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関連審決 不服2010-5326
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事件 平成 24年 (行ケ) 10149号 審決取消請求事件

原告 株式会社ジェネス
訴訟代理人弁護士 田中 伸一郎
同 松野仁彦
訴訟代理人弁理士 弟子丸 健
同 倉澤 伊知郎
同 吉野亮平
被告特許庁長官
指定代理人原秀人
同 長島孝志
同 田部元史
同 芦葉松美
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2010-5326号事件について平成24年3月14日にした審 1 決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「認証方法および装置」とする発明について,平成12年5月2日に特許出願(特願2000-133741号)し,その一部につき平成13年4月13日,特許法44条1項に基づいて新たに特許出願(特願2001-115141号)し,その一部につき平成21年3月23日,発明の名称を「認証用バーコード付与方法」として,特許法44条1項に基づいて新たに特許出願(特願2009-70369号。以下「本願」という。)し,同年6月19日付けで手続補正をしたが,同年12月7日付けで拒絶査定を受けたことから,平成22年3月10日,拒絶査定不服審判(不服2010-5326号事件)を請求するとともに,同日付けで手続補正をし,さらに平成24年2月20日付けで手続補正をした。特許庁は,同年3月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月29日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲平成24年2月20日付け補正に基づく本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。本願の特許請求の範囲,発明の詳細な説明及び図面を総称して,「本願明細書」ということがある(甲7,甲8)。別紙の本願明細書図1は,本願発明の実施形態である認証装置を備える認証システムを示すブロック図である。
「【請求項1】認証要求者の顧客である被認証者に付与されると共に記憶される前記被認証者および認証要求者に固有の個人認証用バーコードであって,前記被認証者が携帯電話に表示することによって前記認証要求者に提示され,前記提示された個人認証用バーコードがバーコードデータベースに記憶されていたとき前記被認証者が認証される,携帯電話に表示される個人認証用バーコードを被認証者に付与する個人認証用バーコード付与方法であって, 2 認証装置が,前記被認証者の発信者番号を含むバーコード要求信号を,被認証者の携帯電話から通信回線を通して受信するステップと, 前記受信するステップの後,前記認証装置が,受信したバーコード要求信号に含まれる前記発信者番号に基づいて,前記被認証者の前記発信者番号を含む顧客データが顧客データベースに記録されているか否かを判定するステップと, 前記判定するステップの後,前記認証装置が,前記被認証者の前記発信者番号を含む顧客データが前記顧客データベースに記録されていなかったときには,前記被認証者の前記発信者番号を含む顧客データが前記顧客データベースに記録されていないことを示すメッセージを前記被認証者の携帯電話に通信回線を通して送信して処理を終了し,前記被認証者の発信者番号を含む顧客データが前記顧客データベースに記録されていたときには,前記被認証者の発信者番号を含む顧客データが前記顧客データベースに記録されていたことのみを条件として,前記個人認証用バーコードを用いて認証を受けることができる前記認証要求者の選択肢を前記被認証者の携帯電話に送り,前記被認証者にいずれかの認証要求者を選択させ,前記被認証者および前記選択された認証要求者に固有の個人認証用バーコードを生成するステップと, 前記生成するステップの後,前記認証装置が,該個人認証用バーコードを前記被認証者の携帯電話に通信回線を通して送信すると共に,該個人認証用バーコードを前記バーコードデータベースに記憶するステップと,を備えている, ことを特徴とする個人認証用バーコード付与方法。」 3 審決の理由 (1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,当業者であれば,特開平10-69553号公報(以下「引用文献1」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。別紙引用文献1図1は,引用発明に係る発券システムの概念的な構成の一例を示す図,同図3は,券発行装置のデータ処理部の一例の概略的なブロック図である。),「日経ビジネス,2000年4月24日号,日 3 経BP社,p.28-p.29」(以下「引用文献2」という。甲2)及び,特開平8-221482号公報(以下「参考文献1」という。甲3),特開平11-184935号公報(以下「参考文献2」という。甲4),特開2000-92236号公報(以下「参考文献3」という。甲5),特開平11-175477号公報(以下「参考文献4」という。甲6)記載の周知技術から容易に想到し得たものであり,特許法29条2項により,特許を受けることができないというものである。
(2) 上記判断に際し,審決が認定した引用発明の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 引用発明の内容 ユーザーが券を発注して購入する発券システムにおける発券処理方法であって該発券システムはユーザーの発券要求情報を入力するユーザー装置と,前記ユーザー装置と通信手段を介して接続され,前記ユーザー装置からの前記発券要求情報に応じた券情報を検索し,この検索された券情報及び前記券情報に対応するユーザーコード情報を共に出力するデータ処理手段と,前記ユーザー装置からの前記発券要求情報を受信し,前記データ処理手段からの前記券情報及び前記ユーザーコード情報を前記ユーザー装置に送信するデータ送受信手段とを有する券発行装置と,前記券情報及び前記ユーザーコード情報を入力する情報入力手段と,前記情報入力手段からの前記券情報を認識して処理するデータ処理手段とを有する券使用装置と,を備えて成り,前記ユーザー装置は,前記券発行装置からの前記券情報及び前記ユーザーコード情報を共に記録する記録媒体を含み,前記券使用装置は,前記情報入力手段で,前記ユーザー装置の記録媒体に記録されたユーザーコード情報を読み込み,前記ユーザーコード情報を券発行装置に送信し,これに対して,前記券発行装置は,前記券使用装置から受信した前記ユーザーコード情報と前記券発行装置のユーザーコード情報記憶手段に予め記憶されているユーザーコード情報とを照合し,この照合結果を前記券使用装置に送信し,前記券使用装置は,前記券発行装置から受信した前記照合結果に基づいて,前記ユーザーコード情報が記録されたユーザー装置の 4 記録媒体を持参したユーザーがその記録媒体に記録された券情報の真の利用者であるか否かを判別し,また前記ユーザーが当該券の利用をすることができる者であるか否かを判別し,これにより,前記ユーザーは,当該券を利用できる「顧客」であり,かつ当該券の利用に当たって,その真の利用者であると認証されるものであり,前記情報入力手段はホテル,旅館,駅,施設等の窓口や入場口等の券使用場所に備えられるものであり,先ず前記ユーザー装置から前記券発行装置に対して,発券要求情報を送信するとともに前記券発行装置が発券要求情報を受信するステップと,該受信するステップに次いで,前記券発行装置が,受信した発券要求情報に含まれるユーザー識別情報に基づいて,会員であるユーザーのユーザー情報が登録されている登録ユーザー情報記憶部を検索し,当該ユーザー識別情報を含むユーザー情報が前記ユーザー情報記憶部に記憶されていたときには,前記発券要求情報のうちの条件提示情報に基づいて適応する券使用場所の券情報の検索を行い,この券情報の検索結果を前記ユーザー装置に送信し,前記適応する券使用場所から所望の券使用場所を選択するための選択画面を表示部に表示させ,この選択画面において,ユーザーがユーザーインターフェイス部を操作して,一つの券使用場所を選択するステップと,該選択するステップに次いで,前記券発行装置のユーザー情報記憶部に記憶される複数のユーザー情報から読み出された,前記発券要求情報に含まれるユーザー識別情報に対応するユーザー情報に基づいて課金処理を行うステップと,該課金処理を行うステップに次いで,券発行装置のデータ処理手段が,券の内容や券使用場所の各条件等を示す券情報,及び発券番号とユーザーを識別するユーザー識別情報とを含むユーザーコード情報をコード化するステップであって,前記ユーザーコード情報は,ユーザー及び券使用装置が設置されている券使用場所に固有の情報であって,バーコードとして表されるコード情報であるステップと,該コード化はユーザー情報記憶部に記憶されるユーザー情報から,送信されたユーザー識別情報に対応するユーザー情報を読み出し,このユーザー情報を用いてユーザーコード情報を作成することによってなされるものであるステップと,前記券発行装置が,前 5 記コード化するステップの後,このコード化された券情報及びユーザーコード情報を前記ユーザー装置に送信するとともに,前記ユーザーコード情報記憶手段に記憶するステップと,を有し,前記券発行装置が送信した券情報及びユーザーコード情報が,前記ユーザー装置で記録媒体に記録され,前記券使用装置による前記ユーザーコード情報の読み込み動作のために,前記ユーザーコード情報がバーコードとして表示される,発券処理方法。
