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関連審決 不服2011-7942
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事件 平成 24年 (行ケ) 10196号 審決取消請求事件

原告ザ プロクターアンド ギャンブル カンパニー
訴訟代理人弁護士 吉武賢次
同 宮嶋学
同 大野浩之
同 田泰彦
同 柏延之
同代理人弁理士 勝沼宏仁
同 磯貝克臣
被告特許庁長官
指定代理人瀬良聡機
同 栗林敏彦
同 仁木浩
同 芦葉松美
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/01/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が不服2011−7942号事件について平成24年1月23日にした審決を取り消す。
12 訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「孔なし且つむき出しのエラストマー層を含有する使い捨て吸収性物品」とする発明について,平成18年6月29日を国際出願日として特許出願(特願2008-519657。以下「本願」という。)をしたが(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年6月29日,米国),平成22年3月9日付けで拒絶理由通知書が送付され,特許請求の範囲について同年8月12日付けで手続補正書を提出したものの,同年12月9日付け拒絶査定を受けたことから,平成23年4月14日付けで拒絶査定不服審判(不服2011-7942号事件)を請求した。特許庁は,平成24年1月23日,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年2月3日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。(甲5,6。以下,この発明を「本願発明」といい,本願の特許請求の範囲,明細書及び図面を総称して,「本願明細書」ということがある。)「【請求項1】前側腰部領域,後側腰部領域,及び前記前側腰部領域と前記後側腰部領域との間の股領域を有するシャーシを含む使い捨て吸収性物品であって,前記シャーシは2つの対向する長手方向縁部及び2つの垂直に配置された端縁部を有し,前記シャーシはさらに,a.少なくとも前記股領域にまたがる液体透過性トップシート; 2 b.少なくとも前記股領域にまたがるバックシート; c.前記トップシートとバックシートとの間に配置される吸収性コア;及び d.前記シャーシの前記前側腰部又は前記後側腰部領域のどちらかにおいて,前記対向する長手方向縁部の少なくとも1つに沿って配置される伸縮部材であって,孔なし且つむき出しのエラストマー層を含み,前記層は少なくとも0.77のエネルギー回収値を示す伸縮部材,を含み,前記エラストマー層は,単一材料又は材料の混合物の層であり,当該材料は,スチレンイソプレンスチレンブロックコポリマー類,スチレンブタジエンスチレンブロックコポリマー類,スチレンエチレンブチレンスチレンブロックコポリマー類,ポリウレタン,エチレンコポリマー類,及びこれらの組み合わせから成る群から選択され,前記伸縮部材は,前記エラストマー層を得る工程と,当該エラストマー層の1以上の表面への粉末の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施す工程と,当該エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程と,を含む方法によって得られ,前記伸縮部材は,伸縮サイドパネル,レッグカフ,腰紐,ランディング領域,及びこれらの組み合わせから成る群から選択される使い捨て物品構成部分に含まれることを特徴とする使い捨て吸収性物品。」 3 審決の理由 (1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特表2005-508222号公報(以下「引用刊行物1」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び特表平9-504715号公報(以下「引用刊行物2」という。甲2)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により,特許を受けることができないというものである。
(2) 上記判断に際し,審決が認定した引用発明の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 引用発明の内容 3 腰部区域や,カフ区域や,サイドパネルや,腹部,臀部,クロッチ区域に向き,外部カバーを覆う領域に,各エラストマー部材を不織布ウェブを基材として設けた伸縮性複合体を,おむつなどの使い捨て吸収製品の腰部区域,レッグカフ,サイドパネル,耳部分,トップシート,外部カバー,及びファスナーシステム等の一部として使用し,前記エラストマー部材は,スチレン-ブタジエン-スチレン,スチレン-イソプレン-スチレン,スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンなどのスチレンブロックコポリマー,ポリウレタン等及びこれらの組み合わせから成る群から選択されるものであり,前記伸縮性複合体が,エラストマー構成成分を形成する工程とエラストマー構成成分を不織布ウェブからなる基材に結合する工程とが1つの工程の連続したプロセスに組み合わされている方法によって得られた使い捨て吸収製品。
