的に投入」可能な構成は,本件KS7−12に係る発

明における面域を広げることと同義であるとはいえないし,また,本件

KS7−12の設置施設において,混合槽とは別に発酵槽を設けた理由

が,混合槽に混合後の堆肥材料を放置しても堆肥は製造できるが,より

商品価値のある堆肥を製造するために,追加工程を加えたにすぎないこ

とを認めるに足りる証拠はない。

さらに,長さ約15m,幅約7mの本件KS7−12の設置箇所の面

域は,糞尿等を投入堆積し,これを本件KS7−12によって撹拌混合

する槽(乙9記載の「混合槽」と同様の槽)として用いられ,上記面域

で撹拌混合された糞尿等の発酵処理は,上記面域とは別の場所の「一次

発酵槽」で行われ,上記面域において行われていなかったものであると

ころ(前記(1)イ(イ)a),本件KS7−12に係る発明(本件KS7−

12とその設置箇所の面域から構成される発明)に接した当業者におい

て,既に存在する「一次発酵槽」に代えて,上記面域をその長さ方向に

拡張して,その拡張した面域において糞尿等の発酵処理を行うことや,

上記面域において糞尿等を「経時的に投入堆積発酵処理」することにつ

いての動機付けが存在するものと認めるに足りる証拠はない(なお,本

件KS7−12の取扱説明書(乙24)中には,本件KS7−12を糞

尿等を「経時的に投入堆積発酵処理」することに使用することの記載や

このような本件KS7−12の使用方法を示唆する記載はない。)。

したがって,被告の上記主張は,採用することができない。

イ 小括

以上によれば,当業者が,本件KS7−12に係る発明に基づいて本

件発明1を容易に発明をすることができたものとは認められないから,




被告主張の無効理由1−2は理由がない。

(3) まとめ

以上の次第であるから,特許法104条の3第1項の規定により本件発

明1に係る本件特許権1を行使することができないとの被告の主張は,理

由がない。

4 争点4(差止めの必要性)について

(1)ア ロ号装置については,被告が鈴木建設株式会社に対しロ号装置を合計

2基販売し,その各1基が増田牧場及び大木牧場に納品設置されたこと

は,争いがない。

イ 次に,イ号装置については,被告がイ号装置を販売したことを認める

に足りる証拠はない。

一方で,証拠(甲5,16の1,2,17の1,2)及び弁論の全趣

旨を総合すれば,被告作成の「SE式自動切返機 開放型」のパンフレッ

ト(甲5)は,増田牧場及び大木牧場に販売したロ号装置を構成するロ

ータリー式撹拌機と同じ型式のロータリー式撹拌機に関するパンフレッ

トであること,上記パンフレットには,撹拌爪(掬い上げ部材)に関

し,「先端部分はボルトにて簡単に取替えられます」との記載があるこ

とが認められる。そして,上記認定事実に加えて,ロ号装置は,ロータ

リー式撹拌機の台車106の脚部113に近い側に,半円弧状の掬い上

げ部材105dが用いられている点で,イ号装置と相違するが,その余

の構成が一致し,掬い上げ部材105dを掬い上げ部材105cに取り

替えれば,イ号装置と同一の構成となることに照らすならば,上記パン

フレットは,イ号装置に関するパンフレットとしても使用し得ることが

認められる。

ウ 以上の事情を総合すると,被告においてイ号装置及びロ号装置の製造

及び販売のおそれがあるものといえるから,いずれの装置についても製




造及び販売の差止めの必要があるものと認められる。

(2) したがって,原告キシエンジニアリングの本件特許権1に基づく差止

求は,理由がある。

5 争点5(原告日環エンジニアリング及び原告キシエンジニアリングの損害

の発生及び損害額)について

(1) 原告日環エンジニアリングについて

独占的通常実施権の成否等

(ア)a 証拠(甲8の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,@原告

キシエンジニアリングと原告日環エンジニアリングは,平成15年

7月18日,同日付け独占的通常実施権許諾契約書(甲8の1)を

作成したこと,A上記契約書には,原告キシエンジニアリングが,

原告日環エンジニアリングに対し,本件特許権1の特許発明実施