イ 一致点 「認証要求者の顧客である被認証者に付与されると共に記憶される前記被認証者および認証要求者に固有の個人認証用バーコードであって,前記被認証者が」提示「することによって前記認証要求者に提示され,前記提示された個人認証用バーコードが,バーコードデータベースに記憶されていたとき前記被認証者が認証される,」提示される「個人認証用バーコードを被認証者に付与する個人認証用バーコード付与方法であって,認証装置が,前記被認証者の」個人特定情報「を含むバーコード要求信号を,被認証者の」要求発信装置「から通信回線を通して受信するステップと,前記受信するステップの後,前記認証装置が,受信したバーコード要求信号に含まれる前記」個人特定情報「に基づいて,前記被認証者の前記」個人特定情報を含む顧客情報「が顧客データベースに記録されているか否かを判定するステップと,前記判定するステップの後,前記認証装置が,」「前記被認証者の」個人特定情報を含む顧客情報「が前記顧客データベースに記録されていたときには,前記被認証者の」個人特定情報を含む顧客情報「が前記顧客データベースに記録されていること」を「条件として,前記個人認証用バーコードを用いて認証を受けることができる前記認証要求者の選択肢を前記被認証者の」要求発信装置「に送り,前記被認証者にいずれかの認証要求者を選択させ,前記被認証者および前記選択された認証要求者に固有の個人認証用バーコードを生成するステップと,前記生成するステップの後,前記認証装置が,該個人認証用バーコードを前記被認証者の」要求発信装置「に通信回線を通して送信すると共に,該個人認証用バーコードを前記バ 6 ーコードデータベースに記憶するステップと,を備えている,ことを特徴とする個人認証用バーコード付与方法。」 ウ 相違点 (ア) 相違点1 「要求発信装置」について,本願発明は,「携帯電話」であるのに対し,引用発明は「ユーザー装置」である点。
(イ) 相違点2 「個人認証用バーコードの提示」が本願発明においては,「携帯電話に表示」することでなされるのに対して,引用発明においては,「券使用装置による前記ユーザーコード情報の読み込み動作のために,前記ユーザーコード情報がバーコードとして表示され」る点。
(ウ) 相違点3 「個人特定情報」について,本願発明は,「発信者番号」であるのに対して,引用発明は「ユーザー識別情報」である点。
(エ) 相違点4 本願発明においては,発信者番号を含む顧客データが前記顧客データベースに記録されていること「のみ」を条件として前記被認証者に固有の個人認証用バーコードとして表示バーコードを生成するのに対して,引用発明においては,「ユーザー識別情報を含むユーザー情報が前記ユーザー情報記憶部に記憶されていることを条件としてユーザーコード情報を作成する点。
(オ) 相違点5本願発明においては,「前記認証装置」は,「前記被認証者の前記発信者番号を含む顧客データが前記顧客データベースに記録されていなかったときには,前記被認証者の前記発信者番号を含む顧客データが前記顧客データベースに記録されていないことを示すメッセージを前記被認証者の携帯電話に通信回線を通して送信して処理を終了」するのに対して,引用発明においては,前記ユーザーの前記ユーザー 7 識別情報を含むユーザー情報が前記ユーザー情報記憶部に記録されていなかったときには,前記ユーザーの前記ユーザー識別情報を含むユーザー情報が前記ユーザー情報記憶部に記録されていないことを示すメッセージを前記ユーザーのユーザー装置に通信回線を通して送信して処理を終了することが示されていない点。
当事者の主張
1 審決の取消事由に係る原告の主張 審決には,以下のとおり,(1) 相違点の看過(取消事由1),(2) 相違点1及び相違点2に関する判断の誤り(取消事由2),(3) 相違点3及び相違点4に関する判断の誤り(取消事由3),(4) 相違点5に関する判断の誤り(取消事由4)があり,これらは結論に影響を及ぼすものである。
(1) 相違点の看過(取消事由1) ア 審決は,引用発明について,「前記券使用装置は,前記情報入力手段で,前記ユーザー装置の記録媒体に記録されたユーザーコード情報を読み込み,前記ユーザーコード情報を券発行装置に送信し,これに対して,前記券発行装置は,前記券使用装置から受信した前記ユーザーコード情報と前記券発行装置のユーザーコード情報記憶手段に予め記憶されているユーザーコード情報とを照合し,この照合結果を前記券使用装置に送信し,前記券使用装置は,前記券発行装置から受信した前記照合結果に基づいて,前記ユーザーコード情報が記録されたユーザー装置の記録媒体を持参したユーザーがその記録媒体に記録された券情報の真の利用者であるか否かを判別し,また前記ユーザーが当該券の利用をすることができる者であるか否かを判別し,これにより,前記ユーザーは,当該券を利用できる『顧客』であり,かつ当該券の利用に当たって,その真の利用者であると認証されるものであり,」とし,バーコードにより「個人認証」を行う点を,本願発明との一致点と認定した。
しかし,引用発明において,記録媒体に記録されていたユーザー識別情報を含むユーザーコード情報が券使用装置で読み込まれ,券発行装置に送付され,記録されていたユーザー装置に送信されたものと一致したとしても,記録媒体に記憶された 8 券が真正なものであることしか証明されず,それに加えて,記録媒体を持参したユーザーが同媒体に表示されたユーザー識別情報で特定された人物自身であることが別途確認されているのでなければ,ユーザー識別情報の照合によって,「記録媒体を持参したユーザーが,その記録媒体に記載された券情報の真の利用者であるか否かを判別すること」はできない。引用発明のシステムは,@ユーザーが持参した券に,名前や住所などについての文字情報が記載されている場合には,それとユーザーの持参する身分証明書との照合により,券を持参したユーザーが券の正規の利用者であることを確認した上で,A券使用装置で読み込まれ,券発行装置に送付されたユーザー識別情報を含むユーザーコード情報を,券発行装置に記録されていたユーザー装置に送信されたものと照合するものであるが(引用文献1の段落【0161】),上記Aだけでは個人認証はできないのである。
一方,本願発明は,一身専属性が極めて高く他人に貸与することは通常はあり得ないという特質を有する携帯電話から認証用のバーコードを要求させ,受信させ,かつ,当該携帯電話にバーコードを表示して,認証要求者に提示させるので,携帯電話を提示した者と被認証者の同一性は担保されるから,引用発明とは相違する。
したがって,審決は,引用発明と本願発明が個人認証をなす点で一致すると誤って認定し,上記の相違点を看過したものである。
イ 審決は,「前記被認証者の個人特定情報を含むバーコード要求信号を,被認証者の要求発信装置から通信回線を通して受信するステップ」との構成を,本願発明と引用発明との一致点と認定した。
しかし,引用文献1において,発券要求情報にユーザー識別情報が含まれることはあり得ない。引用文献1の段落【0104】には,「発券要求情報に含まれるユーザー識別情報」との記載があるが,発券要求情報は「券情報を検索」するもので(請求項1),ユーザー識別情報とは別個のものであり,発券要求情報とユーザー識別情報は別個に取り扱われるから(段落【0100】,【0128】,【0129】,【0168】,【0099】,図3),段落【0104】の上記記載は,単 9 にユーザーを識別できる情報が発券情報とともに送信されたというにすぎない。
したがって,引用発明において,バーコード要求信号が「被認証者の個人特定情報を含む」とはいえないにもかかわらず,審決は,この構成を本願発明との一致点と認定し,相違点を看過したものである。
ウ 審決は,「前記認証装置が,受信したバーコード要求信号に含まれる前記個人特定情報に基づいて,前記被認証者の前記個人特定情報を含む顧客情報が顧客データベースに記録されているか否かを判定」し,「前記被認証者の個人特定情報を含む顧客情報が前記顧客データベースに記録されていたときには,前記被認証者の個人特定情報を含む顧客情報が前記顧客データベースに記録されていることを条件として,・・・認証を受けることができる前記認証要求者の選択肢を前記被認証者の要求発信装置に送」るとの構成を,本願発明と引用発明との一致点と認定した。
しかし,審決は,引用発明の認定を誤っており,正しく認定するならば,引用発明は上記の構成を有しない。
すなわち,検索等について,引用文献1には「送られた発券情報が有効であるか否か,具体的には,ユーザー装置から送信される発券要求情報により要求される券情報の検索を行うことが可能であるか否かを判別する」(段落【0100】)ことによってなされることが示されるから,引用発明においては,「券発行装置が,受信した発券要求情報に含まれるユーザー識別情報に基づいて,会員であるユーザーのユーザー情報が登録されている登録ユーザー情報記憶部を検索し,当該ユーザー識別情報を含むユーザー情報が前記ユーザー情報記憶部に記憶されていた」からといって,これは課金のための情報であり,検索等が当然になされるわけではない。
したがって,上記の一致点に係る構成を引用発明は有しないから,審決は,一致点の認定を誤り,相違点を看過したものである。
(2) 相違点1及び相違点2に関する判断の誤り(取消事由2)審決は,「従来のパソコンに代えて携帯電話を使って取引等の手続きを行うようにすることは,当業者にとっては周知の,一般的な技術的趨勢であり,携帯電話を 10 使った取引において,バーコードリーダーにバーコードを提示する手段として携帯電話を用いることも,本件出願時当業者が知るところになっていた」から,本願発明に係る相違点1及び2の構成は格別のものではないと判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア 本願発明は「携帯電話」を構成要素としたことにより,以下のとおり,画期的なものとなった。すなわち, (ア) 携帯電話は,一身専属性が極めて高く,使用者が他人に貸与することは通常はあり得ないから,携帯電話のディスプレイに表示させたバーコードを提示する者は,バーコードの発行,送信を要求し,受信した本人であるという信頼が成り立ち,携帯電話のディスプレイに表示されてバーコードを照合することのみで,個人認証が可能となる。
(イ) 携帯電話は,当然に被認証者が常に携帯され,基本的にどこでもバーコードの発行,送信を要求し,受信するための送受信でき,受信したバーコードを,そのまま携帯電話のディスプレイに表示して,認証要求者に提示できるから,携帯電話を用いることは,個人認証に非常な便益をもたらす。
(ウ) 本願発明の相違点1及び2の構成は,この携帯電話を用いることにかかるものであり,その一身専属性,常時携帯性を利用した画期的な構成である。
イ 一方,引用発明においては,ユーザーコード情報を記録した記録媒体は携帯電話との限定はなく,発券装置に対して発券要求し,受信するのはユーザー装置であり,券の記録媒体ではない。引用文献1には,ユーザーコード情報等が記録された記録媒体について一身専属性を示唆する記載はなく,ユーザー装置と券の記録媒体は同一の装置ないし機器であることを示唆する記載もない。この場合,券の有効性の確認は可能であるが,券は,購入者から第三者へと移転する可能性があり,提示者である券の使用者は券の購入者と同一であると認めることはできない。