イ 一致点 「前側腰部領域,後側腰部領域,及び前記前側腰部領域と前記後側腰部領域との間の股領域を有するシャーシを含む使い捨て吸収性物品であって,前記シャーシは2つの対向する長手方向縁部及び2つの垂直に配置された端縁部を有し,前記シャーシはさらに, a.少なくとも前記股領域にまたがる液体透過性トップシート; b.少なくとも前記股領域にまたがるバックシート; c.前記トップシートとバックシートとの間に配置される吸収性コア;及び d.前記シャーシの前記前側腰部又は前記後側腰部領域のどちらかにおいて,前記対向する長手方向縁部の少なくとも1つに沿って配置される伸縮部材であって,エラストマー層を含む伸縮部材,を含み,前記エラストマー層は,単一材料又は材料の混合物の層であり,当該材料は,スチレンイソプレンスチレンブロックコポリマー類,スチレンブタジエンスチレンブロックコポリマー類,スチレンエチレンブチレンスチレンブロックコポリマー類,ポリウレタン,及びこれらの組み合わせから成る群から選択され,前記伸縮部材は,前記エラストマー層を得る工程と,当該 4 エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程と,を含む方法によって得られ,前記伸縮部材は,伸縮サイドパネル,レッグカフ,及びこれらの組み合わせから成る群から選択される使い捨て物品構成部分に含まれる使い捨て吸収性物品。」である点。
ウ 相違点 (ア) 相違点a(以下「相違点1」という。) エラストマー層について,本願発明は,「孔なし且つむき出しの」という特定及び「少なくとも0.77のエネルギー回収値を示す」という特定をしているのに対し,引用発明では,そのような特定のない点。
(イ) 相違点b(以下「相違点2」という。) 伸縮部材を得る方法について,本願発明は,当該エラストマー層の1以上の表面への粉末の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施す工程を含む方法によって得られ」という特定をしているのに対して,引用発明では,ブロッキング防止に係る工程に関する特定のない点。
当事者の主張
1 審決の取消事由に係る原告の主張 審決には,以下のとおり,(1) 一致点認定の誤り(取消事由1),(2) 相違点2に関する判断の誤り(取消事由2)があり,これらは結論に影響を及ぼすものである。
(1) 取消事由1(一致点認定の誤り) 審決は,本願発明と引用発明とが「前記伸縮部材は,前記エラストマー層を得る工程と,当該エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程と,を含む方法によって得られ,」の点で一致すると認定した。
しかし,引用発明は,「前記伸縮性複合体が,エラストマー構成部分を形成する工程とエラストマー構成部分を不織布ウェブからなる基材に結合する工程とが1つの工程の連続したプロセスに組み合わされている方法によって得られ」たことを, 5 その構成要件とするものである。すなわち,引用発明において伸縮性複合体が得られる方法は,「エラストマー構成部分を形成する工程」と「エラストマー構成部分を不織布ウェブからなる基材に結合する工程」とをそれぞれ含んでいるのではなく,両工程が連続したプロセスに組み合わされた「1つの工程」を含んでいるものである。さらに具体的には,引用発明は,各種印刷方法により流体又は流体様の状態のエラストマー部材を繊維性ウェブ等に付加する工程,いわば「エラストマー構成部分を形成すると同時に,エラストマー構成部分を不織布ウェブからなる基材に結合する工程」を含んでいるものである。
一方,本願発明の構成要件である「前記伸縮部材は,前記エラストマー層を得る工程と,・・・当該エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程と,を含む方法によって得られ,」とは,「前記エラストマー層を得る工程」と「当該エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程」とが,それぞれ別の時点でなされることを意味するものである。すなわち,引用発明における「エラストマー構成部分を形成すると同時に,エラストマー構成部分を不織布ウェブからなる基材に結合する工程」は,本願発明における「前記エラストマー層を得る工程」にも,「当該エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程」にも該当しない。
したがって,引用発明は,本願発明の構成要件である「前記伸縮部材は,前記エラストマー層を得る工程と,・・・当該エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程と,を含む方法によって得られ,」に該当する構成を有さず,本願発明と引用発明とが「前記伸縮部材は,前記エラストマー層を得る工程と,当該エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程と,を含む方法によって得られ,」の点で一致するとした審決の認定は誤りであり,この誤りは結論に影響する。
(2) 取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)審決は,相違点2について,「多層樹脂フィルムの技術分野において,製造に際 6 して,ブロッキング防止処理として,ブロッキング防止剤を樹脂に混合したり,塗布や,撒布をすることは周知技術であり(特開昭64-64845号公報・・・,特表2003-513159号公報・・・参照),積層工程を含む方法であればブロッキング防止処理は,当業者が必要に応じて適宜行う技術的事項であるのだから,引用発明において,伸縮部材を得る方法についての特定に,エラストマー層表面へのブロッキング防止処置工程を含むとすることは,当業者が容易に想到しうるものといえる」と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア 発明の進歩性を客観的にするためには,出願に係る発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠であり,引用発明に,出願に係る発明が目的としている技術的事項(「解決課題」及び「課題を達成するための手段」)が全く存在しないような場合には,当該引用発明を基礎にして,当該出願に係る発明に至ることはないというべきである。