するための通常実施権を許諾する(2条1項),原告キシエンジニ

アリングは,「本契約」が有効に存続するまでの間,第三者に対し

て本件特許権1の特許発明についての実施権の許諾をしないものと

する(2条2項),実施権の範囲は,地域を日本国内,期間を本件

特許権1の存続期間が満了するまでの間,内容を特許発明の全部と

する(3条),実施対価は無償とする(4条)などの記載がある

ことが認められる。

この点に関し被告は,上記契約書は,原本の印影がいずれも不鮮

明であり,用紙自体も真新しく,およそ平成15年に作成された書

類とは思えず,本件訴訟のために作成された可能性も否定できない

旨主張するが,上記契約書の原本には,被告の主張するような不自

然な点はうかがわれず,上記主張は採用することができない。

b 前記aの認定事実によれば,原告日環エンジニアリングは,平成

15年7月18日,原告キシエンジニアリングから,同日付け独占




通常実施権許諾契約書(甲8の1)をもって,本件特許権1の全

部につき,無償で,地域を日本国内,期間を本件特許権1の存続期

間が満了するまでの間とする独占的通常実施権(本件独占的通常実

施権1)の許諾を受けたことが認められる。

c これに対し被告は,本件特許権1については,被告キシエンジニ

アリングが晃伸製機に通常実施権を設定し,平成17年3月25日

付けでその旨の登録がされていることからすると,原告日環エンジ

ニアリングが本件特許権1の独占的通常実施権者であるとはいえな

いし,また,晃伸製機が同年9月5日に本件発明1を改良した発明

の特許出願をしていることからすると(乙58),晃伸製機は本件

発明1を利用していることは明らかであるから,原告日環エンジニ

アリングが本件特許権1の実施について事実上独占しているという

こともできない旨主張する。

確かに,証拠(甲1,10,55)及び弁論の全趣旨によれば,

本件特許権1については,被告キシエンジニアリングが晃伸製機に

通常実施権を設定し,平成17年3月25日に,晃伸製機を通常実

施権者として,「範囲」を「地域日本国内,期間本契約の締結の日

から本件特許権の存続期間満了まで 内容 全部」とし,「対価

額」を「無償」とする通常実施権設定登録が経由されたことが認

められる。

一方で,前掲証拠によれば,原告キシエンジニアリングと原告日

環エンジニアリングが平成15年7月18付け独占的通常実施権

諾契約書(甲8の1)を作成した当時の両原告の代表取締役社長で

あったBは,平成17年3月25日に晃伸製機に上記通常実施権

設定がされた当時も,引き続き原告日環エンジニアリングの代表取

締役に在職し,上記通常実施権の設定及びその設定登録を了承して




いたことが認められる。

そして,特許法77条4項は,専用実施権者は,特許権者の承諾

を得た場合には,他人に通常実施権を許諾することができる旨規定

しており,同規定は,専用実施権者が第三者に通常実施権を許諾し

た場合であっても専用実施権を有することに影響を及ぼすものでは

ないことを前提としているものと解されるものであり,かかる規定

の趣旨に鑑みれば,特許権者が独占的通常実施権を許諾した後に,

その独占的通常実施権者の了承を得て,第三者に通常実施権を設定

した場合には,通常実施権が設定されたからといって直ちに当該独

占的通常実施権者の地位に影響を及ぼすものではないというべきで

ある。

また,本件においては,原告キシエンジニアリングが原告日環エ

ンジニアリング及び晃伸製機以外の第三者に本件特許権1の実施権

を許諾していることをうかがわせる証拠はなく,また,晃伸製機が

本件特許権1の特許発明実施品を現実に販売していることを認め

るに足りる証拠もないことに照らすならば,晃伸製機に対する上記

通常実施権の設定によって,原告日環エンジニアリングによる本件

独占的通常実施権1に基づく本件特許権1の実施についての事実上

の独占が損なわれたものということはできない。

したがって,被告の上記主張は,採用することができない。

(イ) 以上のとおり,原告日環エンジニアリングは,本件特許権1につ

いて本件独占的通常実施権1を有するものである。