また,引用発明は,「券の購入者が発券場所まで行かなくても簡易に券を購入することができ,発券場所では,人員を合理化することができる発券システムを提供 11 する」ものであり(引用文献1の段落【0008】),記録媒体に記録されたユーザーコード情報とデータ処理手段からのユーザーコード情報とを照合することにより,「券情報が有効であるか否かを決定する」ものであるから(同請求項1),券の有効性が確認されている以上,引用発明の構成に接した当業者が更なる変更を加えて,発行装置に発券要求情報を送信し,ユーザーコード情報を受信し,使用場所で提示する手段として携帯電話を使用するように変更することは考え難い。
ウ したがって,本願発明に係る相違点1及び2の構成は格別なものであり,審決の上記判断は誤りである。
(3) 相違点3及び相違点4に関する判断の誤り(取消事由3) 審決は,本願発明に係る相違点3及び4の構成について,「引用発明の『ユーザー装置』を『携帯電話』とした場合には,『ユーザー識別情報』として『発信者番号』を採用するとともに,引用発明もユーザー識別情報を含むユーザー情報がユーザー情報記憶部に記憶されていること『のみ』で,当該ユーザーは,当該ユーザー情報に含まれるクレジットカード番号に基づいて課金可能なユーザーであることを開示していることからすると,引用発明における発券時のユーザーの認証処理に,前記周知慣用技術を採用すること,すなわち,発信者番号を含むユーザー情報が前記ユーザー情報記憶部に記録されていること『のみ』を条件として,『適応する券使用場所から所望の券使用場所を選択するための選択画面を表示部に表示させ』,『課金処理を行』い,『ユーザーコード情報をコード化する』ことは,当業者であれば当然の如く想到し得る事項であって,適宜に採用し得た構成に過ぎない。」として,相違点3及び相違点4は格別のものではないと判断した。
しかし,以下のとおり,審決の判断は誤りである。
ア 引用文献1には,「ユーザー装置」として「携帯電話」を採用することを示唆する記載は存在せず,携帯電話に関する記述は通信回線についての記述であり,「ユーザー装置」として挙げられているのはファクシミリ装置やパーソナルコンピュータ装置である。そして,本願優先日当時は,携帯電話の通話以外の利用が検討 12 され始めた時期であり,ファクシミリ装置やパーソナルコンピュータ装置の記載から携帯電話を「ユーザー装置」に利用することは思いつくことではない。
また,仮に「携帯電話」を「ユーザー装置」とした場合には,「ユーザー識別情報」として「発信者番号」を採用するというのも根拠がない。引用文献1において,照合時のユーザー識別情報は「ユーザーの名前情報」,「暗号情報」が特定されて挙げられており,電話番号についてはファクシミリ装置が「ユーザー装置」として挙げられるが,ユーザー識別情報の例としては挙げられていない。そうすると,仮に「携帯電話」を「ユーザー装置」とした場合,「ユーザー識別情報」として「発信者番号」を採用することは考え難い。
さらに,引用文献1における「ユーザー識別情報」は,発券要求情報に当然に付加されるものではなく,発券が記名性である場合等の特定の目的のために,能動的に発券要求情報と同時あるいは別時に送付する情報である。これに対し,電話を通信手段として用いる場合には,その電話番号(発信者番号)は,通信回線を通して受信者側に自動的に送信されるものである。
したがって,引用発明の券発行装置において,特定の目的で送信される「ユーザー識別情報」を,その発信者の番号以外の情報を受信者側に伝達することができない「発信者番号」に置き換えることは,当業者が当然に行うものではなく,相違点3に係る本願発明の構成は格別のものである。
イ 審決は,「引用発明もユーザー識別情報を含むユーザー情報がユーザー情報記憶部に記憶されていること『のみ』で,当該ユーザーは,当該ユーザー情報に含まれるクレジットカード番号に基づいて課金可能なユーザーであることを開示している」とする。
しかし,相違点4に係る本願発明の構成(発信者番号を含む顧客データが前記顧客データベースに記録されていること「のみ」)は「バーコードを生成する」ための条件であるところ,審決は,この構成に対応する引用発明の構成は券情報及びユーザーコード情報をコード化する構成であり,それがユーザー識別情報を含むユー 13 ザー情報がユーザー情報記憶部に記憶されていることを条件になされるとする。そして,上記コード化の条件について,引用発明では,「発券要求情報」が有効と判断されることに加え,ユーザー情報に含まれるクレジットカード番号に基づいて課金処理がなされることも条件とするから,本願発明とは構成が異なる。
したがって,相違点4に係る本願発明の構成は格別のものである。
ウ 以上のとおり,相違点3及び4の構成に格別なものはないとした審決の判断は誤りである。
(4) 相違点5に関する判断の誤り(取消事由4) 審決は,相違点5について,「券発行装置が,発信者番号を含むユーザー情報がユーザー情報記憶部に記憶されていなかったときには,券情報の検索動作及びユーザーコード情報の作成動作を行わないで,処理を終了すること,その際に,ユーザーに,券情報の検索動作及びユーザーコード情報の作成動作を行わない理由がわかるようにメッセージ・・・を送信することは,当業者であれば,当然の如く想到する事項である」と判断した。
しかし,引用発明は,航空券,乗車券,イベント等の入場券や,ホテル宿泊券を販売する発券システムに関し,券の購入者が発券場所まで行かなくても簡易に券を購入することができる発券システムを提供するものであり(引用文献1の段落【0002】,【0008】),ユーザーが会員か否かを判別するものではない。簡易に券を購入できることが重要であるから,発券要求情報が,券情報を検索するために十分な情報であるとはいえなかった場合,再度検索条件を入力できることが当然であり(同段落【0013】,図6),「一旦処理を終了する」ことはあり得ない。
一方,本願発明は,バーコード付与方法に関するものであり,会員のみに特別のサービスを提供する場合等に,顧客の発信者番号が顧客データベースに記録されているか否かを判定することにより,当該顧客が会員であるか否かを判定し,会員である場合にのみバーコードを付与するものである。発信者番号を再度要求しても送られてくる情報は全く同一の発信者番号であるので被認証者に対して発信者番号を 14 再度要求することはあり得ない(本願明細書の段落【0020】,【0027】)。
この点,審決は,引用文献1の段落【0054】には,前記券発行装置は,発券要求情報が適正または有効でないときには,券情報の検索動作及びユーザーコード情報の作成動作を行わないことが記載されている旨認定するが,発券要求情報が適正または有効であるかとは,発券要求情報により要求される券情報の検索を行うことが可能であるか否かを判別する(段落【0100】)ことであり,「発券要求情報が適正または有効でない」とは,券情報の検索を行うことが不可能であること,すなわち,券情報によって指定されている検索条件に何らかの不備があるか,指定された条件の券を取り扱っていないことをいうと解すべきである。
したがって,引用文献1に基づいて,相違点5に係る本願発明の構成を採用することは当業者が通常行うことではなく,審決の判断は誤りである。
2 被告の反論 審決には,以下のとおり,取り消されるべき違法はない。
(1) 取消事由1(相違点の看過)に対し 原告は,審決の一致点の認定について,@引用発明と本願発明が個人認証をなす点で一致するとした誤りがあり,相違点を看過している,A引用発明においては,発券要求情報にユーザー識別情報は含まれないにもかかわらず,バーコード要求信号が「被認証者の個人特定情報を含む」との構成を本願発明との一致点とした誤りがあり,相違点を看過している,B引用発明は,「前記被認証者の個人特定情報を含む顧客情報が前記顧客データベースに記録されていたときには,前記被認証者の個人特定情報を含む顧客情報が前記顧客データベースに記録されていることを条件として,・・・認証を受けることができる前記認証要求者の選択肢を前記被認証者の要求発信装置に送」るとの構成を有しないにもかかわらず,これを本願発明との一致点とした誤りがあり,相違点を看過している旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
ア 上記@の主張について 15 本願発明における個人認証の仕組みは,被認証者が記録した携帯電話のバーコードと認証装置側のバーコードとの同一性の有無を確認することによるものであり,当該携帯電話を所持し,提示した者が,被認証者自身であるか否かを照合の対象とするものではないから,本願発明と引用発明が,個人認証の有無において相違するとはいえない。
イ 上記Aの主張について 引用文献1の段落【0104】の記載から,引用発明について,「ユーザー識別情報」を含めて「発券要求情報」と称していることは明らかであり,バーコード要求信号が「被認証者の個人特定情報を含む」ことは本願発明との一致点といえる。
ウ 上記Bの主張について 引用発明において,ユーザー情報は,発券要求情報に含まれるから,検索前にユーザー識別情報を送信していることは明らかである。そして,ユーザー識別情報が,当該システムを利用することができるユーザーであることを示す(顧客情報が顧客データベースに記録されている)場合に次に続く処理に進むようにすることは当然であるから,引用発明が,本願発明と同様に「前記被認証者の個人特定情報を含む顧客情報が前記顧客データベースに記録されていたときには,前記被認証者の個人特定情報を含む顧客情報が前記顧客データベースに記録されていることを条件として,・・・認証を受けることができる前記認証要求者の選択肢を前記被認証者の要求発信装置に送」るとの構成を含むといえる。
(2) 取消事由2(相違点1及び相違点2に関する判断の誤り)に対し 原告は,本願発明は「携帯電話」を構成要素とすることにより,画期的なものとなったから,本願発明に係る相違点1及び2の構成は格別のものではないとした審決の判断には誤りがある旨主張する。
しかし,本願発明における個人認証の仕組みは,被認証者が記録した携帯電話のバーコードと認証装置側のバーコードとの同一性の有無を確認することによるものであって,当該携帯電話を所持し,提示した者が,被認証者自身であるか否かを照 16 合の対象とするものではないから,本願発明と引用発明は,個人認証の有無において相違するということはできない。