本願発明の解決課題は,むき出しのエラストマー層を剥離ライナーに被膜すること等で保存し,その後,保存された当該むき出しのエラストマー層を不織布ウェブに積層することでエラストマー層を含む伸縮部材を製造する試みにおいて,むき出しのエラストマー層は加工中に比較的粘着性があり操作が困難であるため,その操作性を高める必要があることである。
一方,引用発明は,複数の工程及び/又は複数の装置を必要とせずに,特定の部分にのみ特定の伸縮性を持たせて配置したエラストマー材を有する費用効率の高い伸縮性複合体を実現する手段として,各種印刷方法により流体又は流体様の状態のエラストマー部材を繊維性ウェブ等に付加するという方法,いわば「エラストマー構成部分を形成すると同時に,エラストマー構成部分を不織布ウェブからなる基材に結合する方法」を提供するものである。すなわち,引用発明においては,むき出しのエラストマー層を一旦保存するという前提が存在しないため,本願発明の解決課題が存在し得ない。このような場合に,引用発明を基礎にして本願発明に至るこ 7 とはないというべきである。
したがって,多層樹脂フィルムの技術分野において製造に際してブロッキング防止処理をすることが周知技術であるか否かにかかわらず,引用発明に,本願発明の解決課題が存在し得ない以上,引用発明を基礎にして本願発明に至ることはなく,これを当業者が容易に想到しうるものとした審決の判断は誤りである。
この点,審決は,多層樹脂フィルムの技術分野において製造に際してブロッキング防止処理をすることが周知技術であるとして,積層工程を含む方法を構成要件とする引用発明に当然適用しうるとするが,特定の技術が「周知である」とすることにより,「主たる引用発明に,特定の技術を適用して,相違点に係る構成に到達することが容易である」との立証命題について,引用発明及び「周知技術」の示す具体的な解決課題及び解決方法を捨象して結論を導くことが当然に許容されるわけではない。
引用発明の示す解決課題及び解決方法は,本願発明と前提が異なり,本願発明の解決課題が存在し得ないものであるから,引用発明を基礎にして本願発明に至ることはない。
イ また,引用刊行物1にも,周知技術を示す文献として審決が引用する甲3及び甲4にも,各種印刷方法により流体又は流体様の状態のエラストマー部材を繊維性ウェブ等に付加することをその構成とする引用発明に,当該エラストマー層へのブロッキング防止処理工程を含ませるべきことを開示又は示唆する記載はなく,審決もこのような開示又は示唆のあることを指摘していない。この点からも,引用発明を基礎にして本願発明に至ることはない。
ウ 以上のとおり,審決の判断は誤りである。
2 被告の反論審決には,以下のとおり,取り消されるべき違法はない。
(1) 取消事由1(一致点認定の誤り)に対し原告は,引用発明は,本願発明の構成要件である「前記伸縮部材は,前記エラス 8 トマー層を得る工程と,・・・当該エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程と,を含む方法によって得られ,」に該当する構成を有さず,本願発明と引用発明とが「前記伸縮部材は,前記エラストマー層を得る工程と,当該エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程と,を含む方法によって得られ,」の点で一致するとした審決の認定は誤りである旨主張する。
しかし,本願発明は,伸縮部材を得る方法を特定している部分には,「エラストマー層を得る工程」,「エラストマー層表面へのブロッキング防止処置を施す工程」「エラストマー層を不織支持ウェブ層に積層する工程」の3工程を含むと特定されているだけであるから,引用発明が「エラストマー構成部分を形成する工程」と「エラストマー構成部分を不織布ウェブからなる基材に結合する工程」を含む以上,二工程を含んでいる点を一致点として認定することに問題はない。
この点,原告は,本願発明は,別時点で行われ,引用発明は,連続した1つの工程で,同時であるとして一致していないとするが,審決は,「エラストマー構成部分を形成する工程」と「エラストマー構成部分を基材に結合する工程」を連続したプロセスの中に含まれる工程として認定したものであり,同時,連続,別時点の明確な定義も本願明細書及び引用刊行物1にないから,審決が,「前記エラストマー層を得る工程」と「前記エラストマー層を不織支持ウェブ層に積層する工程」を含む点を一致点とした点に誤りはない。
また,本願明細書の段落【0013】のブロッキング防止処置には,フィルムのバルクへの充填材粒子の添加によるフィルムの表面トポグラフィーの粗化,粘着性を減少させる化学種の添加等も含まれることが記載されており,「エラストマー層を得る工程」に対して,「エラストマー層表面へのブロッキング防止処置を施す工程」が独立して,後工程として行われなければならないとは,必ずしもいえない。
さらに,本願発明は,「使い捨て吸収性物品」という物の発明であり,物の発明の構成部材である「伸縮部材」の製造方法を,含まれる工程で特定しているのであるから,その特定部分の評価は,各工程の重複部分を検討することで十分である。