ところで,独占的通常実施権者が当該独占的通常実施権に基づいて

許諾を受けた特許権を独占的に実施し得る地位は法的保護に値する利

益であるといえるから,故意又は過失により上記利益を侵害する行為

は不法構成を構成し,独占的通常実施権者は,その侵害者に対し,自




己が被った損害について不法行為に基づく損害賠償を求めることがで

きるというべきである。

そして,独占的通常実施権者は,登録によって公示がされていない

点などで専用実施権者とは異なるが,その実施権に基づいて特許権を

独占的に実施して利益を上げることができる点においては専用実施権

者と実質的に異なるものではなく,損害については基本的に専用実施

権者と同様の地位にあるということができるから,独占的通常実施権

者については,特許法102条1項又は2項を類推適用することがで

きると解するのが相当である。

そこで,以上を前提に,原告日環エンジニアリングの損害の発生及

損害額について検討する。

イ 特許法102条1項の類推適用に基づく損害額

(ア) 損害の発生

a 原告日環エンジニアリングは,被告は,平成16年1月1日から

平成21年6月30日までの間,イ号装置及びロ号装置を製造及び

販売し,その販売数量は各5基を下らない旨主張する。

被告がロ号装置合計2基(各1基が増田牧場及び大木牧場に納品

設置)を販売したことは,前記4(1)アのとおりである。

しかしながら,被告が,増田牧場及び大木牧場に納品設置された

上記ロ号装置各1基(合計2基)以外に,上記期間中にイ号装置及

びロ号装置を販売したことを認めるに足りる証拠はない。

b 次に,証拠(甲32ないし38)及び弁論の全趣旨によれば,原

告日環エンジニアリングは,平成15年ないし16年ころ,「埼玉

式KSコンポ オープン式KS8−1800型」装置(以下「KS

8−1800型」という。)を用いた発酵処理装置2基を販売し,

その各1基が仙台市泉区所在の共同堆肥化処理施設「エコ・マック




スせんだい」及び新潟県小千谷市所在の「小千谷市堆肥センター」

にそれぞれ納品設置されたこと,上記発酵処理装置2基は,本件発

明1の実施品であることが認められる。

c 以上によれば,被告による前記aのロ号装置合計2基の販売は,

故意又は過失により原告日環エンジニアリングの本件独占的通常実

施権1を侵害するものとして不法行為を構成し,原告日環エンジニ

アリングは,被告の上記不法行為により,本件発明1の実施品等の

ロ号装置と代替可能性のある競合品の販売による得べかりし利益相

当の損害を被ったものと認められる。

(イ) 被告の販売数量

前記(ア)aのとおり,被告が販売したロ号装置の販売数量は合計2

基であり,他方で,被告がイ号装置を販売した事実は認められない。

(ウ) 原告日環エンジニアリングの単位数量当たりの利益額

原告日環エンジニアリングは,平成16年2月25日から平成20

年4月18日までの間,本件発明1の実施品を合計12基販売し,そ

の1基当たりの利益額は1473万7985円(甲61の1ないし1

1,63,64)であり,同額が,「侵害の行為がなければ販売する

ことができた物の単位数量当たりの利益の額」(特許法102条1項

である旨主張する。

a(a) 証拠(甲56,57の1ないし11,61の1ないし11,

62,63)及び弁論の全趣旨によれば,原告日環エンジニアリ

ングは,平成16年2月ころから平成20年4月ころまでの間に,

次のとおり,合計12基の発酵処理装置を販売したことが認めら

れる。

@ KS8−1800型を用いた発酵処理装置1基,「エコ・マ

ックスせんだい」に納品設置(甲57の1,61の1。以下「エ




コ・マックスせんだい分」という。)

A 「オープン式KS6−1800型」を用いた発酵処理装置1

基,新潟県聖籠町所在の堆肥製造施設に納品設置(甲57の2,

61の2。以下「聖籠町分」という。)

B 「オープン式KS10−2000型」を用いた発酵処理装置

1基,山形県大江町及び朝日町(おおえ朝日地区)所在の「お

おえ朝日堆肥センター」に納品設置(甲57の3,61の3。

以下「おおえ朝日分」という。)