一般に,人の同一性を正確に認証するには生体認証等の手段を用いる必要があり,人が所持する携帯電話や紙その他の記録媒体に表示された情報等の同一性を照合する方法によっては,人の同一性の確認はできない。本願発明も引用発明も,生体認証のような意味で人の同一性を判断する発明でなく,送信をされて受けた識別標識と,特定の者が所持し,提示した識別標識の同一性を照合するという間接的な照合方法であるという点において共通する。
また,引用文献1の段落【0019】,【0021】記載の「記録媒体」は,通常ユーザー装置に含まれるものであって,ユーザー装置そのものではないから,ユーザー装置に相当する本願発明の携帯電話と直ちに同視することはできないものの,これを認証のための技術的手段を搭載する媒体としてみると,引用文献1における携帯型記録媒体は,本願発明の携帯電話と同様の技術的意義を有するものということができる(請求項1,4,段落【0019】,【0021】,【0078】)。
また,段落【0078】には,使用する通信回線に関する記述があり,携帯電話通信回線を使用する場合のユーザー装置は必然的に携帯電話になると考えられるから,ユーザー装置として携帯電話を使用することが開示されているといえる。
さらに,引用文献1における携帯型記録媒体には,携帯電話と同様に一身専属性の高いものが含まれているから(段落【0021】記載の「手のひらサイズ等の超小型PC」等),本願発明において一身専属性の高い携帯電話を用いることにより個人認証ができるのに対し,引用発明では個人認証ができないとはいえない。
(3) 取消事由3(相違点3及び相違点4に関する判断の誤り)に対し原告は,@引用発明の券発行装置において,特定の目的で送信される「ユーザー識別情報」を,「発信者番号」に置き換えることは,当業者が当然に行うものではなく,相違点3に係る本願発明の構成は格別のものである,A相違点4に係る本願発明の構成(発信者番号を含む顧客データが前記顧客データベースに記録されてい 17 ること「のみ」)は「バーコードを生成する」ための条件であり,これに対応する引用発明の構成は券情報及びユーザーコード情報をコード化する構成であるが,上記コード化の条件について,引用発明は本願発明とは構成が異なるから,相違点4に係る本願発明の構成は格別のものであると主張する。
しかし,以下のとおり原告の主張は失当である。
ア 上記@の主張に対し 引用発明が「ユーザー装置」として「携帯電話」を採用するものではない点は,本願発明との相違点1であるが,「ユーザー装置」として「携帯電話」を採用することは,当業者であれば容易に想到し得たことである。
したがって,「ユーザー装置」として「携帯電話」を採用する場合に,電話番号(発信者番号)により個人の特定や認証を行うよう構成することは適宜に採用し得ることであり,審決の判断に誤りはない。
イ 上記Aの主張に対し 引用文献1の請求項の1ないし12には課金処理に関する構成は示されておらず,請求項13で初めて課金処理の構成が示されているが,その請求項13においても,課金処理の手段が付加されるのは,請求項3ないし12に限定されているから,引用発明において,課金処理は必須とはいえない。
したがって,引用発明においても,「課金がなされることも条件とすること」なく,発信者番号を含むユーザー情報が前記ユーザー情報記憶部に記録されていること「のみ」を条件として,「適応する券使用場所から所望の券使用場所を選択するための選択画面を表示部に表示させ」,「ユーザーコード情報をコード化する」ことは,当業者であれば当然想到し得る事項であって,適宜に採用し得た構成にすぎず,審決の判断に誤りはない。
(4) 取消事由4(相違点5に関する判断の誤り)に対し原告は,引用文献1において,ユーザーが希望する条件の券が存在しない場合,販売者は再検索を促し,販売者が取引を一方的に終了させることはあり得ないのに 18 対し,本願発明は,発信者番号を再度要求しても送られてくる情報は全く同一の発信者番号であるので被認証者に対して発信者番号を再度要求することはあり得ないから,引用文献1に基づいて,相違点5に係る本願発明の構成を採用することは当業者が通常行うこととした審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,引用文献1には,券発行装置は,発券要求情報が適正または有効でないときには,券情報の検索動作及びユーザーコード情報の作成動作を行わないことが明記されており(段落【0018】,【0054】),「発券要求情報」に「ユーザー識別情報」が含まれることから,引用文献1には「ユーザー識別情報」が含まれる「発券要求情報が適正または有効でないときには,券情報の検索動作及びユーザーコード情報の作成動作を行わないこと」が開示されているといえる。
また,「ユーザー識別情報」によってユーザーを管理しているシステムにおいて,ユーザー識別ができなかった場合(すなわち,ユーザーのユーザー識別情報が前記ユーザー情報記憶部に記録されていなかったとき等)に,一旦処理を終了することは普通に行われていることにすぎず,特別なことではない。
したがって,引用発明において,券発行装置が,発信者番号を含むユーザー情報がユーザー情報記憶部に記憶されていなかったときには,券情報の検索動作及びユーザーコード情報の作成動作を行わないで,処理を終了すること,その際に,ユーザーに,券情報の検索動作及びユーザーコード情報の作成動作を行わない理由がわかるようにメッセージ(すなわち,発信者番号を含むユーザー情報がユーザー情報記憶部に記憶されていない旨のメッセージ)を送信することは,当業者であれば,当然の如く想到する事項であるとした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
当裁判所は,原告主張の取消事由にはいずれも理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 取消事由1(相違点の看過)について原告は,審決の一致点の認定について,@引用発明と本願発明が個人認証をなす 19 点で一致するとした誤りがあり,相違点を看過している,A引用発明においては,発券要求情報にユーザー識別情報は含まれないにもかかわらず,バーコード要求信号が「被認証者の個人特定情報を含む」との構成を本願発明との一致点とした誤りがあり,相違点を看過している,B引用発明は,「前記被認証者の個人特定情報を含む顧客情報が前記顧客データベースに記録されていたときには,前記被認証者の個人特定情報を含む顧客情報が前記顧客データベースに記録されていることを条件として,・・・認証を受けることができる前記認証要求者の選択肢を前記被認証者の要求発信装置に送」るとの構成を有しないにもかかわらず,これを本願発明との一致点とした誤りがあり,相違点を看過している旨主張する。そこで,以下,検討する。
(1) 認定事実 ア 本願明細書(甲7,甲8)には次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲の請求項1の記載は,上記第2の2のとおりである。
(イ) 発明の詳細な説明には,次の記載がある。
【技術分野】【0001】本発明は認証方法に関し,より詳細には,バーコード等を利用した認証方法等に関する。
【背景技術】【0002】個人の身元確認等の認証は,印鑑,付与されたパスワード,カードに設けられたエンボスまたは磁気テープ等を照合することによって行われていた。
発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0003】これに対し,本発明は,従来とは全く異なった方式で個人の身元確認等の認証を行うことができる認証方法等を提供することを目的とする。
【0019】まず,この認証装置100による認証用のバーコードの付与を求める顧客が,認証装置100に対して通信回線を介してバーコード要求信号を発する。
この実施形態では,顧客が携帯電話200から認証装置100に対して,電話をかけることにより,バーコード要求信号が,認証装置100に伝送されるように構成 20 されている。顧客の携帯電話200のバーコード要求手段(発信装置)202からのバーコード要求信号には,当該携帯電話200の発信者番号(携帯電話番号)を示す信号が含まれているので,認証装置100に設けられたバーコード付与手段110のバーコード生成手段114が,顧客からのバーコード要求信号を受信することにより,発信者番号を受信することになる(S1)。
【0020】次に,認証装置100では,バーコード生成手段114が,受信した顧客の発信者番号が顧客データベース112内に存在しているか否かを判定する(S2)ことによって,バーコードの付与を求める顧客が会員登録済みの顧客であるか否かをチェックする。受信した顧客の発信者番号が顧客データベース112内に存在していない場合には,登録済み顧客ではないので,作動を終了する。このとき,登録済みでは無い旨の,または,登録を促すメッセージを顧客側に返送するように構成してもよい。
【0021】受信した顧客の発信者番号が顧客データベース112内に存在していた場合には,バーコード生成手段114が,当該顧客の特定の店舗300用のバーコード信号を生成し,バーコード伝送手段116に出力する(S3)。バーコード伝送手段116は,バーコード信号を,通信回線を介して,顧客の携帯電話200の受信装置(バーコード受信手段)204に伝送するとともに,バーコード判定手段120のバーコードデータベース122にも送る(S4)。このとき,バーコードデータベース122には,バーコード信号と共に,当該バーコードを発行された顧客の発信者番号(携帯電話番号)も伝送され,両者が組み合わせとして記録される(S4)。
【0022】この実施形態の認証システムでは,携帯電話200は,伝送されたバーコード信号を記憶し,これに対応したバーコード400を,その場であるいはその後の呼び出しに応じて,表示部206に表示できるように構成されているので,携帯電話200の所有者である顧客は,この認証システムの加盟者(店舗300等)で買い物等を行う際,受信した(付与された)バーコード400を携帯電話の 21 表示部206に表示させ,このバーコード400と自らが所有する携帯電話200の番号(発信者番号)とを組み合わせて,身元を確認させる手段(ID)として使用することになる。
【0024】この認証装置100による認証を求める顧客は,この認証システムの加入店300で買い物をする際,上述のようにして予め取得したバーコード400を,自らの携帯電話200の表示部206に表示させ(図3),店舗300側のバーコード読取装置302に読取らせてバーコード確認手段304に入力させる。さらに,顧客は,当該携帯電話200の番号(発信者番号)を,バーコード確認手段304に,例えば,これに接続されたキーボードなど(図示せず)を介して,入力する。このようにして店舗300側で入力されたバーコード400に対応するバーコード信号と発信者番号との組み合わせが,認証装置100に送られ,顧客の身元確認,即ち,認証に使用される。