9 ブロッキング防止処置自体は,技術的には,ブロッキング現象の発生に応じて選択的に行われる工程であり,最終製品としては必ずしもなくても良いものであり(乙5の【0002】【0003】,乙6の【0003】【0004】),審決において,ブロッキング防止処置工程を取り出して相違点を評価した点に問題はない。
仮に,上記一致点の認定に誤りがあるとしても,審決は,エラストマー層表面へのブロッキング防止処置を施す工程に関する相違点を認定した上で,周知技術から容易想到であると判断しているから,審決の結論には影響しない。
以上のとおり,原告の取消事由1には理由がない。
(2) 取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)に対し 原告は,@引用発明には,本願発明の解決課題(むき出しのエラストマー層を剥離ライナーに被膜すること等で保存し,その後,保存された当該むき出しのエラストマー層を不織布ウェブに積層することでエラストマー層を含む伸縮部材を製造する試みにおいて,むき出しのエラストマー層は加工中に比較的粘着性があり操作が困難であるため,その操作性を高めること)が存在し得ず,引用発明を基礎にして本願発明に至ることはない,A引用刊行物1にも,甲3及び甲4にも,引用発明に,エラストマー層へのブロッキング防止処理工程を含ませるべきことを開示又は示唆する記載はないとして,相違点2に係る本願発明の構成は当業者が容易に想到し得る旨判断した審決は誤りである旨主張する。
しかし,本願の特許請求の範囲には,エラストマー層を一旦保存するという特定事項は存在せず,「エラストマー層を得る工程」,「エラストマー層表面へのブロッキング防止処置を施す工程」,「エラストマー層を不織支持ウェブ層に積層する工程」を伸縮部材を得る方法に含むことしか特定されていないから,ブロッキング防止処理を必要に応じて行うことを周知技術として認定し,相違点2に係る本願発明の構成について,当業者が容易に想到するとした審決に誤りはない。
この点,原告は,引用刊行物1にも,周知技術を示すための文献(甲3,甲4)にも,各種印刷方法により流体又は流体様の状態のエラストマー部材を繊維性ウェ 10 ブ等に付加することをその構成とする引用発明に,当該エラストマー層へのブロッキング防止処理工程を含ませるべきことの開示又は示唆がない旨指摘する。しかし,引用刊行物1の【特許請求の範囲】には,複数の伸縮領域に配置された複数のエラストマー部材を有する伸縮性繊維基材を備えた伸縮性複合体が特定され,それら複数のエラストマー部材の異なる性質,形状,配置を選択した伸縮性複合体という物の発明が特定されており,段落【0001】には,引用発明は,おむつ等に有用な伸縮性複合体に関するものであるとの記載とともに,更に,これら伸縮性複合体の製造方法に関するものである旨記載される。段落【0006】には,製品の要素ごとに「カット・アンド・スリップ」プロセスで製造するとユニットや工程の増加につれて複雑になる旨の記載はあるものの,伸縮性複合体という物の発明は,複数のエラストマー部材の異なる性質,形状,配置を工夫することで,段落【0007】に記載されるように,特定の部分にのみ特定の伸縮性を持たせて配置して費用効率の高いものを実現し,課題を解決しているのであって,段落【0028】の記載からは,「これらの弾性構成成分の製造には」一般的にエラストマー材の切断と基材への結合が用いられるが,引用発明の新しいプロセスが,構成要素の形成及び付加に非常に適している旨記載されているだけであって,前記一般的プロセスも,製造方法としては当然採用可能であるといえる。審決は,引用発明のエラストマー形成方法と,基材への結合の方法を特定して認定してはいないから,引用刊行物1の段落【0033】,【0042】に記載される好適なエラストマー組成物の結合の態様である印刷方式の付加に限定して引用発明を解釈することは不適切である。
また,甲3,甲4以外にも,多層積層樹脂フィルム製造においては,各種ブロッキング防止処理が,種々の分野で周知慣用技術である(乙1の【特許請求の範囲】,段落【0001】,【0002】,【0022】,【0030】,【0031】,【0035】,【0036】,【0083】,【0088】ないし【0093】,乙2の段落【0001】,【0019】ないし【0023】,乙3の段落【0001】,【0005】ないし【0009】,【0020】,乙4の1頁右欄6ないし 11 10行,6頁左下欄3ないし10行,乙5の段落【0002】,【0003】,乙6の段落【0003】ないし【0005】)。加えて,甲4には,吸収性物品の技術分野において,外側エラストマー層にブロッキング防止処理をすることで,加工性の改善や望ましくない層の接着を防止する記載があり(段落【0001】,【0004】,【0041】),乙1には,吸収性物品の技術分野において,不織布等の繊維集合体上のウレタンやスチレン系のエラストマーフィルムに関して,一般的にべたつきが高く,ハンドリング性が悪く,扱いにくいという問題が認識されており,それらの巻物のブロッキングの課題も認識され(【特許請求の範囲】,段落【0001】ないし【0003】),周知のブロッキング防止手段で解決することが記載されている(段落【0022】)。
さらに,乙7には,吸収性物品の技術分野において,外部カバーにエラストマー材料を含ませる方法として,機械的プロセス,印刷プロセス,加熱プロセス,化学処理が羅列して例示されているように(22頁20行ないし23頁7行,訳文として用いた対応する公表公報の17頁43行ないし18頁23行),引用発明のエラストマー層の基材への結合方法は適宜選択可能なものにすぎない。