C KS8−1800型を用いた発酵処理装置1基,福島県浪江

町所在の「浪江町共同有機堆肥センター」に納品設置(甲57

の4,61の4。以下「浪江町分」という。)

D 「オープン式KS8−2000型」(昇降式)を用いた発酵

処理装置2基,秋田県横手市(旧平鹿町)所在の「大雄堆肥セ

ンター」に納品設置(甲57の5,61の5,62。以下「大

雄分」という。)

E 「オープン式KS8−2000型」を用いた発酵処理装置1

基,山形県鮭川村所在の「鮭川村堆肥センター」に納品設置(甲

57の6,61の6。以下「鮭川村分」という。)

F 「オープン式KS6−1800型」を用いた発酵処理装置1

基,宮城県大崎市(大崎東部地区)所在の「なかよしゆうきセ

ンター」に納品設置(甲57の7,61の7。以下「なかよし

分」という。)

G KS8−1800型を用いた発酵処理装置1基,岩手県遠野

市所在の六角牛堆肥生産利用組合の施設に納品設置(甲57の

8,61の8。以下「六角牛分」という。)

H 「オープン式KS6−2000型」(昇降式)を用いた発酵




処理装置1基,秋田県湯沢市所在の「湯沢市役所循環型農業推

進センター」に納品設置(甲57の9,61の9。以下「湯沢

分」という。)

I 「オープン式KS8−2000型」を用いた発酵処理装置1

基,岩手県雫石町所在の「小岩井農場」に納品設置(甲57の

10,61の10。以下「小岩井分」という。)

J 「オープン式KS8−2000型」を用いた発酵処理装置1

基,秋田県由利本荘市所在の「由利本荘SPF豚センター」に

納品設置(甲57の11,61の11。以下「由利本荘分」と

いう。)

(b) そして,前記(ア)bの事実と前掲(a)の各証拠及び弁論の全

趣旨を総合すれば,@エコ・マックスせんだい分,浪江町分及び

六角牛分の3基(前記(a)@,C,G)は,KS8−1800型

を用いた発酵処理装置であり,本件発明1の実施品であること,

A聖籠町分,おおえ朝日分,鮭川村分,なかよし分,小岩井分及

び由利本荘分の6基(前記(a)A,B,E,F,I,J)は,「オ

ープン式KS6−1800型」,「オープン式KS10−200

0型」又は「オープン式KS8−2000型」を用いた発酵処理

装置であり,本件発明1の実施品又はこれと同種の機能を有する

装置であることが認められる。

したがって,上記@及びAの合計9基の発酵処理装置は,ロ号

装置と代替可能性のある競合品であり,「侵害の行為がなければ

販売することができた物」(特許法102条1項)に該当するも

のと認められる。

他方で,大雄分2基及び湯沢分1基(前記(a)D,H)につい

ては,原告日環エンジニアリング作成の本件発明1の実施品にお




ける利益率等に関する書面(甲62)には,「OP式KS8−2

000型(昇降式)」又は「OP式KS6−2000型(昇降式)」

との記載があり,また,湯沢分1基の完成収支報告書(甲57の

9)にも,「攪拌機(オープン昇降式)」が用いられている旨の

記載があるところ,その「昇降式」の意味するところが本件証拠

上定かではなく,その結果,各発酵処理装置の構成自体も不明で

あるといわざるを得ないから,ロ号装置と代替可能性のある競合

品であると認めるに足りない。

したがって,上記の3基は,「侵害の行為がなければ販売する

ことができた物」ということはできない。

b そこで,前記a(b)の@及びAの9基の販売実績を前提に,原告

日環エンジニアリングの「単位数量当たりの利益額」(特許法10

2条1項)について検討するに,前掲a(a)の各証拠及び弁論の全

趣旨を総合すれば,上記9基の各利益額は,それぞれ次のとおりと

認めるのが相当である。

(a) エコ・マックスせんだい分(甲57の1,61の1)

@ 売上高 2176万円

A 経費(仕入高) 917万4765円

B 利益額 1258万5235円

売上高及び経費(仕入高)の内訳は,別表の(a)の「売上高」

欄及び「仕入高」欄にそれぞれ記載のとおりである。

(b) 聖籠町分(甲57の2,61の2)