【0025】認証装置100のバーコード照合手段124は,店舗300のバーコード読取り装置302で読みとられ,バーコード確認手段304から送られてきたバーコード,詳細には,バーコード信号と発信者番号との組み合わせを受信する(S10)。このときもバーコード信号は,例えば,GIF形式,JPEG形式に圧縮した画像フォーマットとして伝送されるのが好ましいが,他の方法で伝送されてもよい。
【0026】バーコード照合手段124は,バーコードデータベース122に記憶されているバーコード信号とこのバーコードが付与された顧客の発信者番号(携帯電話番号)と組み合わせを検索して,店舗300から送られてきたバーコード信号と携帯電話番号との組み合わせが,バーコードデータベース122に存在しているか否かを判定する(S12)。存在していない場合には,正当な使用ではないと判断し,当該顧客は認証されていない旨の信号を確認手段304に送信する(S14)。又,存在している場合には,正当な使用である判断し,当該顧客が認証されている旨の認証信号をバーコード確認手段304に送信することによって,当該顧 22 客の認証を行う(S16)。
イ 引用文献1(甲1)には次の記載がある。
【特許請求の範囲】【請求項1】ユーザーの発券要求情報を入力するユーザー装置と,前記ユーザー装置と通信手段を介して接続され,前記ユーザー装置からの前記発券要求情報に応じた券情報を検索し,この検索された券情報及び前記券情報に対応するユーザーコード情報を共に出力するデータ処理手段と,前記ユーザー装置からの前記発券要求情報を受信し,前記データ処理手段からの前記券情報及び前記ユーザーコード情報を前記ユーザー装置に送信するデータ送受信手段とを有する券発行装置と,前記券情報及び前記ユーザーコード情報を入力する情報入力手段と,前記情報入力手段からの前記券情報を認識して処理するデータ処理手段とを有する券使用装置と,を備えて成り,前記ユーザー装置は,前記券発行装置からの前記券情報及び前記ユーザーコード情報の少なくとも一方を記録する記録媒体を含み,前記券使用装置は,前記情報入力手段で,前記記録媒体に記録されたユーザーコード情報を読み込み,前記データ処理手段で,前記情報入力手段からのユーザーコード情報と前記券発行装置の前記データ処理手段からのユーザーコード情報との照合結果に基づいて,前記記録媒体に記録された券情報が有効であるか否かを決定することを特徴とする発券システム。
【請求項3】 請求項1,2のいずれかにおいて,前記券発行装置の前記データ処理手段は,前記発券要求情報が有効であるか否かを判別し,前記発券要求情報が有効であると判別するならば,前記券情報を検索することを特徴とする発券システム。
【請求項4】 請求項3において,前記記録媒体は,紙及び携帯型記録媒体のうちの少なくともいずれか一方であることを特徴とする発券システム。
発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,ユーザーが券を発注して購入する発券システム,券発行装置及び券使用装置に関する。
【0005】【発明が解決しようとする課題】このように,券の購入者は,電話で発券の予約をしても,実際に有効な券を入手するためには,その予約をした場所ま 23 で行かなければならないので,手間や時間を費やす。
【0006】また,旅行代理店やコンビニエンスストアのような発券場所では,発券するための人員が必要である。
【0007】即ち,ユーザーが券を購入するための発券システムは,非常に煩雑なものとなっている。
【0008】本発明は,このような課題を鑑みてなされたものであり,その目的は,券の購入者が発券場所まで行かなくても簡易に券を購入することができ,発券場所では,人員を合理化することができる発券システム,券発行装置及び券使用装置を提供することにある。
【0019】また,請求項4の発明は,請求項3において,前記記録媒体は,紙及び携帯型記録媒体のうちの少なくともいずれか一方であることを特徴とする。
【0021】尚,前記携帯型記録媒体としては,フロッピーディスク,100MB以上の大容量磁気ディスク等のような磁気記録媒体,メモリカード,ICカード,切手サイズメモリカード,PCカード等のカード型記録媒体,光磁気,相変化等を利用した光記録媒体,手のひらサイズ等の超小型PC等の小型電子機器等を用いることが可能である。
【0042】ここで,ユーザー情報には,ユーザーの名前,住所,券の代金の支払いに利用する銀行の口座番号やクレジットカード番号等が含まれる。
【0043】また,課金用識別情報は,券の代金の支払いに利用する銀行の口座番号やクレジットカード番号であることが好ましい。
【0044】尚,ユーザー情報記憶手段に記憶するユーザー情報は,ユーザー装置から券発行装置に予め送信して記憶しておき,ユーザーはいわゆる会員として登録されるようにしてもよい。
【0078】前記発券システムで用いる通信回線は,有線であって,電話線を使用することが一般的であるが,ISDN回線やCATV(Cable Television)のケーブル,または光ファイバケーブルを用いることも可能である。ま 24 た,通信回線は,無線であってもよく,PHS(簡易型携帯電話)や携帯電話,または人工衛星の双方向を利用した通信システムを利用することが考えられる。
【0096】券情報検索部204には,発行するための複数種類の券情報を記憶する券情報記憶部205が接続され,また,ユーザーコード情報作成部206には,複数のユーザーのユーザー情報を記憶するユーザー情報記憶部207が接続される。
ユーザー情報は,ユーザーの名前,住所,券の代金の支払いに利用する銀行の口座番号やクレジットカード番号等を含む情報である。
【0097】また,データ処理部11は,情報判別部200により,モデム12で受信した情報が発券要求情報であると判別されたときに,前記発券要求情報が有効であるか否かを判別する発券要求情報判別部201をさらに有し,発券要求情報判別部201により発券要求情報は有効であると判別されたときに,券情報検索部204により発券要求情報に応じた券情報の検索を開始する。
【0098】さらに,発券要求情報判別部201により発券要求情報は有効であると判別されたときには,モデム12により受信して情報判別部200により判別された第1の課金用識別情報と,予め記憶する第2の課金用識別情報とを比較する課金用識別情報比較部202と,課金用識別情報比較部202からの比較結果が有効であるならば,前記ユーザー情報及び課金するユーザーを特定する課金用識別情報のうちの少なくともいずれか一方に応じた金額を課金する課金部208とを有している。
【0099】情報判別部200には,モデム12,13により受信された情報が入力され,この入力情報が何の情報であるのかを判別する。入力情報が発券要求情報であると判別されたときには,この発券要求情報は,発券要求情報判別部201,券情報検索部204及び課金部208に送られる。また,入力情報がユーザー識別情報であると判別されたときには,このユーザー識別情報はユーザーコード情報作成部206に送られる。また,入力情報が課金用識別情報であると判別されたときには,この課金用識別情報は,課金用識別情報比較部202及び課金部208に送 25 られる。
【0100】発券要求情報判別部201は,送られた発券要求情報が有効であるか否か,具体的には,発券要求情報により要求される券情報の検索を行うことが可能であるか否かを判別する。そして,発券要求情報判別部201は,判別結果を,課金用識別情報比較部202,券情報検索部204及びユーザーコード情報作成部206に送る。
【0101】課金用識別情報比較部202には,複数のユーザーの課金用識別情報を記憶する課金用識別情報記憶部203が接続される。この課金用識別情報記憶部203には,複数のユーザーの課金用識別情報が記憶されている。例えば,課金用識別情報比較部202に入力される課金用識別情報を第1の課金用識別情報とし,課金用識別情報記憶部203に記憶している課金用識別情報を第2の課金用識別情報とした場合に,課金用識別情報比較部202は,発券要求情報が有効であることを示す判別結果が入力されたときに,第1の課金用識別情報と第2の課金用識別情報とを比較し,この比較結果を券情報検索部204及び課金部208に送る。
【0102】券情報検索部204は,発券要求情報判別部201から送られた判別結果が発券可能であることを示すときには,発券要求情報の内容に基づいて,券情報記憶部205に記憶される券情報から適合する券情報を検索し,出力する尚,券情報検索部204は,課金用識別情報比較部202からの比較結果を用いて券情報の検索を開始するようにしてもよい。この場合には,券情報検索部204は,課金用識別情報比較部202から送られた比較結果が課金可能であることを示すときに,発券要求情報の内容に基づいて,券情報記憶部205に記憶される券情報から適合する券情報を検索する。
【0103】また,ユーザーコード情報作成部206には,情報判別部200において判別されたユーザー識別情報が送られている。ユーザーコード情報作成部206は,発券要求情報判別部201から送られた判別結果が発券可能であることを示すときには,ユーザー情報記憶部207に記憶されるユーザー情報から,送信され 26 るユーザー識別情報に対応するユーザー情報を読み出し,このユーザー情報を用いてユーザーコード情報を作成する。
【0104】課金部208は,課金用識別情報比較部202から送られた比較結果が課金可能であることを示すときに,発券要求情報に基づく券の代金を,課金用識別情報を用いて課金する。具体的には,後述するように,課金用識別情報に含まれる銀行口座番号やクレジットカード番号等に基づく銀行等に対して券の代金の支払いを要求する。また,課金処理を行うときには,課金用識別情報の代わりに,ユーザー情報記憶部207に記憶されるユーザー情報を用いて,課金を行ってもよい。
具体的には,ユーザー情報記憶部207に記憶される複数のユーザー情報から,発券要求情報に含まれるユーザー識別情報に対応するユーザー情報を読み出し,このユーザー情報に含まれる銀行口座番号やクレジットカード番号に基づいて,課金を行う。
【0127】・・・ユーザー装置2としてPCを用いた場合の発券処理手順のフローチャートを示す。