そうすると,ロールの巻き出し及び保存を前提としたブロッキング防止という点を考慮に入れても,本願発明の課題及び解決手段は周知であり,引用刊行物1に,エラストマー構成成分の形成工程と基材への結合工程とが連続している製造に関して,より適した方法であるとの記載があるとしても,一般的な製造方法としてエラストマー形成工程後に保存して基材に結合する方法も当然認識され,記載されることから,一般的製造方法を用いた場合に,具体的場面での課題も具体的解決手段も周知である各種ブロッキング防止処理を行うことは当業者であれば適宜なし得ることであるといえる。
したがって,相違点2に係る本願発明の構成は当業者が容易に想到し得る旨の審決の判断に誤りはなく,原告の主張には理由がない。
当裁判所の判断
12 当裁判所は,原告主張の取消事由2には理由があり,審決を取り消すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。なお,原告は,相違点1については特段の主張をしていない。また,事案にかんがみ,取消事由2について,まず判断する。
1 取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)について 原告は,相違点2に係る本願発明の構成の容易想到性について,@引用発明には,本願発明の解決課題が存在し得ず,引用発明を基礎にして本願発明に至ることはない,A引用刊行物1にも,周知技術を示す文献として審決が引用する甲3及び甲4にも,引用発明に,エラストマー層へのブロッキング防止処理工程を含ませるべきことを開示又は示唆する記載はないとして,相違点2に係る本願発明の構成は当業者が容易に想到し得る旨判断した審決は誤りである旨主張するので,以下,検討する。
(1) 認定事実 ア 本願明細書(甲5,甲6)には次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲の請求項1の記載は,上記第2の2のとおりである。
(イ) 発明の詳細な説明には次の記載がある。
【0001】本発明は,・・・対向する長手方向縁部の少なくとも1つに沿って配置される伸縮部材であって,孔なし且つむき出しのエラストマー層を含み,前記層は少なくとも約0.77のエネルギー回収値を示す伸縮部材,を含む使い捨て吸収性物品に関する。
【0003】従来の使い捨て吸収性物品は,ストランド伸縮素材及びエラストマーフィルムを含み,物品の様々な領域において嵌合機能を提供してきた。・・・特に,エラストマーフィルムを伸縮部材として典型的に採用する場合,フィルムは,対向する側面又は表面上の実質的に非伸縮性の表面薄層により守られるエラストマーコア層を含む。これらの非伸縮性表面薄層は,延伸される際,フィルム全体の摩擦及びブロッキングの削減を可能とする。このブロッキングの削減は,フィルムの加工 13 能力を向上させ,並びに,着用者の皮膚がフィルムを含む物品の領域に接した際に望ましい向上した柔軟性をフィルムの手触りに提供するのを助ける。しかしながら,この試みは表面薄層を形成するのに付加的なポリマーを必要とし,それによって製造においてさらなるコストを生じさせる。
【発明が解決しようとする課題】【0004】伸縮積層体の製造を可能とするその他の試みには,単層エラストマーフィルムを備える剥離ライナーの使用が含まれる。
・・・1つ以上の非伸縮性表面薄層が存在しない場合,予想通り,エラストマーフィルムは,加工中に比較的粘着性があり,操作が困難である。ストック材料ロールに加工されるのを促進するために,剥離ライナーはエラストマー層の少なくとも1面を被覆するように加えられるべきである。剥離ライナーは,限定はしないがシリコーン紙を含む多くの材料から作製されることが可能である。フィルム材をさらに加工する際に,大抵の場合,剥離ライナーはエラストマーフィルムから分離され,除去され,及び廃棄又は再使用のために巻き上げられる。その時になって,エラストマーフィルムは,フィルムを含む製品の最終着用者の皮膚に対してさらに心地よい不織布ウェブに重ねられてよい。しかしながら,そのような場合には,剥離ライナーと組み合わされたエラストマー単分子層又は単層フィルムの操作は,1つ以上の不織布とのその後の積層における層の操作を促進する他の機構を次に必要とする。
【課題を解決するための手段】【0005】したがって,出願人は,特定の使い捨て吸収性物品が,不織布層を含むかかるフィルムの積層プロセスを促進するのに必要とされるブロッキング防止を助ける機構を備えて製造されるエラストマーフィルムを含む伸縮部材を含む使い捨て吸収性物品の製造に関して,この対処されていない必要性を満たすのに有用であることを見出した。・・・【0013】しかしながら,エラストマー層が1つ以上の不織支持ウェブ層に積層される前に,エラストマー層は,上述の積層プロセスで続けて使用するためパッケージで保存される(つまり,ロールに巻かれるか又は容器内に加工される)。このプロセスを促進するために,出願人は,1つ以上のブロッキング防止処置をエラス 14 トマー層に施すことが,エラストマー層及び広くは積層プロセスの操作を促進することを見出した。ブロッキング防止処置には,エラストマーフィルムの表面への粉末の塗布,エンボス加工によるフィルムの表面トポグラフィーの粗化,フィルムのバルクへの充填剤粒子の添加によるフィルムの表面トポグラフィーの粗化,粘着性を減少させる化学種(「スリップ剤」又は「剥離剤」)の添加,例えば,非感圧性接着剤,ワックス,硬質ポリマー・・・といった非粘着性物質のフィルムの片面又は両面への塗布を含む。これらのブロッキング防止処置は,1つ以上の不織布ウェブに接着積層されるまでのロールの巻き戻し又は加工解除中にエラストマー層が自身に付着するのを防ぐことで積層プロセスを促進する。
イ 引用刊行物1(甲1)には次の記載がある。