@ 売上高 1944万2500円

A 経費(仕入高) 867万9849円

B 値引分 346万1310円

C 利益額 730万1341円




@の「売上高」及びAの「経費(仕入高)」の内訳は,別表の(

b)の「売上高」欄及び「仕入高」欄にそれぞれ記載のとおりであ

る。

Bの「値引分」は,発酵処理装置を含む工事全体の売上高25

30万5000円(値引前),その値引額450万5000円(甲

61の2)を前提に,上記工事全体の売上高に対する@の「売上

高」の割合に応じて算出したものである。

〔計算式 450万5000円×1944万2500円÷253

0万5000円=346万1310円〕

(c) おおえ朝日分(甲57の3,61の3)

@ 売上高 2636万4800円

A 経費(仕入高) 1292万0984円

B 値引分 821万7222円

C 利益額 522万6594円

@の「売上高」及びAの「経費(仕入高)」の内訳は,別表の(

c)の「売上高」及び「仕入高」欄にそれぞれ記載のとおりである。

Bの「値引分」は,発酵処理装置を含む工事全体の売上高47

21万6000円(値引前) その値引額1471万6000円
, (甲

61の3)を前提に,上記工事全体の売上高に対する@の「売上

高」の割合に応じて算出したものである。

〔計算式 1471万6000円×2636万4800円÷47

21万6000円=821万7222円〕

(d) 浪江町分(甲57の4,61の4)

@ 売上高 1665万9500円

A 経費(仕入高) 856万5303円

B 値引分 92万7901円




C 利益額 716万6296円

@の「売上高」及びAの「経費(仕入高)」の内訳は,別表の(

d)の「売上高」及び「仕入高」欄にそれぞれ記載のとおりである。

Bの「値引分」は,発酵処理装置を含む工事全体の売上高18

15万4000円(値引前),その値引額101万1142円(甲

61の4)を前提に,上記工事全体の売上高に対する@の「売上

高」の割合に応じて算出したものである。

〔計算式 101万1142円×1665万9500円÷181

5万4000円=92万7901円〕

(e) 鮭川村分(甲57の6,61の6)

@ 売上高 2517万3500円

A 経費(仕入高) 981万7112円

B 値引分 505万1870円

C 利益額 1030万4518円

@の「売上高」及びAの「経費(仕入高)」の内訳は,別表の(

e)の「売上高」欄及び「仕入高」欄にそれぞれ記載のとおりであ

る。

Bの「値引分」は,発酵処理装置を含む工事全体の売上高56

29万8000円(値引前) その値引額1129万8000円
, (甲

61の6)を前提に,上記工事全体の売上高に対する@の「売上

高」の割合に応じて算出したものである。

〔計算式 1129万8000円×2517万3500円÷56

29万8000円=505万1870円〕

(f) なかよし分(甲57の7)

@ 売上高 2410万4000円

A 経費(仕入高) 604万1729円




B 値引分 602万9728円

C 利益額 1203万2543円

@の「売上高」及びAの「経費(仕入高)」の内訳は,別表の(

f)の「売上高」欄及び「仕入高」欄にそれぞれ記載のとおりであ

る(なお,甲61の7には,手書きで「諸経費」の記載があるが,

元の完成収支報告書である甲57の7にはそもそも「諸経費」の

金額の記載がないので,上記「売上高」及び「仕入高」には上記

手書き部分の「諸経費」を含めていない。)。

Bの「値引分」は,発酵処理装置を含む工事全体の売上高35

55万4000円(値引前),その値引額889万4000円(甲

61の7)を前提に,上記工事全体の売上高に対する@の「売上

高」の割合に応じて算出したものである。

〔計算式 889万4000円×2410万4000円÷355

5万4000円=602万9728円〕

(g) 六角牛分(甲57の8)