【0133】券発行装置1では,・・・ユーザー装置2から送信された発券要求情報が,券情報を検索するために十分な情報であるか否かを判別する。これにより,検索に十分な情報であると判別されるならば,発券要求情報のうちの条件提示情報に基づいて適応するホテルの券情報の検索を行う。そして,この券情報の検索結果をユーザー装置2に送信する。
【0157】図7に,上述した発券処理手順により印刷された券の一例として,ホテルの宿泊券を示す。
【0158】宿泊券5には,宿泊券であることを示す券の種類情報51,ホテル名・ホテルの所在地等の情報52,ホテルの利用者,即ちユーザーの名前情報53,宿泊日等のホテルの利用条件情報54,ホテルの外観,宣伝,及び地図等のホテル案内情報57,この宿泊券の利用に際の注意事項情報58,この宿泊券5が有効な宿泊券であることを示すための発券番号であるコード情報55が表示される。
27 【0159】このコード情報55は,既に発行済みの券に表示されるコード情報を用いて生成されるものであって,どのように発生しているのかを検出することができないコード情報であり,また,第三者がでたらめにコード情報を発生しても,有効なコード情報との見分けが付くようなコード情報である。このコード情報を発生する方法の一つとしては,例えば,発行する予定の券の数よりもはるかに大きい数,例えば30桁以上の数のうちから,でたらめな数を選択する方法がある。これにより,どのような数字列を選択したのかは,券発行装置のみしか知らず,また,第三者が前記選択された数字列を直感で当てることができる確率も小さくなるので,第三者が券を偽造することが困難になる。さらに,このように発生された数字列は,コード情報55に示すようにバーコードとして表示することにより,この後のコード情報の読み取り動作等の処理を行い易くなる。
【0160】また,コード情報55としては,乱数によって発生される数字列及び文字列のうちの少なくともいずれか一方を用いたり,前記バーコード情報の代わりに画像データを用いたりすることが可能である。この画像データとしては,例えば2次元バーコードを用いることにより実現性が高くなる。
【0161】また,ユーザーの名前情報53は,券の使用に際しての安全性を高めるために表示することが望ましい。具体的には,この宿泊券5を使用する際には,この宿泊券5を持参したユーザーに身分証明書等を提示してもらい,ユーザーの名前情報53と身分証明書の名前とを比較して,この宿泊券5の正規の使用者であるか否かを確認することにより,券の不正使用を防止することができる。
【0162】さらに,宿泊券5には,暗号情報56が表示されている。この暗号情報56は,宿泊券5の使用の際の安全性をさらに高める必要がある場合に使用する。
この暗号情報56は,ユーザーが券を予約するときに送信された,そのユーザーのパスワード情報を暗号化し,コード化した情報である。また,このパスワード情報は,券の予約時に,ユーザーから券発行装置1に予め送信し,券発行装置1で暗号化し,コード化するようにしてもよい。
28 【0163】さらに,ユーザーと券発行装置1との間でパスワード情報を認知し合わないようにすることも可能である。このときには,暗号化の鍵を券発行装置1からユーザー装置2に送信し,また,復号化の鍵を券発行装置1から券使用装置3に送信する。この後,ユーザー装置2は,送信されている暗号化の鍵を用いてパスワード情報を暗号化し,ユーザーコード情報と共に紙に印刷又は携帯型記録媒体に記録する。また,券使用装置3は,送信されている復号化の鍵を用いて,紙に印刷又は携帯型記録媒体に記録された,暗号化されたパスワード情報を復号化し,ユーザーが記憶するパスワード情報と照合する。これにより,券発行装置1とユーザー装置2との間では,パスワード情報を相互に知ることなく,暗号化及び復号化を行うことが可能となる。
【0172】尚,ユーザーは,例えば会員として登録し,券発行装置1に対してクレジットカード番号を知らせておくことにより,発券要求情報を送信する度に,券発行装置1に対してクレジットカード番号を送信することなく,券の予約をすることができる。
【0173】このとき,券発行装置1のデータ処理手段11には,ユーザー情報を記憶するユーザー情報記憶手段を含み,このユーザー情報記憶手段には,ユーザー装置2から,ユーザーの名前,住所,券の代金の支払いに利用する銀行の口座番号やクレジットカード番号等を含むユーザー情報が予め送信されて記憶されている。
そして,ステップS34で,前記発券要求情報が有効であるならば,前記条件提示情報に基づいて,適応するホテルの検索を行い,検索された前記券情報及び前記ユーザーコード情報を出力する。
(2) 判断 ア 上記@の主張について 上記(1) ア認定の事実によれば,本願発明は,バーコード等を利用した認証方法等に関するものであり,従来とは全く異なった方式で個人の身元確認等の認証を行うことができる認証方法等を提供することを目的とし,認証用のバーコードの付与 29 を求める顧客が,認証装置に対して顧客の携帯電話から通信回線を介してバーコード要求信号を発すると,認証装置が発信者番号を受信し,認証装置で,受信した顧客の発信者番号が顧客データベースに記録されているか否かを判定し,受信した顧客の発信者番号が顧客データベース内に存在していた場合には,バーコード信号を,通信回線を介して,顧客の携帯電話に伝送するというものである。すなわち,本願発明は,被認証者(顧客)の携帯電話のバーコード要求信号に含まれる発信者番号と認証装置の顧客データベースに記録されている発信者番号との同一性の有無を確認することによるものであって,当該携帯電話を所持し,提示した者が,被認証者自身であるか否かを照合の対象とするものとはいえない。一般に,携帯電話は,顧客本人のものを使用する可能性が高いため,被認証者の携帯電話のバーコード要求信号に含まれる発信者番号と認証装置の顧客データベースに記録されている発信者番号とが一致すれば,当該携帯電話を所持し,提示した者が顧客データベースに記録されている者である可能性が高いとはいえるが,他人に貸与することが全くあり得ないとまではいえないから(原告も,他人に貸与することが全くあり得ないことは前提としていない。),本願発明における個人認証は,生体認証のような高い正確性を前提とするものではないと解される。
一方,上記(1) イ認定の事実によれば,引用文献1には,記録媒体は,紙及び携帯型記録媒体のうちの少なくともいずれか一方であり,携帯型記録媒体としては,フロッピーディスク,100MB以上の大容量磁気ディスク等のような磁気記録媒体,メモリーカード,ICカード,切手サイズメモリーカード,PCカード等のカード型記録媒体,光磁気,相変化等を記録した光記録媒体,手のひらサイズ等の超小型PC等の小型電子機器等を用いることが可能であること(【0019】,【0021】)が記載され,上記の「記録媒体」とは,通常ユーザー装置に含まれるものであって,必ずしもユーザー装置そのものではないが(【請求項1】,【請求項4】),これを認証のための技術的手段を搭載する媒体としてみるときには,上記の携帯型記録媒体は,本願発明の携帯電話と同様の技術的意義を有するものという 30 ことができる。また,携帯電話通信回線を使用する場合のユーザー装置は必然的に携帯電話になると考えられるから,ここでは,ユーザー装置として携帯電話を使用することが開示されていると認められる(【0078】)。さらに,上記の携帯型記録媒体には,「手のひらサイズ等の超小型PC」のように,携帯電話と同様に一身専属性の高いものが含まれるといえる。加えて,引用文献1には,記録媒体が宿泊券という紙の形式で利用される場合が示され,この場合にも,乱数によって発生される数字列及び文字列の少なくともいずれか一方を用いたコード情報により第三者による券の偽造を困難にする方法(【0159】,【0160】),券に暗号情報を表示する方法(【0162】),券発行装置から送信された暗号鍵で暗号化されたパスワード情報を紙に印刷する方法(【0163】)が示される。そうすると,引用文献1には,券の発行を受けたユーザーとの同一性の確認,すなわち個人認証の方法が記載されているから,引用発明においても,一身専属性の高い携帯型記録媒体を用い,上記のような個人認証の方法を行う場合,券の発行を受けた者が券を利用できる者「顧客」である可能性が高いとはいえるが,認証の正確性は,生体認証ほどではないと理解される。
したがって,引用発明が,「前記券使用装置は,前記券発行装置から受信した前記照合結果に基づいて,前記ユーザーコード情報が記録されたユーザー装置の記録媒体を持参したユーザーがその記録媒体に記録された券情報の真の利用者であるか否かを判別し,・・・前記ユーザーは,当該券を利用できる『顧客』であり,かつ当該券の利用に当たって,その真の利用者であると認証されるものであり,」との構成を備えるとした,審決の認定に誤りがあるとはいえず,個人認証を行う点について,本願発明と引用発明との相違点の看過があるとは認められない。
これに対し,原告は,引用文献1の段落【0161】に,券を持参したユーザーに身分証明書等を提示してもらい,ユーザーの名前情報と身分証明書の名前とを比較して,券の正規の使用者であるか否かを確認する旨の記載があることから,引用発明では,個人認証はできない旨主張する。しかし,同段落は,引用発明の1つの 31 実施形態を示すものにすぎず,上記のように,引用文献1の他の記載を参照すれば,引用発明においても個人認証を行い得ることが認められるから,原告の主張は理由がない。
イ 上記Aの主張について 上記(1) イ認定の事実によれば,引用文献1には,ユーザーコード情報作成部206には,情報判別部200において判別されたユーザー識別情報が送られ,発券要求情報判別部201から送られた判別結果が発券可能であることを示すときには,ユーザー情報記憶部207に記憶されるユーザー情報から,送信されるユーザー識別情報に対応するユーザー情報を読み出し,このユーザー情報を用いてユーザーコード情報を作成すること(【0103】),課金処理を行うときには,課金用識別情報の代わりに,ユーザー情報記憶部207に記憶されるユーザー情報を用いて,課金を行ってもよく,具体的には,ユーザー情報記憶部207に記憶される複数のユーザー情報から,発券要求情報に含まれるユーザー識別情報に対応するユーザー情報を読み出し,このユーザー情報に含まれる銀行口座番号やクレジットカード番号に基づいて,課金を行うこと(【0104】)が記載されており,また,ユーザーは,例えば会員として登録し,券発行装置1に対してクレジットカード番号を知らせておくことにより,発券要求情報を送信する度に,券発行装置1に対してクレジットカード番号を送信することなく,券の予約をすることができること(【0172】),券発行装置1のデータ処理手段11には,ユーザー情報を記憶するユーザー情報記憶手段を含み,このユーザー情報記憶手段には,ユーザー装置2から,ユーザーの名前,住所,券の代金の支払いに利用する銀行の口座番号やクレジットカード番号等を含むユーザー情報が予め送信されて記憶されていること(【0173】)も記載されている。これらの記載を総合すると,引用文献1において,発券要求情報がユーザー識別情報を含むことが示されているといえる。