【技術分野】【0001】本発明は,伸張性繊維基材の特定領域に伸張性を持たせるために,伸張性繊維基材の少なくとも1つの領域に配置された1つ以上のエラストマー部材を有する伸縮性複合体に関するものである。・・・本発明は更に,これら伸縮性複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】【0002】おむつ,トレーニングパンツ,失禁用物品などの使い捨て吸収製品は,一般に腰部区域やカフ区域に弾性ストランドなどの伸縮可能な材料を含み,物品の心地よいフィット性良好な密閉性を提供する。・・・【0003】これらの区域に望ましい弾性特性を提供するには種々の方法がある。
・・・【発明が解決しようとする課題】【0006】上記のすべての方法では,伸縮性積層体は別々に製造される。伸縮性積層体は適当な大きさ及び形状に切断され,「カット・アンド・スリップ」プロセスと呼ばれることのあるプロセスで,製品の望ましい位置に粘着剤で貼り付けられる必要がある。製品の要素が異なると,異なる伸縮特性が求められるため,異なる伸縮性を有する種々の積層体を製造し,積層体を適当な大きさ及び形状に切断することが必要である。異なる伸縮性の伸縮性積層体を用いたり,これらの積層体を製 15 品の異なる位置に貼り付けたりするには,複数のカット・アンド・スリップユニットが必要なことがある。カット・アンド・スリップユニット及び/又は工程の数が倍増するにつれて,プロセスは急速に厄介で複雑なものになる。
【課題を解決するための手段】【0007】以上のことから,製品の使用中に望ましい利点(シーリング,ガスケット,包含,装着感,フィット感など)を提供するように,特定の部分にのみ特定の伸縮性を持たせて配置したエラストマー材を有する,費用効率の高い伸縮性複合体の実現が望ましい。また,製品の構成成分のうち,間隔を置いて別個に配置した構成成分の間の特定の部分で伸縮性を発揮する伸縮性複合体の実現が望ましい。更に,部分的に(つまり,物品の構成成分内で)特定の伸縮性を発揮する伸縮性複合体の実現が望ましい。
【0008】更に,複数の工程及び/又は複数の装置を必要とせず,吸収製品の様々な部分で伸縮特性を実現させるための有効かつ費用効率の高いプロセスの実現が望ましい。このような上記複合体の製造プロセスは,総合的な柔軟性を有しており,様々な種類及び/又は量のエラストマー材をきちんと特定の部分にのみ配置できるので望ましい。また,このようなプロセスは,製品の種々の部分で伸縮性と伸縮に対する抵抗性を調製して提供し,着用者のフィット性や快適性を向上させるので望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】・・・【0028】おむつのこれらの弾性構成成分の製造には,一般的に(フィルム,繊維性ウェブ,又は積層体の形体の)エラストマー材を望ましいサイズや形状に切断する工程と,次に接着剤,熱結合,物理的結合,超音波結合などの既知の結合方法を使用してエラストマー材の別個の断片を基材に結合する工程とが含まれる。対照的に,本発明では,エラストマー構成成分を形成する工程とエラストマー構成成分を基材に結合する工程とが1つの工程の連続したプロセスに組み合わされており,新しいプロセスを提供している。特定の弾性構成成分は,単一のエラストマー部材又は複数のエラストマー部材を含むことができる。更に,本発明では,1つの連続 16 したプロセスで腰部エラストマー部材,脚部エラストマー部材などを形成するために,おむつの別個の弾性構成成分に対応する複数の部分にエラストマー部材を直接付加することができる。本発明は,おむつの各構成要素によって異なる様々な要件に対応するために,異なる弾性を実現させるのに非常に適している。本発明はまた,異なる弾性を有する複数のエラストマー部材を,吸収性の物品の1つの構成要素の隣接した部分に付加することができることも意図されている。異なる弾性は,融解粘度,形状,模様,付加レベル,組成物,及びこれらの組み合わせを変化させることにより得られてもよい。
【0033】好適なエラストマー組成物は,少なくとも部分的に基材に浸透するように流体又は流体様の状態で基材に付加される。その結果,得られたエラストマー部材と基材間の十分な結合が達成され,複合体は次の漸増的に伸張される工程で実質的に離層を示さない。エラストマー組成物は,175℃,1s-1のせん断速度で,約1から約150Pa・s,好ましくは約5から約100Pa・s,より好ましくは約10から約80Pa・sの融解粘度を有することができる。このようなエラストマー組成物は,一般的な融解押出成形及び/又は繊維紡績プロセスの加工条件より低い粘度及び/又は低い温度で処理を行う本プロセスに用いられるのに好適である。
【0042】エラストマー部材は繊維性ウェブに直接付加されることができ,又は最初に中間体の表面に配置されることにより,間接的に繊維性ウェブに移されることができる。好適な方法には,グラビア印刷,彫刻凹版印刷,フレキソ印刷,スロットコーティング,カーテンコーティングなどの接触法や,インクジェット印刷,スプレーなどの非接触法が挙げられる。各付加方法は特定の粘度の範囲内で行われるため,エラストマー組成物の粘度は慎重に選択する必要がある。組成物,温度,及び/又は濃度は,特定の処理方法及び操作条件に好適な粘度を与えるために変更することができる。
【0043】エラストマー組成物の粘度を下げるために,温度を上げることができ 17 る。ただし,温度が高くなると,繊維性基材の安定性に有害な影響が生じることがあり,加熱されたエラストマー組成物が配置された場所で部分的又は局部的な熱分解を起こすことがある。これら2つの効果のバランスを取ることが望ましい。あるいは,間接的に移動させる方法を使用することもできる。エラストマー組成物は,処理に好適な粘度を得るために加熱され,良好な熱安定性を有する中間体の表面(例えば,担体基材)に付加され,その後,繊維性基材に移されて,複合予備形成体が形成される。加熱されたエラストマー組成物は繊維性基材に接触すると少なくとも部分的に冷却されるので,間接的に移動させる方法では,より広い範囲の操作温度を使用することができる。従って,間接的なプロセスは,不織布ウェブなどの熱に影響されやすい基材や熱に不安定な基材,又はポリエチレン及びポリプロピレンなどの低温融解ポリマーの基材にとって有用なことがある。十分な浸透や結合を得るために,ニップロール又はカレンダーロールにニップ圧を加えることができる。