@ 売上高 1902万8300円

A 経費(仕入高) 972万4059円

B 値引分 43万4587円

C 利益額 886万9654円

@の「売上高」及びAの「経費(仕入高)」の内訳は,別表の(

g)の「売上高」欄及び「仕入高」欄にそれぞれ記載のとおりであ

る(なお,甲61の8には,手書きで「諸経費」の記載があるが,

元の完成収支報告書である甲57の8にはそもそも「諸経費」の

金額の記載がないので,上記「売上高」及び「仕入高」には上記

手書き部分の「諸経費」を含めていない。)。

Bの「値引分」は,発酵処理装置を含む工事全体の売上高23




33万2900円(値引前),その値引額53万2900円(5

7の8)を前提に,上記工事全体の売上高に対する@の「売上高」

の割合に応じて算出したものである。

〔計算式 53万2900円×1902万8300円÷2333

万2900円=43万4587円〕

(h) 小岩井分(甲57の10,61の10)

@ 売上高 1059万3000円

A 経費(仕入高) 428万8239円

B 利益額 630万4761円

@の「売上高」及びAの「経費(仕入高)」の内訳は,別表の(

h)の「売上高」欄及び「仕入高」欄にそれぞれ記載のとおりであ

る。

なお,甲63中には,甲61の10の完成収支報告書の「受注

金額」の項目に「材料費・制作費 7,370,000」の記載

もれがある旨の記載部分があるが,それを客観的に裏付ける証拠

の提出がなく,上記記載部分は採用しない。

(i) 由利本荘分(甲57の11)

@ 売上高 2651万8118円

A 経費(仕入高) 1039万9282円

B 値引分 475万3411円

C 利益額 1136万5425円

@の「売上高」及びAの「経費(仕入高)」の内訳は,別表の(

i)の「売上高」欄及び「仕入高」欄にそれぞれ記載のとおりであ

る(なお,甲61の11には,手書きで「諸経費」の記載がある

が,元の完成収支報告書である甲57の11にはそもそも「諸経

費」の金額の記載がないので,上記「売上高」及び「仕入高」に




は上記手書き部分の「諸経費」を含めていない。)。

Bの「値引分」は,発酵処理装置を含む工事全体の売上高30

46万円(値引前),その値引額546万円(甲57の11)を

前提に,上記工事全体の売上高に対する@の「売上高」の割合に

応じて算出したものである。

〔計算式 546万円×2651万8118円÷3046万円=

475万3411円〕

c 前記bを前提に,1基当たりの平均販売利益を算定すると,90

1万7374円となり,同額をもって,原告日環エンジニアリング

単位数量当たりの利益額と認めるのが相当である。

〔計算式 (1258万5235円+730万1341円+522

万6594円+716万6296円+1030万4518円+12

03万2543円+886万9654円+630万4761円+1

136万5425円)÷9=901万7374円〕

(エ) 小括

以上によれば,特許法102条1項の類推適用により算出される原

告日環エンジニアリングの損害額は,ロ号装置の販売数量2基(前記(

イ))に原告日環エンジニアリングの単位数量当たりの利益額901万

7374円(前記(ウ)c)を乗じて得られた額である1803万47

48円となる。

ウ 特許法102条2項の類推適用に基づく損害額

(ア) 原告日環エンジニアリングは,被告は,平成16年1月1日から

平成21年6月30日までの間,イ号装置及びロ号装置を製造及び販

売し,その販売数量は各5基を下らず,これによりイ号装置及びロ号

装置のそれぞれにつき7368万9925円の利益を受けた旨主張す

る。




そこで検討するに,前記ア(イ)のとおり,被告が販売したロ号装置

販売数量は合計2基(各1基が増田牧場及び大木牧場に納品設置)