したがって,引用発明において,バーコード要求信号は「被認証者の個人特定情報を含む」といえるから,「被認証者の個人特定情報を含むバーコード要求信号」 32 との点を,本願発明と引用発明との一致点とした審決の認定に誤りはない。
これに対し,原告は,引用文献1の請求項1,段落【0099】,【0100】,【0128】,【0168】の記載から,発券要求情報にユーザー識別情報が含まれることはあり得ない旨主張する。たしかに,段落【0099】には,発券要求情報とユーザー識別情報は別であるかのような記載もあるが,これは引用発明の実施態様の1つにすぎず,上記のように,引用文献1には,発券要求情報にユーザー識別情報を含む実施態様も示されているといえるから,原告の主張は理由がない。
ウ 上記Bの主張について 上記(1) イ認定の事実によれば,引用文献1には「ユーザー情報記憶部に,予め会員として登録されたユーザーの名前,住所,会員番号,クレジットカード番号等を含むユーザー情報が記憶され」た実施態様が記載され(【0044】,【0172】,【0173】),この実施態様において,受信した発券要求情報に含まれるユーザー識別情報に基づいて,会員であるユーザーのユーザー情報が登録されているユーザー情報記憶部を検索し,発券要求をしたユーザーが会員であるか否かを確認することは,当然に行われると認められる。
また,ユーザー情報記憶部には,会員であるユーザーのユーザー情報として,課金を行うための情報(【0104】)である銀行口座番号やクレジットカード番号が記憶されているから,上記実施態様において,ユーザー情報記憶部の検索で発券要求をしたユーザーが会員であると判別されることにより,このユーザーが課金可能と判別されることも明らかである。
さらに,引用文献1には,券情報検索部204は,課金用識別情報比較部202から送られた比較結果が課金可能であることを示すときに,発券要求情報の内容に基づいて,券情報記憶部205に記憶される券情報から適合する券情報を検索すること(【0102】),ユーザー装置としてPCを用いる場合,ユーザー装置から送信された発券要求情報が,券情報を検索するために十分な情報であるか否かを判別されるならば,発券要求情報のうちの条件提示情報に基づいて適応する券情報の 33 検索を行い,検索結果をユーザー装置2に送信すること(【0127】,【0133】)が記載されているから,券情報検索部は,課金可能と判別されたときに,券情報の検索を開始し,この券情報の検索結果はユーザー装置に送信されることが示されているといえる。
そうすると,引用文献1の記載から,引用発明は,「券発行装置が,受信した発券要求情報に含まれるユーザー識別情報に基づいて,会員であるユーザーのユーザー情報が登録されている登録ユーザー情報記憶部を検索し,当該ユーザー識別情報を含むユーザー情報が前記ユーザー情報記憶部に記憶されていたときには,前記発券要求情報のうちの条件提示情報に基づいて適応する券使用場所の券情報の検索を行い,この券情報の検索結果を前記ユーザー装置に送信」するとの構成を備えるとした審決の認定に誤りがあるとはいえず,本願発明と引用発明との相違点の看過があるとは認められない。
これに対し,原告は,引用文献1の段落【0100】の記載から,引用発明においては,ユーザー識別情報を含むユーザー情報がユーザー情報記憶部に記憶されていたからといって,検索等が当然になされるわけではない旨主張する。しかし,同段落にも券情報の検索等が行われないとの記載はない上,上記のように,段落【0102】の記載からすれば,引用発明においては,ユーザー識別情報を含むユーザー情報がユーザー情報記憶部に記憶されていたときには,発券要求情報のうちの条件提示情報に基づいて適応する券使用場所の券情報の検索を行うものと認めるのが相当である。原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点1及び相違点2に関する判断の誤り)について原告は,本願発明は「携帯電話」を構成要素とすることにより,画期的なものとなったから,本願発明に係る相違点1及び2の構成は格別のものではないとした審決の判断には誤りがある旨主張する。
しかし,上記1(2) アのとおり,引用文献1の段落【0078】記載の携帯型記録媒体は,これを認証のための技術的手段を搭載する媒体としてみるときには,本 34 願発明の携帯電話と同様の技術的意義を有するといえるから,引用文献1には,ユーザー装置として携帯電話を使用することが示されていると認められる。そうすると,相違点1に係る本願発明の構成が「携帯電話」であっても,個人認証を行うとの点について,格別のものということはできない。
また,引用文献2には,「携帯電話の購入者に個人を識別するためのバーコードを与え,来店時に携帯電話の画面にバーコードを呼び出してもらう。それを店員がバーコードリーダーで読めば,現金やカードを使わずに決済ができる仕組みだ。」との記載があり(甲2),携帯電話を使った取引において,バーコードリーダーにバーコードを提示するための手段として携帯電話を用いることが記載されているといえる。そうすると,相違点2に関し,「個人認証用バーコードの提示」が「携帯電話に表示」される本願発明の構成が格別なものということはできない。
したがって,相違点1及び2に関する上記審決の判断に誤りがあるということはできない。
これに対し,原告は,携帯電話の一身専属性,常時携帯性を強調し,これを個人認証に利用できることを理由として,相違点1及び2に係る本願発明の構成が「携帯電話」を有することは画期的である旨主張する。しかし,上記1(2) アのとおり,携帯電話を他人に貸与することが全くあり得ないまではいえないから,その一身専属性,常時携帯性は絶対的なものではなく,携帯電話を個人認証に使用する場合の正確性には,引用発明において携帯型記録媒体を使用する場合と同様,限界があるといわざるを得ない。原告の主張は採用できない。
3 取消事由3(相違点3及び相違点4に関する判断の誤り)について 原告は,@引用発明の券発行装置において,特定の目的で送信される「ユーザー識別情報」を,「発信者番号」に置き換えることは,当業者が当然に行うものではなく,相違点3に係る本願発明の構成は格別のものである,A相違点4に係る本願発明の構成(発信者番号を含む顧客データが前記顧客データベースに記録されていること「のみ」)は「バーコードを生成する」ための条件であり,これに対応する 35 引用発明の構成は券情報及びユーザーコード情報をコード化する構成であるが,上記コード化の条件について,引用発明は本願発明とは構成が異なるから,相違点4に係る本願発明の構成は格別のものであると主張する。
しかし,以下のとおり採用できない。
(1) 認定事実 ア 参考文献1(甲3)には次の記載がある。
【請求項5】顧客から取引の請求があった場合に,暗証番号を決めて当該顧客に通知するとともに,この暗証番号と当該顧客の所有する携帯用無線端末の呼出し番号を記録するステップと,顧客が持参してくる携帯用無線端末の呼出し番号を入力し,記録しておいた呼出し番号と一致するか否かを確認するステップと,前記呼出し番号の一致が確認された場合,顧客が持参してきた携帯用無線端末の認証を行うため,当該呼出し番号に基づきキーワードを対応する携帯用無線端末に送信し,顧客が持参してきた携帯用無線端末が当該キーワードを受信するか否かを確認するステップと,上記キーワードの一致が確認された場合,顧客の認証を行うため,その顧客から暗証番号を受け入れ,記録しておいた暗証番号と一致するか否かを確認するステップと,上記暗証番号の一致が確認された場合,対応する取引物を出すステップとを有することを特徴とする取引物引渡し方法。
【請求項10】前記携帯用無線端末は携帯電話であることを特徴とする請求項5記載の取引物引渡しシステム。
【0026】・・・携帯電話1aを所有する顧客が取引を行うため,その携帯電話1aより,通信網2を介して業者の所有する情報処理装置3に接続する・・・。
【0027】顧客と業者との取引が行われて取引情報が作成され,情報処理装置3内のメモリ31に登録される・・・。また,情報処理装置3は,顧客の所有する携帯電話1aの電話番号を検出し,この電話番号を上記取引情報とともにメモリ31に登録する・・・・。
【0028】次に,情報処理装置3は暗証番号を決める。そして,情報処理装置3 36 は,その暗証番号を顧客に通知するとともに,上記電話番号とともにメモリ31に登録する・・・。
【0029】次に,顧客は,自己の携帯電話1aを,例えば取引物引渡し装置4aの設置されている所まで持参する・・・。顧客は,取引物引渡し装置4aの指示に従い,携帯電話1aを取り付け,その携帯電話1aに備えられるボタン等を押してその電話番号をディスプレイ上に表示させるか,又は,スピーカから音声として発音させる。これにより,この電話番号はカメラ23又はマイク24を介して入力される・・・。
イ 参考文献2(甲4)には次の記載がある。
【特許請求の範囲】【請求項1】携帯型端末装置からコンピュータネットワークにアクセスし,所定のサーバに対して予約を行い,携帯型端末装置に予約内容が保持されることを特徴とする予約システム。
【請求項2】前記携帯型端末装置は,携帯電話・・・を含むことを特徴とする請求項1記載の予約システム。
【請求項8】予約内容を保持したサーバと,入場口付近に備えられたゲートを制御するコンピュータと携帯型端末装置からなり,前記携帯型端末装置が前記コンピュータに信号を発すると,前記コンピュータはこの携帯型端末装置の利用者の有無を前記サーバに対して問い合わせ,予約がある場合は,前記ゲートを開くことを特徴とする入場システム。
【0019】予約できる場合・・・,ユーザ11は,切符の予約を申し込む・・・。