(2) 判断 ア 上記(1)ア 認定の事実によれば,本願発明の「伸縮部材」は,「前記エラストマー層を得る工程と,当該エラストマー層の1以上の表面への粉末の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施す工程と,当該エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程と,を含む方法」によって得られるものであること(上記(1)ア(ア)),本願明細書には,従来の使い捨て吸収性物品において,エラストマーフィルムを伸縮部材として典型的に採用する場合,フィルムは,非伸縮性の表面薄層により守られるエラストマーコア層を含み,これらの非伸縮性表面薄層は,延伸される際,フィルム全体の摩擦及びブロッキングの削減を可能とするが,ブロッキングの削減は表面薄層を形成するのに,さらなる製造コストを生じさせること(上記(1)ア(イ)【0003】),伸縮積層体の製造を可能とするその他の試みには,単層エラストマーフィルムを備える剥離ライナーの使用が含まれ,1つ以上の非伸縮性表面薄層が存在しない場合,エラストマーフィルムは,加工中に比較的粘着性があり,操作が困難であるから,ストック材料ロールに加工される 18 のを促進するために,剥離ライナーはエラストマー層の少なくとも1面を被覆するように加えられるべきであるが,フィルム材をさらに加工する際に,大抵の場合,剥離ライナーはエラストマーフィルムから分離され,除去され,及び廃棄又は再使用のために巻き上げられるため,剥離ライナーと組み合わされたエラストマー単分子層又は単層フィルムの操作は,1つ以上の不織布とのその後の積層における層の操作を促進する他の機構を次に必要とすること(同【0004】),本願発明は,不織布層を含むかかるフィルムの積層プロセスを促進するのに必要とされるブロッキング防止を助ける機構を備えて製造されるエラストマーフィルムを含む伸縮部材を含む使い捨て吸収性物品の製造に関して,上記の必要性を満たすのに有用であること(同【0005】),エラストマー層は,1つ以上の不織支持ウェブ層に積層される前に,積層プロセスで続けて使用するためパッケージで保存される(ロールに巻かれるか又は容器内に加工される)ところ,1つ以上のブロッキング防止処置をエラストマー層に施すことが,エラストマー層及び広くは積層プロセスの操作を促進すること,ブロッキング防止処置には,エラストマーフィルムの表面への粉末の塗布等を含み,これらのブロッキング防止処置は,1つ以上の不織布ウェブに接着積層されるまでのロールの巻き戻し又は加工解除中にエラストマー層が自身に付着するのを防ぐことで積層プロセスを促進する(同【0013】)ことが記載されているものと認められる。
以上によれば,伸縮部材を含む使い捨て吸収性物品に関し,単層エラストマーフィルムを備える剥離ライナーを使用して伸縮積層体の製造を試みる場合,フィルム材をさらに加工する際に,大抵,剥離ライナーはエラストマーフィルムから分離され,除去され,巻き上げられるため,剥離ライナーと組み合わされたエラストマー単分子層又は単層フィルムの操作は,不織布とのその後の積層における層の操作を促進する他の機構を次に必要とするとの課題があり,本願発明は,上記の課題を解決するため,不織布層を含むかかるフィルムの積層プロセスを促進するのに必要とされるブロッキング防止を助ける機構を備えるものであることが認められる。また, 19 本願発明における伸縮部材は,「前記エラストマー層を得る工程と,当該エラストマー層の1以上の表面への粉末の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施す工程と,当該エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程」の3つの工程を,このとおりの順序で含む方法により得られるものであると解される。
一方,上記(1)イ 認定の事実によれば,引用刊行物1には,引用発明が,伸張性繊維基材の特定領域に伸張性を持たせるために,伸張性繊維基材の少なくとも1つの領域に配置されたエラストマー部材を有する伸縮性複合体ないしその製造方法に関するものであること(上記(1)イ 【0001】),使い捨て吸収製品は,一般に腰部区域やカフ区域に伸縮可能な材料を含み,これらの区域に望ましい弾性特性を提供するには種々の方法があるが(同【0002】,【0003】),伸縮性積層体は別々に製造されるところ,伸縮性積層体は適当な大きさ及び形状に切断され,「カット・アンド・スリップ」プロセスと呼ばれることのあるプロセスで,製品の望ましい位置に粘着剤で貼り付けられる必要があり,異なる伸縮性の伸縮性積層体を用いたり,これらの積層体を製品の異なる位置に貼り付けたりするには,複数のカット・アンド・スリップユニットが必要なことがあるため,プロセスが厄介で複雑なものになるとの課題があること(同【0006】),課題解決手段として,製品の使用中に望ましい利点を提供するように,特定の部分にのみ特定の伸縮性を持たせて配置したエラストマー材を有する,費用効率の高い伸縮性複合体,間隔を置いて別個に配置した構成成分の間の特定の部分で伸縮性を発揮する伸縮性複合体,物品の構成成分内で特定の伸縮性を発揮する伸縮性複合体の実現が望ましく,また,複数の工程,装置を必要とせず,吸収製品の様々な部分で伸縮特性を実現させるための有効かつ費用効率の高いプロセスの実現が望ましいこと(同【0007】,【0008】),発明を実施する形態として,エラストマー構成成分を形成する工程とエラストマー構成成分を基材に結合する工程とが1つの工程の連続したプロセスに組み合わされた,新しいプロセスを提供するものであり,1つの連続したプロ 