であり,他方で,被告がイ号装置を販売した事実は認められない。

そして,証拠(乙34,35,45,46)及び弁論の全趣旨によ

れば,@増田牧場に納品設置されたロ号装置の販売価格は685万7

143円,その製造原価は426万2193円であり,被告の利益額

は259万4950円となること,A大木牧場に納品設置されたロ号

装置の販売価格は685万7143円,その製造原価は448万12

24円であり,被告の利益額は237万5919円となることが認め

られる。

上記認定事実によれば,被告が上記ロ号装置2基を販売したことに

より得た利益は,合計497万0869円となる。

(イ) したがって,特許法102条2項の類推適用により推定される原

告日環エンジニアリングの損害額は,497万0869円であり,こ

れは,特許法102条1項の類推適用により算出される原告日環エン

ジニアリングの損害額(前記イ(エ))を上回るものではない。

(2) 原告キシエンジニアリングについて

ア 前記(1)イ(ア)のとおり,被告が販売したロ号装置の販売数量は合計2

基(各1基が増田牧場及び大木牧場に納品設置)であり,他方で,被告

がイ号装置を販売した事実は認められない。

そして,原告キシエンジニアリングは,本件特許権1の特許権者であ

るところ,ロ号装置を販売した被告の行為は,故意又は過失により本件

特許権1を侵害するものとして不法行為を構成する。

イ そこで,特許法102条3項の規定により原告キシエンジニアリング

が受けるべき実施料相当額(「その特許発明実施に対し受けるべき金

銭の額に相当する額の金銭」)の損害額について検討するに,原告キシ




エンジニアリングは,本件特許権1について,いずれも無償で,原告日

環エンジニアリングに対し本件独占的通常実施権1を,晃伸製機に対し

通常実施権をそれぞれ許諾する一方で(前記(1)ア(ア)),自己実施して

いることはうかがわれないこと,本件発明1の技術内容及び効果(前記

1(1)イ(イ)),被告が本件発明1の実施によって497万0869円の

利益を受けていること(前記(1)ウ(ア)),その他被告の侵害行為の態様

等諸般の事情を総合考慮すれば,原告キシエンジニアリングの上記損害

額は,被告によるロ号装置2台の合計売上高1371万4286円(前

記(1)ウ(ア)の685万7143円×2)の3%である41万1428円

と認めるのが相当である。

〔計算式 685万7143円×2×0.03=41万1428円〕

(3) まとめ

以上によれば,原告日環エンジニアリング及び原告キシエンジニアリン

グは,被告に対し,原告日環エンジニアリングおいては本件独占的通常実

施権1の侵害不法行為に基づく損害賠償として1803万4748

円(前記(1)イ(エ)),原告キシエンジニアリングにおいては本件特許権1

侵害不法行為に基づく損害賠償として41万1428円(前記(2)イ)

及び上記各金員に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな

平成21年8月5日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅

延損害金の支払を求めることができる。

そして,特許法102条1項は,侵害者の侵害行為がなければ権利者が

自己の物を販売することができたことによる得べかりし利益(逸失利益

損害額の算定方式を定めた規定であって,侵害者の侵害行為(特許権の

実施行為)がなかったという仮定を前提とした損害額の算定方式を定めた

規定であるのに対し,同条3項は,侵害者の特許権の実施行為があったこ

とを前提として権利者が受けるべき実施料相当額損害額の算定方式を定




めた規定であって,両者は前提を異にする損害額の算定方式であり,一つ

侵害行為について同条1項に基づく損害賠償請求権と同条3項に基づく

損害賠償請求権とが単純に並立すると解すると,権利者側に逸失利益を超

える額についてまで損害賠償を認めることとなり,妥当でないというべき

であるから,原告日環エンジニアリングの上記損害賠償請求権(同条1項

の類推適用に基づく損害額の損害賠償請求)と原告キシエンジニアリング

の上記損害賠償請求権(同条3項に基づく損害額の損害賠償請求)とは,

その重複する限度で,いわゆる不真正連帯債権の関係に立つものと解する

のが相当である。

6 結論

以上によれば,原告日環エンジニアリングの請求は,1803万4748

円及びこれに対する平成21年8月5日から支払済みまで年5分の割合によ

る金員の支払を,原告キシエンジニアリングの請求は,イ号装置及びロ号装

置の製造及び販売の差止め並びに41万1428円及びこれに対する同日か

ら支払済みまで年5分の割合による金員の支払をそれぞれ求める限度で理由

があり,原告日環エンジニアリングのその余の請求,原告キシエンジニアリ

ングのその余の請求及び原告Aの請求はいずれも理由がないから,これを棄

却することとし,主文のとおり判決する。



東京地方裁判所民事第46部



裁判長裁判官 大 鷹 一 郎




裁判官 上 田 真 史




裁判官 石 神 有 吾