この時ユーザ11は,ID番号を入力する。ID番号は,携帯電話33の電話番号とすることもできる。・・・【0026】次に,入場処理について説明する。・・・入場装置は無線機能付きコンピュータ25と,ゲート27からなり,搭乗者41(ユーザ11と同一人)が,携帯電話33から,無線機能付きコンピュータ25に信号を発し,予約があれば,ゲート27が開いて,搭乗者41は入場できる。
37 【0027】まず,搭乗者41は,飛行場9の搭乗口で携帯電話33の発信ボタンを押し,ID番号等を,無線機能付きコンピュータ25に送る・・・。無線機能付きコンピュータ25は,専用線35を介して,コンピュータ19に信号を送り,コンピュータ19は,搭乗予約データファイル21で携帯電話33から送信されたID番号を検索する・・・。
【0028】無線機能付きコンピュータ25は,搭乗予約が有れば・・・,ゲート27を開くが・・・,搭乗予約が無ければ,ゲート27を開かない。このように,搭乗者41は,切符を用いずに飛行機に搭乗できる。・・・ ウ 参考文献3(甲5)には次の記載がある。
【0023】本実施形態では,センタ300に接続した通信端末100を特定する情報として加入者番号を用い,認証情報を接続した人物を特定するユーザ認証情報(認証用顧客特定情報)としてユーザIDおよびパスワードを用いる。・・・すなわち,「モバイル情報サービス」においては,通信端末100を特定するための加入者番号とユーザ認証情報として送信された情報が,予め記憶したこれらの情報の組み合わせと一致して初めて接続が許可されるので,第三者がユーザ認証情報であるユーザIDおよびパスワードを不正に入手して,顧客データベースに登録されている通信端末100とは異なる通信端末100’から接続要求を発信しても接続を許可されることはない。あるいは,顧客データベースに登録された通信端末100を不正なユーザが使用した場合であっても,当該不正なユーザは,ユーザ認証情報であるユーザIDおよびパスワードを知らなければ接続を許可されないこととなる。
エ 参考文献4(甲6)には次の記載がある。
【0004】この発明は,・・・端末装置をサーバに接続する際の認証を容易にすることを目的とする。また,この発明は,認証処理に伴う利用者の負担を軽減することを他の目的とする。
【0005】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため,この発明の第1の観点にかかる端末装置は,通信機能を備え,ネットワークを介してサーバに 38 接続するための認証時に,認証用データをサーバに送信する端末装置において,前記端末装置の端末番号と該端末装置の電話番号との少なくとも一方を記憶する記憶手段と,前記認証時に前記記憶手段が記憶する前記端末番号と前記電話番号との少なくとも一方を取得して前記認証用データとして前記サーバに送信する送信手段と,を有することを特徴とする。
【0007】この端末装置は,例えば,・・・携帯電話機,・・・等の,端末に電話番号が設定されるような種々の端末装置として実現できる。
【0035】サーバ2のCPU21は,通信部25を介してデータPHS1-1からユーザ名として送信されてきた電話番号と,パスワードとして送信されてきた端末番号とを受信し・・・,RAM22に格納する。CPU21は,RAM22に格納したユーザ名(電話番号)とパスワード(端末番号)と,データベース24が記憶するユーザ名とパスワードとを照合し,完全に一致するものが存在するか否かを判別し,存在する場合には,データPSH1-1を登録ユーザとして認証し,接続又はサービスの提供を許可する・・・。また,存在しない場合には,接続相手を認証せず,接続又はサービスの提供を拒否する・・・。
(2) 判断 ア 相違点3について 上記2のとおり,引用文献1の段落【0078】記載の携帯型記録媒体は,これを認証のための技術的手段を搭載する媒体としてみるときには,本願発明の携帯電話と同様の技術的意義を有するといえるから,引用文献1には,ユーザー装置として携帯電話を使用することが示されていると認められる。
また,上記(1) 認定の事実によれば,携帯電話を通信手段として用いる場合に,その電話番号を用いて個人の特定や認証を行うことは,本願優先日当時,当該技術分野において公知と認められる(同ア,イ,エ)。そして,少なくとも参考文献1には,顧客が取引を行うため,携帯電話から通信網を介して業者の所有する情報処理装置に接続し,情報処理装置は,その携帯電話の電話番号を検出してメモリに登 39 録し,これを顧客の認証に用いることが記載されている(同ア)。
そうすると,相違点3について,携帯電話を通信手段として用いる場合において,「個人特定情報」を,引用発明の「ユーザー識別情報」から本願発明の「発信者番号」に変更することは,当業者にとって格別のこととはいえない。
イ 相違点4について 上記(1) 認定の事実によれば,参考文献3には,「モバイル情報サービス」においては,通信端末を特定するための加入者番号とユーザ認証情報として送信された情報が,予め記憶したこれらの情報の組み合わせと一致して初めて接続が許可されるので,第三者がユーザ認証情報であるユーザIDおよびパスワードを不正に入手して,顧客データベースに登録されている通信端末100とは異なる通信端末100’から接続要求を発信しても接続を許可されることはなく,顧客データベースに登録された通信端末を不正なユーザが使用した場合であっても,当該不正なユーザは,ユーザ認証情報であるユーザIDおよびパスワードを知らなければ接続を許可されないこととなることが記載され,また,参考文献4には,発明に係る携帯電話機等の端末装置は,通信機能を備え,ネットワークを介してサーバに接続するための認証時に,認証用データをサーバに送信する端末装置において,端末番号と電話番号との少なくとも一方を記憶する記憶手段と,認証時に記憶手段が記憶する端末番号と電話番号との少なくとも一方を取得して認証用データとしてサーバに送信する送信手段とを有し,サーバのCPUは,通信部を介してデータPHS1-1からユーザ名として送信されてきた電話番号と,パスワードとして送信されてきた端末番号とを受信し,RAM22に格納したユーザ名(電話番号)とパスワード(端末番号)と,データベース24が記憶するユーザ名とパスワードとを照合し,完全に一致するものが存在するか否かを判別し,存在する場合には,データPSH1-1を登録ユーザとして認証し,接続又はサービスの提供を許可するが,存在しない場合には,接続相手を認証せず,接続又はサービスの提供を拒否することが記載されている(同ウ,エ)。そうすると,電話番号を含む顧客情報が顧客データベースに 40 記憶されていたことのみを条件として認証し,接続又はサービスを提供し,上記の条件を満たさない場合には接続又はサービスの提供を拒否することも,本願優先日当時,当該技術分野において公知であると認められる。
したがって,相違点4に関し,引用発明の「ユーザー識別情報を含むユーザー情報が前記ユーザー情報記憶部に記憶されていることを条件としてユーザーコード情報を作成する」との構成を,本願発明の「発信者番号を含む顧客データが前記顧客データベースに記録されていること『のみ』を条件として前記被認証者に固有の個人認証表バーコードとして表示バーコードを生成する」との構成に変更することは,当業者にとって格別のこととはいえない。
なお,原告は,引用発明では,「発券要求情報」が有効と判断されることに加え,課金処理がなされることも条件とするから,引用発明と本願発明とは構成が異なる旨主張する。しかし,引用文献1の請求項1ないし12には課金処理に関する構成は示されず,課金手段を含むことが可能であることが示されるにすぎないから,引用発明において,課金処理がなされることがコード化の条件になっているとはいえず,原告の主張は採用できない。
ウ 以上のとおり,相違点3及び4に関する上記審決の判断に誤りがあるということはできない。
4 取消事由4(相違点5に関する判断の誤り)について 原告は,引用文献1において,ユーザーが希望する条件の券が存在しない場合,販売者は再検索を促し,販売者が取引を一方的に終了させることはあり得ないのに対し,本願発明は,発信者番号を再度要求しても送られてくる情報は全く同一の発信者番号であるので被認証者に対して発信者番号を再度要求することはあり得ないから,引用文献1に基づいて,相違点5に係る本願発明の構成を採用することは当業者が通常行うこととした審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,引用文献1の段落【0018】には「ユーザー装置から送信される発券要求情報が適正であるときのみ券情報を検索するので,券発行装置では券発行処理 41 を確実に行うことができる。」,段落【0054】には「券発行装置は,発券要求情報が有効であると判別されたときのみ,券情報の検査動作及びユーザーコード情報の作成動作を行うので,より正確な発券の要求に対して,券情報及びユーザーコード情報を出力することができる。」との記載がある。また,上記3(1) ウ,エ認定のとおり,電話番号を含む顧客情報が顧客データベースに記憶されていたことのみを条件として認証して,接続又はサービスを提供し,上記の条件を満たさない場合には,接続又はサービスの提供を拒否することは,当該技術分野では公知といえる。
したがって,引用文献1の記載及び公知技術から,相違点5に係る本願発明の構成に想到することは,当業者にとって容易というべきであり,上記審決の判断に誤りがあるとはいえない。
これに対し,原告は,引用発明は,簡易に券を購入することができる発券システムを提供するものであって,ユーザーが会員か否かを判別するものではないから,発券要求情報が,券情報を検索するために十分な情報でなかった場合,処理を終了することはあり得ない旨主張する。しかし,上記のとおり,引用文献1においても,発券要求情報(上記1(2) イのとおり,ユーザー識別情報を含むことが示されると認められる。)が適正でないときには券情報の検索を行わないことが記載されているから,引用発明において,発券要求情報が,券情報を検索するために不十分であった場合,処理を終了することはあり得るし,このような場合に,ユーザー情報がユーザー情報記憶部に記憶されていなかった場合を含まないと解する根拠は見いだせないから,原告の上記主張は採用できない。
結論
以上のとおり,原告主張の取消事由にはいずれも理由がないものと判断する。原告は,他にも縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。
よって,主文のとおり判決する。
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裁判長裁判官 田文