20 セスで,おむつの別個の弾性構成成分に対応する複数の部分にエラストマー部材を直接付加することができること,異なる弾性を有する複数のエラストマー部材を,吸収性の物品の1つの構成要素の隣接した部分に付加することができることも意図されること(同【0028】),エラストマー部材は繊維性ウェブに直接付加されることも,又は最初に中間体の表面に配置されることにより,間接的に繊維性ウェブに付加されることもできるが,エラストマー組成物の粘度は慎重に選択する必要があり,組成物,温度,及び/又は濃度は,特定の処理方法及び操作条件に好適な粘度を与えるために変更できること(同【0042】,【0043】)が記載されているといえる。
以上によれば,引用発明は,エラストマー部材を有する伸縮性複合体ないしその製造方法に関するものであって,伸縮性積層体が「カット・アンド・スリップ」プロセスで,製品の望ましい位置に粘着剤で貼り付けられる必要があり,異なる伸縮性の伸縮性積層体を用いたり,これらを製品の異なる位置に貼り付けたりするには,複数のカット・アンド・スリップユニットが必要なことがあるため,プロセスが厄介で複雑なものになるとの課題があり,これを解決する手段として,エラストマー構成成分を形成する工程とエラストマー構成成分を基材に結合する工程とが1つの工程の連続したプロセスに組み合わされた,新しいプロセスを提供するものであることが認められる。
すなわち,引用発明の課題及びその解決手段は,異なる伸縮性の伸縮性積層体を「カット・アンド・スリップ」プロセスで製品の望ましい位置に貼り付ける工程を効率化する目的で,エラストマー構成成分を形成する工程と基材に結合する工程を1つの工程の連続したプロセスに組み合わせるというものであって,本願発明の課題及びその解決手段である,エラストマーフィルムから剥離ライナーを分離,除去し,巻き上げるためのプロセスを促進する目的で,不織布層を含むかかるフィルムの積層プロセスを促進するのに必要とされるブロッキング防止を助ける機構を備えることとは全く異なるというべきである。また,引用刊行物1には,エラストマー 21 材をグラビア印刷等により基材に直接付加する方法と,エラストマー材を中間体の表面に配置した後,オフセット印刷のように間接的に基材に移す方法が挙げられるところ,前者の方法は,流体状のエラストマー材が基材に直接付加されるため,エラストマー層がブロッキングすることはなく,後者の方法は,エラストマー材はいったん中間体の表面に配置されるものの,引き続き中間層ごと基材に圧着,転写されるため,やはりエラストマー層がブロッキングすることはないから,引用発明における伸縮性複合体の製造方法で,エラストマー構成成分を形成した後,基材に結合する前にブロッキングが生じるおそれはないといえる。
そうすると,引用発明における伸縮性複合体の製造方法において,エラストマー構成成分を形成後,基材に結合する前に,ブロッキング防止処理を適用する動機付けはないというべきであり,これにブロッキング防止処理工程を含むとすることは,当業者が容易に想到することではないから,引用発明から,相違点2に係る本願発明の構成である「当該エラストマー層の1以上の表面への粉末の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施す工程を含む方法によって得られ」との構成に至ることは,当業者にとっても容易ではないというべきである。
したがって,相違点2について,「引用発明において,伸縮部材を得る方法についての特定に,エラストマー層表面へのブロッキング防止処置工程を含むとすることは,当業者が容易に想到しうる」とした審決の判断は誤りである。
イ これに対し,被告は,引用刊行物1には,伸縮性複合体を製造するのに,エラストマー構成成分の形成工程と基材への結合工程とが連続している製造に関して,より適した方法であるとの記載があるとしても,一般的な製造方法としてエラストマー形成工程後に保存して基材に結合する方法も当然認識され,記載される旨主張するとともに,吸収性物品の技術分野や多層積層樹脂フィルム製造においては,各種ブロッキング防止処理が周知慣用技術である旨主張する。
しかし,上記ア認定のとおり,引用発明は,異なる伸縮性の伸縮性積層体を「カット・アンド・スリップ」プロセスで製品の望ましい位置に貼り付ける工程を効率 22 化することを目的(課題)とするものであって,引用刊行物1において,当該発明が,伸縮性複合体の製造方法に関する一般的課題を解決しようとするものであることが記載ないし示唆されているとは認められないから,引用刊行物1記載の発明における製造方法に,エラストマー構成成分を形成後,基材に結合する前にブロッキング防止処理を適用する動機付けがあるとはいえない。そして,引用刊行物1記載の発明における製造方法に,ブロッキング防止処理を適用する動機付けが認められない以上,ブロッキング防止処理が周知慣用技術として存在するとしても,引用発明に,当該周知慣用技術を適用して本願発明に想到することが容易であると判断することはできないというべきである。
したがって,被告の上記主張は失当である。
2 小括 以上のとおり,原告主張の取消事由2には理由があり,その余の点について判断するまでもなく,審決を違法として取り消すべきものと判断する。被告は,他にも縷々反論するが,いずれも採用の限りでない。
結論
よって,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 芝俊